転32 〈邪神〉だけど、希望の未来をめざす。
〆のお話ということで、少し長くなりました(^ω^;)
それではどうぞ……!
かくして、いろんな意味で、どったんばったん大騒ぎの一夜は明けた。
私たち───私とヒメカと、ゆりちゃんは、例の高級ホテルに戻り、
ペントハウスに泊まりましたとも。
ゆりちゃんも一緒にいるので、さすがにヒメカからの
“ごほうびタイム”は延期になった。
残念と言えば残念だけど、ちっとも残念じゃないのさ。
ほら私、ラーメンのチャーシューは、最後までとっておく派だから!
………ごめん、嘘。
ホントは、今すぐ、ヒメカと一緒にめっちゃお風呂入りたいです!
イチャ☆イチャ☆したいです!(涙)
まあ、そんな私の個人的欲求はさておき。
私の、〈大至聖女〉としての、
初めてのお願い事だけれど──────。
それは、宮内からブン獲った、〈旧神の印章〉を用いて、
ゆりちゃんに、〈夢〉を視させることであった。
〈具現夢〉……ゆりちゃんが、
自分の持つ異能の〈力〉を、失う〈夢〉を。
〈夢〉を、現実の事象に具現化する〈力〉。
そんなものは、人間の社会と秩序を狂わせてしまう。
ましてや、小さな女の子に背負わせるには、重すぎる〈力〉だ。
なので、綺麗サッパリ、消してしまおう!、ということで、
すぐさま実行してもらったわけである。
トム爺ちゃんと、エストさんからは、その場で快諾をもらっての、
即・実行であった。
私……〈大至聖女〉のお願いだから、
というのもあるかもだけど。
ふたりが、〈聖導庁〉の基本理念のひとつ、〈正義〉に従っているから、
と思いたい私だ。
────ゆりちゃんが〈視〉る、最後の〈具現夢〉。
ゆりちゃんの願いを増幅しての、魔法による〈精神干渉〉だから、
明確な〈夢〉を与えるのは、簡単なことだっただろう。
“普通の子供になって、パパとママと、ずっと一緒にいたい”
幼い子供が、抱いて当然の願い。
異能の〈力〉は消え、ゆりちゃんはもう二度と、宮内のような悪党に
狙われることもなくなる。
あと、ついでに、ゆりちゃんが拉致されてる間に、無理矢理、
視させられた〈夢〉関連の記憶も消させてもらった。
なにかの拍子で、自分の〈夢〉が、人の命を奪っていたことに気づき、
ゆりちゃんが苦しまないように、と。
悪い夢は、もう終わり。
女の子は、幸せな未来だけを、夢に見るべきである。
─────────と、まあ、同じ女の子である私は、そう願うものだ。
あ、そうそう、宮内の、今後の処遇について。
エストさんから聞かせてもらった話では、一連の犯行に関わった過激派と共に、
〈聖導庁〉の施設に収監されるとか。
どんな施設か説明されたところ、
『カ●ジ』の地下労働施設みたいなトコらしい。
おそらく、一生、太陽をその目で見ることはできなくなるだろう、
とは、エストさんのコメントである。
う~ん、スカッと☆JAPAN!
自分の手で、ちょっとボコボコにし足りなかったけど、
あの下衆の末路がそんな風なら、気分は爽快♪てなもんよ。
本気で、イイ感じの“ざまあ”な結末を眺めることができたので、
大勝利と言ってよいのではなかろうか。
そして、〈旧神の印章〉は、〈聖導庁〉本部で、厳重に
保管されることになる、とのこと。
あれが、〈聖導庁〉本部の管理下にある、というのは、
ちょっと不安が残るかな~……。
だってさー、宮内みたいな三下が使っても、
私の全力全開〈邪神〉パワー念動ビームを防げるようになるブツだよ?
トム爺ちゃんとの話し合いを反故にされ、
『〈大至聖女〉の話とかねーから!』って、
〈聖導庁〉が、ヒットマンを私に飛ばしてこないとも限らない。
その時に、〈旧神の印章〉を持ち出されたら、
大ピンチになること間違いナシ。
〈聖導庁〉の敵になるようなことは、しないつもりだけど。
世の中、なにがあるかわかんないからなあ~……って、あれ?
