転2 〈邪神〉だけど、思い出せない。
ダーレス先生の設定をいただいております(^ω^)
クトゥルフ────〈旧支配者〉、〈神〉。
秘されし伝説と神話に通じる人間たちからは、〈邪神〉と呼ばれる存在。
遥かな古の時代、幾多の〈旧支配者〉らの中で、
〈祭司〉として一際その名を轟かせた一柱。
四大根源属性の〈水〉を司る〈神〉。
しかし、〈旧神〉と呼ばれる神々との戦いに敗れ、この地球の太平洋、
その海底奥深くに封印されてしまった。
以来、永き時を、深海の底で、死んでいるような眠りについたまま、
現在に至る───────。
………それが私、潮あゆらの本体である、〈邪神〉クトゥルフの、簡単な
プロフィールだ。
私の魂は、本体から分かたれた、分霊、分け御霊。
それもおそらく、末端も末端、木っ端程度の分身体、といったところだろう。
人間として転生できたのは、〈旧神〉の封印を、こそ~っとすり抜けられる
くらい、魂の〈力〉のほどが、微少であるからに違いない。
アレだ。
衛生用マスクの、ミクロな網目より小さければ、ウイルスもすり抜けてしまう的な感じの。
まあ、そのへんはどうでもいい。
〈邪神〉の分霊体として覚醒したのはいいけれど、問題がひとつ。
────────なんで、私、人間に転生してるんだっけ……!?
自分が〈邪神〉クトゥルフの分霊体ということは、はっきりわかる。
けれど、〈邪神〉クトゥルフとしての記憶が、すっぽり抜け落ちてしまっているのだ。
……これは、由々しき事態である。
人間、潮あゆらとしても、〈邪神〉クトゥルフの分霊体としても。
〈邪神〉クトゥルフ本体が、なにかしらの目的のために、分霊体である私を人間に転生させたのだろうから。
その目的を思い出せないのは、まずい、としか言いようがない。
たとえば、地球上の人類を、絶滅させるための尖兵として送り込まれた、とか、
そんな理由だったら……?
それは、困る。
端的に言って、困るの一言だ。
だって、私、人間を滅ぼしたくないし。
そりゃあ、さっきみたいに、リア充連中からいじめられたりするのは嫌だし、ムカつくけど。
だからって、ああいう連中を殺したり、根絶やしにしたいとかは思わな────
ごめん、やっぱチラッと思ったことあったかも。
リア充、SHI-NE!
もといもとい。
そう、一部に嫌な人間がいるからといって、即みんなブッ殺!、とか、ぶっちゃけありえないじゃない?
聖書の神様だって、『この都市滅ぼすけど、善良な人間くらいは見逃したるわ~』って、慈悲深ムーブしてるし。
それよりなにより、大事なのは、私の家族だ。
普通に善良で、優しい両親と、妹。
ついでに、数少ない友達と、ゲーム仲間のオタ友などなど。
〈邪神〉覚醒したからって、人間として生きてきたこの十六年間が、消えるわけじゃない。
『んじゃいっちょ、人間どもをKILL THEM ALLしてくれる?』
とか、〈邪神〉クトゥルフ本体のほうから命令されたとしても、家族を殺すなんてこと、できるはずない。
それに……………私はもう、超!がつくほど、ズブズブのオタクだ。
もう、漫画・アニメ・ラノベ・ゲーム・映画なしでは生きていけない─────!
サブカルはいいね!
人間が生み出した文化の極みだよ!
こんな素晴らしいモノを創り続ける人間を滅ぼすとか、とんでもない!
まだまだ連載中の漫画とかもいっぱいあるし。
休載したまま、続きをず~っと待ってる作品だってあるもの。
人類滅ぼしたら、結末が読めなくなるじゃん!
もし、〈邪神〉クトゥルフ本体の目的が人類抹殺だったら、逆に私が本体を殺してやる!
………とはいえ、現実問題、クトゥルフ本体に、私の〈力〉は及ぶべくもない。
〈邪神〉覚醒したけれど、ベースとなる〈魂〉のエネルギー総量が、本体と比べると、絶望的に少ないことは、確定的に明らか。
人間よりは遥かに強いが、〈神〉には全然、届かないかな─────。
それが、今の私、潮あゆらという存在だ。
私に備わる〈力〉、〈権能〉は、〈邪神〉覚醒したことで、把握済み。
まず、超身体能力。
すごく速く動けて、すごく強い。(語彙力なし)
超視覚能力に、超聴覚能力。
目がすごく良くて、耳もすごい良い。(語彙力なし②)
ちょっとやそっとの致命傷でも、簡単に死ぬことはない超再生回復能力。
念じただけで、物理的な作用を引き起こす、念動力。
あ、そんで、空も飛べるわ。
う~ん、超人的には、『マ●ティ・●ー』より上で、『マ●・オブ・ス●ィール』よりちょっと下、くらいかな?
