転30 〈邪神〉だけど、「ざまあwww」からの「ひょげぇぇぇ!?」。
【本編では語られない背景設定】〈魔法少女連盟〉と〈聖導庁〉は、昔、仲が悪かったゾ!
「はじめまして、大師父コンスタティン。ご高名は、かねがね。
わたしは、この街を守護する〈魔法少女〉、苑草日明香と申します」
エストさんとおじいちゃんが空を飛んでやってきたのを確認して、
すぐにゆりちゃんを伴い、こちらにやってきたのであろう。
ヒメカが、おじいちゃんに向かい、うやうやしく頭を下げた。
傍らにいるゆりちゃんも、成り行きわからぬ様子ながら、
ヒメカを見習って、ペコリと頭を下げている。
「あっ、ま、〈魔法少女〉見習いの、潮あゆらです!」
慌てて、私も、おじいちゃんに名乗って、お辞儀した。
心の中は、戦々恐々、ホーホケキョ。(やや錯乱中)
……やっべぇ~! 〈総統司教〉って、どういうことだよ、
聞いてないよ!(当たり前)
改めて、おじいちゃんの格好を見ると、宮内と同じような、
白い法衣を着ていた。
ただ、その縁淵は、重厚そうな金糸であしらわれており、
位の高さを物語る、上等そうな服飾に見える。
その姿に、私は、一休宗純和尚の、有名な説話を思い出していた。
その昔、“一休さん”で知られる、一休宗純和尚が、ボロボロの僧服で
葬式に念仏を唱えに行ったら追い返され、立派な僧服で入場し直したら
盛大に歓迎された、っていうお話。
なお、一休宗純和尚は、そこに立派な僧服を投げこんで、
『ソイツに念仏唱えさせれば?』と皮肉ったモヨウ。
────私の気分としましては、今、まさに、一休和尚を追い返して
しまった連中側ジャマイカ?(焦)
あるいは、それとは知らず、面接先の社長にイキイキにイキって
しまった就活生の気分である。
そんなまさかさあ、〈聖導庁〉なんてとこの、スゴい偉いおじいちゃんが、
夜中に郊外の道路をフラフラ彷徨ってるとか、想像もしないでしょ!?
ああ~! 昨日、雑に交番にリリースとか、するんじゃなかった~っ!
「あ~、いいのよ、いいのよ。そういう堅苦しいの、わしゃ、
好かんの。もっと、気楽にしたんさい。わしのことは、
トム爺、って呼んでおくれな」
私の内心の浮き足立ちっぷりを、フォローしてくれるかのごとく、
おじいちゃん……〈総統司教〉は、ざっくばらんな調子で、
笑ってみせる。
いやいや、いくらなんでも“トム爺”呼びはできないだろ。
親戚か!、ってハナシよ。
「それは───畏れ多いことでございます」
私の思ってたことを、ヒメカが、丁寧に代弁してくれた。
「気にしない、気にしない。オフィシャルな場所だったら、
それなりの言葉遣いをしてもらわんと、困るけどもね~。
今は、そういうの、いいから。わしを助けると思って、
気軽に話してちょうだいよ~」
「その……お心遣い、痛み入ります」
ヒメカは、曖昧に笑ってみせて、エストさんに目を向ける。
『ちょっと、どういう流れでこうなってるの、あなた、
ちゃんと説明なさい……!』
という、無言の圧のこもった視線であった。
視線を受けたエストさんは、いたずらっぽい笑みで返してくる。
「大師父は、この通り、公的な場以外では、くだけた話し方を
好まれる。私のような、同じ〈聖導庁〉の人間が、緩い口の利き方を
するわけにはいかないが、君たちのような、孫ほど齢の離れた子供なら、
問題視はされまい。ご近所の、親しいお年寄りに接する気持ちで、
話をしてくれたまえ」
いや、『くれたまえ』、って言われてもさ……。
そう簡単に、
『はい、わかりました! ンじゃ、4946! トム爺!』
なんてノリになれるわけないじゃん!?