コレ、フラグっぽい?
〈大至聖女〉の称号を受けちゃったことによる
弊害とかは、まあ、今考えても仕方ない。
もともと、ヒメカとの幸せな結婚を目指すこと以外、興味ないんだから。
〈巫女教皇〉とほぼ同等の権威・権力を持つ称号とか、
厄ネタとしか思えないけど……。
〈聖導庁〉との大きな繋がりができた、そのことを喜ぶ、プラス思考で行こう。
ま、ぶっちゃけね、そんなことより、ヒメカと一緒のベッドで
寝れたことのほうが、大事なことなんですよ、当方としては。(鼻息荒く)
………ゆりちゃんも一緒だったから、
手出し(意味深)は控えたんですけどもね?
は~……〈邪神〉覚醒から特殊イベント発生しまくりで、
『らめぇ♪ こんなんじゃ体が保たないよほぉ♪』
って部分もあったけど。
こーゆ~ね、好きなひとと、優しさに包まれるようなイベントなら、
ベリベリウェルカム☆バッチコイ♡ですよ。
ヒメカのパジャマ姿からなにから、思うさま堪能して、ごっつぁんです。
密かに興奮して、灯りを消した中、〈邪神〉アイにて〈無灯視覚化〉、
ヒメカの寝顔などを脳内メモリに保存しますた。
おかげでチョッピリ、寝不足気味かな?
〈邪神〉ボディだから、体調は問題ないけど、
精神的にはナチュラル・ハイKA・MO・NE☆
そんなカンジの目覚めで、朝食を終え、現在、私たちは、ホテルのロビー、
その一角にて、エストさんのお迎えを待っていた。
今度こそ、安全にゆりちゃんを引き渡し、任務完了である。
たった一日知り合った間柄とはいえ、かわいい妹と離ればなれに
なっちゃう気がして、寂しさが、ほんのりと。
……いや、実の妹はいるけどもさ、今の私の年齢で、
母性をくすぐってくる幼女枠は、貴重なのだ。
などと、ひとり勝手な名残惜しさを覚えながら、ヒメカと、
ゆりちゃんを挟んで、ロビーのソファに座っている私。
────私たちが座っているのは、ロビーの待合い場所的なところで、
壁には、大きなテレビモニターがはめこまれていた。
画面には、日曜朝の、ローカル・ニュースが流れている。
やっぱり、というか、聞かされていたとおり、私が〈邪神〉パワーで
好き勝手暴れた港湾商業区画のことは、ニュースで取り沙汰される気配はなかった。
「けっこう派手にブッ壊しちゃった気がするけど、なんとかなるもんなんだね」
私がそうコメントすると、ヒメカは、困ったように苦笑する。
「エストが、というより、〈聖導庁〉が全力で、なんとか
揉み消したんでしょうね。……草薙さんの疲れた顔が、目に浮かぶわ」
ありゃ~、〈聖導庁〉だけじゃなく、草薙さんにも迷惑かけちゃったかな?
個人的に、エストさんにはいくら迷惑かけてもいい気がするけど、
草薙さんにとばっちり喰らわせるのは、罪悪感を感じちゃうなあ~。
「きのうのこと、ニュースになってたほうがいいの?」
私とヒメカが話していたことが気になったのか、
ゆりちゃんがきょとんと問いかけてくる。
「ううん、みんなが昨日のことを知ったら、大変だからね。
ニュースにならないほうがいいんだよ」
「そっかぁ~……。きのうの、みずのきょうりゅうさん、
すごかったのになあ~」
私の返答に、しょぼんとなるゆりちゃん。
その顔を覗きこんで、私は、声をひそめて確認する。
「ゆりちゃん、〈水〉の恐竜さんのことも、私たちが魔法を使えることも
秘密だからね? 内緒のことなんだよ?」
「そうだった……! シィーッ、ね。シィーッ」
ゆりちゃんは、思い出したような顔をして、人差し指を口に当て、
そんな囁き声を出してみせた。
………かわいらしい幼女の、あどけない仕草に、
心癒やされるあゆらであった。(『暴れ●坊将軍』ナレーション風)
いやー、かわいいなあ、も~!
