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邪神転生ガール  作者: megajoy
17/32

転17 〈邪神〉だけど、幼女を助ける。

ヨウジョナニモノ

“〈みず〉のおねえちゃん”


そう呼ばれて、驚くなというのは、無理な話だった。

見知らぬ幼女から、私の正体を、イキナリ言い当てられた

ようなものだったのだから。


〈邪神〉クトゥルフ、その〈水〉の根源属性を────。

私自身、昨日知ったばかりの真実を、どうしてこの幼女が

知っているのか……!?


「あゆちゃん? この子、誰?」


幼女の叫びに困惑している私に、ヒメカが、端的に尋ねてくる。

その声音が、これまで聞いたことのない冷たい響きだったので、

びっくりして、思わずヒメカの顔を見た。


……っ! 真顔……! さっきまで笑顔を見せていたのに、

真顔になっていらっしゃる……!

え? え? キレてる!? なんで!?


と、頭の中が疑問符でいっぱいになるも、はた、と

今の自分の格好に思い至った。

形だけ見れば、私は今、幼女と抱き合っている状態である。


ええ~っ!? もしかして、幼女に嫉妬ですか、ヒメカさ~んっっっ!?

なんて大人げない──────!


妬き餅を焼かれて、嬉しいような、困ったような……!

そんな複雑な心持ちになっていると、私に抱きかかえられた幼女が、

くりっ、とヒメカを見る。


「おねえちゃんの、かのじょさんも、たすけてくださいっ!!!」


「えっ、か、“彼女さん”……?」


幼女に言われたヒメカの頬が、ポッ、と紅く染まった。

表情のほうも、一瞬で、真顔から、恋する乙女の顔にチェンジ。


大人げない嫉妬による不機嫌さは、“彼女さん”の一言で、

あっさり霧散してしまったようである。

────うちの婚約者フィアンセが、

ちょっとチョロすぎる件について……!


脳内で、そんなスレッド題名がちらついてしまう。

しかし、そんな他愛のないことを考えてばかりもいられなかった。


謎の幼女を追ってきていた、四人の男たち。

そいつらが、ヒメカの〈結界〉魔法内に、ドカドカと乱入してきたのだ。


ヒメカも表情を険しくして、そちらへ、警戒の目を向ける。


男たちは、それぞれ紺色系のスーツを着ており、ネクタイをしめた、

ビジネスマンスタイルで統一されていた。

およそ朝の公園には、似つかわしくない。


全員、がっちりとした体格だった。

荒事専門を売りにしてそうなのが、何も言わずとも伝わってくる。


……まあ、一般のサラリーマンではないのは、確か。


だって、どいつもこいつも、顔がいかついもの。

言っちゃあなんだけど、みんな、悪役顔だ。


容姿差別とかじゃなくて、目に宿る光が、

どう見てもカタギのものじゃない。


以前までの私なら、男たちを前にしただけで、

ブルって漏らしてしまっていただろう。

けれど、現在の私は、“あゆら・〈邪神〉覚醒Ver(バージョン)”だ。


全っ然、怖くないね。

むしろ、

『まさかこの程度の手勢で、余に戦いを挑むつもりではあるまいな?』

って、ラスボス台詞を言いたいくらいの、

余裕アリのアリアリアリアリさよならだ(アリーデ・ヴェルチ)


抱きかかえていた幼女を、お姫様抱っこに抱え直しながら、

男たちの出方をうかがう。

すると、私たちをかばうようにして、スッ、とヒメカが前に出た。


「あなた方は、何者ですか」


魔法少女コスを恥じ入る様子もなく、ヒメカは、堂々と、

凛とした声で、男たちに質問する。


「………その子供を、保護している者だ」


リーダー格っぽい男が、ヒメカの格好をいぶかしむ様子もなく、

そう応えた。

─────応えるまでに、ちょっと、があったな。


怪しい。

怪しすぎる。


保護、とかぬかしたけど、絶対に警察関係の人間じゃない。

身分を明確に表明していない時点で、実はこいつら自身が、

この子を誘拐してる連中であるセンが濃厚である。


「うそっっっ!!! うそだもんっっっ!!!」


男の応えを聞いた幼女が、私の胸元で、そう叫び声をあげた。

リーダー格の男が、苦々しげに顔を歪ませる。


「と、この女の子は言っていますが」


ヒメカは、冷淡な声で、短く、男に追求の言葉を投げかけた。


「……その子は、複雑な事情がわかっていないだけだ」


「では、わたしに、その事情とやらを説明していただきましょう」


そう言うヒメカには、男たちに対して、まったく

譲歩する気はないようだった。

ヒメカも、男たちが胡散臭すぎて、信用ならないと思っているに違いない。


「……………この〈結界〉に、その衣装。この地を守護する、

〈魔法少女〉とお見受けする」


リーダー格の男がさらっと言い出した単語に、えっ、

と驚愕の声をあげそうになった。


なになに、この業界(どの業界だ)じゃ、〈魔法少女〉って、

普通に知れ渡ってる職業なの!?

