転26 〈邪神〉だけど、首謀者を煽っていくスタイル。
~前回までのあらすじ~あゆらちゃんがチートで調子こいてたらガツンとやられたっぽい。
「あゆちゃん!? 大丈夫なの!?」
私の身を案じたヒメカが、私の両肩を掴み、必死そうな声で、
正面から顔を覗きこんできた。
〈水〉ドラゴン頭部に受けた衝撃で声を上げたあと、
〈水〉ドラゴンが一撃で吹っ飛ばされた事実を認識するのに、
数秒、呆然となったように見えてしまったせいだろう。
「うん、ごめん、私は大丈夫……だけど、私が作った〈水〉のドラゴン、
壊されちゃったみたい」
「───さっきのは、その音と光だったのね。確かに一瞬、強い魔力を感じたし」
積まれたコンテナで視界を阻まれているせいもあって、ヒメカたちには
〈水〉ドラゴンの末路は、はっきりと見えなかったようだ。
が、〈水〉ドラゴンが攻撃を受けた時の炸裂音となにかの閃光は、
やはり認識していたらしい。
「きょうりゅうさん、しんじゃったの?」
ゆりちゃんが、悲しげに私を見上げてきた。
なにやら、〈水〉ドラゴンの消滅を、自分のせいだと
思ってるように見える。
「大丈夫。あのドラゴンさんは、不死身だからね。何度でも甦るさ」
どこかで聞いたような台詞で笑ってみせ、私は、
ゆりちゃんの頭を撫でるのだった。
そうしながら、ヒメカに、目を向ける。
「ヒメカ、それで、疑問なんだけど。〈水〉ドラゴンを壊したの、
誰かな、って思って。順当に考えれば、今回の首謀者の、
宮内司教なんだろうけど……あの宮内司教って、どれくらい強いの?
〈司教〉っていうからには、魔力とかも相当高くないと、
名乗れないんでしょ?」
魔力を感知できない私の、外見と言動から感じられた、
宮内司教の印象は、“RPG序盤の雑魚ボス”ってトコロだった。
〈水〉ドラゴンを消滅せしめたのが、宮内司教だとは、
個人的には考えられない。
ヒメカの評価は、どんなものであろうか。
「わたしも、今日、初めて会ったから、どういう実力者なのか、
なんとも言えないけど───強いかどうかで言えば、わたしたちの
脅威になるほどとは、感じなかったかな。むしろ、エストと同格の
〈司教〉とは、思えなかったくらい」
『なんとも言えないけど』、って言いながら、地味に
コキおろしてませんか、ヒメカさん。
さておき、ヒメカも、宮内司教が、高い魔力を持つ存在とは
認識していない、と。
ヒメカの口ぶりだと、エストさんのほうは、〈司教〉の
肩書きにふさわしい強さを持っている、ということになる。
ホテルで見た、ヒメカの、エストさんに対する当たり方は
辛辣なものだったが、エストさんの実力自体は、高く評価しているようだ。
エストさんの実力について興味はあるけれど、今は、
その詳細を訊いてる状況ではない。
「それじゃ、宮内司教に従ってる部下が、高い魔力持ちで、
ここに出張ってきてる、ってとこかな」
「そうかもしれない。あるいは、お金で雇った、フリーの魔導師とかかも」
……“フリーの魔導師”、そういうのもいるのか!
