転21 〈邪神〉だけど、白い麗人と状況確認する。
【本編では語られない設定】エストさんもめちゃっょぃ女性だゾ!
ヒメカから、致命的な頭部への打撃(二度目)を受けたあとも、
エストさんは愉快そうに笑うだけであった。
相当な勢いで、金属製の杖で殴られたというのに、笑顔とか。
………私と一緒で、本当は人間じゃないとか?
実は、改造人間とか?
無茶苦茶気になるけど、ヒメカも説明してこないし、
とりあえずスルーしとこう。
ご機嫌なエストさんと、彼女に対して苛立ちっぱなしのヒメカ、
一連のやりとりに困惑しどおしの私。
実に微妙な空気の中、とりあえず大広間のほうへと、腰を落ち着かせる。
私とヒメカは、先ほどと同じく、隣り合ってソファに座り、
テーブルを挟んだ対面に、エストさん。
三人とも座った時点で、ヒメカが話を先んじた。
「時間が惜しいから、単刀直入に言うわね。〈予知夢〉を見ることの
できる女の子を、〈聖導庁〉の人間が拉致・監禁して、その能力を研究、
利用している疑いがあるの。しかも、女の子のご両親の精神と記憶に
干渉して、女の子の誘拐を隠蔽までしているわ────まさか、
〈聖導庁〉の日本支部が、このことを黙認している、なんてことは、
ないわよね?」
エストさんにそう確認する声音は、私と話す時とは違い、
厳しいものになっている。
エストさんに向ける視線も、冗談や無駄口を許さぬと
言わんばかりに、鋭い。
「……〈聖導庁〉、そして日本支部が主導していないことは、言明しておこう」
エストさんは、微笑を口元にたたえたまま、
はっきりとそう答えてきた。
けれど、言葉はそこで終わらず、悪びれた風もない口調で、
付け足してくる。
「が、送られてきた画像で確認した、事件の容疑者たちは、
〈聖導庁〉日本支部の人間で間違いない」
「────過激派が、秘密裏に動いている、ということね」
「そういうことだ」
そう言って、エストさんは、いつの間にか取りだしていた
携帯端末を片手で操作する。
間もなく、ヒメカの端末が、着信音を鳴らした。
ヒメカは、すぐさま端末を確認する。
「この男性は……?」
そうエストさんにたずねるヒメカの端末を、隣から覗くと、
画面には、中年男性の画像が映し出されていた。
脂がかってそうな、不健康な肌色の、太い黒縁眼鏡をかけたオッサン。
見ただけでイラッとする、綺麗な七三分けの髪型をしており、
いやらしい目つきをしているように見えた。
典型的な、セクハラ親父顔である。(偏見)
「宮内益士。〈聖導庁〉日本支部の〈司教〉を務めている」
えぇ……。
こんなのが、〈司教〉さま~……?
黙ったまま、心中でドン引きしちゃう私。
だってさあ、聖職者で、司教、って言ったら、もっとこう、
徳の高そうな外見してそうじゃない?(偏見②)
「なに、〈司教〉、と言っても、そうたいしたものでもない。勤続年数と、
要領のよさと、そこそこの実績さえあれば、誰でも昇格できる役職だ」
私の偏見に満ちた胸中を見抜いたみたいに、エストさんは、
私にニヤリと笑みを向けてくる。
……やっべ、顔に出てたかしら。
「あなたも、その〈司教〉のひとりだものね?」
やはり棘のある言い方で、ヒメカが冷ややかな視線を送る。
言われたエストさんは、軽く笑って、肩をすくめてみせた。
「聞こえのいい肩書きではあるがね。実際は、損な役回りばかりさ。
現に、急に来日したお偉いさんの接待を押しつけられて、
てんやわんやしていたところだ。君が呼び出してくれたおかげで、
やっと抜け出せてきた。まさに〈神〉のお導き。功徳は積んでおくものだな」
はっはっは、と愉快そうに笑うエストさん。
その反面、ヒメカの綺麗なお顔が、不機嫌そうな表情になっていく。
「なにが〈神〉のお導きなのだか。たださぼりたかっただけのくせに。
渡りに船だった、の間違いでしょう」
ヒメカの物言いは、辛辣さが増してきている。
エストさんのことは苦手、って言ってたけど、やっぱ嫌いなんじゃない?
