転20 〈邪神〉だけど、白い麗人に面食らう。
お助けキャラ、登場!
「ごめんなさい、あゆちゃん! 一度は、あんな大見得切ったのに、
わたしのほうが助けられちゃうなんて……!」
目を覚ましたヒメカは、顔を真っ赤にして、そう私に謝ってきた。
ちなみに、ヒメカの目を覚まさせたのは、
私が〈邪神〉パワー&〈邪神〉知識で生成した霊薬水である。
ゲーム的に言えば、どんな状態異常も回復させ、
体力も全快させる魔法の薬だ。
グヘヘ……ヒメカには、口移しで飲ませましたとも。
お姫様の眠りを覚ますのは、愛のKISSが定番であるゆえね!
ウヒッ☆
ヒメカが目を覚ましたあと、人除けの〈結界〉を張って、
レストランのスタッフとお客さんたちを霊薬水で起こして回った。
無論、その他大勢のひとたちに、口移しで霊薬水を
飲ませるわけはない。
霊薬水を小さな水球にして、無理矢理、
口の中に放り込む方法で起こすことにした。
これが、なかなかに手間だった。
レストランのスタッフと、お客さん、合わせて霊薬水を
投与した数、四十三名。
で、目を覚ましたひとたちに、ヒメカがひとりずつ、
魔法で暗示をかけることになった。
『ガス漏れで異臭騒ぎになったが、問題は解決した。
安全に食事を続けられる』と。
ホテルの防犯カメラの記録などは、あとで対策するとのこと。
レストランは、今頃、何事もなかったように、
営業されていることであろう。
かくして白昼堂々の襲撃事件を隠蔽し、私たちは現在、
同ホテルの最上階、いわゆるペントハウスに移動していた。
高級ホテルの、最上級スイート・ルーム、ってヤツである。
私のような小市民的には、これが、驚くほど広い!
私の家の敷地面積より断然広くて、草生えますわ。
ゆりちゃんは、そのまま寝かせており、ベッド・ルームにて、
引き続きお眠してもらっている。
襲撃犯たちは、私の念動パンチの威力によるダメージが強すぎたため、
口を利ける状態ではなかった。
死ぬほどの怪我じゃないと見たので、呻き声が鬱陶しいし、
公園の時の連中と同じく、〈邪神〉パワーで氷漬けにして、
部屋のバス・ルーム(広い!)に転がしてある。
こんなに早く襲撃を受けたのは、公園で凍らせた〈聖導庁〉の仲間が、
私たちを尾行していたからではないか。
私たちは、そのような推測にたどりつく。
まだ、他にも襲撃犯たちの仲間がいるかもしれない。
だったら、逆に、下手に場所を移さず、草薙さんたち警察の増援を
頼んだほうがよかろう、と、私たちは考えた。
このホテルに、籠城する作戦である。
襲撃の実行犯たちと、音信不通になった仲間が釣れるかもしれない、
との目論見もあったからだ。
草薙さんへの連絡を終え、私とヒメカは、バー・カウンターまである
大広間のような部屋の、備え付けられたソファに、一緒に座っていた。
ふたりして隠蔽工作したり、思案どおしだったので、
やっと一息ついたというところである。
けれどヒメカは、このタイミングで、目を覚ました時の続きとばかりに、
自己叱責を始めてしまった。
「本当、恥ずかしい……! お師匠様に、化学兵器には足下を
掬われやすいから注意するように、って、厳しく言われてたのに……!」
もう、穴があったら入りたい、くらいの勢いで、
紅くした頬に両手を当て、うつむくヒメカ。
「────いやまあ、仕方ないよ。変な匂いとか、
全然しなかったし……なんて言うか、プロのボディガードとかでも、
防げないんじゃないの? ああいう催眠ガスは」
ヒメカの凄い凹みっぷりに、私は、そうフォローを入れた。
クラスメイトになってからこっち、いつも優等生なヒメカしか
見てなかったから、新鮮だなあ、こういう顔。
フォローを入れつつ、密かにヒメカの表情を、
脳裏に焼き付けちゃう私である。
端的に言って、かわいい……! チューしたい! グヘヘヘヘ。
「そうかもしれないけど……もし、あゆちゃんまで眠らされてたら、
今頃ゆりちゃんは、また攫われてたかもしれないし、
あゆちゃんにも危害を加えられてたかも、って思うと、
わたし、自分が情けなくて────」
「……でも、攫われてないし、私は大丈夫だよ。ヒメカは、自分に厳しすぎ」
さすがに、今の落ち込んでるヒメカの唇を奪うわけにはいかない。
空気を読み、ヒメカの腰に手を回して、体を抱き寄せる私だ。
……うーん? 空気読んでるかな、コレ?
