転28 〈邪神〉だけど、絶対に許さない!
明かされた思わぬ真実に、あゆらちゃんは……!?
〈夢〉を、現実にする〈力〉………!?
予想外の発言に、面喰らってしまう。
宮内司教の顔は、怒りで赤くなったまま、不快そうな表情だった。
だからこそ、というのは変だが、嘘や冗談を言っている気配は、
まるでない。
……ないのだけれど、にわかには信じがたい話である。
そう思ったところで、ホテルにて、ヒメカとメールでやりとりした話が、
脳裏をよぎった。
『“シュレディンガーの猫”のたとえで言えば────』
“シュレディンガーの猫”
『世の事象は、観測されることで確定する』
────いや、それは、ただの思考実験、形而上学的なお話だ。
でも、もし、世界の事象要素を、明確な立像と魔力を以て、
〈夢〉を視ることにより、指向性を持たせることができたなら……?
起こり得る可能性のひとつを、拡大攪拌することが
できたなら……?
ありえない〈魔法〉ではない、のか。
もちろん、〈邪神〉観点からしても、そんな〈力〉、人間が持つ
異能としては、破格すぎるなんてものじゃない。
それが本当だとしたら、それはもう、
〈神〉の領分に在る〈力〉ではないか。
しかし、私という、〈邪神〉の分霊転生体が、この世界に
実存している限り、その認識も揺らいでしまう。
………〈神〉の領分に在る〈力〉だが、〈神〉が地上に
在るのだから、存在しても不思議ではなかろう、と。
まあ、だからといって─────。
「で? それ、なんか関係あります? なんにしろ、そちらさんが、
やっぱゆりちゃんの〈力〉を利用してる、ってハナシだとしか、
理解できないんですけど」
────だからといって、宮内司教の言い分を、
肯定してやる気にはならない。
ゆりちゃんの〈力〉、宮内司教の〈救世主〉自称、〈旧神の印章〉。
三つのピースが揃ったことで、私はもう、事の全貌を、
うっすらと把握できてしまっている。
けれど、あえてすっとぼけつつ、再三に渡って言ってきた
究極的なところ、宮内司教の行動本質を、改めてあげつらったのだった。
痛いところを突かれただろうに、宮内司教は、なおも、
食いさがるように口を開いてくる。
「……察しが悪いな。その子供の〈力〉ならば、真の世界平和を、
人類は手にすることができる────それが、理解できないのかね?」
「いやだからソレ、結局、
『ゆりちゃんの〈力〉を利用しないと自分じゃ何もできません』って、
言ってるのと同じことでしょ? 理解できてないの?」
嘲るように言ってくる宮内司教へ、被せ気味に、
意趣返しな指摘を叩きつけた。
そのことを自覚していたのか、していなかったのか、宮内司教は
言葉を詰まらせ、不機嫌そうに顔を歪ませる。
「幼女の〈力〉を借りて、聖遺物の〈力〉を借りて、
世界に平和をもたらす、ってさあ……それで、〈救世主〉気取りしてんの?
それさあ、聞いてる感じだと〈救世主〉名乗っていいの、
ゆりちゃんだと思うんだけど。手柄を横取りしてる、ってこと?
なんだろう、嘘つくの、やめてもらっていいですか?」
もはや、煽りとか、時間稼ぎとか関係なく、ナチュラルに、私は、
宮内司教が口にしてきた発言の瑕疵を追求していた。
「──────その子供ひとりだけでは、せっかくの〈力〉を、
有効に使いこなすことはできない。誰かが、正しく導いてやらなくては
ならないのだ。世界を救う、その正義のために……その役目を
負う者こそ、〈救世主〉と呼ばれるにふさわしい。違うかな?」
しかし、宮内司教は、私の言葉を無視して、強引・マイウェイ。
自分が〈救世主〉であることを、一歩も譲らない気配である。
アホかな? いっそ天晴れではあるけれど。(褒めてない)
「そもそも、大前提のハナシ、言わせてもらっていい?