こんなかわいい子供に、魔法で精神を弄くる真似してたヤツが
いるとか、マジなん?
思い出したら、腹が立ってきた。
あの野郎、地下労働施設送りになる前に、もう五・六発くらい、
念動パンチ入れといたほうがよくない?
〈大至聖女〉の名前出したら、拷問の許可出してくれないかしらん。
「……ゆりちゃん。朝、起きる前に、なにか〈夢〉を見たか、覚えてる?」
私がよからぬことを考えていると、ヒメカが、
ゆりちゃんに肝心なことをたずねた。
そういや、エストさんがゆりちゃんに施した〈夢〉の干渉、
完全に成功したものと思ってたわ。
エストさんは、宮内の野郎を脅し、〈夢〉への干渉方法を訊きだして、
実行してたから、失敗はしてないはずだけど。
「〈ゆめ〉? んっと────」
ヒメカに問われ、ゆりちゃんは、思い出そうと、眉根を寄せる。
「パパと、ママと、またいっしょになる〈ゆめ〉は、みたとおもう。
ほかのことも〈ゆめ〉にみたとおもうけど……よくおぼえてない」
「そう……。でも、ゆりちゃんは良い子だから、
きっと良い〈夢〉だったと思うわ。────これからもずっと、
ゆりちゃんが良い子でいてくれると、わたしは嬉しいな」
「……? うん! ゆり、これからも、
いいこでいられるよう、がんばるね!」
ヒメカが言った言葉の半分には戸惑ったようだったが、ゆりちゃんは、
残りの半分に、笑顔で応じてくれた。
ああ~幼女のピュアピュア☆笑顔~心がぴょんぴょんするんじゃぁ~♪
────もといもとい、ゆりちゃんの純粋無垢さに、
心が洗われるようだ……。
幼いナチュラル・ピュアの眩しさを浴びて、
胸をキュン♪キュン♪させているところ。
私の〈邪神〉イヤーが、ホテルの正面玄関に、
集団の来訪をキャッチ。
そのうちのひとりが、エストさんであることを把握して、
そちらに目を向ける。
エストさんは、黒服の女性たち───〈聖導庁〉の部下だろう───を
四人、引き連れいていたが、その他に、一般的な服装をした男女を、
伴っていた。
そのふたりを見て、ああ、と、察する私。
そして、いち早く、ゆりちゃんに、教えてあげるのだった。
「ゆりちゃん。ゆりちゃんが、良い子だったから、
ほら……あっちを見てみて?」
ゆりちゃんは不思議そうに、私がうながしたほうへ、視線を移す。
それから、そこにふたりの姿を認めると、一瞬、呆然としたが、
すぐさま、ソファから、飛び出していった。
「パパぁっっっ!!! ママぁっっっ!!!」
「「ゆりっっっ!!!!!!」」
飛び出していったゆりちゃんを、涙ながらに駆け寄り、
抱き迎える若い男女。
………考えるまでもなく、ゆりちゃんの、ご両親だ。
ホテルのロビーに、幼女の泣き声が響き渡る。
ふたりに会えた嬉しさのあまりか、ゆりちゃんも、
泣き出してしまったようだ。
そんなゆりちゃんを、抱きしめ、あやす、ご両親。
良かった────良かったねえ、ゆりちゃん………。
再会できた親子の姿に、ウルッ、と、もらい泣きしてしまう私である。
ロビーには、私たち関係者以外のお客さんたちや、
ホテルの従業員さんたちも、当然、居合わせていた。
彼ら彼女らは、幼女の泣き声に、何事かと、視線をこちらへ向けてきている。
それらの視線をさえぎるように、エストさんの連れてきた、
黒服のお姉さんたち四人が、等間隔で横に並んで立ち、隙間がありながらも、壁を作った。
私たち側からは、お姉さんたちの顔は見えないけど、たぶん、
“こっち見んな”と、無言の圧を、周囲に発しているのだろう。
おかげで、ソファから立ち上った私とヒメカは、ゆりちゃんら家族を、
気兼ねなく見守ることができた。
「昨日の今日だったが、なんとか、ご両親の百合子嬢に関する記憶を戻して、
連れてくることができたよ」
そんな私たちふたりのそばに、エストさんが、微笑を浮かべて、やってきた。
「早く再会できたのは、良いことだけど……。ゆりちゃんのご両親に、
負担をかけたんじゃないでしょうね?」
ヒメカが、ジロリとエストさんをねめつける。
トム爺ちゃんもいないし、エストさんへのこの当たりの強さ、
手加減なしだわ。
「昨夜の〈破門状〉と同じでね。〈精神操作〉からの回復などと合わせて、
ギリギリの解放となってしまったが────ご両親が、どうしても、一刻も早く、
百合子嬢に会いたいと願われてね」
そう言って、私を見るエストさん。
「我らが〈大至聖女〉も、それを望まれるだろうと思い、
粉骨砕身、米軍のヘリを借りたり、文字通り、夜を徹して、
ここまでお連れした次第だよ」
米軍って、マジかよ! 〈聖導庁〉、ハンパないって!
