転23 〈邪神〉だけど、「すり替えておいたのさ!」。
あゆらちゃんが「引き渡す」と言っていた、衝撃の真相!(バレバレ)
で、そのあとの宮内司教らとの接見は、結局、三十分もかからなかった。
結論で言えば、エストさんの提案(私の発案だけど)どおり、
『宮内司教は信用ならんから、同じ〈聖導庁〉司教であるエストが
預かる。すっこんどれィ』という形で落ち着くことに。
宮内司教側としては、正式な書類(偽造)で警察を巻き込んだことが、
裏目に出た結果である。
ぎっひっひっ、マジざまあなんですけど~!
もっとゴネにゴネて、ゆりちゃんの“保護”を、強引に主張してくるかと
思ったけど、それはナシ。
草薙さんたち、警察の目があったから、下手な強硬手段に出れば、
なにかしらの疑いを持たれると、警戒したのかもしれない。
まあ、どんな手を使ってこようとも、安全策を取ってるから、平気だけど。
宮内司教たちには、氷漬けにしてバス・ルームに転がしていた襲撃犯たちを
回収させ、お引き取りいただいた。
その時の宮内司教の、苦虫潰したような顔が、
これまたざまあ!ってカンジ。(性格悪)
そして、肝心の、ゆりちゃん´は、現在、エストさんと共に、
警察署近くにある〈聖導庁〉管理のオフィスビルの一室へと、移動していた。
これまた高級ホテルのスィート・ルームみたいな部屋で、
庶民の私としては、本日何度目かの、カルチャー・ショックである。
「夕ご飯は、もう少ししたら用意しよう。それまで、テレビでも見て、
ゆっくりしていなさい」
「はい」
微笑して告げてくるエストさんに、簡潔に答えさせて、ゆりちゃん´を、
部屋のソファに座らせた。
そして、リモコンで、部屋に備えつけられたテレビの電源を入れ、
幼女が好きそうなチャンネルを探していく。
「では、またのちほど。あとのことは気にせず、思うがまま、
好きなようにしてくれて結構だ」
エストさんは、こちらに、見惚れてしまうようなウインクを
送ってきたあと、退室していった。
……後半の台詞は、私、潮あゆらに向けられたものだろう。
ゆりちゃん´を、ソファの背もたれに体を預けさせ、目を閉じさせた。
───────そうして、ゆりちゃんの偽物、〈水幻影身〉との同期を切る。
目を開けると、軽い目眩がした。
そのあとに、視界が、私のものに戻ってくる。
ホテルのペントハウス直下にある部屋、そのベッド・ルーム。
私はこの数時間、そこのリクライニング・チェアに座ったままの状態で、
ずっと、ゆりちゃんの偽物を操作し続けていたのであった。
これが、私たちの安全策。
『形だけ〈聖導庁〉に引き渡したと思った?
残念! すり替えておいたのさ!』作戦である。(※作戦名は私の心の中でだけ)
こうして時間を稼いで、ゆりちゃんを安全な場所に避難させると同時に、
エストさんの部下の手で、ゆりちゃんのご両親を保護する、って寸法だ。
エストさん曰く、ご両親のお名前は、例の書類に住所と一緒にしっかり
書かれていたことから、すぐに保護可能であろうとのこと。
向こうにしてみれば、自分らがでっち上げた偽書類のせいで、墓穴を掘った形。
ぐっふっふぅ~、ウマくいったぜ、ご飯がウマい!
いや、夕ご飯はまだだけど!
