転18 〈邪神〉だけど、ランチタイムと決意。
【本編と関係ない設定】〈魔法少女〉は、大正時代から活動が確認されてるゾ!(「鬼●の刃」っぽく)
で、その後。
私が氷漬けにした男たちは、今現在、ヒメカの出動要請によって、
公園にやってきた警察の下で、拘束されていっている。
拘束、というか、氷像状態の男たちを、ブルーシートに包んで運搬している、
と言ったほうが正しいか。
なんにせよ、行き先は、警察の拘置所とかだろうけれど。
警察、そう、警察だ。
衝撃の事実。
〈魔法少女〉は、警察、というか、日本政府、
国家権力と連携しているのだ……! ビックリだね!
訊けば、ずいぶん昔から、〈禍威魔〉との戦いを筆頭に、
超常的な事象に関する事件では、協力しているのだとか。
オタクな私は、アニメや漫画の〈魔法少女〉とは、違うんだな……と、
しみじみ思ってしまう次第。
とは言っても、事情を知る警察官たちは、限られた人間らしい。
警察の中でも、ごく一部である、秘密の特殊捜査課。
─────いいねいいね~!
中二病患者の私としては、そういうの、大好物~!
私的には、秘密の警察官チームに興味津々だったが、
出しゃばってアレコレと質問して回るわけにもいかない。
〈聖導庁〉の連中の氷は、一時間程度で溶けることだけを
ヒメカに告げて、あとは傍観モード。
ゆりちゃんの手を握り、ヒメカの背の後ろへ、
隠れることに徹するのだった。
ヒメカは、私のことを、警察の方々には、〈魔法少女〉見習いだ、
と説明している。
すると、現場指揮官らしい、私服姿の女性警察官から、
敬礼などされてしまった。
「広域特殊捜査一課、課長の草薙敦子です。
苑草のお嬢様には、大変お世話になっております。
どうぞよろしくお願いします」
「は、はひっ。あっ、わ、私は、潮あゆらと言います。
こちらこそよろしくお願いしましゅ!」
お返事は、カミカミになっちゃいましたとさ。
だって~、〈邪神〉覚醒しても~、根は陰キャオタク女子なんだから~。
平時にいきなり、知らん大人、しかも女性警察官との会話で、
テンパるな、っちゅーのは、無理な話よ。
自分から個人情報晒すのは、ちょっとためらわれたけれど、
普通に自己紹介しておいた。
ヒメカは本名を名乗ってるみたいだし、ヒメカも特に何も言わなかったので、
まあ、大丈夫だろう。
そんな中、男たちを運搬していく警察のひとたちから、
やたらチラチラと見られている気がした。
────なんやねんおう、陰キャの〈魔法少女〉見習いが、
珍しいんかい!?
ソワソワまぎれに、内心、そうイキっちゃったけれど、
ふと、思い出す。
そういや今の私、〈認識阻害〉の魔法が切れて、めっちゃ美少女に
見えるようになったんだった。
ヤダ私ったら、注目の的!? 盗撮されて、SNSに画像アップされて、
バズっちゃったらどうしよう!
……なんて、ポジティヴな感じで、自意識過剰になれたらいいのだけれども。
うへえ、ものスッゴい、落ち着かない………。
『あ~、美少女な悪役令嬢に異世界転生して、ヒロインムーヴやって、
有象無象からチヤホヤされてーなあ~』
などと、常日頃、ふざけたラノベ妄想をしてたけれど。
多数の知らん人間から、好奇の目で見られるのが、
こんなに居心地悪いとは……!
ヒメカってば、昔から美少女で、周囲から、無遠慮な視線を向けられ
続けてきたんだろうな───────。
ってか、初対面のくせに『てんしさまですか?』とか、無遠慮に
ヒメカの顔をジロジロ見たの、私じゃん!
ぐぐわ~! 幼かったとはいえ、有罪!
ごめん、ヒメカ! 今頃になって、モーレツに反省~……!
