転3 〈邪神〉だけど、マドンナと下校。
運命がマッハ開始です(゜∀゜)
─────苑草日明香という少女について、私が知っているいくつかのこと。
西洋人にしか見えない、白金髪に翡翠色の瞳という容姿だが、国籍は日本。
海外で育っていたが、高校一年の六月という、微妙な時期に日本へ帰国し、瑠々江学園に転入してきた帰国子女。
容姿端麗、成績は優秀、運動神経も抜群。
清楚な佇まいに、上品な物腰で、性格もまた、清廉潔白。
彼女は、瞬く間に、トップカーストどころか、学園一の美少女と目されるようになった。
『女性の敵は、女性』とは、よく聞く定型句だけれど、苑草さんは、同性からの妬み
嫉みからは無縁みたい。
相手が美少女すぎて、格上過ぎると、負の感情より、憧れが先に立ってしまうのだろう。
根拠は私。
異性はおろか、同性にまで神聖視されるようになっているのは、つい先刻、私がいじめを受けそうになったことからも、確定的に明らか。
私が知らないだけで、学園内外で、すでに親衛隊とか、ファンクラブができてても、おかしくないな。
彼女の周囲に集まる人々もまた、トップカーストの少女らである。
二年に進級して、その友達らとは全員、別々のクラスになったようだ。
そのへんが、隣の席である、陰キャぼっちの私に話しかけてくれている要因かも。
恋人とかは、いないモヨウ。
あまりにも高嶺の花すぎて、男どもは尻込みしてしまっているとか、なんとか。
加えて、『恋人とか、今は考えるつもりはないかな』という発言が、本人の口からあったらしい。
清純派アイドルまっしぐら……!
おお、完璧! 完璧ヒロイン……!
姫かな? 姫かも? 姫か!
私が常日頃、心の中でそう叫んでいるのも、無理なからぬことと思いたい。
…………それにしても苑草さん、マジ天使だわ。
苑草さんと並んで歩きながら、本日何度目かわからない同じフレーズを、思い浮かべてしまう。
まず、優しい。
どうも、歩調を、私に合わせてくれてるっぽい。
気遣いが、イケメン彼氏のようである。
ということは、私がカノジョかな? ふひっ!
などと、私が気持ちの悪いことを考えている間も、苑草さんとの会話は続いている。
「瑠々江って、校舎は新しくて綺麗だけど、丘の上にあるのがちょっと嫌だよね……」
「そ、そうだね。駅からもちょっと歩くし……。帰宅部の私には、適度な運動、って感じでいいかもだけど」
「わたしも同じこと考えてた」
そう言って、ふふっ、と笑う苑草さん。
これ! これである。
共通話題がなさげな陰キャを配慮した、会話運び。
ああ~それが自然で、さりげない気配りが感じられて、心がぴょんぴょんするんじゃ~……!
そして───私は、苑草さんの全体像を、チラリチラリと、盗み見るようにして、目に焼き付けていた。
やっぱり、美人さんなのである。
当たり前だが、苑草さんは、私と同じ、濃緑色を基調にした瑠々江学園の制服であるブレザーに、スカート姿だ。
瑠々江の通学用鞄はわりとフリーダムで、学生の所持品としての品格から逸脱しなければ、どんな形の物を選んでもよいことになっている。
私も苑草さんも、背中に背負えるタイプの鞄であった。
同じ制服姿で、同じ背負うタイプの鞄。
けれど、明らかに着こなし感が違う。
歩き方からして、なんか違うもんな。
なんだろう? なにが違うんだ?
顔の造形はともかくとして、やっぱり身長かな?
小柄系女子である私の身長は、148センチくらい。
対する苑草さんは……170センチはあるんじゃなかろうか。
高身長である苑草さんは、体のスタイルもいい。
西洋人の血が成せる体型か、制服の上からでもわかる胸の膨らみは、巨峰と称して一向にかまわぬ大きさだ。
そして当然、お尻のほうも同様で、これはもはや、グラビアアイドル顔負けであろう。
私の胸とお尻は、身長からすると、なかなかの合格で“ある”つもりだけれど。
(※個人の感想です)
苑草さんと比べると、その差が歴然すぎて、生きてるのが辛い。
白金髪の、長い髪の艶感とかも、私のボサ黒髪とは、月とスッポン(死語)だ。
これで私と同じ年齢とか、ホントに人間か?
〈邪神〉の転生体である私が言うのもなんだけど。
ってゆーか、〈邪神〉クトゥルフ本体も、転生させるなら、めっちゃ美少女にしてくれればよかったのに……!
