転12 〈邪神〉だけど、〈本体〉から説明を受ける。
〈邪神〉クトゥルフの返答は!? 緊迫の一幕!(大噓)
“んーええよ~、オッケ~”
「えっ」
覚悟の土下座に、あっさりそう返され、我が耳を疑ってしまった。
「えっ、えっ、その……本当に───────?」
顔を上げて、おそるおそる確認してしまう。
“ホンマホンマのマンホールやがな。〈神〉に二言はあらへん”
ええぇ……。
めちゃくちゃ胡散くさい返答なんですけど────。
“お? お? なんやあ? 疑っとるんか? ま、しょーがないわな、
疑うんも。せやけど、そもそものハナシ、あゆらちゃん、あんたを人間に
転生させたんも、人類を滅ぼすかやめとくか、その判定のためなんやで?”
「えっ」
サラッと明かされた衝撃の事実。
どういうことなの……!?
“ほな、そのへんのんも含めて、あゆらちゃんの疑問について全部、
順を追って説明していこか~”
よっこいしょ、と、〈化身〉さんは、宙に浮かぶ玉座に腰を下ろして、
足を組んだ。
その座ったポーズも、様になったエロさで、大変ごちそうさまです。
……違う、そうじゃない。
私の抱いている疑問も、交信の際に同期したことで、
全部わかっているということか。
これまた、逐一質問せずに済むので、本当に助かる。
“まず、あゆらちゃんの容姿について話そか。───あゆらちゃんは、
なんと言っても、このクトゥルフの分け身やからな。平凡な顔やったら、
カッコつかん。せやから、人間の遺伝子情報無視して、超絶美少女に
なるよーに、ちょっと〈神〉細工したんや”
「え? 超絶……美少女になるよう、細工───? あ、〈神〉としての
〈力〉と記憶に覚醒した時に、ですか?」
“ちゃうちゃう。あゆらちゃんが、人間として、生を受けた時からやがな”
嘘を言うなっ!
と、あやうく反射的に、〈神〉に対して、猜疑に歪んだ暗い瞳で
せせら嗤うところであった。
生まれた時から超美少女だったら、当方、ぼっち気味の陰キャオタク女子に
なってない気がするんですが、それは。
“『ウッソだぁ~』、と思っとるやろ。けど、違うんやなあ~、これが”
またまた、こちらの心中を見透かしたように笑う〈化身〉さん。
“〈神〉として覚醒するまで、あゆらちゃんには、特殊な〈認識阻害〉の
魔法が掛かっとったんや”
「〈認識阻害〉?」
〈邪神〉知識から、その魔法の効果が、人間の五感に作用し、感覚認識を
妨害するものだとわかった。
その魔法が、私に、掛かっていた……?
“そや。この魔法は、あゆらちゃん自身にも作用するようになっとった。今日、
〈神〉覚醒するまで、自分のこと、平均顔女子や、って嘆いとったろ?”
「あ……はい、心身共に、〈並〉の人間だと思ってました」
思ってました、ってゆーか、心は今でもフツーの小市民女子だと
思ってますけども。
“この魔法はな、あゆらちゃんを見る者の認識を、ゴマカしとったんや。
心が純粋、もしくは善良な人間が見れば、外見どおりの可憐な美少女に。
汚濁にまみれた、邪悪な人間が見れば、あゆらちゃんが醜悪な容姿に
見えるように、な~”
「え……じゃ、じゃあ、私自身は────」
“自分の容姿が、【普通】に見えとったんやから、【属性:秩序/中庸】か、
【中立/中庸】ってトコかいな? まあ、善人ってほどでもなければ、
根性ねじ曲がっとるっちゅーわけでもない、まんま、フツーの性格ってことやね”
……うーん、『できる範囲で善良でいよう』が、信条だったけれど、
そっかー、【普通】か────。
平凡女子の自覚はあれど、〈神〉から断定されると、ほんのちょっぴり、
ハートブレイクしちゃう私だった。
まあ、【悪人】判定されるよりは、マシかな?