しかも、身長差のせいで、私が自分の頭を、ヒメカの胸元に預けて、
半分しがみついてるような格好になってるのが悲しい。
まあいいや、このまま続けちゃおう。
「ヒメカ、今のうちに、私の弱点、言っておくね。
……私、物凄く強い魔力と〈力〉を持ってるけど、その反面、
他人の魔力を、ほとんど感じ取ること、できないんだ────」
「そう、なの……?」
意外、と言ったような顔をするヒメカ。
まあ、そりゃあそうだろう。
〈邪神〉の転生体が、そんな初歩的なこともできないのかと。
「うん。だから、魔力による奇襲攻撃とか、妨害行為には、
とっさに反応したり、対処できないかもしれない────でも、
ヒメカは、魔力の流れとか、気配を、簡単に察知できるんでしょ?」
「う、うん、それは、できるよ」
「じゃあ、そっち方面の対策は、ヒメカにお願いするね。
私、魔力絡みの探知とか索敵とか、絶対無理だから。でも、
物理的な障害からは、私がヒメカの助けになれると思う。
……まだ、〈魔法少女〉見習いだけど」
そう言って、ヒメカに笑ってみせる。
「あゆちゃん……」
「ね、ヒメカ。お互いに、かばい合って、助け合って、
支え合っていこうね。そしたら私たち、絶対無敵だから」
どこかで聞いたような言葉を、足して二で割ったような台詞で、
ヒメカを励ます。
「うん────お互いに、だね」
ヒメカはそう言って、私の肩に手を回してきた。
ヒメカの温もりが、いっそう強く、伝わってくる。
────────おっと? イイ雰囲気かしら?
チューしてもいいカンジ?
シチュエーションも、高級ホテルで、ゆりちゃんはお眠だし、
チューより先のことも許される!?
うっふ、ドキドキしてきたんですけども……!?
ワクワクとムラムラが、ハチャメチャに押し寄せてくる……!
TOLOVEると遊ばなきゃ!?
おちゃめ☆GIRL! ふひっ!
ヒメカも、潤んだ瞳で、私の目を見つめてきてるし────とりあえず、
キスくらいは、いいよね?
私は、無言で、右手をそっとヒメカの頬に添えた。
ヒメカも、それに応じて目を閉じ、ゆっくりと、
私に顔を近づけてきてくれる。
私は吸いこまれるように、自分の唇を、ヒメカの唇に重ねようと……………。
ピン☆ポ────────ン♪
……重ねようとした直前に、そんな軽快な機械音が鳴り響いた。
来客を知らせる、ドアベルである。
「─────」
「─────」
私とヒメカは、お互いに目を開け、しばし、見つめ合ってしまった。
短く苦笑しあったあと、名残惜しくも、ひとまず、体を離す。
くうっ、お取り込み中のトコロを邪魔されるとは……!
DAMN! どこのラブコメ漫画だよ!
ホントにもーっ!
邪魔したの、誰~っ!?
「……草薙さんかしら? さっき連絡をしたにしては、
早すぎるけど────」
ヒメカが応対のため、ソファから立ち上がる。
私も、その背中に続いた。
襲撃犯の仲間が、増援でやってこないとも限らない。
なので、ヒメカに先んじて、〈邪神〉イヤーで、来訪者を
ドア越しに確認しておく。
………これは────長身の女性?
来訪者は、ひとりで、体格からして、
草薙さんとは違う女性のようであった。
ピン☆ポ────────ン♪
私たちが入り口ドアまで向かう間にも、再度鳴らされるドアベル。
ヒメカが、通路の壁に設置された小型モニターで、
来訪者の姿を確認する。
そのヒメカの口から、小さな溜息がもれた。
「ヒメカ? どうしたの?」
「………わたしの知り合いの、〈聖導庁〉の人間が来たわ」
私の問いかけに、わずかに眉根を寄せて、ヒメカが答える。
おやおや? 凹んでる表情のヒメカも珍しかったけど、
今の表情も、これまたレアだ。
なんというか、嫌そうな表情をしている。
「────もしかして、嫌いなひとだったりする?」
「嫌い、っていうか……苦手、っていうか────悪いひとじゃ、
ないんだけど」
ヒメカは返答に困ったように、そんなことを言う。
「……あゆちゃん、これから会う女のひと、呼吸するように
セクハラしてくると思うけど、驚かないでね。特に、
あゆちゃんみたいに、凄く可愛い女の子に対しては、
酔っ払った中年男性みたいに、しつこく絡んでくるかもしれないから」
「えっ」
ヒメカがそんな説明してくるとか、どんなひとだよ。
しかしまあ、陰キャ平凡女子の私には、関係ないか。
………いや待った、今の私、〈認識阻害〉の魔法が解けて、
美少女になってるんだった!
