はだかで目隠し鬼ごっこ
テマラの爺さんに子供がいた。衝撃的すぎるんだが。
その事実を知った後、俺は屋敷の扉の前に立つ。なぜか、まだ心臓がバクバクしている。
あの爺さんずっと独り身のはずだったが、やる事やってんじゃねーかよ。ちょっと悔しい。
こげ茶の大きな木の扉の取っ手を掴み、ぐっと押すとそれはおもいのほか軽く開いた。
俺はひっそりと中に進み扉を閉める。見上げるとだだっ広いホール。エントランス奥に、赤い絨毯のしかれた階段が続く。天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられきらりと光を放っている。
確か右手には客間があったはず。そして左手は、なんだったかな。
俺がすっと視線を左に流すと、そちらの方から大理石の床をパタパタとふみしめる足音が連なって聞こえてきた。
つぎに笑い声。じっとその方向を見ていると、左の廊下から素っ裸の女たちが、笑いながら駆けてきた。
でた。裸鬼ごっこ。テマラの爺さんの高尚なご趣味だ。
女たちは惜しげもなくその裸体を揺らしながら、ほほほ、と笑って右手の客間の廊下へ抜けていった。
次に来るのは、あの爺さん。
案の定、少し遅れてペタリ、ペタ、ペタリ、ペタ、と、どこかリズムの狂った足音が聞こえてきたと同時に、しわがれた声。
「おーい、どこだぁ、お前たち逃げ足が速いなぁ」
左の廊下から現れたのは、一応俺のお師匠であり呪いの紋章師であるテマラ。
テマラはひらひらの白い布を目のあたりに巻き付けている。目隠しだろうが、たぶんあれは女の下着だ。
テマラは両手を前につき出して空間を探るように歩いてくる。
悪くしている左足を引きずりながら、女の下着を顔に巻き、薄笑いを浮かべる初老の男。
どうみても頭のおかしな奴にしか見えない。
おそらく娼婦のものであろう、スケスケの白いケープを肩からまとい下半身は丸出しである。
「はぁ……息子に庭の整備させて自分は娼婦と鬼ごっこってどうなってんの、この人の頭の中……」
俺がぼそっとつぶやいたその声が聞こえたのか、テマラはピタリと足を止める。そして目隠しの顔をこちらに向けた。
「お? そこにいるのは誰かなぁ」
おわあああああ。こっちに気づきやがった。俺はぐっと胸の奥を掴まれたように息がつまった。
その時、胸もとからキャンディの声。
「……こっちよ、お、に、さ、ん♡」
キャ、キャンディさん、い、一体何を。
テマラがキャンディの声に反応し、口元がだらしなく開く。
「お? その声は、イザベラかな? マリアかな?」
テマラは手を前に出して空間を探りながら、こちらにゆっくりと近寄る。じりじりとこちらに寄ってくる。
えーっとどうするのが正解なんでしょうかね、こういう場合。俺は息を殺して身を固めた。
そしてついにテマラの右手が俺の左手首をつかんだ。
テマラは右手で俺の手首から上にむかってその手をゆっくりとそわせて、俺の形をなぞっていく。
「お? お前、服は脱げと言ったではないかまったく。随分と骨ばった手だな。お前は……マリアかな?」
俺は黙ったまま、あほみたいな顔をした自分の師匠に目をやる。
まじ、あほだ。
テマラは首をかしげながら、俺の体をまさぐりだした。
そして手を引くと、パッと自分で目隠しを下にずらした。途端、にやけ顔が一瞬で真顔に変わる。じろりと鋭く俺を睨んだ。
「なんでぇ、てめぇは!」
「ど~も。お久しぶりでぇす。お師匠さま~」
「ちっ、一気に冷めちまった」
テマラはそういうとくるりと背を向けて中央の階段から二階へ上っていった。
俺はそのスケスケの肌着を羽織ったテマラのあさ黒いケツを見送った。
キャンディがぽつりとつぶやく。
「たしかに、強烈ね……」
「だろ?」
俺は少し間を置いて階段を上った。