せめて、苑草さんの隣を歩いていても、恥ずかしくないようなさあ─────。
それならば、ちょっと仲よさげに話をしたくらいで、いじめの標的にされることもなかったろうに。
現実は残酷だね、仕方ないね。(泣)
「そういえば、潮さんは、どうして瑠々江を選んだの?」
「……どうして、って言われると、まあ、その、ちょっと他の人には、言いにくい理由なんだけど────」
「あっ……ごめんなさい、なにか、家庭の事情とかだったら……」
「いやいや、全然そんなんじゃなくて!……えっとね、少し、っていうか、かなり馬鹿っぽい話で……」
言うか言うまいか、数秒悩む。
理由がオタク度120%なものだけに、一般人ドン引き判定やいかに……!?
────まあ、いっか。
苑草さんに嘘ついて、ごまかすような真似はしたくないし。
ドン引きされたり、馬鹿にされちゃっても、まあ、それはそれで。
天使な苑草さんなら、軽く笑ってくれるものと信じて……!
「その、ね。好きなゲームの、主人公たちが通う学校の制服に、超似てたから……」
イタタタタ……! 中二病全開……!
正直に言ってみると、思いのほか恥ずかしすぎて、心が痛い、衛生兵! 衛生兵~っ!
「そうなんだ? よっぽど好きなゲームなんだね」
苑草さんの反応は、ニッコリと、変わらぬ天使の微笑だった。
────エエ娘や……。(ホッコリ)
もう、その笑顔は、純粋にそう思ってくれているかのよう。
もしこれが作り笑いだったなら、私、人間不信に陥っちゃうね。
「う、うん、中学の時に、夢中になったゲームでね。登場人物みんな魅力的だったから、そのキャラクターたちと、同じ学校に行きたい、って思ったくらい、好きだったんだ」
ううっ、『それ以上いけない』と、理性がストップをかけつつも、早口を止められない……!
鎮まれ、私のオタク魂────!
「あ、こ、子供っぽいよね。自分で言っててなんだけど、恥ずかしくなってきちゃった」
えへへ、と、私は照れ笑いやら苦笑いやらを浮かべてしまう。
「ううん、全然そんなことないよ。なんだったら、わたしのほうが、子供みたいな理由で瑠々江を選んでるもの」
「え……苑草さんが……?」
「うん」
と、また苑草さんはニッコリと笑う。
「わたしね、占いで、瑠々江に転入する、って決めたんだ」
「えっ、占いで……!?」
「そう!」
こりゃまた、意外な新事実……!
美少女、かつ、才女である苑草さんが、占いっていう、フワッとしたもので学校を決めていたとは───!
乙女か!
いや、乙女だった! 〈聖乙女〉と言ってもいいね!
私が脳内で苑草さん崇拝度をアゲアゲしているのをよそに、苑草さんは話を続ける。
「わたし、生まれは日本、この都市だけど、小さい時から、チェコのプラハに住んでたの」
そう、そういう話を、私は、教室にいて聞こえてくる、人の噂話で耳にして、知っていた。
チェコの、プラハ。
普通の日本人には、ピンとこない国と地名だ。
けれど、〈邪神〉クトゥルフが持つ知識が、私に囁いてくる。
それによると、プラハの裏の顔は、魔法に根ざした種族───〈魔女〉がひしめく〈魔女の都〉だとか、なんとか。
……〈邪神〉としての記憶はマルッと忘れているけれど、そういう知識は、何故か自然と浮かび上がってきてしまうようだ。
とはいえ、今は、そんな知識は必要ない。
「あ、きょ、去年の六月に、日本に帰ってきたんだよね」
「うん。それでね、いろいろこのあたりの学校のことを調べたんだけど……転入する学校を、ひとつに絞りきれなくって」
「───それで、占いで決めちゃったんだ」
「どこも条件的に同じなら、運を天に任せよう、って。……ね? 子供っぽいでしょ?」
ふふふっ、と、苑草さんは、いたずらっぽく笑った。
う~ん、それは私のと違って、子供っぽいのとはちょっと違う気がする。
笑顔の苑草さんがかわいいので、もうそれでよし!っていう体で、イエスマンをやってしまいたい。
でもそれは不誠実な気がしたので、素直な感想を述べておくことにした。
「子供っぽい、っていうか、なんだろう、乙女だな、って思った」
私がそう言うと、苑草さんは、ちょっと顔を赤くした。
それから、照れたように笑う。
「だって、乙女だもの」
「……あっ!? やっ、ヘンな意味で言ったんじゃなくて……!」
「うん、わかってる」
ふぎょー!? やっべ、意図せず(意味深)な下ネタをフっちゃった!?
