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ニンハラル教


俺はキーマンの大馬の背に乗せられたまま進んだ。後ろから男の体にしがみつかなきゃならんとか、なんの罰ゲームよ。


これが修道女のアプルだったら最高なんだが。


俺たちは、ほどなくして森を抜けた。その頃にはすでに雨はやんでいた。


頭上にぱっと空が広がる。灰色の雲を割り、大地に射し込んできた陽が光のカーテンのようにすうっと伸びてくる。


俺は目を凝らして前を見た。周囲を丘に囲まれた広大な盆地。


あちこちに点在する家々のそのずっと先、ついに姿を見せたのは聖都市フレイブル。


なだらかな向こうの山を背に、天まで突き抜ける尖塔(せんとう)がここからでも見える。


おそらく、あれがこの都市の中央にあるという教会の大聖堂だろう。俺もこの都市に来るのは始めてだ。


俺たちの住むエインズ王国にある教会を管理しているのは『ニンハラル教』だ。


この修道戦士5人衆たちも、そのニンハラル教の信徒という事になる。





手綱(たづな)を握るキーマンがふと聞いてきた。




「ウル殿、さっきのは一体……仲間たちは、黒騎士の大鎌に切りつけられたはずなのに、傷すらついていない」


「ちょっとした呪具を使ったんだよ」


「すごい……セイロン様が見込んだだけの事はある」


「セイロンってのは?」


「ニンハラル教の大司教様です」


「……随分お偉いな。お前さん達を遣わしたのもそのセイロン大司教なのか」


「そうです。この聖都市を統治されているお方です」


「……統治?」




何をいってんだこいつは。ここはべリントン家の領地だぞ。聖都市フレイブルもべリントン家の統治下だ。


エインズ王国は私有教会制度(領主が聖職者を任命する権利を有する制度)をとっているはずだ。


いってしまえばべリントン家が聖職者を選んで任命しているんだから、領主が大司教よりも上の立場だし、領主こそが統治者だ。


それなのにその雇われ大司教を指して統治だなんて言葉を使うとは。随分と勘違いしてやがる。


それともついつい口が滑ったか。さっきの戦い方といい、下手な言葉遣いといい。なんだかこいつら上っ面だけかもな。


俺たちの乗る大馬はそのまま街の中に入り込み。街の中央にある大聖堂に向かった。







それにしても人の多さに圧倒される。ここまで栄えているとは。


王都に近いという事もあるのだろうが、様々な分野の技術者があつまっているようだ。


広い通りに面して、鍛冶屋に道具屋に武具屋に、次々に様々な店が軒を連ねる。この通りだけでなんでも揃いそうだ。


それに異人種が多い。耳の尖った者、小柄でごつごつした背むしの小男。


明らかに人間族ではないものが普通に俺の真横を通り過ぎていく。


俺がきょろきょろしていると、挙動不審な動きに気が付いたのかキーマンが背中越しに話しかけてきた。





「異人種が珍しいですか?」


「お? おう、まぁな。俺は普段引きこもってるからあんまり見慣れないね」


「ここの異人種たちは様々な事情のあるものが多くて、ニンハラル教に救いを求めてここに来たのです」


「へぇ、そうなのか。まぁ……よくわからんが」


「慈悲深きセイロン様が、異人種を受け入れる政策を領主様に進言してくださり、彼らをお救いくっださったんです」




慈悲深いねぇ。悪いが俺にはそう思えないんだよな。


なぜかって、この俺に対する仕事の依頼の仕方からしていい奴とは思えん。


俺の疑いをよそに、キーマンが言った。




「セイロン様は本当に素晴らしいお方です。あ、もうじきに大聖堂の入り口が見えますよ」




その時、道の少し前からこちらに手を振って走ってくる人影が見えた。


修道服すがたのアプルが大きな胸を揺らしながら走ってくる。


アプルがさけんだ。





「ウルさぁ~ん! お待ちしてましたよぉ~!」





その瞬間、俺の疲れは一気に吹き飛んだ。





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