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ずっと見守ってくれていた人


俺とアプルは大きくあけ放たれた大聖堂の扉にすすんだ。大聖堂の扉前には数段の幅広の階段がある。


小雨のぱらつく中、その階段に座り込む白いローブの背中が見えた。


頭からフードをすっぽりとかぶっている結界の紋章師クミルだ。どうやら広場に佇む黒騎士を見張っているようだ。


俺たちは階段をおりてクミルの隣まできて並んだ。俺が声をかけるとクミルは驚いたようにぱっとこちらを見あげた。


真っ青な顔。クミルは紫に変色した薄いくちびるで話しかけてきた。




「やぁ、ウルさん、アプルさん。ほら見て、雨がやんできたよ」


「いや、それはいいが。お前さんなんて顔だ。中で寝てろよ。黒騎士の見張りは修道戦士たちに任せな」


「僕が見張ってなきゃだめだよ。この程度の雨じゃ僕の描いた結界はきえないんだけど。誰かが故意に消そうと思えば消せるからね。黒騎士を見張ってるというよりは結界を消そうとする不届きものがこないか見張ってるんだ」


「そうなのかもしれんが。お前さんが倒れちまっちゃ駄目だろう」


「そうだよ。だからウルさん達には期待してる。僕が倒れる前に何とかしてくれるようにね」


「はぁ……わかったよ。まったく他人の期待ほど重いものを俺は他に知らねーよ」



クミルは小さく笑った。


俺はアプルに目を向けて聞いてみた。



「なぁアプル。お前さん小さいころの記憶はないのか」


「ええ。わたしずっと考えていたんです。でも物心ついたころからアプルだったし、幼いころの記憶ってもう孤児院にいた頃なので……あ、でも。何となく誰かに抱かれてつくりかけの大聖堂を見あげたような景色はおぼえてるんです。その時なんて名前で呼ばれていたかが思いだせなくて」


「そうか。あと、お前さんをあの棺から救い出した奴が必ずいるはずなんだよな。お前さんを助けて孤児院に預けた奴が。その人物の心当たりもないか?」


「はい……」



手がかりが少なすぎるな。


黙り込んだ俺たちの空気を察したのか、クミルが話した。



「ねぇ、ウルさん。僕思うんだよ」


「ん? なんだ?」


「小さな子供を命がけで救い出すような人だよ。そんな人が子供を孤児院に預けて、あとは任せてさようならって事はしないと思う」


「……てことは、つまり?」


「その人は近くでアプルさんの事を見守っていたと思う。だって考えても見てよ。フレイブル大聖堂とフレイブル孤児院は目と鼻の先だよ。危険なんだったら普通に考えればもっと遠くに行くはず。それなのにこんな近くで(かくま)うだなんて相当な賭けだよ」


「言われてみれば、確かにそうだな」


「アプルさんを救い出した人物は、ここの孤児院じゃなきゃダメな理由があったんだ。その人は意外と近くにいるかもしれないよ」


「ま、まさか……アプルを助けたのは孤児院の関係者か!?」




俺は飛び上がりクミルを見下ろす。


クミルは黒騎士の方に気を配りながら話す。



「それはわからないけど、教会関係者が怪しいと思う」


「灯台下暗しってやつか」



なるほどな。


しかし教会関係者だとしたら、なおさら自分から名乗り出るのはむつかしい状況だろうな。


アプルをあの棺から抜き出したという事は、セイロンが過去に行った”人柱の儀式”をぶち壊した張本人という事だ。


飛ぶ鳥を落とす勢いで出世していったセイロン大司教。いま、その失脚の原因を作った人物という事になるのだから。


名乗り出れば、一躍時の人だぜ。大司教のかつての不正を暴いた人物として。


さて、どうするかな。


でも、待てよ。アプルの事を見守っている人物となると、ここ最近のアプルの事も見ているはず。


さっき、俺たちが中庭で棺を暴いたとき、その人物もその場にいた可能性がある。


俺はアプルに小さく言った。



「アプル、中庭に戻るぞ」


「え? は、はい」


「アプル、思い出せ。孤児院に来てからずっとお前さんのそばにいた人物を」


「ずっとそばにいた人物? お世話になった人はたくさんいます……」


「つかずはなれず。お前さんに直接の接触はしなかったはずだ。しかし、そいつは、いつもお前さんのそばにいたはずだ。いつもそばで見守ってくれていたはずだ」



俺たちは階段をあがり再び大聖堂の中庭に向かった。




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