中二病患者としては、心躍る響きの存在だけれども、
脅威になる敵となれば、厄介な敵でしかない。
チートな〈邪神〉パワーを持つ私が、そこいらの有象無象に、
簡単に負けるとは思っていなかった。
が、〈水〉ドラゴンの頭部を、一撃で破壊するほどの何者かが
いるとなれば、話は違ってくる。
つまり、敵を全員、戦闘不能させてから、次の行動に移る、
という作戦方針も、再考しなければならない、というわけだ。
「なんにしろ、ヤバめな敵がいるのは間違いないから、方針変更して、
ここから撤退したほうがいいよね。……エストさんとは、連絡、取れる?」
「………駄目ね。携帯、圏外になってる。たぶん、〈結界〉を張ったうえで、
電波妨害もしてるんだわ」
すぐさま携帯端末を操作しだしたヒメカは、そう言って首を横に振った。
そうなると、エストさんの、早急な援軍は、望めない。
色魔っぽいが、仕事は有能なエストさんでも、こちらの連絡が
ない異変に気づくのは、随分先のことになるだろう。
となれば、自力で、〈結界〉を張られた港から脱出するしかない。
─────もしくは、正体不確定の難敵を、私たちだけで倒すしか。
私とヒメカだけの話なら、どんな相手だろうと、戦って負ける気はしない。
けれど、ゆりちゃんを守りながら、となると、進んで難敵と戦うという
選択肢を選ぶのは、ためらわれた。
「また〈不可視〉の魔法を使って、全速力で空飛んで逃げたら、
逃げ切れるかな?」
「……あゆちゃんの魔法人像を破壊できるほどの実力が
あるなら、魔力感知で追跡されるだろうし、〈不可視〉の魔法も
効かない可能性、大きいと思う」
安全策を取って、さっさとトンズラしたかったけど、やっぱ、
そううまくはいかないか………。
それじゃ、私が〈水幻影身〉をいっぱい作って、一斉に陽動攻撃を
始めて、その隙に、ヒメカには、ゆりちゃんを連れて先に
逃げてもらおうかな?
私が足止めすれば、ヒメカたちは、逃げおおせることが
できるかもしれない。
それに、私だけが戦う形になれば、後顧の憂いなく、
〈邪神〉パワーを、全力で振るえる。
ゆりちゃんの安全が確保できたなら、敵との真っ向勝負ができますとも。
万が一、敵が無理ゲーなくらい強くても、私には超回復能力があるし、
死にはしないだろう。
うん、この作戦が、ベターだな。
「ヒメカ、あのね…」
私が、次のプランを切り出そうとした、その時だった。
「っ…!? あゆちゃんっ!!! わたしの後ろにっっっ!!!」
ヒメカが、弾かれたように叫んで、ゆりちゃんを後ろにかばう。
その手には、呼び出した宝玉付きの杖が握られており、
積み上げられたコンテナのほうへと、突き出されていた。
魔力を感知できない私だが、その時点でやっと、こちらに
向かってくる、大きな〈力〉の弾道感に気づく。(0.001秒)
“巨大”と言っていい規模の〈力〉が、私たちの眼前にある
コンテナにぶつかり、破壊しながら、私たちめがけて、
迫ってきていた。(0.037秒)
ヒメカの後ろに下がって、隠れる?(0.085秒)
NO! 嫁を盾にして逃げに入るとか、
ありえないですしおすし!(0.123秒)
私は、即座にヒメカの横に並び立って、〈邪神〉パワー全開、
念動力で障壁を張った。(0.5秒)
ヒメカも、魔法で障壁を展開したようで、
私の念動障壁と併せて、強固な防御結界が形成される。(1秒)
そこへ、コンテナ群を破壊し、突き抜けてきたエネルギー光の奔流が、
着弾した。
激しい炸裂音と、超常的な〈力〉と〈力〉の衝突で生じる閃光、
そして、衝撃。
それらが、夜闇を引き裂くように明るく照らし、空間を震わせた。
障壁ごしに、その凄まじい破壊力が、伝わってくる。
私の〈水〉ドラゴンの頭部を消滅させたのは、同じ、
この魔法攻撃だと、容易に察せられた。
いや、魔法攻撃、っていうか、ビームだよコレもう!
SF映画とかで、宇宙戦艦がエネルギー溜めたあと、
一気に放出するヤーツ!
しかし残念! 私とヒメカの、愛の共同作業障壁は
破れない!
〈水〉ドラゴンは消し飛ばせても、私たちの愛は、消せない、
ってわけだ。(照)
冗談はさておき、目の前の魔力ビームの破壊力が脅威であることは、
確かである。
けれども、私とヒメカの障壁なら、余裕で防げるようだった。
……警戒して損したかな?
このぶんなら、逆に襲い返して、当初の予定通り、
敵を全滅させたほうがよさげ?
