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身の上話 



 よりにもよって。


 人生の中で、こんな言葉はいつ使うものなのだろうと思っていたけれど、今まさに、こういう時に使うものなのだ。


 15歳といえば、大人か子供か議論は割れるかもしれない。


 ただ、俺の住むここエインズ王国では15歳になれば否応なく一人前とされる。

 そして、それは成人として一定の権利が与えられる事を意味する。

 と、同時に、ある儀式を受けるかどうかの選択を迫られることにもなる。

 俺のような貴族の出自を持つ男子ならばなおさらにその儀式を受けることは、ほとんど強制に近い。

 

 それが、この国の伝統儀式である『天資(てんし)の儀式』とよばれるものだ。


 この厳しい儀式をへた者の中から魔術の才能が覚醒した者には『紋章』が授けられる事になっている。



 たとえば、『火の紋章』ならば火の魔術を扱える”火の紋章師”になり『剣の紋章』ならば剣の魔術を扱える”剣の紋章師”という具合だ。




(はぁ……よりにもよって……)



 

 俺に与えられた『紋章』は”(のろ)い”だった。俺の右手の甲に赤黒く浮き出るのは、二匹の蛇が絡まり、のたくったような不気味な紋章。

 俺は呪いの紋章師となる宿命を背負った、由緒正しき大貴族、べリントン家次男、ウル・べリントン。




 俺は今からこの呪いの紋章を授かったことを父に報告しなくてはいけない。


 剣聖と呼ばれている父、アルグレイ・べリントン。

 父が15歳の時に授かった紋章は、なんと4つもあったらしい。


『剣の紋章』と『炎の紋章』と『時空の紋章』そして『祝福の紋章』だ。父の右手には、その甲から前腕にかけて、四つの紋章がズラリと並んでいる。

 もはや比べる事すらおこがましいと思えるほどに格が違う。


 父はこの国の防衛をつかさどる宮廷魔術騎士団のトップまでこの国の歴史上最年少で上り詰めた。

 国王の右腕ともささやかれている。いや、ここだけの話、次期国王ともいわれている。

 この国の老人から子供まで、その名を知らぬものは無いとすら言われている最高の武人。


 俺は誇らしかったし、なんとしても父の期待に応えたかった。






 父の書斎。


 数々の厳めしい背表紙の本に囲まれて妙に静まり返った父の”聖域”の中央。

 俺は姿勢を正して立ちすくむ。

 そして、偉大なる父に報告をした。

 ”呪い”の紋章を授かったと。


 父は大きな机の向こうで、静かに座ったまま。ふといぶかし気に眉をひそめた。


 しばらくの沈黙のあと、父は手元に開いた本に目を落としたまま、俺を見もせずに、こう言った。



「このべリントン家から……そのような忌まわしい紋章を授かるものがでるとは」


「……で、でも父さん、この紋章は呪いを解く力があるそうです、それはとても……」


「ふさわしくない! 貴様は我がべリントン家から、追放だ!」




 父の言葉は大きな鉄槌(てっつい)


 俺は肩をすくめて黙り込む。


 俺は聞いたことも無い父の怒鳴り声に身構えた。ある程度の反応は覚悟していた。

 が、父の拒絶は俺の想像のはるか上をいっていた。


 父は顔をあげる。

 けれどその目は俺を見はしなかった。

 視線の先には書斎の窓。

 

 窓の向こうには四角くきりとられた青い空が見える。

 そして、はるか彼方に千切れる雲。


 父の態度はこう言っていた。


”あの雲のごとく、べリントン家から千切れてどこかの彼方へ立ち去れ”とね。




 俺は何も言えずに、父に背を向けて書斎のドアをくぐった。


 そして音を立てずに書斎のドアを閉めた。






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