ヒメカが誰かに対して、こんなにヘイト感をにじませてるの、
見たトキないんだけど。
私がヒメカにこういう感情の浮かんだ顔向けられたら、
もう、生きていけない自信がある。
だが、エストさんは、どこ吹く風の調子で、余裕の微笑だ。
「話を元に戻そう。この宮内司教は、日本支部における過激派の
旗頭のひとり。容疑者らは、全員、宮内司教の命令で
動いていたと見ている。此度の事件の首謀者であることは、
間違いないだろう」
「……〈聖導庁〉が、宮内司教を処罰するつもりは、あるのかしら?」
「処罰の意志は、半々、といったところだ。したいが、できない。
なにせ、主犯と断じることのできるほどの、決め手となる証拠がないからな」
「女の子を追っていた容疑者たちと、ついさっき、わたしたちを
襲ってきた輩たちがいるじゃない」
「宮内司教が、知らぬ存ぜぬを通せば、それまでだろうな。彼らにしても、
命令元が宮内司教であるとは、知らされていないかもしれん。
使い捨ての駒、トカゲの尻尾切り、というやつだ」
エストさんの芳しくない返答に、ヒメカが小さく眉をひそめる。
「心ある〈聖導庁〉の人間であるあなたとしては、女の子の処遇は、
どうすべきだと思ってるの?」
「無論、即刻、正気に戻った親御さんの下へ帰すべきだと
思っているとも。しかし、そうしてしまうと、いくつか問題が
出てくる可能性がある」
「たとえば?」
「たとえば、女の子の親御さんが、突然、不慮の事故でふたりとも
天に召されてしまい、女の子の帰る場所がなくなってしまう、とか」
私とヒメカは、揃って、息を呑んでしまった。
〈聖導庁〉の過激派が、ゆりちゃんのご両親を事故死に見せかけて、
亡き者にする、って……!?
「そんなことまで────」
「ひとの記憶を平気で弄くる手合いだぞ? いざとなれば、
なんとやらだ。……そして、“親戚”を自称する人間が、女の子を
引き取ることになるだろうな。宮内司教の息のかかった、善意の“一般市民”が」
………最悪の未来じゃねえか。
可能性の話であっても、許しがたいやり口に、気分の悪さはMAXだ。
「でも、いくら〈予知夢〉能力が貴重で稀少な〈力〉だからって、
〈聖導庁〉の人間が、どうして処罰のリスクを冒してまで、非合法な
真似をするのかしら。事が露見すれば、〈聖導庁〉から除籍どころか、
抹殺対象に認定されてもおかしくないはずだけれど」
ヒメカの疑問の言葉に、え、なにそれ怖ぁ……、と胸の内で呟いてしまう。
そうだよなあ、裏の世界だもの、
そういうDEATH or DIEなこともあるよなあ。
「私もそこは同感だ。〈予知〉系能力は、不確定要素が多すぎるから、
古来より、慎重に研究されてきた。〈聖導庁〉でも、〈託宣の御子〉として、
〈予知〉能力者を幾人か丁重に迎え入れて、研究に協力してもらっている。
だから、〈聖導庁〉に隠れ、秘密裏に研究をして得られる利など、
ひとつもないはずなのだが………」
「それでも、独自に研究しなければならないなにかがある、ということね」
「まあ、そうだろうな。なんにせよ、うしろ暗い企みなのだろうさ。
宮内司教には他にも、身寄りのない孤児や、浮浪者などを、人体実験の
被験者にしている、という噂もある」
……悪の秘密結社かよ………。
エストさんの話のあと、ヒメカの端末に映っている、宮内某を見て、
胸に、嫌な気持ちがわいてくる。
なんだろう、この気持ち。
ああ──────私、怒ってんのか。
ゆりちゃんの笑顔を奪おう、ってしてる、この画像の男が、許せないんだ。
実験、ってなんだよ。
〈予知夢〉がどれだけのものか知らないけど、小さい子を親から
無理矢理引き離して、手前の目的のために……!