作戦が思い通りに運んだので、上機嫌になってしまう私。
鼻歌でも歌っちゃいそうな気分で、リビング・ルームに向かうと、
そこではゆりちゃんが、ヒメカと一緒にテレビを見ていた。
「あゆらおねえちゃん! おしごと、おわったの? ゆりねえ、
いわれたとおり、ひとりでずっとテレビみてたよ! いまは、
ひめかおねえちゃんといっしょだけど!」
「そっか~、ゆりちゃんは、いい子だねえ~……!」
ほがらかに報告してきたゆりちゃんの頭を、優しく撫でる。
本物のゆりちゃんは、ヒメカらと宮内司教たちが火花散らしてる間、
一階下のこの部屋で、呑気にテレビを楽しんでいたのであった。
もちろん、ゆりちゃんの服に取り付けられていた発信器は、
偽物である〈水幻影身〉に付け替えてますしおすし。
「うまくいったね、あゆちゃん」
ヒメカは弾んだ声で、笑顔を浮かべてくる。
「〈司教〉、っていうくらいだから、なんか魔力で看破する的な
スキル持ってるかも、って、ちょっとドキドキしてたけど。全然、
余裕だったね。バレてそうな気配、しなかったし」
笑いながらそうヒメカにうなずいて、ゆりちゃんの隣に座った。
「あゆちゃんの作った〈魔法人形〉が凄いもの! あれだけ本物そっくりで、
遠隔操作もできるのに、感じる魔力量は低い、って、普通じゃ
ありえないことなんだから!」
と、ヒメカは、少し興奮気味に、私の〈水幻影身〉のことを評してくる。
うっふ、私、またなんかやっちゃいました?
なんちゃって、内心で、チートキャラ気取っちゃう私なんだぜ。
いやしかし、実際にゆりちゃん(偽)を作って見せた時、
エストさんもメッチャ驚いてたしなあ。
我が〈邪神〉パワーながら、本当にチート級らしい。
「あらかじめ高度な〈識別〉や〈感知〉の魔法を使ってないと、
あれを〈魔法人形〉だなんて見抜くのは、無理だと思う。
私でも、言われないと───ううん、言われてても、気づけないかもしれない」
「そっか。ヒメカのお墨付きなら、大丈夫かな。このままゆりちゃんを、
無事に脱出させられそうだね」
〈魔法少女〉のヒメカがそこまで言うのなら、“保護”されたゆりちゃんが、
偽物だと、すぐに見破られる心配はなさそうだ。
エストさんと話し合った計画では、夜を待って、午後十一時に、
港の貨物船区画でエストさんの部下のひとたちと合流。
そのまま、ゆりちゃんを預ける手筈になっている。
そこからゆりちゃんには、船を乗り継いで、ひとまず沖縄へ落ち延びてもらい、
しかるのちに救出したゆりちゃんのご両親に引き合わせる……という流れ。
私も一緒に付いていきたい、と主張したけれど、ヒメカとエストさんから、
頑として拒否された。
いかに私がチートで強かろうと、未成年であるし、私の家族を
心配させるような行動は、容認できない、とのこと。
────まあ、ごもっとも。
昨日まで、ただの陰キャオタク女子だったのに、数日間家族に無断で
沖縄に行くとか、フツーに警察沙汰になってしまう。
家族に連絡すればいいかというと、そういう問題じゃなく、
そもそも一般人には説明不可能な事態だしね。
しかし、それでも、私の気が済まないので、せめて港までは、
ゆりちゃんの護衛として付いていくことを、頼み込んだ。
ヒメカは、それにも難色を示したけれど……。
『港までの護衛ならば、構わないのではないかな? あゆらくんの
ご家族には、“急遽、お泊まり会をすることになった”と言えば、
無用の心配はかけないで済むだろう?』
『……! “お泊まり”───! あゆちゃんと一緒に、“お泊まり”……!』
エストさんの案に、速攻でヒメカが喰いつき、一転して、
港までの護衛許可が下りたのであった。
ヒメカの急なテンションUPに、ちょっとビックリである。
友達同士でお泊まり会とか、したことなかったのかな?
『えっと、突然、わたしの家にひとを泊める、ってなったら、家の者が
うるさいかもしれないから、この部屋にお泊まりでいい? あゆちゃん』
もじもじと、頬を紅く染めて、上目遣いでそう言ってきたヒメカの提案を、
私が断れるだろうか?
いや、断れるワケないね!
ヒメカと! ホテルで! 一緒のベッドで! お泊まり!