楽々と魔法ビームを防げているので、そんな物騒プランを、
うわのそらで思い浮かべてしまう私。
その数秒後、障壁に阻まれていた、まばゆい光が、消え失せた。
魔法ビームの照射が、途切れたらしい。
魔法ビームが超高温だったせいか、射線上の空気が、
蜃気楼のように、揺らめいて見えた。
その、射線上、射撃元に目を向ける。
そこには、白い法衣を着た男が、立っていた。
暗がりでもわかってしまう、ピッチリ七三分けの、
ニチャァ…っとした笑みを浮かべる中年男性。
─────〈聖導庁〉の〈司教〉、宮内益士だった。
……………うぅぅぅぅっそぉぉぉぉぉぉぉ───────!?!?!?
今の魔法ビーム撃ったのが、宮内司教!? マジで!?
あっ、実は双子で、強い魔力を持った兄弟がいたとか?
思わず、目にしている人物が、別人である可能性を考えてしまう。
自分の直感と、ヒメカの人物評価を信じてるので、今しがた高威力の
魔法攻撃を撃ってきたのが、まさか宮内司教だとは、信じられなかった。
「………小さな子供がいるというのに、今のような攻撃魔法を
撃つなんて。正気ですか? 宮内司教」
ヒメカも、相手が宮内司教本人か訝しんだのか、
あえて、そう問いかけたようである。
「噂に名高い〈星の黄金〉ならば、たやすく防いでくれる、
と思っていましたよ」
向こうとは、30メートルくらい距離があるが、大声でもないのに、
普通に声を聞き取れていた。
たぶん、お互いに、拡声魔法を使っているのだろう。
あと、返ってきたその返答だけで、相手が、宮内司教本人だと
確信できてしまった。
なんかこう、話し方のニチャつき感が、ホテルで聞いてた時と
おんなじだったから。
率直に言って、イラッとする。
ゆりちゃんも、現れた男が宮内司教だと気づいたのか、
ヒメカにすがるようにして、その後ろに隠れた。
私は、わずかに一歩下がって、ゆりちゃんを安心させるように、その肩に手を置く。
「それに……彼我の力量差を、真っ先に知っていただいたほうが、
話が早いかと思いましてね」
舞台役者のように両手を大振りに広げながら、宮内司教は、
ゆっくりと、こちらへ近づきはじめた。
宮内司教の言葉に、ヒメカが、かすかに眉をひそめる。
「力量差……?」
「ええ、単純な、〈力〉の差です」
はっ? 何言ってんだコイツ。
内心、素で理解不能に陥り、半眼になってしまった。
魔法ビームを完全に防がれておいて、口にした言葉が、それか。
むしろソレ、こっちの台詞なんだが?
もしかしてだけど、さっきの攻防、こっちが限界必死の防御で、
なんとか防ぎきった、とでも勘違いしてたり?
私が胡乱なモノを見る目を向けているうちにも、宮内司教は、
言葉を続けてくる。
「────今、私が放った魔法ですが。私は、ほんのわずかな
魔力しか、使っていません」
はっ? 何言ってんだコイツ。(二回目)
内心、素で理(中略)、ますます半眼にならざるをえない。
『今のはメ●ゾーマではない……メ●だ』みたいなこと言いたいわけか?
あー、そうか、わかったぞ。
うん、向こうが三下雑魚キャラってことが、わかってしまった。
私の〈邪神〉チート魔力は、〈隠蔽〉されてて感じ取れないにしても、
ヒメカの実力のほどは、今の障壁魔法で測れるだろうに。
大魔王プレイがやりたいなら、口にしているような最小の労力で、
こっちに凄い被害を与えてなきゃ、意味が通らない。
『べ、別に、今のが全力だったわけじゃねーし!』っていう、
負け惜しみだよね、それって。
日本人の、中間管理職の中年男性って、『自分は大物』感を出そうとして、
偉そうに語るヒト多い、って本当なんだなあ。(ネット情報を元にした偏見)
「……それがなにか? なにをおっしゃりたいのか、要領を得ませんが」
ヒメカが、冷たい声で訊き返す。
優しいなあー、ヒメカは。
オッサンの妄言なんか、うっちゃっておけばいいのに。
宮内司教は、ニチャりとした笑みを、さらにニチャらせて、言った。
「あなたを殺すことなど、造作もない。それが、理解できるかと
思ったのですがね────いやはや、〈力〉の差が歴然として
しまっていては、逆に、理解を困難にしてしまったようだ」
────────────────────────は?