この野郎は、私の〈敵〉だ。
もともと、ゆりちゃんを守るつもりだったけれど。
この男は、ボコボコのフルボッコにして、叩き潰さなくちゃ、
気が済まなくなってきてる。
「エスト、女の子のご両親を、〈聖導庁〉で、早急に保護して
もらえるかしら? もちろん、あなたの信用できる人間を使って」
「心得た。────その子の名前と、年齢、生活圏の情報はわかるかな?」
「名前は、“おのめ・ゆりこ”。四歳。住所はまだ聴き出せてないけれど、
“おのめ”という姓で、全国の産婦人科の、四年前のデータベースを
当たれば、入院履歴で絞りこめるはずだわ」
「そうだな。仮に戸籍を消されていても、そちらには手を回して
いないかもしれない。善は急げだ」
ヒメカの提案に、エストさんは自身の携帯端末を操作しだした。
エストさんも、〈司教〉という偉い立場だそうだから、気軽に
命令できる部下が、たくさんいるのだろう。
「ところで。ついさっき襲われた、ということだったが?」
「ええ。敦子さんたちを呼んだ時点で、遠くから経緯を見張られてたんだ
と思う。一応、周囲に気を配ってたつもりだったんだけれど、
ずっと尾行されていたのね」
ヒメカの返答に、エストさんは、苦笑してきた。
「なんというか、君はいつも、ところどころで詰めが甘いな」
「………どういうことかしら?」
「そうだな───私が公にできない、重要な捕虜などを
移送する際には、万が一、逃亡されたりした時や、不測の場合に備えて、
捕虜の服に、発信器のひとつでもつけておくがね」
「「あっ─────」」
エストさんの指摘に、私とヒメカは、ハモって声をもらしてしまう。
ゆりちゃん奪還の襲撃が早かったのは、単純に、私たちが公園から
尾行されていたから、と思っていた。
しかし、発信器か……! その発想はなかった────!
レストランの隠蔽工作で必死だったし、そんなことまで考えが
回らなかった、っていうか~!?
「ちょっと、失礼するわね」
私が思考の盲点に、心中で唸っていると、ヒメカはすっくと立って、
ベッド・ルームに向かった。
私も慌てて、そのあとを追う。
……ベッド・ルームの、豪奢な、広いベッドの上に、
ゆりちゃんはまだ横たわったまま、GOOD☆SLEEPのようだった。
ヒメカがゆりちゃんのそばに来たのは、問題の発信器が本当に
付けられているのかどうかの、確認のためだろう。
と、ゆーわけで、〈邪神〉アイ!
視界を、常人の視力では捉えられない領域のものへと、切り替える。
すると、一発で、ゆりちゃんの衣服の一部から、なにやら〈波〉が
発生しているのが視えた。
ゆりちゃんに近づこうとするヒメカを手で制して、ゆっくりと
〈波〉の発生源に顔を近づける。
〈波〉の発生源───それは、上着のポケットだった。
ポケットを留める、不自然ではないくらいの大きさのボタン。
こいつが、発信器に違いない。
ボタンを引きちぎろうとした私の眼前に、スッ、と携帯端末の画面が差し出されてきた。
エストさんのものである。
エストさんが近づいてきたのは、気配と聴覚で、わかっていた。
だから、驚くことはなかったけれど、その画面に浮かんでいる
テキストには、動きを止めさせられる。
【盗聴器の役割も持っているかもしれない。向こうには、
こちらが気づいていないと思わせておく手もある。】
エストさんは、その画面を、ヒメカにも見せた。
ヒメカもそのテキストを確認して、エストさんにうなずいてみせる。
「────この子が、〈予知夢〉を見るという能力者か……。
特段に、強い魔力は感じられないな」
エストさんが、ゆりちゃんの寝顔を見ながら、そうコメントしてきた。
えっ、盗聴されてるかもしれないんじゃないの!?
ここでそんな話題出します!?
と、思ったが、発信器には気づいていない、という体の、
茶番じみた発言であることに、ワンテンポ遅れて思い至った。
「………そうね。わたしも、特に強い魔力を持っているとは思えないわ」
ヒメカもそのことに気づいたのだろう、当たり障りのない言葉で、
エストさんに応じてみせる。
私は魔力を感知できないので、下手なことを喋って足を引っ張らぬよう、
無言を貫くことにした。
……ン────? あっ、もし、発信器に盗聴機能がついてたら、
私がレストランでヒメカに言った、『お嫁さん云々』の会話も聞かれてたってこと!?
くっそう、恥ずぃ……! 小さいゆりちゃんには聞かれても
どうってことないけど、知りもしない脂ギッシュなオッサンに
聞かれてたかと思うと、途端に恥ずかしくなってきた────!