ヒメカと目を合わせてみるけれど、ヒメカも、なんと話を
切り出したものか、戸惑っている様子だ。
……しゃーない! ここは、昨日、会話を交わした経験のある、
私が矢面に立とう!
いや、嘘、ウソ~ん☆ 本音は、昨日の夜に、雑に念動運搬して、
交番にほっぽっていったこと、怒ってないか、遠回しに探りいれときたい
だけですしおすし。
それに、そもそも、トム爺ちゃんがこの場に、なんの目的で
やって来ているのか、そこも気になった。
「───じゃあ、あの、おじいちゃん、昨日のことなんだけど……」
さすがにいきなり、“トム爺”呼びする気にはなれなかったので、
エストさんが言ったように、近所のおじいちゃんへ話しかける風で、
昨夜の一件に触れようとする。
「おう、そうそう、昨日の晩は、世話になったねぇ~。そのことについて、
話をするために来たんさね。……その前に、野暮用を済まさんと
いかんのだわ。ちっと、失礼」
ほがらかに、うんうんと、トム爺ちゃんは私にうなずいてみせたあと、
エストさんへ目配せした。
すると、エストさんは、私から地面に叩きつけられ、
のびてしまったままの宮内へ、右手を向ける。
直後、宮内の全身が、あたたかそうな、オレンジ色の光に包まれた。
〈回復〉の魔法のようである。
エストさんは、〈聖導庁〉の〈司教〉だけあって、治癒係としての魔法を、
ちゃんと抑えてるんだな、などとゲーマーな感心をしてしまう私であった。
「………うぅ……く、くそ……こざかしい、〈魔法少女〉の
ガキどもが──────」
どうやら意識が戻り、体のダメージも回復したらしい宮内。
あいもかわらず、私たちを見下し、罵る言葉を吐きながら、
ヨロヨロと立ち上がってくる。
「!────メレー司祭! と、あ、あ、貴方様は!? グ、大師父!?
な、なぜこちらに!?」
宮内は、エストさんの姿を目にし、遅れて、トム爺ちゃんの存在を
認めると、驚愕に、大きく目を見開かせた。
まあ、そうなるわな。(某有名男性声優の抑揚で)
気絶して目を覚ませば、超偉い上司が目の前にいるとか、
ビックリどころのハナシじゃなかろう。
ましてや、幼女を拉致ろうとしている、後ろめたさ満点の所行、
その真っ最中のことだ。
ぎっひっひ、ざまあないぜ!
「あ~、なんていったかね、おまえさん……あ、そうそう、
宮内益士。あんた、現時刻を以て、〈聖導庁〉、破門ね」
トム爺ちゃんは、宮内に向けて、サラッと言い放った。
私に、自分が〈総統司教〉である告げてきた時と
同じように、サラッと。
「……………は?」
「うん? 聞こえなかったんかい? 破門よ、破門。〈聖導庁〉から、
破門する、って言うとるの」
呆然と声をもらす宮内に、やはり、軽い調子で、重要な単語を
繰り返し、言い放つトム爺ちゃん。
破門。
一般的な知識からしてもわかる、宗教関係者にとって、非常に重い、
というか、死を意味するも同然の措置。
「────な、なぜですか!? わ、私ほど、〈神〉の御心に
忠実な使徒も、いないというのに……!?」
うぷぷ、寝言言ってらあ!