〈救世主〉って、自分で名乗る称号じゃないよね。
誰かから、その行いを称えられて、呼ばれる称号でしょ。
もう、スタート地点から、完全に間違ってるよ。アンタ」
「っ……黙れっ! 黙れ黙れ黙れっ……! なにもわかっておらん
餓鬼が……っ! 私は何も間違っていないっ! 私だけだ……!
私だけが、その子供の〈力〉を正しく使えるのだ……っっっ!!!」
私から、根本的で、致命的な部分を指摘された宮内司教は、
途端に、激昂してきた。
イイ大人が、駄々をこねるような勢いで、わめき散らしてくる。
ははっ、ワロス!
う~ん、正論を、火の玉ストレートで、叩きこんじゃったかな?
私が心の中で草を生え散らかしてる間にも、宮内司教は、怒鳴り続けてきた。
「私がその子供を導けば、世界から紛争も! 飢餓も! 差別も!
人類が引き起こすどんな問題をも、消し去ることができるっ!
完全なる平和が、この世界に訪れるのだ……っっっ!!!
それが理解できんのかっ、この、低脳どもがぁっっっ!!!」
アカンわ、コイツ。(呆れ)
宮内司教──もう、宮内でいいか……は、怒鳴り終わったあと、
妄念に満ちた目で、こちらを睨んできている。
なんてゆーか、普通にウザい。
「応よっ! これっぽっちも、理解できんねっ!!!」
吐き捨てるように叫んで、私は宙に浮き、宮内を睨みつけながら、
ヒメカと、ゆりちゃんのそばへと、空中移動した。
地面に降りたあと、片膝を付いて、
ゆりちゃんの両肩に手を置き、その目を見る。
「ゆりちゃん。お姉ちゃんが絶対に守るから、正直に言って?
……あのおじさんに、ゆりちゃんの〈力〉を、貸したいと思ってる?」
「………おもってない」
「そっか。じゃあ、ゆりちゃんは、これから、どうしたい?」
私が端的に問うと、ゆりちゃんは、くしゃりと、その顔を泣き崩した。
「────ゆり、ゆりは、パパとママにあいたい!!!
それで、もとの、ふつうにもどりたい!!!
パパとママと、ずっといっしょにいたいよっっっ!!!」
泣き叫んで、自分の望みを口にしたゆりちゃんを、抱きしめる。
それは、ゆりちゃんが、ずっと我慢していたであろう、
幼子にとって当然で、大切な願い。
私は、宮内の姿を見せないよう、ゆりちゃんをそのまま
抱きかかえて、立ち上がった。
それからまた、宮内を、殺すつもりで睨みつける。
「だとさ。この子は、普通の女の子なんだ。必要なのは家族であって、
てめえみてえな似非救世主は、お呼びじゃねえの。消えていただけます?」
「っ……馬鹿な───! その子は、まだ幼いから、まだ物事を
完全に理解できていないのだっ! 自分の〈力〉が、どれほど偉大で、
どれほどの人間を幸福にできるのか、世界を平和に導けることが
できる真実を、わかっていないのだっっっ!!!」
宮内は、私に睨みつけられ、わずかに怯んだ様子だったが、
なおも激情に顔を醜く歪ませて、そう叫んできた。
「貴様ら〈魔法少女〉なら、もうわかっているはずだろうっ!
その子供の〈力〉、〈夢〉を現実にする〈力〉ならば、人間同士の争いも
根絶できるし、地上を埋めつくす理不尽な悲劇も、なくすことができると!