わ、私、そこまでしろ、って言ってない! 言ってないからね!?
改めて、〈大至聖女〉という称号、その威光が
強すぎることに、ビビり入ってしまう。
「徹夜で連れてきたのは、あなたの部下でしょうに。
さも、自分の手柄のように言うのは、やめてくれないかしら」
このホテルまでの強行軍移動が、ゆりちゃんのご両親の意志だと知っても、
ヒメカのエストさんへの対応は、手厳しい。
横で聞いてて、ちょっと居心地悪くなってしまう。
普段は、天使なヒメカが、特定のひとに対して、喧嘩腰になってるのを
見るのが、いやなのかもしれない。
「ま、まあまあ、ヒメカ、せっかく、ゆりちゃんが、ご両親と
再会できたんだし……細かいことは、言わないでおこうよ。ね?」
「あゆちゃん───うん、そうだね」
私がなだめるように言うと、ヒメカは、素直に穏やかな表情になって、
うなずいてくれた。
……うん、嫁の顔は、柔らこう見えるんが、
一番やで!(関西のオッチャン風に)
そう心の中で、ヒメカの表情を絶賛していると、ゆりちゃんとご両親が、
私たちのほうに歩み寄ってくる。
すると、エストさんが、右掌をピンとのばし、私とヒメカを指し示してきた。
「こちらが、車の中でご説明させていただいていた、お子様の救出に関して、
一番の功労者であるふたりです」
げぇ~っっっ!? そんな紹介すんのぉ~っっっ!?
エストさんの言葉に、はっ、と大きく目を見開き、私たちを見るご両親。
次の瞬間、ご両親は、涙を流しながら、私とヒメカに向かって、
深々と頭を下げてきた。
「百合子の父親の、緒芽正樹と申します!
このたびは、本当に、ありがとうございます……っっっ!!!」
「母の、緒芽眞子です。
百合子を助けていただいて、誠に感謝しております……!
本当に、本当にありがとうございます────っっっ!!!」
今にも土下座せんばかりの勢いで、おふたりは、感謝の言葉を述べてくる。
ご両親にしてみれば、当然の行為なんだろうけど、
私としては逆に恐縮してしまう。
「はじめまして、苑草日明香と申します。
───どうか、お顔を上げてください。……わたしどもふたりは、
当然のことをしたまでですわ」
こういう、日常的なやりとりでは、コミュ症気味に固まってしまう
私より率先して、ヒメカが、優しく、ご両親に応答してくれた。
「はじめまして、潮あゆら、と言います。ゆ、ゆりちゃんを
無事に、おふたりのもとへ帰すことができて、良かったでしゅ」
嫁にだけ喋らすわけにもいかぬ、と、コミュ症なりに言葉を
ひねり出すのだが、緊張で声をうわずらせたうえに、噛んでしまった……!
ング~っ! この小心者が~っ!
昨夜、宮内のクズ相手に、メスガキ煽りしたり、
威勢よく啖呵を切ったおまえは、どこに行った~っ!?