私のLOVEがWARでギラギラ☆燃えてしまいたい~♪♪♪(錯乱)
………OK、私、時に落ち着けって。
ともかく、そんなわけにより、私とヒメカで、ゆりちゃんを港まで
護衛することが決定したのであった。
本音で言えば、やっぱり、ゆりちゃんとご両親が再会するまで、
ちゃんと付き合いたいところだけれど。
〈邪神〉覚醒したとはいえ、社会的には、私はいまだ、ただのJK。
せめて、本体が言っていた、クトゥルフの眷属たちが
来てくれれば、全力でゆりちゃんを守らせるのに。
──────っていうか、本当に、私のトコロに来て、
私に仕えてくれるのかしら、眷属?
ま、この場にいない者を当てにしても、しょうがない。
港までのゆりちゃんの護衛を、がんばるぞい!
フンス、と気合いを入れて、家に電話し、お母さんに、
“お泊まり会”することになった旨を通達。
さすがに突然のことなので、お母さんは驚いて、簡単には
お泊まりを認めてくれそうにない雰囲気だったのだが─────。
『お電話替わりました。はじめまして、あゆらさんのお母様。
わたくし、苑草の保護者のようなものをやっております、
エスト・メレーと申します』
と、エストさんが間に入ると、あれよあれよと、うちのお母さんを
懐柔してしまい、“お泊まり会”にオッケーが出ました。
横で聴いてて、なんか交渉、っていうより、詐欺師・ペテン師の
会話術に思えたものである。
うまく話を付けてもらっておいてなんだけど、ちょっともやってしまうなあ~。
そんなこんなで、現在は、午後四時すぎ。
約束の時刻まで、時間を潰すだけの、フリー・タイムである。
この部屋で夕食を済ませて、また待機。
その後、エストさんから、計画中止等の連絡がないかぎり、
護衛任務スタート・出発、という予定だ。
とりあえず、宮内司教たちは騙くらかせたし、計画は順調に行っている。
……はずだけど、気を引き締めていかなければ。
一瞬の油断が命取り。(戒め)
自分の身がピンチになるだけならいいけど、小さい子の命が懸かってるからね。
私にはチートな〈邪神〉パワーがあるし、凄腕〈魔法少女〉の
ヒメカも一緒だけど。
〈力〉を過信して失敗するとか、アニメや漫画なんかじゃ、
定番のしくじり案件だ。
そんな間抜けなことには、ならないようにしないと……!
密かにそう意気込んでいると、隣に座るゆりちゃんが、私のパーカーの
袖をくいくい、と引っ張ってきた。
「ん? なあに?」
「あのね、さっき、おねむしてたときにね、〈ゆめ〉をみたの」
「えっ?」
ゆりちゃんの言葉に、思わず、ヒメカと目を合わせてしまう。
────〈予知夢〉、だろうか。
「……そうなんだ。どんな〈夢〉だったの?」
私がたずねると、ゆりちゃんは、ニッコニコの笑顔になった。
「あゆらおねえちゃんと、ひめかおねえちゃんの〈ゆめ〉!」
私たちの〈夢〉かよ!?
ゆりちゃんの笑顔からすると、良い〈夢〉みたいだけれども……!?
「それは、良い〈夢〉?」
「すっっっごくいい〈ゆめ〉だよ!」
お、おう。
滅茶苦茶喰い気味に、良い笑顔の返答を返された。
「じゃ、じゃあ、どんな〈夢〉かな────」
「んっとねえ、おねえちゃんたちが…」
「ゆりちゃん、ちょっと待って」
ゆりちゃんが、〈夢〉の内容を語りかけたところ、
ヒメカの厳しめな声がかかる。
「………ゆりちゃん、その〈夢〉は、いつの頃か───“今”から、
どれくらい“先”のことか、わかる?」
ヒメカの質問に、ゆりちゃんは、んん~、と、かわいらしく眉をひそめた。
「だいたい、でいいの。なんとなく、何ヶ月先か、とか、ずっと“先”の、
未来のことじゃないか、とか。ゆりちゃんの感じたことを、言ってみて?」
「んと、たぶん、すこしさきの“みらい”の〈ゆめ〉だとおもう」
「そう……それじゃあ、ゆりちゃん、その〈夢〉のお話は、ゆりちゃんが、
安全な場所に避難し終わってから、お姉ちゃんたちに教えてくれる?」
「えぇ~? どうしてぇ~?」
うん、確かにどうして?、ってなる。