ちっくしょう、〈司教〉だかなんだか知らないけど、
念入りにブッ飛ばしてやる……!(私怨)
私が心密かにそう誓っていると、エストさんは身をひるがえして、
ベッド・ルームから、さっさと出て行ってしまった。
私とヒメカも、それに続いて、部屋を出る。
大広間まで戻り、それぞれ、さっき座っていた元の場所に、座り直した。
「ふむ────あの子が有している魔力は、平凡そのもの。
なにかしら、特殊な魔力属性を帯びているか、とも思ったが、
そうでもないようだ」
「ええ、わたしも、特別な何かがあるとは思えない。………〈予知〉能力は、
魔力の保有量に、大きく左右されたりするのかしら?」
「そこが難しいところでね。〈聖導庁〉で協力してもらっている
能力者たちも、魔力には、個人差に幅がある。魔力を多く持つからといって、
〈予知〉の的中率が高いというわけでもないらしい」
高い魔力があるからって、〈予知夢〉で視た事象が、
必ずしも現実になるわけじゃない、ってことか。
────トム・ク●ーズのSF映画で、似たような題材のヤツがあったなあ、
そういえば。
いや待てよ、それなら……?
「じゃ、じゃあ、逆に、魔力が並っぽいゆりちゃんでも、
高精度の〈予知夢〉をいっぱい視ることができるかもしれない、
ってこと、あったりしますか────?」
エストさんとは距離感が遠いため、おそるおそるで、
思いついたことをたずねてみる。
「ああ、そのような可能性も、否定できないな。あの子に固執して
研究しているのは、そういった希有な要因があるからかもしれん」
私のシロウト意見を、一考の余地アリ、という表情で肯定するエストさん。
しかし、的中率の高い、高精度な〈予知夢〉をたくさん視る、ねえ………。
自分で言っててなんだが、そんなの、『数撃ちゃ当たる』理論に近い気がする。
いや、実際に〈現実〉になって、当たってしまってるんだから、
ゆりちゃんを拉致ってまで研究してるんだろうけど。
大のオトナが、よってたかってすることか!
なんて、また、沸々と腹が立ってきてしまう。
ゆりちゃんを拉致していた連中に対して、怒りゲージが天元突破だ。
「あゆらくんは、〈予知夢〉、〈未来予知〉というものには、
否定的なのかな?」
内心憤っていると、エストさんが、それを見透かしたかのように
声を掛けてきた。
「……否定的、っていうか、面倒なものだろうな、とは思ってます」
漫画やアニメ、映画なんかじゃ、〈未来予知〉というのは、たいてい、
ハッピーな結末を迎えにくい物語装置である。
たとえば、どうあがいても、悲劇的な〈未来予知〉のとおりになったり。
〈未来予知〉の災難を回避できても、また別の、大きな災難が降りかかる
別の〈未来予知〉の連続になったり。
後味の悪い結末の物語が多い印象だ。(※個人の感想です)
それが、現実に存在する、っていうなら、もう、厄ネタとしか思えないよね。
「面倒、か。興味深い意見だね」
私の返答に、エストさんは、おもしろいものを見つけたかのように、
こちらを見つめてくる。
「どうして、そう思うのかな?」
えっ、この話題、深掘りしちゃいます?
小娘の感想を追求してくるとは思わなかったので、ちょっと焦る。
まさか、創作物から導き出した結論である、とは言えない。
まあでも、ぼんやりと抱いている雑感でも、言語化して答えとけばいいかしらん?
「えっと、学校のテスト問題がわかるとか、日常レベルの未来が
視れるくらいなら、便利だろうな、とは思いますけど。たとえば、
人の生き死にに関わる未来とか、大規模災害が起きる未来、個人じゃ
どうしようもない未来の〈夢〉を視てしまったら、大変で、
苦しいなんてもんじゃないだろうな、って想像しちゃいますから。
それこそ、ギリシャ神話の、“カッサンドラの悲劇”みたいなのを」
“カッサンドラの悲劇”。
ギリシャ神話で、〈未来予知〉を題材にしたエピソードだ。
昔々、太陽神アポロンに見初められた美女、カッサンドラは、
アポロンの寵愛を受け、〈未来予知〉の能力を授かる。
けれど、カッサンドラは、その能力で、アポロンが自分を捨てる
未来を視てしまった。
それで彼女は、アポロンを拒絶するのだが、〈神〉のアポロンは激おこ。
カッサンドラに、“〈未来予知〉の言葉を他人に絶対信じてもらえない”
という呪いをかけるのだ。
………ギリシャの〈神〉、器が小ちぇ~よな~。
で、カッサンドラはその後、祖国の滅亡や、自身の悲惨な行く末を
〈未来予知〉で視てしまうが、呪いのせいで、誰にもその〈未来予知〉を
信じてもらえず、BAD★ENDを迎える────。
このエピソードを読んだ、当時小学生だった私の感想は、
『これはひどい』であった。
古代ギリシャの運命観を表すお話なのかもしれないけど、
救いのないこと、はなはだしい。
あまりにもカッサンドラが可哀そうだったので、ド●えもんと一緒に、
タイムマシンで彼女を助けに行く絵本めいたものを、
ノートに書き連ねたほどである。
「ふむ? しかし、聞いていると、やはりそれは、〈未来予知〉に関して、
否定的に捉えているように思えるのだが」
エストさんは、私の言葉を吟味したような表情で、再度、見つめてきた。
「まあ、大枠で言えば、否定的なのかもしれませんけど。もし、
大変な未来を回避するために行動する、ってなったら、できる範囲のことで
全力尽くすしかなくなるから、やっぱり“面倒”のひと言に
まとめられちゃうかな、って」
「……“できる範囲のことで全力を尽くす”か」
私の説明に、何故だか微笑を浮かべるエストさん。
「あゆらくんなら、どんな〈未来予知〉を視たとしても、
“カッサンドラ”のように破滅することはなさそうだね」
んん? なにそれ、褒めてくれてます?