私の〈邪神〉知識ってば、現代業界事情の最新版には、

アップグレードされてないのかしら。


「いかにも、わたしは〈魔法少女〉。〈星の黄金(ステラ・アウレーム)〉と名乗れば、

おわかりでしょうか」


威風堂々としたヒメカの名乗りに、男たちが、

わずかにひるんだような気がした。


星の黄金(ステラ・アウレーム)〉。

ヒメカの、〈魔法少女〉としての異名であろう。


やだ……私の中二病マインドがウズいちゃう─────!

こんな緊迫した状況なのに、思わず口元を

緩めてしまいそうになっちゃうんだぜ……!


しかもなに? そのスジの人間が、名前を聞いただけでビビるって、

どんだけなの?

やっぱヒメカ、最強なんじゃない? 好き!


私が密かに胸キュンしてるのをよそに、たじろいだかに見えた

リーダー格の男が、口を開いてくる。


「我らは、〈聖導庁〉の使い。事は、極秘の使命にて、詳しく話すことは

できないが────その子供は、〈聖導庁〉にとって、大切な存在。

守護者とはいえ、いち地方都市の〈魔法少女〉。何故、この場所に

いたのかは知らないが、偶然と成り行きで、〈聖導庁〉を敵に回したくは

ないはず。おとなしく、その子供を引き渡してもらいたい」


〈聖導庁〉、これはわかるぞ。

古くより確立した、地球発祥の一神教、その大派閥の、大元締めだ。


現代の業界でも、ブイブイ言わせてるっぽいな。


リーダー格の男は、その後ろ盾でもって、ヒメカを

恫喝してきやがったわけだ。


……クズがっ! 殺されてえのか────!


にわかに殺気立ってしまう私。


目の前のクズどもは、まったく脅威になりえない。

魔力を感じ取ることができない私だが、直感だけで、

そう判断できてしまっていた。


虫を潰すように、男たち全員、この世から痕跡も残さず、

消し去ることができる。(断言)


どうしてくれようか。

念動力で四肢を捻じ切ったあと、簡単に死なないように傷口から

徐々に凍らせて、生まれてきたことを後悔させながら、

肉体を粉々にしていっちゃおうかな?


それとも、巨大水球を発生させたあと、全員その中へに放り込んで、

陸の上で、溺死させてくれようか?


