設計士のフェイン
ヌワラは過去の出来事を流れる水のごとくに語った。石切り工の仕事の内容から始まり、大聖堂の建設についての蘊蓄。
セイロン大司教の事から今の黒騎士の話まで。一通り満遍なく聞き取る。
そして”棺の呪い”の話題になった時、俺はヌワラの話の隙間にすかさず質問をいれた。
「ちょっと聞きたいんだが。その棺の呪いをおさめるために”人柱の儀式”を使ったと聞いたんだが」
「ああ、あれはひどい話だったね。建設の途中で不可解な病気や事故が続いていたとはいえ、人柱を捧げるだなんて。職人仲間たちは皆反対したんだが教会が押し切ってね、特に当時のセイロン大司教が強引に進めたんだ。今思うとあれはセイロン大司教の売名行為だったような気がするよ」
「その人柱になった人物ってのは、当時の建設の責任者だときいたが……」
「ああ、当時、職人頭となり、すべてをとりしきっていたのは設計士のフェインだった。若くて才能があるやつだったな、人柱で命をおとすなんて、惜しい事をしたもんだ」
「設計士フェイン……か。アプル、あのペンダントを見せてくれないか?」
俺の隣で静かに話を聞いていたアプルは自分の胸のポケットからペンダントを取り出してテーブルに置いた。
ヌワラは不思議そうにそのペンダントに目をやる。そしてつぶやく。
「このペンダントが、どうかしたのかい?」
「このペンダントにあの黒騎士が反応したんだ」
「へぇ。呪いの黒騎士が」
「ああ、このペンダントを、どこかで見た記憶はないかい?」
ヌワラはペンダントを手に取り眺める。小さくつぶやく。
「見た記憶っていわれてもな。どこにでもありそうなペンダントだが……いや、まて」
ヌワラはペンダントを横にしてその表面を何度もなぞっている。
「この加工は覚えているぞ、ほらここを見てみな」
ヌワラはそういうとクロスの側面をこちらに見せる。俺とアプルは顔を近づけてよく見る。
なにかの凹凸があるようにも見えるが、正直良くわからない。
俺はつぶやく。
「よくわからねーが……へこんでいるのか?」
「そうだ。このペンダントの側面には溝がある。ちょうど凹の字のように溝があるんだよ。この細さでこの細工をするにはちょっくら技術がいるんだ」
「これをつくった人物を特定できるのかい?」
「これをつくった人物もなにも、いま名前があがったよ。設計士のフェインの技術だ。やつは設計士ってだけでなく細工や彫刻もこなすやつでね。技術の研究に熱心だった。間違いないよこの細工はフェインの物だ」
俺とアプルは顔を見合わせる。
という事は、黒騎士の正体は大聖堂建設当時の責任者だった、設計士のフェインだとして。
つまりどういう事だ。あたまがこんがらがる。
大聖堂建設当時、責任者だった設計士フェイン。彼は家族と共に”人柱の儀式”の為その身を生贄としてささげた。いや、ささげさせられた
そのフェインがつくったペンダントが、アプルの形見の品って事は。
俺はヌワラにきいた。
「最後に一つ聞かせてほしいんだが……フェインには家族がいたんだよな?」
「ああ、いたさ。綺麗な嫁さんともうひとり。小さな女の子がな。アイツは言ってた、生まれた女の子の目が青かったもんだから、青色が大好きになっちまったって」
ペンダント中央にある宝石は光を吸い込んだ海のように青い宝石。
俺は隣のアプルの目をじっと見つめる。そして、青い瞳のアプルに伝えた。
「アプル……お前さんもしかして、フェインの娘か」
アプルは俺を見つめながらつぶやいた。
「あの黒騎士が……わたしの……おとうさん……?」
ヌワラが不思議そうに俺たちに諭す。
「何を言ってんのかよくわからんが。フェインと嫁さん、そして女の子は残念ながら人柱として大聖堂の地下に埋められたよ。俺もその儀式に参加したし。この目で見たんだから間違いない」
「フェインたちが埋められた場所ってのは大聖堂のどこになるんだ?」
「棺が出た井戸の跡地だ。大聖堂の真裏だったと思う。今は埋め立てて、確か中庭になってるんじゃないか」
俺はアプルの腕をつかむと立ち上がった。これは、確かめなくてはならない。