最強エリート、結界の紋章師クミル登場★
男の赤みがかったブロンドの髪はこざっぱりと波打っている。
男はこちらをオズオズと眺めて口を開く。
「あ、あなたが、呪いの紋章師?」
「は? お前さん一体誰だよ」
「あ、ぼ、僕は隣の部屋のクミルだよ」
あのさぁ、隣の部屋のクミルだよ、とか言われてもさぁ。誰なのか全くわからんのよ。
あ、もしかして、こいつがアプルの言っていた結界の紋章師か。それにしては、随分とおどおどした印象だが。
結界の紋章師っていやぁ、紋章師のなかでもエリート中のエリートと言われているはずだ。
コイツからは全くそんな雰囲気は感じない。
俺は聞いてみた。
「お前さん。もしかして宮廷紋章調査局からきた結界の紋章師か?」
「そうだよ! じゃ、あなたが本当にウルさんだね? やっときてくれた、あーよかった!」
クミルはそういうと、頭をぼりぼりかきむしりながら声を上げた。
「あーよかった、よかった。で、早くあの黒騎士を何とかしてよ!」
「あのなぁ、呪いを解くってそう簡単じゃねーんだぞ」
「えぇえ……そうなの? ちちんぷいぷい、あぶらかたぶら、でなんとかならないの? 僕もうこんなところから早くぬけだしたいんだ」
なんだか随分と変わったやろうだ。まだ二十歳にも満たないつんつるてんの顔をしているが。
俺はとりあえず壁際の椅子に座るようすすめた。
クミルは椅子にパッと目をやると、ちょこんと座った。
俺は寝台の上であぐらを組みクミルにたずねた。
「で、改めて聞くが、お前さんが結界の紋章師なんだな」
「同じことを何度も聞かれると気が狂いそう。あなたは呪いの紋章師ウル。ジャワ渓谷から3日かけて聖都市フレイブルに来て、さっきセイロン大司教から仕事の依頼を受けたんでしょ」
「な……なんだよ、おめーは」
「さっきアプルさんから聞いた。あの黒騎士は怨霊? 魔物? どうやったら消えるの? 僕はあいつが消えないとここから帰れないんだから、早く何とかしてよ。なんでも手伝うから」
「と、とりあえず落ち着いてくれ、その早口何とかならんか」
「早口なんかじゃないよ、これでもゆっくりしゃべってるんだ。僕は昼食後からまたこの街の周辺にある結界術の魔術陣235か所の見回りに行かなきゃならないんだからあまり時間がないんだ」
ああああ、何だこいつは一体。
その時、俺と同じ気持ちだったのか、ついにキャンディが俺の胸ポケットから飛び出した。そして奴のすわる椅子の真ん前のテーブルまで飛びはねた。
「ちょっと! アンタ、うるさいのよ! キーキーわめかないで!」
クミルはビクッと肩をすくませて黙った。キャンディをじっと見つめている。
そしてやっぱり早口でしゃべりだした。
「ウサギのぬいぐるみ? って事はこれはヒトガタだね。誰かの魂が封じられているんだね、へー、おもしろいや。喉が無いのに声が出るだなんて。あ、てことは僕たちの頭の中に直接話しかけているってことなのかな。よくみるとうさぎっていうよりくまみたいな顔しているね、ははっ」
「もーいいかげんにして!」
「ご、ごめんよ。しばらく誰とも話してなかったから、くちが勝手に動くんだ。あ、そうだウルさん、早く黒騎士騒動を解決するために僕が見知ったことをあとで話すから。あ、もう行くね。じゃあとで」
クミルはそういうと、すくっと立ち上がってさっさと行ってしまった。
しばしの静寂。俺はキャンディと同時につぶやいた。
「なんだ、あいつ」「なによ、あれ」