恥ずかしすぎて、内心、自分で自分を罵り倒してしまう。
ゆりちゃんのご両親は、私が噛んだことなどスルーしてくれて、
重ねて感謝の言葉を述べてこられた。
それらに対して、ヒメカが、ひとつひとつ、丁寧に、
笑顔で受け答えしてくれる。
はうぅ───結局、ヒメカに頼りきりになってしまった………。
今後は、いろんな面で、精進してかなきゃなあ……腐っても、
〈大至聖女〉だし、〈邪神〉なんだから────。
「……失礼。緒芽様、そろそろ、いったん落ち着ける場所へ移動しましょう。
ふたりへの御礼などは、また、のちほど」
私が密かに『がんばるぞい!』と決意していたところ、エストさんが、
頃合いを測っていたかのように、ご両親にそう告げてくる。
黒服のお姉さんたち四人が、壁になってくれてるとはいえ、
多くのひとが行き交う高級ホテル。
長時間、私たちだけで、ロビーの一区画を
占拠しているわけにもいかない。
エストさんの提案に、ご両親はうなずいたあと、私とヒメカに向かって、
もう一度、深々と頭を下げてきた。
「何度も繰り返しになりますが、本当に、ありがとうございました。
また後日、正式な御礼の挨拶にうかがわせていただきます……!」
「い、いえいえ! お気持ちだけで、十分ですから────!」
ご両親らの強い謝意に、慌ててそう言葉を返す。
こっちが勝手にゆりちゃんを助けたかっただけだし、
形式張った御礼まで、となると、気を遣わせすぎて、悪い気がしたのだ。
「我らの聖女様は、謙虚でいらっしゃいますからな。そのあたりのお話も、
落ち着いてからにいたしましょう」
ご両親には見えないよう、素早く私にウインクしてみせ、エストさんは、
この場からの退出をうながしてくる。
私が対応に困ったのを察して、助け船を出してくれたようだ。
“我らが聖女様”とか言ってるのは、絶対からかってるだろうけど。
……って、うわぁっ!? チラリとヒメカに目をやったら、一瞬、
エストさんに向けて、殺意に充ち満ちた目つきを!?
ほんの一瞬のことだったけれど、ヒメカが、
物凄い“殺る気勢”の目をしていたのだ。
な、なにか、エストさんの態度が、気に障ったのカナ?
この場を仕切ってる風なのが、気に入らなかったとか?
「あゆちゃん? どうかした?」
かと思ったら、私の視線に気づいて、にっこりと笑ってくるヒメカ。
「う、ううん、なんでもない」
あれ? 私の見間違いだったかな?、と思い直し、曖昧に笑い返す。
そうだよなあ、いくらエストさんのことが嫌いでも、まさか、
私にウインクしたくらいで殺意を抱くとかはないよなあ。
私の〈邪神〉アイも、ヒメカが好きすぎて、曇ることもあるだろうし。
「それでは、参りましょうか」
私がひとり納得しているうちに、エストさんがそう言って、
ホテルの玄関へと歩き出した。
黒服のお姉さんふたりがそれを先導し、ゆりちゃんは、ご両親に連れられ、
三人ひとかたまりで、歩いていく。
私とヒメカも、お見送りでそれに続き、残りの黒服お姉さんふたりが、
最後尾という形で、玄関へ。
ホテルを出ると、黒塗りの高級車が二台、正面に駐まっていた。
窓が全部ブラック・スモークだし、見ただけで
『どう見ても〈聖導庁〉の社用車です。本当にありがとうございました』
って直感できるほど、目立ってる高級感。
黒服のお姉さんのひとりが、後部座席のドアを開け、
ゆりちゃんと、ご両親を乗車させる。
「それではまた。事の詳細は、のちほど、日明香くんに
連絡しておきますよ、聖女様」
エストさんも、そう一礼してみせたあと、同じ車の助手席に乗りこんだ。
私はそのウインドーを、コンコン、と軽くノック。
エストさんは、ウインドーを開けてきて、私を見る。
「なにかありましたか? 聖女様」
「その“聖女様”っていうの、やめてください。
───あと、普通の話し方、していいですよ。エストさんに敬語使われるの、
なんだか、落ち着かなくって」
年上のお姉さんにかしづかれるのは悪くないけど、
それがエストさんだと、調子狂う、っていうか。
私がそう言うと、エストさんは、うなずいて、
悪戯っぽい微笑を浮かべてくる。
「了解した。では、オフィシャルな場以外では、普段通りの言葉遣いを
させてもらうとしよう。では早速だが、今夜、ふたりっきりでのディナーを
申し込みたいのだが、予定はど」
「さっさと行きなさい、エスト」
エストさんの、本気なのか冗談なのかわからない申し出は、
底冷えするようなヒメカの声によって、さえぎられらた。
そんなヒメカの様子を見て、愉快そうに笑い、エストさんは、
ウインドーを閉めようとする。
「まって! あゆらおねえちゃんと、ひめかおねえちゃんは、
いっしょにこないの?」
ウインドーが半分ほどせり上がった時、ゆりちゃんが、
後部座席からそう声を発してきた。
「うん、そうだよ。ここでちょっと、バイバイだね」
私がそう答えると、ゆりちゃんは、なにやら、
慌てて外へ出ようとしはじめるではないか。
「ゆり!? どうしたの!?」
「おねえちゃんたちに、ないしょのおはなしがあるの!」
「内緒の……? ゆり、また今度にしましょう?
