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ルルコット城下町に到着


俺は後ろ姿のランカを眺める。

広い背中は頼りになりそうではある。しかし今日は実にゆるい格好をしている。


先日、リゼと一緒に俺の小屋に来た時は鎧に長剣というフル装備をしていた。

今日は紺のゆったりしたズボンに、革のブーツ。

腰丈の茶色いマント姿。

武器も携えていないようだ。

俺を護衛する気などはないという意思表示に見える気がするのは穿(うが)った見方か。

どこか行商人をおもわせるような格好だ。



店を出て大通りを少し歩くと視線の先、二頭の黒毛の大馬(おおうま)(通常の馬よりもさらに大きな移動用の馬)が並んでいた。

実に立派な艶めいた毛並み。

ランカはこちらを振り返ると何も言わずに、大馬の一頭を手で示す。

あれに乗れという事か。俺はうなずき従った。









それにしても、ランカという男。

道中実に無口な男だった。

大馬に乗りいくつかの村々を抜けていく。

その間にこの男が言ったセリフと言えばこうだ。

休憩です、出発です、休憩です、出発です。この繰り返しなのだから。

他人と話すなという命令でも受けているのか疑ってしまうほどに口をきかない。


ただ、不思議と沈黙が苦にならない。

それはきっと彼がこちらを気遣っているからだろう。

まるで俺の体力があまりないという事を知っているかのように、ちょうどのタイミングで休憩をはさむ。

こちらに気を配り休憩と出発を繰り返す男。

それがランカという男だった。


移ろいゆく空の色を見上げながら俺たちは進む。

ほどなくランカの言った通り、俺たちは赤い夕陽が見守る中、ルルコット城下町の大きな石門をくぐりぬけた。


二重の分厚い石門をくぐった先、ぱっと街の灯が目に入る。

城下町は夕暮れ時。


細長く上に伸びるランプ灯が煌々と整備された街路をオレンジに照らす。

もうすでに人は少ない。

ランカは大馬の歩を緩める。

大馬の蹄が石畳をカポカポと叩く音が妙に耳に心地いい。

大きな通りから徐々に逸れて、道の両脇が迫りさらに細い路地に入り込む。



夕闇(ゆうやみ)迫る寂しげな路地をきょろきょろと見まわしながら揺られていると、ポケットからキャンディの声がした。




「……ついたの? ふわぁぁ……ねみゅい……」




 ランカには聞こえないように手を口元にあてて話す。




「ようやく起きたか……それにしてもさぁ。あの男、まるでしゃべらない。もう、無口すぎて俺の事が見えてないんじゃないかと心配になってくる。俺の体って透明なのか」 


 キャンディも俺に合わせたのかひっそりと話す。



「だって、アンタさ。俺にしゃべりかけるなって顔してるじゃない。根暗そのものってかんじ。まさか自分で気がついてないの?」

「え? そうなのか?」

「はぁ……そりゃ、そんなんじゃ、友達出来ないわよねぇ」

「う、うるせぇな。俺にだって友達のひとりやふたりくらい……」



といいながらも。

俺の頭に浮かんだのは子供の頃大事にしていたウサギのぬいぐるみ”ルウイ”だ。


俺はちらりとキャンデイを見る。

その”ルウイ”にそっくりなキャンディ。

瓜二つ、というのはぬいぐるみにも使える言葉なのだろうか。


キャンディを見つけたのはある街の孤児院だった。

仕事のつながりで縁のできた修道女に頼まれ、孤児院にある寄付物の仕分けを手伝っていた時だ。



倉庫の中にうずたかく積まれた木箱の群れ。

穴の開いた毛布やら、袖が片方千切れた子供用のブラウスやら、雑多な物があふれかえっている木箱の中にキャンディは埋もれていた。

見つけた時には思わず声を上げてしまった。

あまりにもルウイに似ていたから。


もしかして本物のルウイが荷物に紛れていたのかと疑ったくらいだ。

何となく気になった俺は、箱の中からキャンディを拾い上げた。

俺は、周囲に人がいない事を確認して、しばらくキャンディに話しかけてしまった。


その時コイツは急に返事をかえしたのだ。あの時なんといったかな。たしか。







「なによ」



キャンディの声に現実に引き戻された。

そう、たしかキャンディは初対面の時も、なによ、といったな。

俺は、なんだかおかしくなりぐっと笑いをこらえ肩だけで笑った。

するともう一度キャンディの声が聞こえた。



「なによ。黙り込んだ後は急に笑い出して。気持ち悪いわね」

「いやな。最初にお前を見つけた時の事を思い出しててよ」



 俺たちが小声でぼそぼそと話していると、ランカの声がそれを遮った。




「つきました。大馬からお降りください」



俺が視線を前にやると、ランカは大馬からすでに降りている。

路地の隙間、すぐ目の前にあるこじんまりとした屋敷の前だ。

どうやらここが目的地のようだ。

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