良い〈予知夢〉なら、聞いておいたほうがいいような気がするけど。
「ゆりちゃんを、無事に、ゆりちゃんのパパとママのところに
送り届けることができたら。その時に、わたしたちに、ごほうびとして、
その〈夢〉のお話を聞かせてほしいの。ゆりちゃんの視る〈夢〉は、
とっても特別なものだから。ね?」
「そうなんだ~……? うん、わかった! それじゃあ、
ふたりのごほうびに、とっておくね!」
ヒメカの説明を受けたゆりちゃんは、おませ気味にそう言って、
ニパ~!っと笑った。
その笑顔を見たヒメカは、ゆりちゃんにうなずいて見せながら、
携帯端末を操作しだす。
ひとしきりの間があってから、私の携帯端末が、着信音を鳴らした。
ヒメカからのメールを受信したとわかったので、すぐさまチェック。
【ゆりちゃんの安全が確保されていない状態で、わたしたちふたり“だけ”の
未来の〈予知夢〉の話を聞くのは、状況的に、危険な可能性があるの。
“シュレディンガーの猫”のたとえで言えば、
『わたしたちふたり“だけ”安全な未来』を先に〈夢〉で
観測してしまったことで、逆にゆりちゃんが安全でいる未来像が
揺らいで、不確定になってしまうかも。】
“シュレディンガーの猫”というワードに、オタクな私はピンときた。
SFとかでもよく取り沙汰される、超有名なお話である。
その内容は、ざっくり言うと、『世の事象は、観測されることで確定する』
という量子理論の、矛盾を説明する思考実験……だったかな?
ヒメカが引き合いに出してきたのは、『観測されることで確定する』という
部分を強調したかったからだろう。
私とヒメカが『私たちふたり“だけ”が安全でいる』未来の〈夢〉の
内容を聞くことで、『ゆりちゃん自身が安全ではない』未来を“観測”したことに
なってしまうかもしれない─────。
“観測されなかったことによる、観測”をしたことに。
ちょっとややこしいけれど、そういうことなのだと思う。
そのように察した私は、ヒメカに、メールを返信。
【でも、少し先の未来の〈夢〉なら、現在には影響はないんじゃない?】
【未来の不確定要素、『ゆりちゃんが危険に晒される』可能性が
増すような真似は、少しでも避けたほうがいいわ。
あゆちゃんも“カッサンドラの悲劇”のことを言ってたでしょう?
〈予知〉の〈力〉は、危ういもの。慎重に慎重を重ねた対応をしないと。
だから、現時点では、〈夢〉のことを聞かないで行動するのが、
ベターだと思う。】
魔法業界のプロであるヒメカが、そう言うのなら、異論はない。
いや、ヒメカの言うことなら、無条件で肯定しちゃいそうな
私ではあるけれどね!
【おk、把握した。】
そう私が短く返信したあと、ヒメカは、ゆりちゃんに微笑みかけた。
「ゆりちゃん、夕ご飯は、なんにしようか。なにか食べたいもの、ある?」
「オムライス!」
ゆりちゃんの即答に、ヒメカとふたりして、噴き出し苦笑。
まあ、同じもの食べても構わないだろうけど、私は、別のリクエストを求めてみる。
「オムライスは、お昼食べたでしょ~? 別のにしない?」
「んん~……じゃあー、カレーライス!」
ライス系好きだな! かわいいぞこんちくしょう!
「オッケー、カレーライスね。ヒメカ、私たちは、どうしようか?」
「そうね、ここのルーム・サービスのメニューは、
なにがあったかしら────」
と、ヒメカは、テーブルに置かれているメニューを手にとって、
吟味しはじめた。
………〈予知夢〉の影響が、あるかないか、今、考えたところで
なにもはじまらない。
建設的なのは、しっかりと腹ごしらえして、夜に備えることであろう。
〈予知夢〉という、幼い子供には過分な異能のせいで、両親から
引き離されてしまっている、ゆりちゃん。
年長者として、いや、人として、この子を、守ってやらなければ。
〈邪神〉の転生体ながら、ゆりちゃんの笑顔を見て、
改めてそう思ってしまう私だった………。
あゆらちゃん「正義は知らんけど、女の子は守る!」(キリッ