────そこまで考えて、はっ、とする。

やべー……思考がマジ〈邪神ラスボス〉になってたんですけど。


ナチュラルに皆殺しにしよう、って、

ためらいなく考えた自分に、鳥肌立つわ。


いくらヒメカが脅されたからって、即・ブッころの結論はアカンでしょ、

人として……。

〈邪神〉覚醒したせいか、人命に関する倫理観のネジが、

数本ぶっ飛んでしまってるのかも。


落ち着け落ち着け、素数を数えようか────────。

すーはー、と、私がこっそり深呼吸しだすうちに、ヒメカは、

男へ、冷ややかに返答していた。


「いち地方都市の〈魔法少女〉ですが、懇意にさせていただいている

〈聖導庁〉職員の方は、幾人かおります。その方々に確認が取れるまで、

この子の身柄は、こちらで預からせていただきます」


虎の威を借る小悪党の恫喝に、少しも動じる気配のないヒメカ。


マージーで、か~っこいィィィィィィィ~っっっ♡♡♡

禍威魔ダーム〉とかいうのと、命がけの実戦をやってるらしいから、

チンピラの脅しなんて、そよ風みたいなものなのかも。


「……人が下手したてに出ていれば、つけあがりやがって。

〈魔法少女〉とて容赦せんぞっ! 小娘がっ!」


断固として拒否するヒメカに、リーダー格の男が、そう怒鳴りつけてきた。


そのあまりの三下テンプレな台詞に、思わず噴き出してしまう。

そしたら、リーダー格の男から、睨みつけられた。


おおコワイ、コワイ。

一昨日まで私だったら、そのひと睨みで、この場に

ヘタりこんでちゃってただろうね。


「そっちのガキも、〈魔法少女〉かっ!」


私に笑われたのが気に障ったのか、男は、怒りの矛先をこちらにも向けてくる。


「ねえ、こいつら、殺さずに捕まえたほうがいいんだよね? たぶん」


私はわざと男の叫びをスルーして、ヒメカに確認を取った。


「────そうだね。〈聖導庁〉にも、しっかり問い合わせたいし」


「了解。じゃあ、そうするね」


ヒメカの答えに、こともなげに請け負ってみせる。

チートな〈邪神〉パワーに裏打ちされて、イキリのイキイキで、

イキっちゃってる私だ。


よしっ! ヒメカへのデモンストレーションがてら、

いっちょやったるかっ!

〈邪神〉パワー! 解放……っ!


「舐めるなよっ! 我ら〈聖導庁〉の使徒が、なんの〈力〉も───」


「あ、そういうのいいです」


リーダー格の男が、なにかしら魔法を使おうとしながら

吠えたところで、言葉をさえぎる。


「頭の上のやつに、気づけなかったでしょ? その時点で、

あんたら、雑魚ザコだよね。ザァ~コ♪ ザァ~コ♪ きっも♪」


「なっ……」


私のメスガキ煽りに、男たちは頭上を見上げるが、もう遅い。


男たちの頭上には、それぞれ巨大な水塊を、発生させておいた。

それらをすべて、一気に、高速降下させる。


私の〈邪神〉パワーで発生した水塊は、RPGのモンスター、

スライムのように、男たちの全身を呑み込んだ。

そして、私は、男たちが自分たちに何が起こったか理解するより早く、

水塊を、氷に変える。


──────たちまちのうちに、氷の立像スタチューが四体、完成だ。


大丈夫、殺してない。

SF映画的に言うなれば、男たち全員を、魔法で

強制コールド・スリープさせたようなものである。


「………あゆちゃん、凄い────! 〈聖導庁〉の人間を、

こんなあっさり……!」


「あっさりなのは、こいつらが弱すぎるせいじゃない?

抵抗もなく、こんなにうまくいく、って思わなかったんだけど」


驚嘆するヒメカに、えへへ~、と、謙遜した風で、全然してない、

照れた笑みを見せちゃうのだった。


いやしかし、実際、うまくいって良かったよ。

イキリにイキって仕掛けた水塊を、破られたり、けられたりしてたら、

ダサいなんてもんじゃない。


「ううん、〈聖導庁〉のエージェントって言ったら、対魔法戦闘は、

基本中の基本で対策してるはずだから。それを、反応も許さずに、

氷漬けにしちゃうなんて────。わたしじゃ、こう簡単にはいかないもの。

〈眠り〉の魔法は抵抗されちゃうだろうから、物理的に立ち上がれなく

するしかないと思うし」


……うん? 物理的に? なんか物騒なこと言ってない?

それはどういうことか、と、確認しようとしたけれど、ヒメカは

言葉を続けてきたので、口を挟めなかった。


「そんな屈強な〈聖導庁〉のエージェントたちから、どういう事情で

この子が追われてるのか……少し、大変かもしれない」


そう言うと、ヒメカは地面に立てていた宝玉付きの杖を手に取って、

祈るように目を閉じる。

するとまた、ヒメカの全身を、青白い光が包みこんだので、

私は、わずかに目を逸らした。。


一瞬で光は消え、眩しさから逸らしていた視線を戻すと、

ヒメカの着ている服は、元の白いワンピースに戻っている。

宝玉付きの杖も、消えていた。


〈収納〉の魔法とかなのかな?

私はそういう生活便利系の魔法は使えないので、正直、羨ましい。


そこで、あっ、と、お姫様抱っこしている幼女の顔を見る。


〈魔法少女〉とか、男たちが普通に話してきたから、

こっちもフツーに〈邪神〉パワーを使ってしまったけど。

小さな女の子に、超常的な〈力〉を見せるのは、

ショッキングだったかも……?


「やったね、おねえちゃん! こういうとき、

“ざまみやがれ!”っていうんでしょ?」


────────────そうでもないっぽい。

どこで覚えたの、そんな言葉!?