殺す?
コイツ今、私のヒメカを、殺すとかぬかした?
………………はー、なるほど、なるほど。
もういい。
おまえが死ねっっっっっ!!!!!!!!
「あゆちゃんっ!?」
私から、急激に噴出された、魔力に気づいたのか。
ヒメカが、驚いた声で振り返ってくる。
しかし、その瞬間にはもう、私は地面を蹴って、一気に跳躍していた。
そして、手加減も慈悲もない、全力の念動力を、宮内司教めがけて振るう。
コンクリートの地面が抉れ吹き飛び、轟音が響き渡った。
直後、私は、自分の目を、疑ってしまう。
私の〈邪神〉パワーによる、念動衝撃波は、宮内司教には、
届かなかったのだ。
宮内司教を中心に、半球状の淡い紫の光が展開され、
私の念動衝撃波を、完全に阻んでいる。
私は宙に浮かんだままの状態で右手を突き出し、
元から全開だった念動力の出力を、さらに底上げした。
途切れることなく、宮内司教に向けて、念動衝撃波を叩きつけ続ける。
だが、その破壊力で損壊していくのは、半球状の障壁外の、
地面だけであった。
「おやおや……あなたには、初めてお目に掛かりますね、潮あゆらさん。
お話では、〈魔法少女〉見習いだとか」
ニチャニチャとした、人を馬鹿にした笑みを浮かべて、
宮内司教がそんなことを言ってきた。
私の名前と、〈魔法少女〉見習いの設定を知っているということは、
やはり、ゆりちゃんにつけていた発信器で、盗聴していたか。
私は、宮内司教の言葉を無視して、念動衝撃波を放ち続ける。
半球状の障壁に防がれてはいるが、この膠着状態が
続くなら、勝算は、こちらにあった。
なにせ、私の魔力は〈邪神〉印。
無尽蔵の魔力で念動衝撃波を撃ち続ければ、向こうのほうが
先に魔力が尽きて、障壁を維持できなくなるだろう。
『───勝ったな』
『ああ』
私の心の中で、老人とオッサンが、淡々と勝利を確信する図が思い浮かんだ。
と、同時に、私の心の別部分で、なにかが、悲鳴じみた警告を上げる。
『いやいや!!! 油断してたらソレ、敗けフラグだからっっっ!!!』
それは、自分を客観的に見るオタク性だったのか、〈邪神〉としての
危機察知本能だったのか。
とにかく、唐突に、ゾクリと、嫌な感覚に襲われた。
その次の瞬間。
拮抗していた攻防の均衡が、崩れる。
宙に浮かんでいる私が、圧し返されだしたのだ。
〈邪神〉パワーの念動力が、防がれてるうえに、
〈力〉負けしだしてる……!?
「ぐっ!!! っこの野郎ぉっっ!!!」
対人戦闘は本日が初めてで、そのどれにも〈邪神〉パワーで
無双勝利しちゃってたせいか。
気づけば、私は焦って、そんな叫びをもらしてしまっていた。
全力全開から底上げして放出していた念動力の勢いを、
歯を食いしばり、さらに引き上げる。
元から殺意マシマシだった念動衝撃波のエネルギー熱流が、
出力限界を越え、プラズマ化し、青白く輝きだした。
もはや、光線、念動光線である。
さっき、宮内司教が撃ってきた魔法ビームよりも、有効範囲と
破壊熱量がデカくなっているのが、自分でもわかった。
が、それでも、目の前の、淡紫色の障壁を、崩せない。
それどころか、念動光線は、障壁に弾かれ、
射線を、狭められていっている。
宮内司教の障壁が、念動光線に圧し勝ち、じりじりと、
こちらへ迫ってきているのだ。
「くっ、そっ……!!! う、ぬ、ぐ、う、う、うぅぅぅぅぅっっっ!!!」
それに負けじと、私は左手も突き出し、両手で念動光線を放ち続ける。
だけど、いよいよ、私の突き出した両手の先まで、障壁が圧し寄せてきた。
「……その程度ですかな。それで、〈救世主〉たる私に
刃向かうなど、笑止!」
念動光線と障壁の、激しい衝突音が生じるさなか、
ニチャりとした声が響き渡ってくる。
その声が終わるや否や、障壁の圧が、急速に増大した。
ズドウッッッ
そんな衝撃音がしたかと思うと、私の視界が、回転する。
「あゆちゃんっっっっっっっっ!!!?」
あっ、やべっ、直撃喰らった────!?