でも、物理的な〈権能〉は花◎だけれど、精神系の〈権能〉は、ないに等しい。
ゲームのユニット的に言うと、完全な攻撃型みたい。
そして、一番の目玉は、〈邪神〉クトゥルフが司る根源属性──────〈水〉。
まったくの無の状態から、水を発生させることができる。
その水を氷に変えることもできれば、熱湯にもできるし、空中で自由自在に動かすことも可能だ。
……水芸ができるな。
これで手品師として、飯が食っていけるカモ。
それだけではなく、〈神〉の権能で、霊薬水……RPGでいうところの、回復アイテムな液体も精製可能なこともわかった。
うっふ、それを売って、億万長者になるのもアリじゃない!?
────せっかく〈邪神〉覚醒しても、陰キャぼっちのオタクである私が発想するのは、こんな低俗な人生設計くらいのものだ。
ああ~もう~、なんで、中途ハンパに覚醒しちゃうかなあ~……!
ほぼほぼ〈邪神〉としての記憶がない状態で覚醒するくらいなら、ただの
オタク女子のまま、一生を終えたかった────!
そんなことを内心で叫びつつ、ふと、思う。
……実は、そんな妄想をしてしまうくらいの、ちょっとアレなオタクなだけでは………?
虚構と現実の区別がついていない、かわいそうなコ、っていう。
うすら寒い考えを思い浮かべてしまった私は、教室に戻ってきていた。
自分の鞄を取りに来たのである。
教室にはもう、誰もいなかった。
私は自分の席まで行くと、教室の周囲に人がいないことを、驚異的に上昇した聴覚能力で確認する。
それから、自分の机に向かって、右手をかざした。
特になにか気負うこともなく、ひとつ、念じる。
「よっ、と……」
すると、かざした右手の先、その宙に、握り拳くらいの大きさをした、水の球が出現した。
えらく、簡単なもんである。
────妄想じゃ、なかったかあ………。
出現させた水の球を眺めて、私は、喜んでいいやら、落胆していいやら。
ふよふよと浮かぶ水の球の下に、かざしていた手の、掌を上に向けて広げて
から、またひとつ念じる。
凍れ、と。
水の球はたちまち、白い冷気を放つほどの氷に変わり、すとん、と私の掌に落ちてくる。
冷たっ!
掌に収まった氷の球を、バキンと怪力で砕いたあと、今度はまた、水に戻してみる。
砕かれて氷片になったそれらは、瞬時に水となり、机の上にこぼれ落ちた。
次に、机の表面に広がったいくつもの水滴の上に、右手をかざした。
それから、その手をそのまま、水滴を撫でるように、ゆっくりと横に振る。
すべての水滴は、湯気を上げ、蒸発して、消えた。
自由自在である。
まあ、水の〈神〉だしね。
〈邪神〉だけど。
自分が妄想癖のある、精神異常者ではないことを確認できて、ひと安心。
ン────? いやいや、結局、自分が〈邪神〉の転生体だと再確認してしまっただけか?
なにも安心できることじゃなかった……!
私は軽く溜息をついて、机の脇に置きっぱだった鞄を背負い、帰ることにする。
本屋に寄って、漫画とラノベの新刊をチェックしてから家に帰るつもりだったけど、今日はもう、そんな気分じゃない。
直帰だ、直帰。
とりあえず家に帰って、今後のことを考えよう。
教室に備え付けられた時計を見る。
……はあ、しかし、時間を無駄にしてしまった。
さっきは、HRが終わるや否や、いきなり野口に呼び出され、ノコノコと着いていったら、あの始末。
まったくの不意討ちだったなあ~。
まさか、学園一の美少女とチョロっと会話してたくらいで、いじめに遭うとか、思わないよね……。
それで〈邪神〉覚醒しちゃうし、もう、ふざけんなよと。
こんないーかげんな覚醒で、私にどうしろと。
〈邪神〉クトゥルフ本体に、厄介なお客のノリで、クレームを入れたい気分。
それ以外にも、私の胸の中は、憂鬱ともまたちょっと違う、なにかモヤモヤとした気持ちでいっぱいだ。
足取りも、自然と重たくなってしまう。
そうして、玄関で靴を履き替え、校舎を出ようとしていたところ。
「潮さん!」
と、澄んだ、明るい声で、名を呼ばれた。
「あ……」
振り返った私は、そんな間の抜けた声をもらしてしまう。
────白金髪の、背までのびた長い髪。
前髪は額で綺麗に切り揃えられており、両サイドの髪は、首元くらいまで。
瞳の色は翡翠色で、切れ長だが、柔和そうな目。
桃白色の肌で、ピンク色の唇のある顔ときたら、もう、天使のよう。
『姫か!』とツッコミを入れたくなるような、美少女が、そこにいた。
……私がトイレで囲まれる原因となった、学園一の美少女。
いや、この都市一番の、いやさ、ひょっとしたら、世界一の美少女じゃね?