“人間の人格は、成長していく環境に左右される。そこが、ウチが
あゆらちゃんを人間に転生させた、肝の部分なんや。───現代の
地球における、あゆちゃんの生まれた〈日本〉っちゅー国と民族は、
そこそこ治安が良くて、そこそこ道徳心が高く、そこそこ差別意識が低い。
……〈人間〉という、この星を我が物顔でのさばっとる〈種〉を滅ぼすか、
否か。その判定を下す、判断材料を集めるには、ええ感じの場所やった”
なるほど───わかってきたぞ。
〈認識阻害〉の魔法により、もし、私の周囲の人たちが、私を〈醜悪な容姿〉の
子供と見なす人間ばかりだったなら。
そのことを理由に、虐められ、迫害を受ける環境で、
成長していったなら。
私の性格は、今よりずっと暗くて、世の中を恨んだり、憎んだりする、
歪んだものになっていたかもしれない。
………いや、性癖は、現在進行形で歪んでるんですけども。
金髪碧眼美少女フェチの女子が、理想の嫁をゲットしたら、
そりゃ妄想は、はばたくよね、ふへへ。
──────もとい。
そんな〈認識阻害〉の魔法の影響下で育った私が、【普通】の性格の
女子に成長したということは。
性悪な人間……たとえば、本日の放課後、私をいじめに呼び出したような
連中も、まあまあいたけれど、善良な人々も、多かった、ということだろう。
まず、私の家族が善良なひとたちである、とわかって、嬉しいかな。
そうじゃなかったら、虐待とか、普通にあったかもだし。
そして、なにより嬉しいのは、ヒメカのこと──────。
〈認識阻害〉の魔法が掛かった状態の、幼い私と、結婚の〈約束〉を
してくれた彼女。
彼女もまた、純粋で、善良なひとである。
それが証明されたようで、嬉しくてたまらなく、胸が熱い。
“ここまで話せばわかったやろうけど、〈認識阻害〉の魔法付きで
人間に転生させたんは、あゆらちゃんが、〈神〉覚醒した時、人間、
地球上の人類に対して、どんな思いを抱いたか、率直な感想をワイに
聞かせてもらうためや。『散々な人生やから、あいつら皆殺しにしてくれ!』
とか言われとったら、いっちょう、天変地異のひとつやふたつ起こすつもりで
おったんやけどな。『人類滅ぼすの、やめとってえな! お母ちゃん!』って
言われちゃー、ほなやめとこかー、ってなるわ”
そんな言い方はしていない。
けど、私の発言に、そこまで、地球人類の命運が懸かっていたとは………!
今頃になって、肝が冷える思いだ。
ヒメカと、私の家族、そして日本の漫画・アニメ・ラノベ・ゲーム・映画といった
サブカルチャーに、大感謝である。
“なんせ、自分自身の意見やからな~。これほど信憑性のあるモンの意見は
あらへん。……どや? ワイが人類に手ぇ出すんはやめとく、っちゅー話、
納得いったやろ?”
「あ、はい。納得しました」
コクコクと、〈化身〉さんにうなずいてみせる私。
けれどそこでまた、ン……、と、心の中でなにかが引っ掛かる。
「───あ、あの、私の記憶をコピーしたんですよね? それなら、私が、
判定に関わるお願いをするのも、わかってたんじゃないんですか……?」
“まー、そうなるわな~。……でも、ワイのほうはともかく、
あゆらちゃんのほうは、言葉に出して言わんと、納得も理解もできへんやん?
せやから、あえて、あゆらちゃんの口から、言うてもろたんや”
ひ、酷い……!
こっちは滅茶苦茶に覚悟して、土下座までしたのに────!
そうは思っても、抗議するわけにもいかず、私はうなずいてみせるしか
ないのだった。
「……そうだったんですね。わかりました」
すると、〈化身〉さんは、わずかに顔をしかめる。
えっ、ヤバい、なんか怒らせちゃった!?
“あゆらちゃん───────”
「は、はいっ……!」
正座状態のまま、私は緊張して、背筋をのばす。
“なんで敬語のままやねん!? もっとフランクに喋ってぇ~っ!?
寂しぃわー! 悲しいわぁ~! 『お母ちゃん』って呼んでええんやで!?”