それでも、私の邪魔をすると言うのかっ!? 完全なる世界平和の到来を、
フイにすると言うのかっっっ!?」
まるで技巧派舞台役者のように、全身を使い、激情を振るわせ、
わめき散らしてくる宮内。
「ああ! 邪魔するね! そんなもん、おととい来やがれ、ってハナシよ!」
私は、即答していた。
────宮内が、言っているのは、ゆりちゃんの〈力〉、〈夢〉へ介入し、
現実を、望むがままに操る、ということだ。
馬鹿馬鹿しい。
そんなもん、まんま物語の黒幕ムーヴじゃねえか。
……ゆりちゃんに、『明日、世界から紛争がすべてなくなっている』なんて、
ふわっとした未来像で、〈夢〉の〈力〉を実現させることはできないだろう。
ゆりちゃん自身に、世界そのものを“書き換える”ほどの魔力は、
備わっていないからだ。
だが、〈精神操作〉の魔法で、〈夢〉に視る事象を、明確な未来像で絞り、
現実にする〈力〉を〈旧神の印章〉によって、増幅したなら─────?
たとえば、外国の飛行機……米国からテロ支援国家指定されている国の、
軍部の要人たちが乗った飛行機が、墜落する〈夢〉を、
現実のものとすることなど、容易なことだろう。
そう────世界中の、紛争や侵略行為を行う指導者たちを、
“不慮の事故”などで、簡単に排除していけるのだ。
その方法ならば、宗教間の対立や、民族間の対立、領土問題による対立
……世界を悩ませる、ありとあらゆる問題をも、“排除”可能かもしれない。
完全な世界平和が、実現するかもしれない。
でも、要らんわ、そんな世界平和。
幼い女の子を、〈機械仕掛けの神〉ならぬ〈神なる機械〉に
磔て、もたらされる平和?
粉飾決算にも、ほどがある。
人類の歴史を、舐めてんのか。
ああ、きっと、人類の歩みは、おぞましい欲望と、
おびただしい屍を積み重ねて、進んでいる。
あっちゃならない、理不尽な生殺与奪、無慈悲な苦役と死を、繰り返しながら。
──────────けれど同時に、あたたかな希望と、
ありふれた生を尊びながら、励んでいる。
人類の歴史は、命とか、願いとか、
祈りとか、意志とか、信念とか。
苦痛とか、憎悪とか、悲嘆とか………醜いもの、美しいもの、
全部ひっくるめての、大いなる結晶。
宮内のやろうとしてることは、それに泥を投げつけるようなものだ。
人類の尊さを、侮辱し、貶める行為だ。
仮に、ゆりちゃんの〈力〉で、現実を歪め続けたら……?
世界は、おそらく、平和になるだろう。
しかし、人類は、救われない。
おのれらの〈力〉で、成しえなかった平和など、破綻するのが、目に見えている。
それでも、都度都度、ゆりちゃんの〈力〉で、
世界を修正し続けたなら────。
これは〈邪神〉知識からの結論だけれど、
ゆりちゃんのほうに、先に限界が来る。
いかに奇跡の〈力〉だろうと、〈夢〉は人間の精神に依るもの。
〈旧神の印章〉が強いる過負荷は、幼子の精神を、
数年と保たすことなく、崩壊させるのは、間違いなかった。
………宮内のような屑ならば、それを承知で、ゆりちゃんの
〈力〉を使おうとしているのだろう。
子供ひとりの命で、世界に完全な平和が訪れるのなら、犠牲もやむなし、と。
馬鹿言ってんじゃねえや!
小さい女の子ひとり、使い潰さないと平和を創れないような世界なら、
さっさと滅んでしまえっっっ!!!
いいや。
もしも世界が、そんな無慈悲を肯定するのなら。
〈邪神〉たるこの私が、速やかに、地上の人類ことごとくを
滅ぼし去ってやる……!!!
「“さっさと失せろ、このペテン師っ!!!
世界を救いたけりゃ、手前でやれっっっ!!!
二度とこの子に近づくなっっっ!!!”」
……?
あれ、今、なんか自分の声が、自分のじゃなかったような────?
