庭師
俺は歩きながら陽気に照らされた庭園をくるりと見渡す。前に来た時に比べると随分と手入れが行き届いている。
クレストの木々は腰あたりまでに四角く刈り取られまるで緑の柵だ。花壇は花色の種類ごとにわけられ縞模様に揺れている。この穏やかな香りはラベンダーだろうか。
腕のいい庭師でもやとったか。そのとき右の視界の隅に、揺れる藁の帽子。俺はふと立ち止まる。
誰かが花壇の前にしゃがんで作業をしているようだ。このままいってもあのテマラの爺さんに会うだけだし、ちょっと時間潰そうか。
俺は揺れる帽子にこえをかけた。
「よう! 精が出るね!」
帽子はぴたりと動きを止めて、すっと持ち上がる。
現れたのは、作業服に身を包んだわかい男だった。
男は帽子のつばを指でつまみ頭からはがすと、気のない感じでこちらに軽く会釈した。
その赤毛の青年は帽子をかぶりなおすと、またしゃがみこんでしまった。
なんだか、随分とそっけない奴だ。
「はぁ……もう少し時間稼ぎができると思ったが、愛想のないやっちゃな」
「ちょっと時間潰したぐらいで、どうなるもんでもないでしょ」
「ちょっとでもいいから、あの爺さんと会うのを遅らせてやる」
「じゃ、こなけりゃいいじゃないの」
「あの爺さんには会いたくないが、呪具オークションにはいきたいのよ、むふ」
その時、真後ろから突然声がした。
「もしかして、あなたがウルさんですか?」
心臓をぶっ叩かれたように全身を震わせて、俺はおもいっきり振り返った。
そこにはさっきの赤毛の青年が帽子を胸に持ち立っていた。
俺は一瞬、さっき青年がいた場所に視線をやる。あれ、さっきの場所からここまで結構あるぞ。
俺はとりあえず名乗った。
「そ、そうだ。俺がウルだ」
端正な顔立ちの青年は続けて話した。
「失礼しました。父は中にいますので、そのままどうぞお入りください」
「あぁ……そうか、わるいな」
俺は振り返りかけて、いまの背年の言葉を頭の中で反復する。
父は中にいますので? 父は中に? 父は? 父?
俺はガバっと背年に振り返り、その顔をまじまじと見つめる。
青年の目は、何でしょうか? とその視線で言っている。いやいやいやいや、まて。
俺は問う。
「お前さん、いま父っていったよな?」
「ええ、父っていいました」
「乳じゃなくて父だよな?」
「ええと……意味がよくわかりませんが……」
「いや多分、中には乳も父もいるんだけどよ」
「はぁ……」
その時胸ポケットのキャンディが顔を出す。
「ちょっと、ウル。アンタ言葉が同じだから伝わってないのよ、お父さんって事でしょ?」
青年は急にしゃべりだしたキャンディに一瞬驚いて、少し笑顔を見せた。
「ああ、そういう事ですか。はい、この屋敷にいるテマラは僕の父ですよ」
俺は思わず指をさす。
「えぇええええええ! テマラの爺さん、子供がいたのぉおおおお!?」