ヒメカの悲痛な叫び声が聞こえたあと、自分の身に、
なにが起こったか認識する。
宮内司教の障壁に圧し負け、宙に浮いていた私の体は、そのまま障壁に激突し、弾き飛ばされたのだ。
その勢いたるや、トラックとの正面衝突事故並か。
あやうく、異世界転生しちゃうところである。
ってゆーか、たぶん、普通に致命傷だった。
私の体が、〈邪神〉ボディじゃなかったら、即死だったかもしれない。
全身、絶叫を上げているような激痛に、ちょっと涙目になりながら、
空中で素早く体勢を整えて、地面に三点着地。
そして、追撃を警戒して、前方を、睨みつける。
「おや、今のを耐えられましたか。手心を加えたつもりは、
なかったのですがね。〈星の黄金〉の伴侶である、というのは、
伊達ではないようだ」
こちらに近づきながら、あいかわらず、ニチャりとした嘲笑を
浮かべてくる宮内司教。
宮内司教から、私が“ヒメカの伴侶”であることを口にされ、
私は、イラッとした。
それは事実だけれど、盗聴により聴かれてたことにムカつくし、
生理的嫌悪感が、ハンパない。
「あゆちゃんっ! 怪我はっ!? 大丈夫なのっ!?!?!?」
後方のヒメカから、私の身を案じる、悲鳴に近い声がかけられてきた。
私のそばに駆け寄ってこないのは、ゆりちゃんをかばっているためだろう。
ついついブチキレて、先走ったせいで、ヒメカに余計な心配を
させることになってしまったとは。
そこは、反省である。
「ごめん、ヒメカ。私は全然平気だから」
後ろは振り返らず、右手を軽く振って見せた。
実際、〈邪神〉ボディの超回復能力で、私が全身に受けたダメージと激痛は、
即座に帳消し。
RPGで言ったら、HPは、全回復済み状態である。
───ヒメカに応えるうちにも、宮内司教から、視線をはずさず、
睨みつけておいた。
私の〈邪神〉パワーによる念動光線を完全に防ぎ、
私に致命傷を負わせた、向こうの障壁は、悔しいが、
恐るべき〈力〉である。
ヒメカと同時に攻撃しても、はたして、あの障壁を、破れるかどうか。
と、そこで、疑問がわき起こった。
ヒメカが、たいして魔力も持っていなさそう、と評した宮内司教が、
何故、これほどまでに強固な障壁魔法を行使できるのかと。
……私みたいに、自身の魔力を他者に感知できなくする〈隠蔽〉の
魔法をかけている?
いや、違うな。
ただの勘だけど、三下雑魚キャラな性根のヤツが、スゴい魔力持ってたなら、
わざわざ隠したりしないだろう。
なにか、カラクリがあると見た。
それにさっき、宮内司教の口にしていた単語が、ひっかかっている。
そのへんを、つついてみるとしようか。
ニチャった笑みを浮かべる宮内司教に向かって、私は、
全然効いてませんけど?的な、生意気メスガキ煽りをしかけてみる。
「えぇ~? オジサン、今ので勝ってるつもりなのかなぁ~?
なんか勘違いさせちゃったぁ~? ゴメンねぇ~? 私ぃ、実戦はぁ、
今日が初めてだからぁ~、相手を殺さないように手加減するの、
慣れてないんだぁ~♪ ねぇ、今、どんな気持ち? どんな気持ちぃ?