まあいいか、気のせいだろう。
私の一喝を受けて、宮内は怒りと屈辱からか、全身をプルプルと
震わせて、こちらを睨んできていた。
なんか、親の仇でも見てるみたいな、憤怒の目である。
昨日まで───〈邪神〉覚醒以前の私なら、その視線だけで、
気絶しちゃってたかもしれない。
けど、もう~全っ然、怖くないです、ハイ。
思想も行動も、マジでテンプレ小悪党なんだもん。
当方、〈邪神〉よ? 格の違いぐらい、わきまえていただけます?
っと、いけない、勝手に、ひとりで盛り上がってしまっていた。
「……ごめん、ヒメカ。私だけで、話に決着つけちゃった」
〈魔法少女連盟〉とやらに属してるらしい、〈魔法少女〉のヒメカ的には、
私の選択はどうだったのだろう。
────願わくば、公共の天秤に計りを掛けることなく、
私と同じ気持ちでいてほしいけれど……。
「ううん、あゆちゃんなら、きっとそう言ってくれると思った────
ゆりちゃんを、守ろう」
ゆりちゃんを抱きかかえる私の肩にそっと手を置いて、
私の選択を肯定してくれるヒメカ。
……………っっっは~~~~~~~~~~~~~~~~~好きっっっ!!!
ヒメカへの好きが過ぎて、情熱は火を噴いて、もぅ~~~~~どうにも
とまんないんだがっっっ!?!?!?
ヒメカの背中押しもあれば、こっちはもう、百人力、千人力の
お茶の子さいさい最強ノンストップ☆モードよっっっ!!!
でも、表面上は、ヒメカからの強い信頼に、ちょっぴり浮かれ気味なのを
おくびにも出さないんだぜ。
「ありがとう、ヒメカ……ゆりちゃんと一緒に、私の後ろに、
下がっててくれる? すぐに、カタを付けるから」
と、シリアス顔で、私は、抱きかかえているゆりちゃんを、ヒメカに預ける。
「それは───うん、わかった」
さっき私が放った、本気念動ビームが完全に防がれていたからか、
ヒメカは、一瞬、異論を唱えようとしたようだった。
けれど、私の目を見て、何も言わずに、後ろに下がってくれる。
うっふ、恋人同士だからこそ通じてる、以心伝心ってヤツ?
愛を止めないぜ! 走り続けるぜ!
ACTIVE♡HEART!!!(ヒメカ愛・暴走中)
「……ふんっ! 我が〈神〉の護りを破れなかったくせに、
粋がったことをほざくものだ……!」
私の言葉がまたまた気に障ったのか、頬をピクつかせながら、
宮内がそう嘲笑してくる。
はーい、イキイキにイキってま~す♪
だってさあ─────大好きな娘の前だと、カッコつけたくなるじゃん?
「はあ~? 借り物の〈力〉で武張ってらっしゃるくせに、
他人が粋がってるとかほざくの、どこのどなたさまなんですかねえ~?
それに、聞いてなかったのかなあ~? さっきは、手加減してやってたって。
あ、そっか~、それがわかる実力が、全然ないんだったね♪ メンゴメンゴ♪」
おっとっと、つい、メスガキ煽りをやっちゃうな。
「ふざけおって……! 私に勝てると思っているのか! それとも、
逃げる算段でも思いついたか────わかっておらんようだな……
〈救世主〉たる私から、逃げられると思うなよっ!」
宮内は、怒りに満ちた声でそう吠えると、〈旧神の印章〉を、
改めてこちらに向かって突き出してきた。
は? やっぱ、護符だよりなんじゃん。
やれやれだぜ、これだから、三下雑魚は、芸がない。
〈聖●士〉に同じ技は通用しないし、
タネも仕掛けも割れた手品に、価値はない。
わかってないよな……ホント。
───────────逃げられないのは、おまえのほう。
〈邪神〉の恐ろしさ、思い知らせてくれる………!!!
クトゥルフさん「せやな~大魔王からは逃げられんし、その上のワイから逃げられるワケないわな~」(・∀・)
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