雨上がり(第4章最終話)★
あの日、以降。
黒騎士はその姿を見せなくなった。
幾日か続く雨の日があったとしても、黒騎士に襲われたという話はどこからも聞こえてこなくなったのだ。
あの後、当然のことながら大司教セイロンは過去の聖職売買の不正行為と、人柱の儀式が偽りだった事が判明し教会からの破門を宣告された。
アプルを棺から抜き出したオーランド司祭は謹慎処分となった。しかし近いうち、孤児院の副院長として復帰できるめどが立っているそうだ。孤児院で働く教会の皆、なによりも孤児院の子供たちからの強い復帰の要望があったらしい。
アプルは相変わらず、アプルとして修道院で元気に働いている。
俺も報酬の金貨300枚ゲットしたし。むふ♪
もうそろそろ潮時だ。
俺が宿泊所の部屋で荷物をまとめていると、クミルが突然、バタバタと部屋に飛び込んできた。
「えぇぇ! ウルさん、今日帰っちゃうってホント? もう少しいようよ。僕はもう少しここにいろって宮廷紋章調査局からいわれちゃったんだ。こんなところでまた一人になるなんて耐えられない!」
「おい、お前なぁ、ノックぐらいしろよ」
「あ、ごめんよ、でもさ、もう少しいてよ。呪いについても勉強したいしさ」
「あー、うるせーうるせー、お前の相手なんかしてられっかよ」
「ひどいよっ」
「もう黒騎士は出ないんだから、大丈夫だろ」
「もしも、出たらどうするのさ」
「まあ、今回のお前さんの頑張りを加味して、割引してやるぜ。金貨100枚で来てやる」
「はぁあ!? そんな大金を僕が持ってるわけないだろ!」
宿泊所の前で俺はクミルと最後のあいさつを交わした。
クミルは最後まで、名残惜しそうにこちらに手を振っていた。いや、むしろ最後の方は恨めしそうな目で手招きしていた。
俺はそのあと、修道院に顔を出そうかとも思ったがやめた。俺に会うと、アプルはまたいろいろと思い出しちまうかもしれねぇからな。
俺はその足でフレイブル大聖堂に向かった。街路を歩きながら俺はキャンディに聞いてみた。
「お前、結局何か思い出したのかよ、もともとここの孤児院にいたかもしれないんだろ」
「なーんにも、なーんにもおもいだせない、アプルはいいな。自分の本当の名前がわかって、お父さんにも会えて」
「え!? そ、そうか? おめー自分の親があんなでっかい黒騎士になって現れたらどーすんのよ」
「はぁ……アンタってほんっとわかってないわね」
「なにが?」
「もういいわ、アタシ、寝る」
「ねろねろ、意味わかんねーし」
俺たちが大聖堂前の広場につくと、そこは活気に満ちていた。様々な人たちで溢れかえっている。
俺は、人ごみを抜けて大聖堂の中庭にはいる。ここは、人柱になったフェインたちの棺があった場所だ。
あの時は味気ない石が置いてあるだけだったが、今では立派な彫像がある。
すでに見物客にも開放されている。大聖堂の新しい名所になっているのだ。ここには毎日大勢の人が訪れ祈りをささげている。
俺は彫像に歩み寄り、見上げる。
女神ルーナをかたどったその彫像はやさしいまなざしで微笑み、足元を見つめている。
女神像の足元にはクリスタル製の透明な墓石がふたつ、仲良く並ぶ。
その墓石には、それぞれに白い文字でフェイン、アンジェリカとある。
そして名前のしたに文字が刻まれていた。
偉大な功績を残した二つの魂 ここに眠る
俺は目を閉じて、祈りをささげる。
そしてつぶやいた。
「……なぁフェイン。お前さんが怨霊としてよみがえったのは誰かの命を奪おうとしたんじゃない。お前さんがよみがえったのはきっと、娘に会うためさ。愛しい娘、ルーナに会うため。そうだろ? アンジェリカと一緒に、ゆっくり休みな……」
ふと風が吹いた。
鼻をくすぐるのは、雨上がりのあの懐かしいニオイだった。
第4章 かなしき黒騎士編 完
お疲れ様でした!
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