どの口がほざいてんのよ、ってカンジである。
いやでもコレ、心底本気で言ってるっぽいのが、
コワいというか、滑稽というか。
行き過ぎた信仰心は、狂気で、凶器になりかねない、ハッキリわかんだね。
「ほ。正気で訊いとるんかい、そりゃ? まあ~、まともな神経じゃ
やらんような犯罪に手を染めとれば、正気を失っとっても、無理はないがね」
呆れたように、トム爺ちゃんは、軽く首を横に振った。
それを見たエストさんが、おもむろに、どこからか、
一本の巻物を取りだしてくる。
サッ、と巻物(西洋風らしく、縦開きだ)を翻して開帳し、
その内容を、音読しはじめた。
「『〈破門状〉────〈聖導庁〉日本支部〈司教〉・宮内益士。彼の者が、
聖遺物の隠匿、並びに此の私的濫用、又、〈司教〉の地位・職権を
濫用し、〈聖導庁〉日本支部の研究施設及び人員を私的に用い、人道を
外れた数々の不法行為を行いたる事、甚だ許し難し。
余、〈聖導庁〉第88代目〈巫女教皇〉
マリグレーテ・マルターニャ・ダルタニアスの名の下に、
彼の者を破門とする』……他に、細かな罪状もしっかりと記されて
いるが、読み上げるまでもないな? 宮内殿」
時代劇のお裁きさながらに、朗々と、〈破門状〉なるものを
読み上げたあと、エストさんは、巻物の書面を、ビシッ!と
宮内へと見せつける。
それを聞き終えた宮内は、言葉にならない呻き声を上げたかと思うと、
膝から地面に崩れ落ちた。
さらに、両手まで地面について、頭を垂れ、“失意体前屈”状態になって、
動かなくなる。
ブwwwフwwwハwww草生えるwwwwww!
ざまあ味噌汁☆沢庵ポリポリ☆卵の黄身はイイ気味だわwwwwww☆
宮内の、凄まじいまでの“ざまあ”され具合に、
お腹を抱えて笑い転げたいところ♪
けどまあ、そういう状況ではないので、夜●月ばりに
『だ……駄目だ……まだ笑うな。こらえるんだ……。し……しかし……』
って我慢しておく私である。
「………エスト。そんなものがあったのなら、最初から、
出しておいてほしかったのだけれど?」
ヒメカが、責め立てるような声で、エストさんをジロリとねめつけた。
トム爺ちゃんの前だというのに、エストさんへの当たりのキツさは、
隠す気がないようである。
糾弾の眼差しを向けられたエストさんは、どこ吹く風といった調子で、
軽く肩をすくめてみせた。
「最初から、と言われても、私も、ないものは提示できないからな。
申し訳ないが、この〈破門状〉が届いたのは、本当に、つい先ほどの
ことだったのだよ。日本支部捜査班の職員たちが、懸命になって
積み重ねた確実な証拠と、確保した物証、それらを密かに〈聖導庁〉本部に
提出し続けてきて、ようやく得た〈破門状〉なのだ。そこを汲んで、
タイミングが、ギリギリセーフとなってしまったのは、容赦してほしい」
う~ん? セーフ? セーフかなあ?
私が〈邪神〉パワーで宮内を凹凹にしたあとの提示だから、
普通に間に合わなかった、ギリギリアウトな気がするけど。
それに、お昼には、『決定的な証拠がない』とか言ってなかったけ、このひと?
いーかげんだなあ~……。
ま、なんにせよ、その〈破門状〉で、宮内の破滅ルート直行が
確定したようだから、私的には、どっちでもいいかな!
