目撃談
俺はセイロンとの話のあと、アプルと連れ立って中庭に出る。
アプルが振り向いてたずねてきた。
「どうでした? セイロン大司教様とのお話は」
「ん? まぁ、まだこの依頼を引き受けるかどうかわからんな」
「そうなんですか!? せっかくウルさんのお部屋をご用意していたのに……」
「うそ。俺も修道院にとまれるの?」
「え? やだ、ウルさんったら! ウルさんがとまれるのはこの向かいにある教会付属の宿泊所ですよ」
アプルは俺の思い違いがよほど面白かったのか。手を口に当ててクスクスと笑っている。
お、女の園にとまれるのかと思って、おじさん興奮したじゃないか。ふんふん。
アプルはひとしきり笑った後、小さくため息をついて話す。
「でも、残念です」
「なにがだよ」
「せっかくあの黒騎士を退治してくださる方が来て下さったと思ったのに」
「お前さんの頼みだったら、もうちょっと安くで聞いてやったかもな」
「え?」
「いや、こっちの話」
まぁ、俺の仕事の報酬なんて俺の言い値だからな。気に入らん爺さんにはびた一文まけてやらん。
唸るほど金があるくせに、支払いをもったいぶりやがって。
俺が教会の事など右も左もわからない辺境の田舎もんだとでも思っているみたいだったな。けっ。
俺はアプルに聞いてみた。
「でもあの黒騎士、街の中には入ってこないのか?」
「最初の頃は、街の中にもあらわれていたんですけど、セイロン大司教様が宮廷紋章調査局に依頼して結界の紋章師を呼び寄せたんです」
「なるほど。都市全域に結界をはったのか」
「そうです。ですから最近は街の中には現れなくなったのですが、そのかわり……というか」
「どうしたんだ?」
「最初の頃はあの黒騎士は聖職者だけを狙っていたんです。でも、最近は街の外で聖職者以外の人たちも襲うようになってきたんです」
「それで騒ぎが大きくなり始めたのか?」
「そうです。最近は、住民たちからの苦情が頻繁に教会に届くようになってしまって。お前たちのせいだと。この前は外部から来た商団の一行を襲ったみたいです。以降、その商団はこの聖都市フレイブルとの商取引を一時中断することを決めたみたいです。いまや、この街の商業活動にも影響が出始めているんです」
ふむ。最初は聖職者だけを狙っていたのに、やつらが身を守り始めると他の人間も襲いだした。
これは、あきらかに聖職者たちへの当てつけだな。
でもなぜ聖職者だけをねらうんだ。聖職者なんてひとに奉仕こそすれ恨まれるようなことはしないはずだが。
セイロン大司教をはじめとして、教会のやつらを調べてみる必要がありそうだな。なにかよからぬ因縁がありそうだ。
考え込んでいた俺の目にふいにアプルの顔が大きく映り込む。
「おわっ! ちかっ! なんだんよ!」
「なんだか、難しそうな顔をしていたので、どうしたのかなって」
「なぁアプル。ちょいと教えてほしんだが、黒騎士は普通の街の人たちもおそうんだよな?」
「ええ、最近は」
「襲われた場所ってわかるか?」
「はい。確か、教会の意見箱に街の人たちからの苦情がよく来るんです。どこで襲われたとか、どこで目撃したとか。その情報を教会の修道士がすべて教会の意見書にまとめているはずです」
「それは俺でも、見ることができるのか?」
「いえ。意見書は教会の書庫に保管しているんです。教会の書庫には教会関係者しか立ち入ることはできません」
「そうか……でも、あの爺さんさえ俺に仕事を依頼するって決めりゃ、見られるだろうな」
「ええ、セイロン大司教様の許可があれば大丈夫だと思います」
「はぁ……あの爺さんの返事を待つしかねぇか」
俺はひとまずアプルと別れ、宿を探す為街に繰り出した。