長いこと、フツメン女子を自負して生きてきたから、
うっかり忘れがちな、現在の我が容貌。
うーん、どんなセクハラな言葉を投げかけられてしまうんだろう。
ヒメカに対してめっちゃセクハラしたい願望はあるし、
実際、セクハラ気味に、本日、公園にてヒメカにキスしちゃってるけども。
私自身は、過去に、ひどいセクハラを受けたことはない。
ちょっぴり、不安になって、ゴクリと喉を鳴らしてしまうんだぜ。
ってゆーか、そもそも、コミュ障気味の陰キャ女子である私が、
未知の人間に会おうとしてること自体、難問ではあった。
セクハラ問題と併せてのダブルパンチで、なんだか緊張してきた……!
いや、襲撃犯を念動パンチでKOしといてなんだけど、
『それはそれ! これはこれ!』なの!
私の緊張が伝わったのか、ヒメカが言葉を補足してくる。
「その、本当、悪いひとではないの。あんまり酷いようだったら、
私が止めるから」
「う、うん」
なんにせよ、今からバックれるわけにもいかないので、
ヒメカにうなずいてみせた。
私の返事を聞いてから、ヒメカは、意を決したように、
入り口のドアノブに手を掛ける。
────その表情が、これから協力者を招き入れる者の顔には
見えなくて、またちょっと不安になった。
とにもかくにも、ヒメカの手で、入り口のドアが、開けられる。
そこに立っていたのは、〈邪神〉イヤーで立体視していたとおり、
長身の女性であった。
身長は、ヒメカよりもさらに高い、180センチ以上はあるように見える。
首元から肩、胸元まで覆う幅広のケープが印象的な、
ところどころ金糸で縁取られている、白い修道服を身に纏っていた。
赤みがかった茶褐色……鳶色の髪は、長い。
その長い髪は、額の中央から綺麗に分けられ、
肩のあたりでまとめられているようだった。
肌の色は白く、なんとなく、北欧系の血統に見える。
美麗という表現が似合う、整った顔で、切れ長の目は、琥珀色。
口元には微笑が浮かんでおり、切れ長の目と併せたその表情から、
何故かおとぎ話の、チェシャ猫を連想してしまう。
修道服ということもあり、肌の露出は少ないのだが、
身体の凹凸が著しい。
ヒメカもグラビアモデルばりの体型だけれど、こちらはさらに
サイズが倍増の、西洋人ホットガール・スタイル。
修道服の下からにもかかわらず、胸と、腰のくびれと、
お尻の主張が、激しいこと激しいこと。
昨夜のママの、スリング・ショット水着セクシー・ボディほど
ではないけれど、グンバツにエッチな恵体をしていらっしゃる。
右手には、紺色を基調とした、鈍い金色の模様が入っている、
細長い傘が握られていた。
傘の持ち手も鈍い金色で、凝った装飾が施されている。
日傘だろうか。
およそ、〈神〉に仕える〈聖導庁〉の人間とは思えぬ、
妖艶な美貌が際立つ女性。
言い表すなら────白の、妖しい麗人。
それが、ひと目見た私の、率直な感想であった。
………それはそれとして、立派なお尻とおっぱいへと、
チラチラ目を向けちゃうよね、とりあえずは。
「呼び出してごめんなさい、エスト。でも、〈聖導庁〉の人間が、
幼児を誘拐・拉致監禁をしてる疑いがあるから────」
ヒメカが、白の麗人に対して、そう切り出す。
それを制するかのように、エストと呼ばれた麗人は、
静かに、部屋の中に身を躍りこませてきた。
そして、ヒメカを一顧だにせず、一直線に、
私に近づいてくるではないか。
ヒメカの説明のこともあって、ちょっと怯んで、身構えてしまう私。
「ちょ、ちょっと、エスト!?」
ヒメカの呼びかけにも構わず、白の麗人は、私の間近に迫ると
片膝をつき、左手で私の手を取ってきた。
あまりに自然な流れの動作だったので、私はそれに
抵抗したものかどうか、迷ってしまう。
そのうちに、白の麗人は、微笑と共に、口を開いてきた。
「初めまして、可愛いらしい御方。私の名は、
エスト。エスト・メレーⅤ世────早速だが、
君の、産まれたままの姿を、この目にしたいな。そして、ふたりで
深く愛を育みたい。いかがかな?」
「はぇ!?」
イキナリなに言ってんの、この女!?