「それじゃ、行こうか────あゆちゃん? どうかしたの?」
幼き日の、おのれの蛮行に、ひとり苛まれていると、
草薙さんとの話を終えたヒメカが、私の顔を覗きこんできた。
「あ、いや……ヒメカって、凄いな、って思って────。
普通に学校に行ってるのに、プライベートじゃ、警察のひとたちと
お仕事してるんだなあ、って」
口にしたのは別のことであったが、そう思っていたのは、
本当のことである。
一年生の時の、年度末試験の成績、ヒメカは学年第三位であった。
〈禍威魔〉とかいうのと、夜に戦ったりして、警察とも
仕事して……どこの完璧超人なのよ、私の婚約者は。
そんな感心も含めた私の言葉に、ヒメカは照れたような笑みを浮かべる。
「わたしひとりの力じゃないよ。家の者も、手伝ってくれてるから」
……謙虚! かわいい! 抱きしめたい!(欲望)
情熱の赴くまま、本当にヒメカを抱きしめたかったけれど、
ゆりちゃんという幼女のいる手前、自重する。
いや、幼女のいる手前、ってゆーか、他にも警察の皆様も
いらっしゃいますけども。
うん、さすがに、公衆の面前では、過度なスキンシップ(意味深)は
できないよね。
それで、というわけでもないけれど、私たちは、ゆりちゃんを連れて、
タクシーで、レストランへ移動することになった。
「おなかすいた!」
と、ゆりちゃんが、激しく主張しだしたからである。
んっふ、お姉ちゃん、かわいい女の子のおねだりには、かなわないなあ~!
それに、〈聖導庁〉の連中のことを、ゆりちゃんから聴き出すのは、
落ち着いた場所のほうがよかろう、と判断したのもあった。
そうしてやってきたのは、駅前の、高級ホテル。
その施設内三十二階で営業している、これまた、お高そうな
レストランの門前であった。
先導者は、もちろん、ヒメカ。
────レストランで食べよう、とヒメカが提案したものだから、
私は、素直に賛同。
てっきり、昨夜、電話にて話題に上った、ファミレスに行くのもの、
と思っていた。
それがどっこい、ブルジョワ(死語)なホテルとお店で、驚きと、
未知への恐怖で震えてしまう。
お店の看板には、英字筆記体っぽい字で〈セレスティアル・ガーデン〉と
書かれていた。
〈天空の苑〉、ってことかしら。
もう、看板の時点で『庶民の方、お断り』って雰囲気感じるんだけど、
気のせいかな?
いやいやいや、気のせいじゃないのは、確定的に明らか!
お値段もまだ確かめてないけど、ココ、一食で、私の一ヶ月のお小遣い、
絶対消し飛んじゃうでしょ!?
しかも、お支払いはカードしか受け付けておりません、的なトコでしょ!?
……………お水だけ、いただいとこうかな~。
レストランの入り口をくぐる前から、そう密かにブルっていると、
ヒメカが、私を安心させるように、微笑んでくる。
「支払いとかは、大丈夫だよ。このホテル、わたしの家のグループが
経営してるから」
「えっ」
“わたしの・家の・グループ”
言葉の意味は理解できても、現実の把握が追いつかず、一瞬、
思考停止状態に陥ってしまった。
やっぱ、ひょっとしなくても、ヒメカのおうち、超☆上流階級?
ものすごいお金持ち?(語彙貧弱)
そう思ったけれど、なんとなく、そのあたりの話題を今、
掘り下げるのは、いけないような気がした。
だから、疑問も驚きも、無理くり心の脇へ追いやって、
ヒメカに笑ってみせる。
「そ、それじゃ、おごちそうになっちゃおうかな……?」
「はい、ごちそうさせていただきます♪────ゆりちゃんも、
いっぱい美味しいご飯、食べようね?」
「うん!」
ヒメカの聖母スマイルに、ゆりちゃんは、無邪気に笑ってうなずいた。
うん、幼女にはわかんないよね、お店から感じられる、
この高級感は。
私も幼児になって、なにも考えずに、お料理を美味しくいただきたいよ、
ホント。
ってゆーか、こういうお貴族様向けのお店ってば、
ドレスコードとかあったりしない?