ええぇ……。(二回目)
なに言ってんの、この〈神〉。
緊張して損したじゃん。
そうは思っても、相手は私、クトゥルフの本体だ。
言葉を額面どおり受け取って、タメ口なんぞ利いたら、
『は? 処されたいの?』なんて理不尽にキレられるかもしれない。
あゆら、知ってるよ、『今夜は無礼講!』と上司が言っても、信じてはいけないヤーツ。
「い、いえ、大いなるクトゥルフに対して、分霊体ごときが〈母〉と
お呼びするなど、畏れ多いことです」
まー、ひとまずは、それっぽく、へりくだっておくよね。
“なんやのんそれ~? あゆらちゃんは、ワイの一部同然! でも確かに
五分やない。ちょ~っとだけランクダウンはしてるかもやけどな~!
けど、大切なのは、フィーリングや! そんなん自分を低ぅ~見積もったらアカン!
ワイらは親子みたいなもん! いいや、親子や! 気ィおかんと、遠慮ナシで
喋ってええのや! さ! コール・ミー! 『お母ちゃん』!”
〈化身〉さんは、玉座ごと、正座している私に近づいて、
そうまくしたててきた。
「────そ、それじゃあ、ママ、って呼んでいいです?」
〈お母さん〉っていうのは、人間の私の母、潮なゆらだけの呼び方にしたい。
だから、〈化身〉さんに対しては、『ママ』呼びで、区別したかった。
“はふんっ!?”
私が『ママ』呼び許可を求めるや否や、〈化身〉さんは、アッパーカットでも
受けたかのように、大きくのけぞった。
なに!? 今度はなんなの……!?
〈化身〉さんは、顔を赤くして、
ちょっと気持ち悪い感じで、ニヤニヤと笑う。
“……ええで───人型に受肉してるからこそ、精神に直で感じる
この感覚……これが、〈萌え〉っちゅーヤツやな──────”
………ホントに、何言ってるの、この〈神〉。(二回目、PARTⅡ)
人間の感覚じゃ、ちょっと、理解が追いつかないかもしれない。
“オッケーや、あゆらちゃん! 『ママ、大好き』って言ってみてぇ~な♪
愛情深く! 高らかに!”
「………ま、ママ、大好きっ」
なんだコレ、と思いつつも、格下分霊体の身としては、従うしかない。
“NO! NO! NO! NO! もっと心を込めて! LOVE ME!
CALL ME! I'M MOMMY! ハイ!”
「───っ、ママっ!!! 大好きっ!!!」
両手を組んで、ヤケクソ気味に声を張り上げる。
顔が熱いので、傍から見たら、私、顔真っ赤になってるんじゃなかろうか。
“GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOODっっっっっ!!!!!
GOODやでっ!!! あゆらちゃんっっっっっ!!!!!”
〈化身〉さん─────ママは、よほど満足したのか、
玉座から飛び降りて、正座している私を抱きしめてきた。
勢い余って、私はそのまま、床に押し倒されてしまう。
結果、私の顔は、そのタップンタプンのおっぱいに、うずもれる格好になった。
……うおおっ!? 柔らかな感触が、スゴい……っっっ!!!
ここがそうっ!? 楽園さっ!?
ママのおっぱい天国に召されそう……!
もっとその感触を味わいたい、と思いかけるも、心の片隅から、本日、
ヒメカとキスした記憶が、急速にスライドしてきた。
う、浮気はダメっ! 絶対っ!
「マ、ママ、ちょっと離れて? は、恥ずかしいよ……」
自分の煩悩をなんとか抑えて、なんとか、ママから身を離そうとする。
“なんやあ、この娘は? 恥ずかしがることなんて、
なんもあらへんがな。────あ。ははァ~ん……ヒメカちゃんへの、
操立てかいな。かわええなあ、あゆらちゃんは~”
いきなりバレとる!
記憶を全コピされてるんだもんね! そりゃ小足見てからの洞察も余裕ですわ!
こちらの本心を見抜いてるママは、イイ子、イイ子、とばかりに、
私の頭を撫でながら、抱きしめ続けてくる。
客観的に見たら、ふたりとも水着で抱き合い、床に転がるの図だ。
18禁動画の出だしか。
「ママ、その、まだ、訊きたいことがあるんだけど………」
もう体を離すのは諦めて、そう切り出してみる。
“ん~? お、そうやねえ、あゆらちゃんの、今後についてやろ?”