どんな評価による言葉なのか、反応に困ったので、何も言えずに
黙ってしまう私だった。
陰キャには、絡みづらいひとだよなあ、このひと。
内心でそう辟易していると、ヒメカの携帯端末が、着信音を鳴らした。
「草薙さんからだわ」
端末の画面を確認して、ヒメカが電話に出る。
「はい、苑草です。────どうしたんですか?……………えっ!?
それはどういう……はい、こちらには、エストが来ています」
ヒメカの受け答えに、なにやら不穏な空気が漂う。
どうにも、トラブル発生の雰囲気だ。
ヒメカと草薙さんの間で名前が挙がった、エストさんの端末からも、
着信音が鳴る。
その画面をチェックした、エストさんの眉根が、ひそめられた。
「────わかりました。少し、こちらで話し合ってから、
折り返しお電話します……はい、それでは」
草薙さんとの通話を終えたヒメカが、エストさんを見る。
エストさんも、先ほどまで浮かべていた微笑を消して、真剣な面持ちだ。
「してやられたな。先手を打たれた」
「……ええ。表立って、正攻法で獲り返しにくるなんて、予想外ね」
揃って、苦々しそうに同意しあうふたり。
ちょっとー、やめてよ~、なんだか負け負けムード感じて、
不安になってきちゃうんですけどー!?
「な、なに? どうしたの? なにがあったの?」
そう説明を求める私に、ヒメカは、辛そうな顔をした。
「────話に出ていた、宮内司教が、ゆりちゃんのご両親から、
保護責任者として委任された証明書を持って、警察に、ゆりちゃんの
身柄の保護を申し出てきたの。本人が、直々に」
「……! それって────!」
偽物に決まってるじゃん! そんな証明書!
そう言いかけた私より早く、エストさんが口を開いてくる。
「精神操作で委任証明書を書かせたか、丸々捏造してでっち上げたか。
なんにせよ、表向きは、正式な書類だろう。一朝一夕では、警察でも、
文句のつけようがないほどの、な」
向こうは、なにがなんでも、迅速にゆりちゃんを獲り返すつもり、
ということか。
ゆりちゃんの身柄さえ抑えてしまえば、あとはなんとでも理由を付けて、
雲隠れしたのちに、人体実験……そんな算段に違いない。
「公的機関に、正統な手続きで訴えられてきたら、わたしたち〈魔法少女〉の
組織───〈魔法少女連盟〉も、ゆりちゃんの身柄の引き渡しを
拒否することは、難しいかもしれないわ………」
ヒメカは、私に対して、無念そうな、苦渋に満ちた表情を
見せたあと、うつむいた。
くっそう、〈司教〉だかなんだか知らねぇけど、私のヒメカに、
こんな顔させるなんて……!
私の怒りが有頂天になった!(※ブ■ント語)
なんて、怒りつつも、ネットミームを心中で思い浮かべられるのは、
私に、余裕があるからだった。
この苦境にあって、反射的に、思いついちゃった秘策アリ──────!
私は、ヒメカに、こう告げてみせるのだった。
「─────じゃあ、しょうがないね。そいつらに、
ゆりちゃんを、引き渡そうか」
ΩΩΩ<<<ナ、ナンダッテー!?