幼女は、嬉々とした笑顔を、私に向けてきていた。


私は、なんと応えていいものやら。

ヒメカと顔を見合わせて、とりあえず、苦笑するしかなかった。


私は、幼女を地面に下ろして、目線を合わせる。


「まあ、悪いヤツラみたいだから、“ざまみやがれ!”って

言ってもいいけどね。できるだけ、言わないほうがいいかな、女の子は」


「どうして?」


「う~ん、あんまり良い言葉じゃないからね。相手が悪い人間だから、

悪口を言ってもいい、ってことにはならないでしょ?」


「でも、このおとなたち、むかつく! きらい!」


子供はどストレートだな! 感情100(パー)

でもその真っ正直な意見表明、嫌いじゃないぜ。


「……そっか~、嫌いなら、しょーがないよね。でも、やっぱり、

人のいる前じゃ、言わないほうがいいよ。女の子は、

綺麗な言葉遣いをしなきゃ」


「でも、おねえちゃん、さっき、“ざぁ~こ”とか、“きっも”とか

いってなかった? そういうの、わるくちでしょ?」


……………………言ってましたねえ。


くっ、耳(ざと)い子は、扱いづらいな!

世のお母様方が避けて通れぬ、育児の難しさを、

いきなり味わっちゃってる気がしてきたぞう!


「──────私は、うらぶれた陰キャオタクだから、

そういうこと言ってもいいの。お嬢ちゃんは、まだお日様の下を歩ける

人間なんだから。汚い悪口なんか、言っちゃあいけないよ?

今、私が言えるのは、それだけが、精一杯………わかった?」


「……よくわかんない」


某三代目怪盗っぽいことを言って、けむに巻こうとしたが、

幼女はコテン、と首をかしげただけであった。

やっぱ、育児は、難しいね!


ヒメカは、そんな私たちのやりとりを見て、くすくすと笑う。


「あゆちゃん、言葉遣いのしつけもいいけど、肝心なことを

かないと。わたしたち、その子の名前も、まだ知らないよ?」


「あっ、そうだった」


失念、失念。

コホン、と軽く咳払いをして、こちらから名乗ることにする。


「お姉ちゃんの名前は、潮あゆら、っていうの。お嬢ちゃんのお名前は?」


「はい! おのめ、ゆりこです! よんさいです!」


あら~、元気のいいこと!

ニッコニコの幼女の笑顔に、思わず、

こっちの顔もほころばせてしまうのだわ。


「ゆりこちゃんか。ゆりちゃん、って呼んでもいい?」


「うん、いいよ。パパとママも、ゆり、ってよぶの!」


私の提案に、頬を紅く染めてはにかみ、許可をくれる幼女こと、ゆりちゃん。


かわいいねえ! かわいいねえ!

子供を持つなら、やっぱり女の子がいいかな。


………ヒメカ、私の子供、産んでくれるかしら。

ヒメカ似の美少女を育てるとか、最高やん?


─────っと、いけない、いけない。

妄想の翼を広げて、夢の世界へ行ってしまうところだった。


くべきことを、ちゃんとかないと。


「よし、ゆりちゃん。────ゆりちゃんは、この男たちから、

なんで追われていたか、わかる?」


「うん、わかる」


コクリ、と、ゆりちゃんは、うなずいてみせる。


「ゆり、このひとたちの、〈けんきゅうしせつ〉にいたの。

でも、そこにいるの、もういやだから、にげてきたの」


「〈研究施設〉?」


「そう。そこで、おとなのひとたちが、ゆりのみる〈ゆめ〉のこと、

いろいろきいてきて、しらべてたの」


〈夢〉。

〈夢〉を調べる、〈研究施設〉………。


胡散臭い連中だとは思ったけど、やはり怪しさ満点の人間たちのようであった。


「ゆりちゃんの見る〈夢〉って、たとえば、どんなの?」


「……えっとね、ひこうきがとんでる〈ゆめ〉なんだけどね、

ゆりのしらない、がいこくで、うみにおちちゃうの。そうしたら、

なんにちかしたあと、そのひこうきがおちちゃうじこが、

ほんとうのことになっちゃうの。きょうのあさの、テレビのニュースで

いってたから、ほんとうのことだよ」


それって………!?

─────あれか、朝のニュースで、騒がれてたヤツか!?


私は、顔を上げて、ヒメカを見た。

ヒメカは、納得したような表情で、私にうなずいてみせる。


「〈予知夢〉……この子は、予知能力者なのね」


ヒメカの言葉に、改めて、ゆりちゃんの顔をまじまじと見つめた。

ゆりちゃんは、そんな私を、きょとんとして、見つめ返してくる。


その姿は、特別な所など何もない、年相応の、

かわいい幼女にしか見えなかった………………。

風雲急を告げる幼女・・・!

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