「う、うん────。私、ママに〈判定〉のための感想、言っちゃったなら、
私が転生した使命は、終わったってことでしょ? 私、これから、どうなるの……?」
ドキドキと、そうたずねた。
用済みだ!、とばかりに滅ぼされたりとか、普通にありそう。
相手が〈邪神〉だけに。
“どうなる、って、どうもせんでええよー? せっかく転生したんやし、
地球でそのまま、チートで無双したりして、おもしろおかしく
暮らしたらええんちゃう?”
「えっ。いいの!?」
あまりにゆるゆるなご返答をいただき、逆にビックリである。
“かまへんかまへん。転生の主な使命も終わって、
あとはボーナスタイムっちゅーヤツ? 〈認識阻害〉の魔法も解除されて、
万人が認める美少女キャラになったんや。そこを売りにして、
アイドル声優目指したってええんやでー”
私の記憶をコピーしてるだけあって、発想がオタクだ。
しかし、そうか、〈認識阻害〉の魔法は、切れたのか。
そうなると、周囲の私を見る目が、俄然、変わってくるのだろう。
元から、私が可愛く見えてたひとたちはともかく、そうではなかった
有象無象の連中の目が。
……なんか、めんどくさそうだし、ちょっと怖いな────────。
“あ、言い忘れとったけど、あゆらちゃんには、〈認識阻害〉の魔法の他に、
〈魔力隠蔽〉の魔法が、生まれた時から掛かっとるから。
こっちは、あゆらちゃんが生きてるかぎり、ほぼほぼ解除されんもんと
思っといてや?”
「〈魔力隠蔽〉の魔法? え、どうして?」
こちらの魔法も、〈邪神〉知識から、すぐにその効果を理解する。
他者に、自分の魔力を感知されぬようにする魔法だ。
要するに、レーダーに引っ掛からないよう、ステルス・モードになれるヤツ。
“あゆらちゃん、あんたは分霊体とはいえ、このクトゥルフの転生体なんやで?
その体に宿っとる魔力総量は、地球最大と言っても過言やあらへん。チートや、
チート。『オレTUEEEEEEEEE!』とか、余裕でできるねんで”
……うーん、私の記憶をコピーしてるだけあって、発言が(以下略)。
“せやけど、そんなんゴッツイ魔力をひけらかしとったら、トラブルの
元やからな。誘蛾灯みたいに、危ない悪魔やらなんやら、ごっそり
引き寄せかねん。そーゆ~わけで、永続的で常時発動の、
強い〈魔力隠蔽〉魔法が掛かっとるんや。
魔法のエキスパート種族である〈魔女〉のヒメカちゃんも、
あゆらちゃんの魔力には、全然気づいてへんかったやろ?”
あ、そう言われれば。
〈魔女〉なら、魔力の気配には、敏感なはずだろうけど。
ヒメカが、〈邪神〉覚醒した私の魔力の強さに、気づいた素振りは、なかったな。
“あゆらちゃんに掛かっとる〈魔力隠蔽〉は、そんだけ
パーペキ最強、っちゅーわけ。……なんやけど、デメリットもある。
そのせいであゆらちゃん自身は、魔力に対する感知を、ほとんどでけへん、
ってことや”
えっ。
それって、まずいのでは?
“現に、あゆらちゃん、〈魔女〉であるヒメカちゃんの魔力がどれくらいの
もんか、感じとれんかったやろ? それこそ、間近で魔法が発動するまで、
魔法の使い手だとは、まったく思っとらんかったようやし”
公園でヒメカが、〈人避け〉の結界魔法を使った時のことか。
確かに、ヒメカが魔法を使うまで、魔力の“ま”の字も頭に浮かんでこなかった。
“まあ、これは、最強チートの代償とでも思って、諦めてもらうしかないわな。
〈敵〉から、簡単に目ェつけられたりしたら、困るやろ?”
「え、〈敵〉って……? そんなの、いるの?」
“そんなん、いるに決まっとるやん”
そう言って、ママは、立ち上がる。
それから、ふよふよと浮いている玉座を無言で呼び寄せ、
それに腰を下ろした。
私も体を起こして、今度はアヒル座りで、ママに向き直る。
ママは、改めたように、キリリとした顔をして、言った。
“我が名は〈ルルイエの主〉、大いなるクトゥルフ。────地球は狙われている……っ!”
ラヴクラフト先生、マジでごめん(^ω^;)




