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ずっとパパに会いたかった


大鎌がせまった瞬間。


俺は思わず目を閉じ、全身を硬直させる。はい死んだ。アーメン。


あぁ、最後にもう一回くらい、トトのおチチさわりたかったな。


俺は目を閉じたまま、しばらくじっとしているが、体のどこからも痛みが来ない。


いやこれは、もしかして俺の体はすでに真っ二つになっていて、目を開いたら胴体から下がないとか。


その時、俺のすぐ横から声が聞こえる。


声というよりも、小さな歌声。ささやくような歌声。


俺はしばし目を閉じたまま、その天使のような歌声に聞き入った。








ルーナの おめめは まんまるい


朝やけの向こうのそらに 


浮かんでる 青い月より光ってる



ルーナの ほっぺは うすべにの


夕やけの向こうのそらに 


沈んでる 太陽よりも光ってる



ルーナのお口は おちょぼぐち


いっぱいひみつをかかえてる 


パパが一番大好きで ママはいっつも二番めで







どこか懐かしくなるような、そんな歌だった。


俺はおそるおそる目を開いた。


俺の首元に、ヒヤリとした大鎌の刃があてられていた。


俺は息をのむ。しかし大鎌はゆっくりと俺の首元から離れていった。


俺はゆっくりと黒騎士フェインを見上げた。奴の驚いたような声が響く。





「……アンジェリカ……それ……は俺の妻、アンジェリカが……つくった……うた、愛するルーナの……うた、なぜ……だ」




黒騎士フェインは後ずさる。その真っ赤な舌から大きな鎌を剥がした。


大鎌はバランスを崩して落ちる。床に落ちる前にすっと消え去った。


黒騎士フェインは唸る。ぐるると深いうめき声をあげる。





「アンジェリカ……、ああ……懐か、しい……なぜその、歌を……知って、いる」




俺はアプルに目をやる。


うたい終えたアプルは、瞳を開いて嬉しそうに、こういった。





「……あ~、ずっこーい。ママばっかり。わたしもぎゅーして」





その言葉に、黒騎士フェインはさらに後ずさる。そして小さく答えた。





「……おい、で……パパが……ぎゅーとして、やる」




アプルと黒騎士フェインは見つめあった。




「……わたしたち、いつもこんなことを言ってたね」


「ああ……ああ……そうだ。ルーナ……ごめんよ。いつもかまってやれなくて、いつも仕事で忙しくしていて」


「ううん。いいの。わたしはパパが誇らしかったもの。こんなに綺麗で大きな建物を創れるなんて。パパってすごい人だと思ってたから」


「ありがとう。大聖堂ができたら、お前と、ここに一緒に来たかった。あのステンドグラスを見せたかったんだ」




黒騎士フェインはすっと祭壇の奥にある色とりどりのステンドグラスの窓を見た。


俺とルーナも目をやる。


そこには青いマントを肩にかけた美しい女性の絵があった。純白のヴェールをまとい足元に天使が寝そべっている。


その女性の目は青く、周囲は光輝く金に彩られていた。


フェインは言った。




「あれはね、月の女神様なんだよ。お前の名前と同じ、女神ルーナだ」


「そう、ほんとに綺麗ね……」


「俺はね、あの絵がこの世界で一番美しいものだと思っていたんだ。だが違った」


「……え?」


「ルーナ。お前がアンジェリカのお腹から生まれたときから。俺にとって世界で一番美しいのは、お前になったんだよ」


「パパったら……ねぇ、わたし、ずっとパパに会いたかった」


「俺もだよ、ずっとお前の事を思っていた。そしてこれからも、お前の事を思い続ける」


「ねぇ、パパ……雨の日になったら、パパに会える?」


「さぁ……どうかな。でもルーナ、会えなくても俺はお前のそばにいる。俺もママもお前の事を心の底から愛している。ずっと……ず……っと。永遠……に」





その時大聖堂中の窓からまぶしい光が差し込んできた。雨がやんで、陽が出たようだ。


周囲が足元から白くぼんやりと輝きだした。白亜大理石は、光を反射してその輝きを増す。


途端、真っ黒の鎧に覆われたフェインの体が徐々に消えていく。光に吸い込まれるように。


鎧が剥がれた一瞬。フェインの本当の顔が見えた気がした。フェインの口元から最期の言葉が。




「……生まれてくれて……ありがとう」




そして、フェインは消え去った。


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