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大聖堂前広場での激突

書庫を出て俺たちは一度宿泊所にもどり昼食をとることにした。


外に出ると小雨がぱらついている。俺の心にもどんよりと暗い雲がかかる。


黒騎士は霧雨とともに現れる。たしかキーマンがそう言っていたはずだ。そのキーマンもすでに死んじまったが。


いま、この聖都市フレイブルにとっての雨は災いの前触れなのだ。俺は足早に宿泊所に向かう。


昼になれば、クミルが飯を食うために一旦戻ってくるはずだ。ちょいと話をしたかったところだ。


俺たちが修道院横の宿泊所にもどり、食堂に向かうとそこに何故かアプルがいた。アプルは俺を見るなり腕にしがみついてきた。


お、お、おっさんそんなことされちゃ困るじゃないか。む、胸があたる。


アプルは小さく叫んだ。





「ウルさん!」



「ど、どうしたんだよ」



「黒騎士が! 黒騎士がフレイブル大聖堂の広場に……広場に現れたんです!」



「な、なに!?」



まさか、こんなに早いとは。


俺は急いで部屋に戻り荷袋を担ぐとアプルと一緒に大聖堂前の広場に向かった。







俺たちが広場に駆け付けると、フレイブル大聖堂を背に黒騎士はいた。


小雨がぱらつく曇天の中、黒騎士は広場を我が物顔でゆっくりと歩いている。でけぇ。街の中で見るとさらに大きく見える。


黒騎士の周囲には銀の槍を両手に身構えた十数人の修道戦士たち。住人たちは皆避難したのか他には誰もいない。


黒騎士は、兜の顔をぐるりとまわし修道戦士たちを見下ろしている。



俺は背中の荷袋に手を突っ込んで『ともぐいの土偶』を掴んで考える。


この土偶の呪具は誰かの傷を代わりに引き受けてくれる道具だ。


しかし、どう考えてもこれだけの人数の修道戦士たちの傷をこの土偶ひとつで引き受けるのは無理だ。


黒騎士の攻撃は一撃がほぼ即死級だ。土偶はすぐに壊れてしまうだろう。


だとすると、もう一うはまだ未知数の呪具『みねうちの刀』しかない。


使うとすれば、こっちか。ここは黒騎士を追い払ったほうが被害は少なくて済むかもしれん。


俺は腰巻にかけていた錆びついた刀を握る。


ふいに背中からクミルの小さな声が聞こえた。




「……ウルさん」




俺とアプルは同時に振り向いた。そこには白いローブ姿のクミルがいた。俺はクミルにたずねる。




「クミル、無事だったか!?」



「うん。でも思ったより早く突破されちゃった。ウルさんお願いがあるんだ。時間を稼いでほしい」



「え? なんだいそりゃ」



「いいから。僕が魔術陣を描き終えるまで頑張って。頼んだよ」



クミルはそういうとすっと横に駆けて行き、地面にしゃがみ込んで手に持っていたカバンから大きな筆のようなものを取り出して広場の石畳に何かを描き始めた。




「お……おい。頑張ってっていわれてもよぉ……俺、戦闘にはあんまり自信ねぇんだよ」




しかし、やるしかねえか。俺は右手の刀の柄をさらに握る。





スキル『呪具耐性』の発動だ。



俺は唱える。呪具拝借(じゅぐはいしゃく)呪詞(のりと)を。





―――――――――



天地万物(てんちばんぶつ) 空海側転(くうかいそってん) 


天則(てんそく)()りて我汝(われなんじ)(おきて)(したがう)


御身(おみ)(けつ)をやとひて (ゆる)したまえ




―――――――――






俺は『みねうちの刀』を身構えて黒騎士めがけてつき進んだ。


すでに何人かの修道戦士たちが広場に横たわっている。生きているのか死んでいるのか。


俺はそいつらを横目に黒騎士と対峙する。




「おい! こっちだ!!」




黒騎士は俺に気が付いたようでちらりとこちらに顔を向けた。


やっぱりコイツ。俺の言葉を理解していやがる。



その瞬間、大鎌が一気にこちらに振り下ろされる。俺の頭上に刃が迫る。


俺は大きく息を吸い込んで、はくと同時に大地を蹴った。


大鎌を眼下にかわすと振り向きざま、鎌の柄を握っていた長い舌めがけて思い切り刀を振り下ろした。


どっ、という重い手ごたえあり。黒騎士は雄叫びをあげた。そして舌から大鎌が剥がれ落ちた。


黒騎士は伸びた首を引っ込めて体に戻した。俺は着地して、立ち上がる。


黒騎士に向き刀を両手で握り左下段に構えた。そして一気に走る。黒騎士がのる馬の右前足のひざめがけて刀を下から振り上げた。


またもや直撃の手ごたえ。


漆黒の大馬はバランスを崩して前のめりにひざをついた。俺が次の一撃に移ろうとした瞬間。


強い衝撃と共に視界が揺れる。胸がつまり息ができない。俺の体は浮き上がり遥か後ろの地面にたたきつけられた。


俺は咄嗟に胸をおさえて立ち上がる。くそ、舌の一撃か。


キャンディ、大丈夫か。俺は胸ポケットに手を当てる。しかしそこにキャンディはいなかった。




「キャンディ! 大丈夫か、どこだ!」



「ここよ、アタシなら、大丈夫」




キャンディの声が頭の上から聞こえた。


よかった、俺のポケットから抜け出して俺の体のあちこちに移動しているようだ。


続けてキャンディが叫んだ。





「ウル! アプルが!」


「え?」




俺が視線を黒騎士に向けると、黒騎士がアプルのそばに向かっている。


アプルは広場に倒れている修道戦士のそばでかがみ込みそいつの体に手を当てている。


まさか、治癒術を使っているのか。アプルは魔術に集中しているのか、後ろから近づく黒騎士の方を振り向かない。


気がついていない。俺はありったけの声をはりあげた。





「アプル! アプル! 逃げろ!!」




俺は急いで立ち上がると駆け出す。叫びながらアプルの元に向かう。しかし、遅かった。


黒騎士は転がっていた大鎌に舌を伸ばして持ち上げると大きく持ち上げた。


駄目だ、アプル。駄目だ、間に合わない。


アプルはようやく気がついたのか、背中越しに黒騎士を見上げた。


黒騎士は振り向きざまのアプルに向かって大きな鎌を斜めに振りぬいた。


黒騎士の大鎌がアプルの首を刈りとる瞬間。俺の目の前の風景が止まった。

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