今度はこっちが顔を赤くする番だった。
「あ、その、それと、意外だな、って思っちゃった。苑草さん、占いとかするんだ、って。しゅ、趣味なの?」
ごまかすように、アタフタと話題を広げる私。
「趣味、っていうか、生活の一部かな?」
「生活の……そんなにいつも、占いやってるんだ?」
「う~ん、必要と感じた時にやってるけど……普通の人からすれば、頻繁にしてるかも?」
「……なんか、平安時代の、貴族様みたいだね」
苑草さんは、外見も物腰も、ノーブルな姫っぽいしな。
生活様式までイメージぴったりかよ、最高!
「さすがに、日ごとの吉兆禍福までは占わないよ」
そう返して、くすくすと苑草さんは笑う。
〈日ごとの吉兆禍福〉というフレーズを、さくっと出せてしまう教養の高さよ……!
平安時代の貴族が占い云々《うんぬん》の知識を、エロ描写の濃い、
漫画版『源氏物語』で得た私とは、モノが違うぜ。
「あっ、でも、占いで転入先の学校決めたこと、他のひとには内緒にしてね。しょっちゅう占いやってることも。───ふたりだけの、秘密だよ?」
「え……う、うん。誰にも言わないよ」
ふたりだけの秘密、という言葉にドキリとする。
なんだかそれって、恋人とか、親友みたいじゃない?
「約束ね? はい、指切り」
と、苑草さんは微笑んで、右手の小指を差し出してきた。
えっ、いいの? 触れていいの? 絡めていいの?
穢してしまわないかしら、当方、〈邪神〉だけに。
一瞬、そう躊躇してしまったけれど、まさかここで、NOとは言えない。
ってゆーか、むしろごっつぁんです。
できうることなら、体ごと、絡めたい気持ち。
「う、うん、約束……」
そんなセクハラ親父みたいな思考などおくびもださず、私はうなずいて、苑草さんの小指に、自分のそれを絡めた。
指切りげんまんの歌を歌うのかな?、とドキドキする。
すると、苑草さんは、きゅっ、とわずかに強く小指に力をこめて、祈るように、囁くように、言った。
「────世界の果てを越えても、この約束を、守ってね」
あっ────────────。
………………今度こそ、思い出の扉が、開いた。
─────木々の中、小さな私と向き合う、金色の髪の女の子。
互いに小指を絡めたあと、彼女が願いを口にする。
『せかいのはてをこえても、このやくそくを、まもってね』
『……? せかいのはてをこえて? どういういみ?』
『もし、しんじゃったとしても。それでうまれかわって、べつのにんげんになったとしても、っていう、いみだよ』
『……! うん! わかった! せかいのはてをこえても、わたし、ぜったいにやくそくをまもる……!』
同じ指切り。
同じ言葉。
小さな頃の、不思議な記憶。
夢のような、おとぎ話のような、大切な思い出。
なにもかもが、幼すぎた〈約束〉。
………私がこうやって、苑草さんと〈約束〉するのは、二度目のこと────かもしれない。
私はうなずくことも、声を出すこともできずに、彼女の瞳を、ただ、見つめる。
あの時と同じ、翡翠色の瞳。
その瞳に宿る感情がなんなのか、私には読み取れない。
彼女は、覚えているのか、いないのか。
それとも、ただの偶然の一致で、言葉が重なってしまっただけなのか─────。
私が何も言えずにいると、苑草さんは、小指を放した。
「あっ、そうだ。潮さんの電話番号とか、まだ、聞いてなかったね。教えてくれる?」
苑草さんは何事もなかったかのように、微笑みながら、携帯端末を取り出す。
「え、あ、う、うん」
慌ててこちらも、自身の携帯端末を引っ張り出した。
それから、互いの連絡先などを、交換し合う。
……苑草さんの連絡先をゲットできたのは、喜ばしいことなのだけれど。
心の中は、ドギマギして、それどころじゃないのだった。
─────やっぱり、私は、苑草さんが、好き。
LIKEじゃなくて、LOVEのほう。
ええ、そうですとも、恋愛的な意味で、大好きなのです。
瑠々江に転入してきた彼女を初めて見た時、あの子だ、と思った。
でも、ひょっとしたら、違うのかも。
あの子であってほしい。
あの子でなくてもいい。
苑草さんを見た時から、そんな矛盾した、抑えきれない衝動が、私の心の中にある。
私の、初恋のひと。
ずっとずっと好きだった、金色の髪をした、女の子。
〈ヒメカ〉
………苑草さんは、私が、一世一代の求婚をした、
女の子かもしれないのだ─────────。
評価ポイントありがとうございます♪すごい嬉しいです(≧∀≦)




