イケメン > おっさん
俺は重いため息をついてから、この5人衆のリーダーらしきキーマンにたずねる。
「はぁ……まぁ、期待外れだが、しゃーねーな」
「期待外れとは……?」
「いんやぁ、こっちの話しだ。気にしないでくれ。でもえらく物々しいが、俺ってそんなに危険な場所に連れてかれるの?」
「念のためです」
「念のためにしては……やりすぎっていうか……」
俺はちらりと他の連中を見上げる。
それにしても、全員色白で驚くほど整った顔立ち。そろいもそろってみな碧眼金髪。
修道士ってえのは顔で選ばれるのか。これ絶対、顔で選んでるだろ。
ほら、たまにそういうのあるじゃん、どことは言わないけどさ。誰かの趣味が色濃く出てるのってさ。
この中に混ざるのは気が引けるが、俺はとりあえず、あいている大馬に向かった。
「ま、よろしく頼むわ」
「はい。我々が護衛いたしますので、ご安心ください」
「はいよっと」
俺はそいつらの後ろに回り込み人の乗っていない大馬にまたがった。
すると俺を中央にかこみ、修道戦士たちの大馬が周囲をつつんだ。
なんか、護衛っていうかさ、まるで連行だよねこれ。
大きな槍を背負った修道戦士たちにぞろぞろと囲まれると、なんだか罪人にでもなった気分だ。
にしても、修道女の次は修道戦士を使いにやるとはね。いったい今回の依頼主はどういう神経の持ち主なんだ。
俺はこういう人の使い方をする奴がはっきりいって嫌いだ。まるで他人を小間使いみたいに。
用があるならてめーで来やがれってんだ。俺の中ですでに今回の依頼主のイメージは最悪になりつつある。
まってろよ、絶対に大金をふんだくってやる。
でもな、そんな奴の言う事をガキの使いみたいにへぇへぇときくこいつらもこいつらだ。なんだか釈然としない。
俺のかすかな苛立ちに気が付いたのか、先頭のキーマンがこちらを伺うようにちらりと目をやった。
俺は感情を読み取られないよう、顔を伏せて小さくため息をついた。
それを合図としたように、大馬の群れは勢いよく駆けだした。
いくつかの町を経て、幾日かを過ぎた頃。ようやく目的地の都市へと近づいた。
俺は小さな町のやすい宿の部屋で、寝ぼけながらも出発の準備をしていた。
昨日自分で洗った麻の下着やら、出店で買った簡単な保存食を荷袋に詰め込んでいく。
この後、この町の出口であの修道戦士5人衆と待ち合わせをしている。
男だらけの旅なんぞ、なーんもたのしくない。
それに、それにだな。
「差別だっ、これは」
俺は床に敷かれたうすい布団の上であぐらをかき、あつめた小物を荷袋にぶちこんでいた。
胸ポケットからキャンディが顔を出す。
「どうしたのよ……朝から、いらいらしちゃって」
「だってよ。俺はこのきたねーやす宿にとまってるってのに、あの5人衆と来たら、教会付属の綺麗な宿泊所にとまってるんだぜ、おかしくね?」
「いいじゃない、綺麗な男はきれいな所にとまって、きたないおっさんはきたない所にとまるって、すごくナチュラル」
「ひ、ひどい! この差別主義者! おに! うさぎ!」
「ウル、アンタ、そんなこと気にする人だっけ?」
「いやな。俺が、もやもやするのは今回の依頼主なんだよ」
キャンデイはポケットに潜りこんだ。こもった声で興味なさげに聞く。
「いらいぬし?」
「そうだ、最初は美人で釣って、道中は美形の男ども、これはいったいどういう仕打ちなんだ?」
「なにが不満なのか、アタシにはよくわかんない……ふあぁ、ねみゅい……」
「なんかバカにされてる気がするんだよ、うまくあしらわれている感じっつーの、なんつーかこう、あーうまく言えねぇ、余計にイライラする」
「わかったわかった、アタシ……また眠くなってきちゃった」
ああああ、わからんか、わからんのか、このデリケートなおやじ心が。このどこか翻弄されているような心の揺れ動きが。自尊心のうめき声が。
俺はがむしゃらに荷物を荷袋に押し込んで、宿を出た。
その時、頭にぽつりと落ちてきた。俺は見上げる。灰色の空はひくく、こちらにせまってくるようだった。
「雨かよ……」
俺は肩をすぼめて、一気に厩舎まではしると大馬に乗って町の出口へ急いだ。
町の出口に向かうと修道戦士五人衆は、すでに準備万端という感じで大馬に乗りこちらを見ていた。
俺が合流すると、また例のごとく俺を囲み陣形を組んだ。
先頭のキーマンが俺に振り向いた。
「目的地はもうすぐです、都市の周辺では特にお気を付けください」
「何を気をつけろってんだよ」
「やつは、霧雨と共にその姿を現すのです」
「……例の黒騎士の事か?」
「はい、今日は雨、実に日が悪い」
「わりいな、俺、雨男なんだよ」
キーマンはすこし目を薄めた。あれ、こいつ、冗談が通じない奴か。
キーマンは何も言わずに、前に向き直ると大馬を進ませた。