今から、お車で行かなきゃならないから……」
「だめー! やくそくしてたの! ごほうびなの!」
ゆりちゃんのお母さんがなだめようとするけど、ゆりちゃんは、
断固とした声で、外に出ようともがく。
─────ごほうび? あ、あれか、昨日の夕食前にゆりちゃんが
言ってた、〈夢〉の話のことか!
別に約束ということでもなかったけれど、ゆりちゃんの心の中では、
そういう認識だったのだろう。
「あ……すいません、昨日、ちょっと、私たちふたりと、
約束ごとしちゃってたんで────。お時間は取らせませんから、
少し、ゆりちゃんと、お話しさせてもらっていいですか?」
まあ、そんなに時間はかからんだろう、と思い、私は、
ご両親に、そうお願いしてみた。
「そうだったんですか。……ゆり、失礼のないようにしてね?」
「わかってますぅ~!」
お母さんのお許しに、ゆりちゃんはおませに応えて、車から降りてくる。
それから、こっち来て、と、私とヒメカを、車から少し離れた場所へ、
引っ張っていった。
私たちはふたりは、しゃがんで、ゆりちゃんと目線を合わせる。
「昨日、ゆりちゃんが言ってた、〈夢〉のお話だよね?」
「うん! えっとね、すこしさきの“みらい”の〈ゆめ〉なの!」
勢いよく、私にうなずいてみせるゆりちゃん。
それから、あっ、というような表情をして、声をひそめてきた。
『内緒の話』と自分で言っていたのを、思い出したらしい。
「……みずうみのちかくで、あゆらおねえちゃんと、
ひめかおねえちゃんが、およめさんのドレスをきてて、
ふたりがゆびわをこうかんして、そのあと、キスするの」
─────────────────────────────────。
私とヒメカは、互いに顔を見合わせた。
ゆりちゃんは、顔を赤くしながら、はにかんで、続ける。
「おねえちゃんたちのまわりに、きれいな、ほかのおねえちゃんたち……
エストおねえちゃんも、いたかな?────がいこくの、おんなのひとたちも
いっぱいいて、みんなで、おねえちゃんたちに、パチパチパチ、ってしてるの。
みんなわらってて、すごく、うれしそうだった。だから、おねえちゃんたちの、
“けっこんしき”の〈ゆめ〉だとおもう」
…………………………………………おおう。
こいつは、とんだネタバレを喰らっちまった……!
「ゆりも、その〈ゆめ〉の“けっこんしき”にいたから、いつか、
その“みらい”のときに、ちゃんと“けっこんしき”によんでね?」
重大すぎるネタバレをかましたゆりちゃんは、えへへ、と
無邪気に笑って、そうせがんでくる。
複雑な気持ちを胸に抱きながらも、私は、ゆりちゃんの頭を撫でて、言った。
「うん、それなら、絶対に、ゆりちゃんを呼ばなきゃね」
「ぜったいだよ? やくそくしてね?」
「うん、約束」
と、私は、右手の小指を、ゆりちゃんに差し出してみせる。
ゆりちゃんは、満面の笑みで、自分の小指を絡めてきて、
ぶんぶん、と、縦に振った。
「────ゆりちゃん、ごほうびのお話をしてくれて、ありがとう。
……でも、その〈夢〉のお話は、他のひとには、絶対に、内緒にしてね?
