石切り職人ヌワラ
アプルの話によると聖都市フレイブルの南部は職能集団のあつまる地区となっている。
様々な技術者の勤める工場があるようだ。石切り場、鍛冶場、裁縫場などがずらりと並んでいるらしい。
俺たちはまず建築者職能集団に立ち寄り、大聖堂の建設について詳しく知る人物はいないかたずねた。
そこで紹介されたのが石切り職人のヌワラという男だった。
俺たちはヌワラの住む場所を教えてもらうと、そこに向かった。
目的の小さな石造りの建物を見つけた。扉を叩いてほどなく、扉の隙間から女が顔をみせた。
こういう場合はアプルの方が良いかと思い、俺は後ろの方に立ちアプルに話をしてもらった。
アプルはこちらをみて、うなずいた。どうやらうまくいったようだ。
俺たちは部屋の中にとおされた。入ってすぐに雨除けのローブを脱ぐ。
それにしても道中、雨の街路には人っ子一人いなかった。静かなもんだ。
俺はローブについた雨を手で軽く払いながらアプルに小声でたずねた。
「それにしても街の中は誰もいねぇな、雨の日はいつもこんな感じなのか?」
「ええ。黒騎士騒動が始まってから、雨の日はみな家の中に閉じこもるようになってしまったんです」
「なるほど。雨の日は不吉な日ってことか」
「黒騎士が現れたほんの数十日の間に、おどろくほどこの街は様変わりしてしまったんです」
アプルはローブを胸元でたたみながら寂しそうにつぶやいた。
俺たちは女に続いて室内に進み、奥の部屋に案内される。すると部屋の中央のテーブルに座っている男が声をかけてきた。
「どうも。仕事の依頼かな?」
どうやら、この男がヌワラのようだ。ヌワラは自己紹介もせず、そして俺たちの名前も聞かずに急に話をすすめる。
互いの素性などどうでもいいといった風だ。
小太りで額が広く髪は年相応に薄くなっている。アプルはこちらを見た。俺がヌワラの質問に答える。
「いや、仕事の依頼じゃないんだが……ちょっと聞きたいことがあってな」
「なんだい?」
「大聖堂の建設に関してなにか知っている事はないかなと思って」
男の表情がくもり、あからさまに態度が変わる。
「なんだ、苦情なら結構だよ」
「いや、そうじゃねぇんだが……」
俺がどうしたものかいいあぐねていると、アプルがすっと前に出た。
不機嫌になったヌワラに優しく話しかける。
「すみません。私の父は大聖堂の設計士だったらしいのですが……」
「ん? あんたその恰好……教会関係者か?」
「ええ、修道院に勤めています」
「……そうかい。で、父親が大聖堂の設計士だって? わしの知ってる人物かな」
「実はわたしは小さいころ父とは死別して、名前もわからないんです。設計士だったらしいという事しか……」
「それは気の毒だったね。まぁ座りな」
ヌワラはあっさりと態度を軟化させた。なんなのこの態度の差。ひどい。俺、傷ついた。
胸ポケットのキャンディがくすくす笑っている。こいつ、あとで覚えてろよ。
俺とアプルはテーブル席に着いて話を聞いた。