そう思ってしまえる彼女こそが、件の少女、苑草日明香さんだった。
「今、帰り? HRのあと、野口さんたちと一緒に、教室を出ていってたみたいだったけど」
「あ、う、うん。ちょっと掃除みたいな用事があったんで……」
美少女の問いにキョドり、えへへ、とごまかすように笑う私。
よもや、『貴方と会話したせいでいじめられそうになった』なんて、言えるはずもない。
私の応えに、ふうん?、と小首をかしげる苑草さん。
「あ、そ、苑草さんは、どうしたの。まだ、学校に用があったの……?」
苑草さんがなにか不審に思う前に、と、先んじて話題を取り繕う。
「自習室で宿題しようかな、って思ったけど、なんだか気分が乗らなくて。今日は、早く帰ることにしたの」
「そ、そうなんだ……。苑草さんでも、そういう時、あるんだね」
「それは、あるでしょ」
そう言って、苑草さんはにっこりと笑う。
はわー、なんなの、この天使! マジ天使!
こんなん、男子が見たら、惚れてまうやろー! イチコロやろー!
って言うか、私は既に、惚れている。
めっちゃ好き。
ああ、思い出の扉が、開いてしまう────!
「……あれ?」
私がひとり舞い上がっていると、苑草さんは、まじまじと私の顔を見つめてくる。
「潮さん、メイクし直した?」
「へ? い、いや、してないけど……?」
「そう? 朝からのとは、印象が違って、かわいくなってるから……あ、潮さんは、いつもかわいいけどね?」
『印象が違って』というフレーズにドキリとしつつも、エエ娘や……と感激してしまう私だ。
こんな陰の者にまで、気を遣ってくれるとか、改めて、苑草さん、マジ天使。
そんな風に言ってくれるのは、お母さんと妹以外では、一握りですけん。
……あっ、化粧とか、服装を褒められたら、相手の方にもちゃんと褒め返したり、リスペクトするのが、陽キャ女子ルールだっけ……!?
「あ、ありがと……あ、そ、苑草さん、唇の色、綺麗だよね。な、なにか口紅とか、リップとか、つけてるの……?」
って、い、言い方~! 褒めドコも、唐突~!
コミュ障丸出しか、私~……!(泣)
だがしかし、性格も天使な苑草さんは、キョドい私の言動に引くことなく、微笑んでくれた。
「唇には、このシーズンだと、特になにもつけてないかな。潮さんは?」
「わ、私も、特には……でも、苑草さん、素でそんな綺麗な色してるんだ。うらやましい……」
いや、マジで綺麗な色ですもの。
潤いと瑞々しさあふれるその唇、奪いたいね、TONIGHT……!
「そうかな? そういうこと言われたの、初めてかも。なんか嬉しい」
そう言って、苑草さんは、また微笑む。
ははァ~ん、さては、女神かな?(名推理)
「────そうだ。潮さん、今日、これから時間ある?」
「え? あ、う、うん、普通に暇だけど」
「せっかくだから、駅のお店でお茶して行かない?」
「あ───う、うん! 行く!」
苑草さんから、お茶のお誘い。
頭でそのことを理解した瞬間、脊髄反射で、私はうなずいていた。
あっ、いやしかし、苑草さんと、ふたりきり?
やばくね!?────話が保つか、わからん……!
でもでも、こんなチャンス、二度とないかもしれない。
うむ! たとえ、気まずい沈黙が続いて、ドン引かれて、その後敬遠されるようになったとしても、行くしか!
いやもう、行く、って返事しちゃってるけど!
「良かった。あ、潮さん、コーヒー系飲める? チェーン店の新商品で、飲んでみたいのがあるの。一緒に試してみない?」
「コーヒー? うん、全然飲める。……あ、新商品、って、今朝の新聞のチラシになってたヤツかな?」
「そうかも。わたしは、ネットで見たんだけど」
「公式サイトとか、チェックしてるんだ?」
「好きなお店だからね。ネット注文することもあるから、会員登録もしてるんだ。新商品お知らせのメールが来たりで、便利だよ」
……お、おお?
なんか私、普通に会話できてる? これで正解? ヘンじゃない?
中学時代の友達と、オタ友以外で、校外で同年代女子とまともに三行以上話したの、久々かもしらん……。
そのあとも、ドン引きされないよう、懸命に普通女子トークを意識しながら、苑草さんと会話を続け、校舎を後にする。
……好きなひとと話すの、すっごい楽しいわ。
いじめられそうになったことも、なかったかのように、心が軽い。
〈邪神〉覚醒したこととか、なんかもう、ど~でもよくなってきた。
────転生した使命? 知らん知らん。
今、私に大事なのは、苑草さんとめっちゃ楽しいコーヒーブレイク!
飲まなきゃ……!(使命感)
おもしろいと思ってくれたらいいナ……エヘヘ(^∀^)