私、半袖パーカーにハーフパンツ、っていう、思いっ切り、
下町キッズスタイルなんだけど?
そんな不安と心配も、ヒメカの姿を認めた、受付嬢の反応を
見るまでであった。
「いらっしゃいま……お、お嬢様……っ!」
レストランの受付嬢の表情が、営業用の笑顔から、一瞬で、
驚愕一色に染まる。
それはもう、劇的な変化と言ってよかった。
ヒメカは、緊張で固まりかけてる受付嬢に、にこりと笑いかける。
「こんにちわ。今から三名で、ランチをお願いしたいの。
奥の部屋、空いてるかしら」
「は、はい! 空いております! しょ、少々お待ちくださいませ……!」
半ば浮き足立った様子で、受付嬢が、店内へとすっ飛んでいった。
……………うん、服装、問題なかったわ。
私は、入り口から、レストランの中を眺める。
レストラン内の床は、お金のかかっていそうな黒光りする石材で、
フロアのテーブルも、お洒落で高級感にあふれていた。
どこかに傷でも付けようものなら、弁償代金、二桁万円は裕に行きそう。
うわー、やだな~、なんか背中に、ヘンな汗かきだしたんだけど。
先ほど公園で、〈聖導庁〉の厳つい男たちを前にした時よりも、
断然ビビッてるわ。
引き続き、店の高級感に慄いていると、受付嬢が戻ってきて、
こちらに笑顔を見せてくる。
「お待たせ致しました。ご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
そう言って先導する受付嬢に、私たちは、ヒメカを先頭にして、
付いていった。
そして通された部屋は、『え? 億ション(死語)のリビング?』と
見紛うほどの、貴族的住居性を感じる個室。
広さは、学校の教室くらいだろうか。
部屋の中央に、ほどよい大きさの四人卓があり、右手の壁には暖炉、
左手壁際には大きなソファと壁掛けの大きなモニターが設置されている。
正面は、一面ガラス張りで、高層ビルだからこそのスカイビュー。
昨夜、〈邪神〉パワーで空を飛んで眺めた感じとはまた違う、
街の景色を見渡せた。
────きっとこの部屋、セレブが、身内だけのパーティとかで
使うトコなのでは。
JKふたりと幼女が、気軽に昼食キメていい場所じゃなくない?
そんな風に腰が引けちゃってる私とは対照的に、ゆりちゃんの
テンションは、爆上がりであった。
ガラス張りの壁面へと、一直線に駆け寄って、楽しげに声を上げる。
「うわーっ! すごいよおねえちゃん! すっごくたかいよ!
みてみて! ひとがゴミみたい!」
………うーん、ム●カかな?
この幼女、こちらが油断すると、口が悪くなる気がする。
「こら~、ダメだよ? また言葉遣い、悪くなってるよー。
人を『ゴミみたい』とか、言っちゃいけません」
「えー? じゃあ、むしけらみたい?」
「なんで悪口ばっかりになるの────。そして、どこで覚えてくるの、
そんなたとえ方……」
心配! この子の将来が、心配です!
親御さんの心労たるや、いかばかりか。
と、そこでやっと、今更ながら、ゆりちゃんのご両親は、
どうなってるのか、気になった。
ゆりちゃんが、〈聖導庁〉の連中に誘拐されていたのなら、
当然、両親は、警察に通報しているはずだけれど────。
それとも、両親とも、〈聖導庁〉に捕まってるとか……?