「日明香お嬢ちゃん、あまりエストくんを責めんでやっておくれな。
これでも彼女、日々、激務をこなしておるよって。わしの急な来訪の
対応とかも、やってくれておるんでね」
ギスギスの雰囲気をかき消すように、トム爺ちゃんが、
ヒメカをなだめてくる。
「────左様でございますか」
〈総統司教〉であるトム爺ちゃんに
そう言われては、ヒメカも、エストさんへの当たりを
収める他ないようであった。
……でも、その目は、『激務? コレが? 嘘でしょ?』
ってゆ~よーな、疑惑の目である。
うん、私も、エストさんに会ったのは今日が初めてだけど、
ヒメカがそういう気持ちになるのは、同感だ。
だってさー、エストさん、持ち前の美貌と、口手八丁で、
仕事を他人にやらせてるイメージがあるもの。
スケジュール管理に秀でていて、指揮官として有能、
というのはあるのかもだけど。
エストさんが、自分の足でせわしなく動いて、
仕事を消化している姿というのは、想像しにくいんだよなあ……。
私の勝手な感想と、ヒメカの疑惑の目に気づいているのか、いないのか。
エストさんは、涼しい顔で、トム爺ちゃんに、話をうながしてきた。
「大師父、私の評価はありがたいのですが、あゆらくんに、
本題をお話しされませんと」
「あ、そ~そ~。そっちのが、本日の目玉なのよね。わしが、遠くから、
はるばる日本にかっ飛んできた、理由でもあるのよ」
トム爺ちゃんは、なんか、『特急電車でちょっと急いで来た』みたいな
軽いノリで、話を切り出しはじめる。
犯罪者の処分とはいえ、破門という最大級の重罰を下したあととは
思えぬほど、軽快な空気感だ。
あと、昨日も思ったけど、本当に日本語流暢だな!
トム爺ちゃんの喋り方、落語家の師匠クラスっぽい、
抑揚の絶妙さを感じちゃうぜ。
「今しがた、エストくんの読み上げた〈破門状〉に、
“マリグレーテ・マルターニャ・ダルタニアス”ってひとの
お名前が出てきたの、聞いとったろ? そのひとが誰か、ってぇ~とね、
まー、〈聖導庁〉で、いっとう偉い御方なのね。わしより偉くてねぇ~、
時に無茶ぶりしてきたりするから、そこんとこ、ちょっと困ること、
あったりするんだよねぇ~」
最後らへん、ちょっと愚痴っぽくなってない?
そう思ったけれど、まさかそんな細かいツッコミを入れるわけにもいかず、
神妙な顔をして聞いておく私。
しかし、トム爺ちゃんより、偉いひとか。
〈巫女教皇〉────う~ん、一応、〈邪神〉知識により、
知ってはいるけど……。
当然ながら、現代の情報にアップデートされていないので、
〈聖導庁〉で一番偉い、ということ以外は、わからない。
でも、魔法とか異能とかで、戦闘能力が人外的に高いヒトでしょ、絶対。
〈邪神〉の転生体である私には、天敵に当たる立ち位置だし。
よし! 敵に回すような真似は、しないようにして、
私が〈邪神〉の転生体なこと、秘密にしとかなきゃな!
………………って、ああ~っっっ!?!?!?
『────私は、通りすがりの〈邪神〉だよ。ちょっと、
本体に交信しようと思ってたトコに、
おじいちゃんを見つけたんだ』
『〈邪神〉………』
昨日の夜、自分から白状ちゃってるじゃんっっっ!?!?!?
私のバカ────────────!!!!!!!
「そんでねぇ~、今回もまた、その無茶ぶりでのことなんだよねぇ、
これが。普通に夕食を取っとる時に、突然、呼び出されてねぇ~。
『あなた、今すぐ、日本の■■県九頭竜市に行って頂戴』と、
こうきたものね! 本当、寝耳に水よ! そん時ゃ、起きとったがね!」
背に嫌な汗かいて、動揺しまくりの私をよそに、トム爺ちゃんは、
軽妙に話を続けていく。
そして、ニッコリと、こう言ってきた。
「それから続けて、マリグレーテ様は、こうおっしゃったわけ────
『あなたはそこで、〈邪神〉を名乗る、潮あゆらという少女に会うでしょう』
……うん、実際、会えたわなァ、あゆらお嬢ちゃん」
ひょげぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?!?!?!?!?
最初から名前まで完全にバレてたっっっっっ!?!?!?!?!?
“ハイエロファンテス”って単語はどの言語にも存在しないです。
……でも“ハイエロファント”って響きがカッコイイんで、その女性版、
ほしかったんだ……(^∀^;)




