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呪具『ともぐいの土偶』


黒騎士と修道戦士5人衆との乱戦。長い槍と大きな鎌が耳障りな音を立ててぶつかり合う。


俺は少し距離をとる為、乗っていた大馬を後ろにさがさらせて、もう一度前に向きなおった。


それにしても、こいつら大丈夫か。槍使いが5人なんて、実戦のことを全く考えていない布陣だ。


銀の長槍(ロングスピア)が5人もいると、味方同士の槍が邪魔になってろくな攻撃ができんはずだ。


魔物を相手にするときは、短・中・長・超長距離、ってなぐらいに武器や魔術の種類を分散しなきゃいけねえのによ。


今回、俺の護衛をキーマンたちに命じたやつは、戦闘に関してはずぶの素人なのか。それとも敵に遭遇することを想定していないのか。


きっと、こいつら自体はそれなりに強い戦士なんだろうが、その強みをお互いが打ち消している。


キーマンともう一人の修道戦士が中心となって戦ってはいるものの、あとの3人は後ろでウロウロしているだけだ。


ほとんど見守っているだけじゃねーかよ。





「……ったく、これじゃどうしようもねーな……」





その時、ひとりの修道戦士が大鎌の攻撃を槍で受け、バランスを崩した。


そいつはそのまま大馬から滑り落ちて、大地に寝そべる。黒騎士が悠然と首をもたげてそいつめがけて大鎌を振り上げる。


俺は急いで背中に担いでいた荷袋に手を突っ込み、ある呪具を抜き出した。


右手にすっぽり収まるほどのずんぐりとした土偶(どぐう)(土でできた人形)。


顔からはみでるほどの閉じた瞳、体中に幾何学模様が刻まれた黒の土人形だ。





「くそっ……間に合うか!」






スキル『呪具耐性』の発動だ。


俺は唱える。呪具拝借(じゅぐはいしゃく)呪詞(のりと)を。





―――――――――



天地万物(てんちばんぶつ) 空海側転(くうかいそってん) 


天則(てんそく)()りて我汝(われなんじ)(おきて)(したがう)


御身(おみ)(けつ)をやとひて (ゆる)したまえ




―――――――――





呪具:ともぐいの土偶



効果:呪いをかけた相手の身代わりとなりその傷を体に受ける






俺は大地に寝そべった、修道戦士に印を向ける。


とほぼ同時に黒騎士の大鎌がそいつの首を刈った。そいつは大声をあげて両手で首をおさえてのたうち回る。


俺の右手の土偶がびりりと震えた。俺が土偶に目をやると土偶の右の首筋にひびが入る。


間に合った。が、結構一撃のダメージが大きいぞ。


俺は悲鳴を上げてのたうち回っている修道戦士にじろりと目をやる。傷はこの土偶が貰ってやっているってのに、いつまでも何やってんだあいつは。


続いて、またもう一人の修道戦士が大馬の上で大鎌のふり抜きをまともに受けて、バランスを崩した。


黒騎士の大鎌がそいつの胴を真っ二つに狩る。俺はそいつに印を飛ばす。


ビシッ、とまた俺の右手にあった土偶に衝撃が走る。今度は土偶の胴に真一文字に傷が入った。




「あああ!……このままじゃ、この戦闘だけで土偶が壊れちまう! おい! おめーらいつまで寝転んでんだ!」




俺は連中に大声で叫んだ。この土偶は回数にかぎりがあるんですぅ。あ、違う、そうじゃない。




「おい! 逃げるぞ! お前らは傷を受けてねぇ! さっさと起きやがれ!」





俺の一声に修道戦士たちはふと我に返ったのか、きょとんとした顔で自分の体のあちこちを触っている。


そして起き上がった。


俺は、それを見届けると大馬の手綱を絞り、一気に黒騎士めがけて駆け出した。


修道戦士たちを飛び越えて、黒騎士の胴体めがけて突っ込む。


体当たり寸前で大馬から体をはがして横に回転しながら飛び降りた。


ドスッという重い音とともに黒騎士の体はバランスを崩し、よろめいた。ふと真後ろに冷たい空気。


俺が急いで起き上がって振り向くと、俺の鼻先に黒騎士の顔があった。


冷たい息が俺の頬をなでる。そして大鎌が俺の首に。





「……あ、俺、死んだ?」




と思った時、俺の体は強い力で引っ張り上げられた。視界がブレる。


気が付くと俺はキーマンの大馬に引き上げられていた。


俺はふっと後ろを見たが、そこには誰もいなかった。


黒騎士は、すでに跡形もなく消えていた。


俺の乗っていた大馬が道の脇で、寂しげにこちらを見送っていた。


ああ、すまねぇ。後で迎えに行くからまってなよ。









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