「ゆりちゃん、まずは座って? わたしたちの注文を聞けないと、
このお姉さんが、困っちゃうから」
ゆりちゃんの両親の安否について、思案しだしたところ、
ヒメカから、そんな声がかけられた。
うん、ひとまず、腹ごしらえをしてから、ゆりちゃんに事情を
訊くことにしよう。
ゆりちゃんの手を引いて、テーブルの席に座らせたあと、
私もその右隣に着席。
ヒメカは、私の対面に座った。
ゆりちゃんの椅子は、子供用の脚長のやつである。
受付嬢が、さっき、いったん奥に引っ込んだのは、
先にこれを用意したりしてたのかしらん。
ぼんやりとそんなことを考えているうちに、受付嬢は、
私たちの前に置かれたグラスに水を注いでいく。
「ゆりちゃんは、なにを食べたい?」
ヒメカは、にこやかな笑顔で、ゆりちゃんに問いかけた。
「オムライス! オムライスたべたい!」
「オムライスね。甘いほうがいい?」
「うん! あまいの、だいすき!」
嬉々として、うなずいてみせるゆりちゃん。
これには私もヒメカも、受付嬢のおねーさんもニッコリだ。
「うん、じゃあ、甘めの味付けしてもらおうね。あゆちゃんは、
鶏肉のお料理がいいでしょ?」
「あ、うん」
婚約者とはいえ、ご馳走してもらう立場なので、否やはないですとも。
ってゆーか、昨夜の電話の話題を、早速、尊重してくれているので
嬉しすぎMAX!
「揚げ物にする? ステーキにする?」
「んっ……と、揚げ物でいこうかな」
「揚げ物ね────こちらには、ケ●タッキー風の味付けで、
フライド・チキンをお願い。わたしは、いつものセットで」
私に確認を取ると、ヒメカは、受付嬢にそうオーダーする。
────ケ●タッキー風の味付けとか、そういう注文の仕方、アリなの!?
いや、ヒメカは〈グループ〉のお嬢様だから、許されるのか……!
私の婚約者って、スゴい。
私は改めて、そう思った。
その後、受付嬢はソフトドリンクと食後のデザートの注文を
確認したあと、退出していく。
受付嬢が部屋から出て、扉が閉められてから、私は、口を開いた。
「ゆりちゃん、オムライスが好きなんだ?」
「すき! だいすき!」
即答である。
うんうん、シンプル・イズ・ベスト、子供に大人気の
メニューのひとつだよね。
「おねえちゃん、オムライス、きらいなのー?」
「うーん? 私もそこそこ好きだよー?」
「“そこそこすき”、ってどれくらい? パーセンテージでいって?」
「……難しい言葉知ってるね、ゆりちゃん────そうだね~、
63%くらいかなー」
「あんまりたかくないね! すきどが!」
私の答えに、ゆりちゃんは、キャッキャッ、と楽しそうに笑い声を上げる。
「うん、お姉ちゃんの好き度100%のおかずは、鶏肉のお料理だからね」
「ええー? オムライス、おいしいよ? トマトケチャップとね、
たまごと、ごはんが、おくちのなかで、しあわせなメロディをかなでるの」
グルメ漫画ばりの表現に、私とヒメカは、同時に噴き出してしまった。
かわいいなあ、この子は!
「そっか、じゃあ、お姉ちゃんにも少し食べさせて?
お姉ちゃんの鶏のお肉も、少しあげるから。味の比べっこしよう?」
「しょーがないなあ~。いいよー、くらべっこしてあげる♪」
ニコニコと、ゆりちゃんは、おませに応じてみせる。
守りたい、この笑顔。
いや、思わずネットミームで願っちゃったけれども、守らなきゃ。
〈予知夢〉が見れるから、なんだ、っつーんだよ。
あんな胡散臭い連中に、こんな小さな子が、いいように
扱われていいわけない……!
〈邪神〉クトゥルフの本体……ママは、私に備わった〈力〉は、
私が思うように、好きに使っていい、と言った。
なら、私は、手始めに、この子を守ることにしよう。
公園でやってきたようなレベルの人間ばかりなら、きっと、できるはずだ。
いよいよ、ただの陰キャオタク女子だった昨日までとは、
違う日々が始まってしまう───────。
そんな、漠然とした予感を覚えながら、
私は、ヒメカと、ゆりちゃんに、笑顔を見せるのだった。
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