わたしたち三人だけの、“秘密”にしましょう?」
「! うん! さんにんだけの、“ひみつ”ね!」
そう笑って、ゆりちゃんは、ヒメカとも、指切りをする。
……エストさんと、ご両親を、長く待たせるわけにはいかないので、
それでゆりちゃんとの話は、切り上げることにした。
ゆりちゃんを、ご両親の座る後部座席に戻し、ヒメカと揃って、
ふたりに、礼をする。
そのドアを閉めたあと、車はようやく、出発しはじめた。
「あゆらおねえちゃん、ひめかおねえちゃん、バイバ~イ!!!」
ウインドーを開けて、手を振ってくるゆりちゃんに、笑顔で手を振り返す。
二台の車は、ゆっくりと、遠ざかっていった。
────────そうして、私たちの視界から、
〈聖導庁〉の車が見えなくなってから。
ヒメカが、重々しく、口を開いた。
「……………〈予知夢〉かしら。……それとも───────?」
「どっちだっていいかな?」
私は、即座にそう応えて、ヒメカの手を握る。
もちろん、指を絡めての、恋人繋ぎだ。
「もともと、世界の果てを越えても、ヒメカとの約束を、
守るつもりだったし。これからヒメカと、どんなルートを辿ろうと、
“結婚式”っていう通過点を通るのは、わかりきったことだったから……うん、
未来をちょっとネタバレされても、なにも変わらないよ」
「あゆちゃん……」
ヒメカが、瞳を潤ませて、ぎゅ、と、手を握り返してくる。
そこで、んっん~、と、私は、わざとらしく、咳払いをしてみせた。
「────なので、私たちふたりは、その通過点に至るべく、
建設的な努力をすべきだと、小生は愚考する次第であります」
「………建設的な努力?」
「本日は、日曜日でありまして、現在はまだ、朝で、
いまだホテルの前であります」
そこまで言って、ヒメカにぴったり、身を寄せる。
「よーするに。延期予定だったヒメカのごほうび、今から、くださいな」
私がそう言うや否や、ヒメカは、顔を真っ赤にした。
「も、もぉ……あゆちゃんったら────!」
「ダメ……?」
昨夜と同じ言葉で、同じように、あざとめに上目遣い。
「────────────────ダメじゃない、です」
わずかな黙考のあと、ヒメカは、了承の言葉を口にしてくれた。
ぐへへ、やったぜ。
そして、私たちは、建設的な努力(意味深)をするべく、
ホテルの中へと、Uターン。
最上階の部屋に戻るエレベーターの中で、
ヒメカの掌のぬくもりを感じながら、未来を想った。
………………私たちふたりには、十年の空白がある。
その空白を、わずか二日弱で、一気に埋められたのは、
超常事件があったからではなく、お互いが、お互いを想い続けていられたから。
幸せなことに、その想いは、少し先の未来で、
ひとつの形となって、結実するらしい。
でもそれは、私が〈邪神〉の転生体だからだとか、
あらかじめ〈運命〉で決まっていたとか、そういうのじゃなくて………。
ふたりの女の子が、互いに変わらぬ想いを抱き続けた結果、
“〈運命〉が生まれる”のだと、そう、ロマンティックに、信じていたい。
「ヒメカ」
「なあに、あゆちゃん」
「これからずっと、何度も言うけど」
「うん」
「大好き。愛してる」
「……わたしも、大好きだよ、あゆちゃん。愛してる」
ふたりして、握った手を、さらに強く、握りあった。
そこで、エレベーターの扉が開く。
私たちは、笑い合って、ふたり一緒に、足を踏み出した。
ふたりの想いを、互いに、祝福するために。
──────それは、特別なことだけれど、同時に、
とてもとてもありふれた、当然のこと。
だって、私たちふたりは、希望の未来を夢見る、
普通の女の子なのだから………………。
美少女カップルのイチャ♡イチャ♡伝奇浪漫、これにて一区切りとなります。
いかがだったでしょうか~?
後日、近況報告にアレコレ書くかと思います。ご感想とかいただけたら、嬉しいナ……♡
エヘヘ(^∀^)