開口一番に、『全裸を見たい。助平しようや(※意訳)』と言われ、
さすがにエロゲ大好きの私も、驚愕のドン引きだ。
私の返事も待たず、畳みかけるように、麗人、エストさんは、
言葉を続けてくる。
「都合の良いことに、ここは趣のあるホテル。日明香くんの
目が気になるのなら、私が、別に部屋を取ろう。めくるめく夜を過ご」
ゴッ!
そんな鈍い音がして、エストさんの言葉はさえぎられた。
ヒメカが、いつの間にか出現させていた、例の魔法少女の杖で、
エストさんの後頭部を、殴打したのである……!
それ! まさしく致命的な一撃!?
「ちょっ、ヒメカ!?」
容赦のない一撃に、慌てて制止の声を掛ける。
いや、もう手遅れなんだけど。
「大丈夫だよ、あゆちゃん。このひと、これぐらいじゃ死なないから」
ハイライトの消えた、冷ややかな目で、ヒメカはエストさんを見ている。
ヒメカの言葉どおり、エストさんは、軽やかな笑い声を上げながら、
何事もなかったように立ち上がった。
「久々に、いいスイングをもらってしまったな。私でなかったら、
即死しているよ、日明香くん」
「即死させたくて殴ったもの。……それより、その手を放して」
ヒメカ!? どうしちゃったの!?
あまりに辛辣な物言いに、あやうく、そう声をあげるところであった。
さらっと殺意十分な発言をするヒメカに、驚きを隠せない。
一方、言われたエストさんは、涼しい顔だ。
余裕の笑みで、ヒメカを見ている。
「君の知人に、こんな珠玉のような姫君がいたとは。ああ、君のことも
もちろん、常々、珠玉のごとき少女だとは思っているけれどね」
「心にもないこと言わないで。いいから、その手を放しなさい」
ヒメカの声に、苛立ちが混じってきている気がした。
エストさんも、そんなヒメカの様子に気がついたようで、
いたずらっぽい笑みを浮かべてくる。
「なにをそんなに怒ってるのかな? 私が、こちらの可愛らしい
お嬢さんの手を握っているのが、気に入らないのかね?」
「……とにかく、早く手を放して。初対面の相手の手を、
馴れ馴れしく握り続けるのは、失礼だわ」
ヒメカの苛々した、棘のある返しに、フム、と短くうなずくエストさん。
そして、私に向かって、ニヤリと笑いかけてきた。
「そうは言ってもだね。可愛らしいお嬢さんのほうも、私に興味が
あるようだが。いや、私の乳房と、臀部に、かな?」
そう言って、我が胸を誇るように反らして、こちらへ突き出してくる。
─────チラ見がバレとる!
図星を指された私は、赤面するしかない。
「あゆちゃん……?」
ヒエッ……ヒメカのまなざしが、絶対零度─────!?
「やっ、ヒメカ、違くて……!」
何も違わなかったが、そう弁解じみた言葉を口走ってしまう私。
そんな私がおかしかったのか、エストさんは、愉快そうに笑い声をあげた。
……ナニ笑てんねんコイツ! おまえのせいやぞ!
具体的には、おまえのおっぱいとお尻のせいやぞ!(責任転嫁)
「いやいや、失敬。日明香くんが感情的になっているのが、
珍しくてね。つい、揶揄ってしまった。許してくれたまえよ」
ニヨニヨと笑いながら、エストさんは、ようやく私の手を放した。
それから、私の瞳を覗きこんでくる。
「それはそれとして。麗しの君よ、お名前を
伺ってもよろしいかな?」
あっ、そうか、まだ名乗ってなかったっけ。
………どうでもいいけど、このひとの喋り方、ヅカの男役っぽいなあ。
それが似合う美貌だから、なんかちょっと腹立ってくるわ。
「潮あゆらです。〈魔法少女〉見習いです。よろしくお願いします」
なんとなく、名前は教えたくなかったけれど、そういうわけにもいくまい。
素直に名前と、無難な自己紹介を簡潔に述べ、ペコリと頭を下げる。
「あゆらくんか。うん、良い響きの名前だ─────できれば今宵、
ベッドの上で、君の耳元に、その名を囁かせてほし」
ゴッ!
またも、エストさんの言葉はさえぎられた。
無論、ヒメカの激しい殴打によって。
……………本当に信用できるのかね、このひと。
このひとと情報共有することで、ゆりちゃんを助けるための
糸口を掴めるのか、はなはだ不安になってしまうのだった。
百合に挟まる美女は無罪……?(^ω^;)