手加減されてたくせに、自分のこと、〈救世主〉とかイキっちゃった
気持ちってぇ? あ、真剣に答えなくていいよぉ♪ 興味本位で
訊いてみただけだからぁ♪」
嘘をつきました。
100%本気で殺すつもりだったし、
手加減どころか、全力でしたし。
〈邪神〉ボディじゃなかったら、こっちが死んでたかもで、
ハッタリもイイトコ。
イキりもイキって恥ずかしいヤツだったのは、私のほうです。
こんな、やっすい煽りを、いい大人が真に受けるとも思えない。
それでも挑発を仕掛けたのは、自分を〈救世主〉とか自称したことに
ついて、なにかしら反応があるのでは、と期待してのことである。
「……小娘がっ! 人が下手に出てやっていれば、図に乗りおって……!
少し顔の出来が良いくらいで、勘違いしているようだな……!」
宮内司教が、急に激昂し、ニチャニチャした笑みを消して、
一気にそう吠え立ててきた。
──────煽り耐性、ゼロかよ!
まあ、三下雑魚キャラって、無駄にプライド高いのが、お約束だしなあ~。
それとも、〈救世主〉という単語を出されて、
馬鹿にされたのが、心の柔いトコに刺さっちゃった?
おっし、もういっちょう、煽っとくか。
「あれれ~? お顔、真っ赤だよぉ~? 図星だからって、そんなに
逆ギレしたらぁ、みっともないってぇ~♪ うんうん、オジサンは、
〈救世主〉なんだよねぇ♪ そういうことにしといて
あげるからぁ♪ とりあえず、涙拭きなよぉ~♪」
国民的少年探偵の口調で、宮内司教の顔を、下から
見上げる仕草をしてみせる。
宮内司教は、唇を引き結び、おもしろいように、顔を真っ赤にしていた。
怒りで、プルプルと、体も震わせていらっしゃるではないか。
「大丈夫、大丈夫♪ オジサンは悪くない。悪くないよぉ~?
悪いのは、オジサンを〈救世主〉と認めない、世界のほう
だもんねぇ♪ いいんだよぉ~、なんの根拠も、証拠も、実績なんか
なくっても、オジサンは、〈救世主〉なんだからぁ♪
オジサンだけは、そんな自分自身を、認めてあげなきゃぁ~♪」
「あ、あゆちゃん……」
ひたすらメスガキムーヴする私の後ろで、ヒメカが困ったような、
ドン引きしたような声音で、ポツリと私の名を呟くのが聞こえた。
い、いや、ヒメカ、これは演技だから! 必要悪だから!
振り返って、そう言い訳したいところだが、そうもいかない。
煽りに煽った宮内司教が、どんな行動に移るか、
注視していなければならないからである。
「“なんの根拠も、証拠も、実績もない”、だと……?
やれやれ……これだから、無知蒙昧な女、それも、小娘は
困るのだ───。この世におわします〈神〉は、只人たちの中から、
“是”と思われし者をお選びになり、〈救世主〉としての
〈力〉をお与えになるという真実を、理解できないのだから……!」
………………………………………………。
『おまえは何を言っているんだ?』と、脳内で、有名な格闘家の
ネット画像がよぎる。
自分で煽っといてなんだけど、宮内司教が喋り出した
トンチキな話に、ついていけなかった。
正直、マジで、宮内司教の正気を疑ってしまう。
いや、仮にも聖職者には違いないから、逝き過ぎた信仰による、
思いこみとかなのか……?
私が疑いしかない視線を向けていると、宮内司教は、法衣の胸元から、
何かを取りだし、こちらへと突きつけてきた。
「見るがいいっっっ!!! これこそ、私が〈救世主〉である証っっっ!!!
〈神〉より授かりし〈力〉だっっっ!!!」
それを目にして、私は、戦慄してしまった。
五芒星を基本にして、中心に“炎の眼”をあしらった、
金属製と思われる、丸い護符。
それこそは、私……〈旧支配者〉、〈邪神〉クトゥルフを
封印した存在、〈旧神〉の〈力〉が宿りし聖遺物。
〈旧神の印章〉に他ならなかったのだ──────!!!
クトゥルフさん「は? はァ? べ、別にそんなん、怖いことあらへんがな!」(震え)




