転10 〈邪神〉だけど、行きがけに人助け。
スク水JKを、夜空に飛ばせたかったんだ・・・///
ばっびゅーん!
サラマンダーよりも、ずぅ~っとはっや~い♪
……空を飛ぶことに慣れてきた私は、心の中でそんな快哉を
叫べるほど、余裕のよっちゃん、イケイケドンドンモードであった。
錐揉み飛行、ムーンサルト、垂直急降下などなど。
スク水姿の単身で、いろんな飛び方を試してみた。
某アメコミ映画のヒーローみたいに、どこまで高く飛べるか、
とかもやってみたいけど、今回は目的が違うので、やめておく。
────それにたぶん、どこまでも飛んで行けると、
なんとなくわかっていた。
私の〈邪神〉パワーとボディなら、月までも行けちゃうだろう。
………いよいよ、人間じゃないよなあ────────────。
ヒメカに、私の正体を告げる時のことを思うと、憂鬱だ。
ヒメカから嫌われるのだけは、マジで耐えられそうにない。
────まあ、先のことは、ひとまず置いといて。
と、眼下を見下ろす。
私が住む■■県九頭竜市は、太平洋側に面した、商業・交通のための
大きな港がある、港湾都市だ。
海側・山側に温泉地が点在しており、〈九頭竜〉の名の通り、
竜神を祀る神社が多く、それらを推しているプチ観光都市でもある。
私が向かっているのは、港がある海とは反対方向。
沿岸部に沿って、ズズイと行った先にある、海水浴場方面であった。
家族や、オタ友なんかと“海へ行く”となると、こちらになります。
こっち方向を選んだのは、海に着水する際のことを考えてのことだ。
船の往来や、人の目の少ない場所がいいだろう、と愚考した次第。
まあ、〈邪神〉パワーの不思議フィールドにより、私の姿は、常人には
見えないはずなんだけど。
念には念を入れて、というヤツである。
あと、知っている道や場所を、上空から眺めてみたい、という、
単純な好奇心もあった。
視点が変わると、見知った景色も印象が違って、並行世界を
見てるような、妙な気分がする。
交通信号も障害物もない、飛行による高速移動は、快適であった。
通常、都市部から電車で片道約一時間はかかる距離を、
体感十五分くらいで済ませている。
いつも海水浴に行く時に利用している電車の線路と、
それに並行して続いている車道。
そのふたつを道しるべにして、私は、鼻歌交じりのアゲアゲ気分で
飛行し続けていた。
すると、そんな私の良い気分を邪魔する、耳障りな音が響いてくる。
超聴覚能力のおかげで、上空からでも、遠い地上前方の雑音を、
大きく拾ってしまったので、舌打ちしたい気分になった。
バイクのモーター音、それも十台以上のもの。
いわゆる、暴走族であった。
バカな!? この時代にまだ生き残っていたというの!?、
って言いたくなるヤツラである。
控えめに言って、うるせえSHI-NE!、って思いたくなる連中だ。
人が珍しくテスト勉強してる夜とか、さあ寝ようか、とベッドに入って
ウトウトしかけた時に限って、騒音をまき散らしてくるんだよね。
まったく、人がイイ感じでフライト・タイムを楽しんでる時に、また……!
イラッとしながら、私の進行方向の先から、こちらに向かってくる
地上の暴走族らに目を向ける。
その時であった。
─────────えっ!?
私は、一瞬、自分の超視覚能力を疑ってしまった。
地上の車道のド真ん中、そこを、えっちらおっちらと歩く、
老人男性の姿を見つけてしまったからである。
〈認知症・痴呆症の高齢者、深夜徘徊での事故被害増加〉
私の脳裏で、テレビで見たようなニュースの見出しが、
稲妻フラッシュめいてよぎった。
おじいちゃんが進んでいるのは、今まさに、暴走族がやってきている方向である。
このままいけば、あのおじいちゃんは、暴走族のバイクに撥ねられるに違いない。
DEATH or DIE、待ったナシ……!
昨日までの私だったなら、オロオロと他人の助けを呼ぶか、
逃げ出すかしていただろう。
だが、今は違う。
アイアム〈邪神〉。(正しくは〈邪神〉分霊転生体)
ぶっちぎりスーパーPOWERで、いっちょう助けたるぜ!
幸い、今の私の姿は、透明状態だしな!
そう思ったけれど、ふと、悪戯心がわいてきた。
時折、勉強と安眠の邪魔をされている仕返しに、怖がらせてやれ、
とほくそ笑む。
いったん飛行を中止し、空中で待機。
それから、自分の頭上に、大きな水の塊を生み出して、バシャリとかぶる。
冷たっ!
飛行中は寒くもなんともなかったのに、〈邪神〉ボディの温度の感じ方、
どうなってんの!?
まあいいや。
これで私の姿は、“まるで海から揚がってきたようなスク水姿の少女”に
見えることであろう。
準備万端、ギュギュンと加速飛行して、フラフラと歩いているおじいちゃんの
前方に降り立った。
それとほぼ同時に、暴走族のバイク群が、こちらへ押し寄せてくる。
………ここは通行止めDA!!! 他を当たれ────っっっ!!!
両手を突き出して、〈邪神〉パワー・発動……っ!!!
発揮したのは、シンプルに、念動力。
イメージしたのは、無数の巨人の手で、暴走族全員、バイクごとガシッと掴む感じ。
こちらに猛進してきていた暴走族たちのバイクは、突然地面に
縫いつけられたかのように、停止した。
これほどの急停止だと、通常、慣性の法則で、運転手はバイクから放り出されるところ。
しかし、そうさせないのが、私の〈邪神〉パワー。
バイクに乗ったままの状態で、無理矢理その場に抑えこんでいた。
それで発生する衝撃は、相当なものであっただろう。
案の定、暴走族たちの口から、驚愕と苦痛の入り交じった叫び声がほとばしった。
うるせーっ!!! バカどもっっっ!!! 黙りやがれっっっ!!!
てめェーら、あやうくおじいちゃんを轢き殺すトコだったんだぞっっっ!!!
私はブチ切れて、そう怒鳴り散らすのを、必死にこらえた。
最初はただ、人助けついでの、私怨による仕返しのつもりだったけど。
バイクが迫り来るスピードを、地上で目の当たりにしたら、考えが変わった。
本当に、高速で走るバイクは、危険すぎる。
こんなものを、見栄とお遊びだけで、無秩序に乗り回す連中に、
本気で腹が立ったのだ。
もし、私が今夜、海を目指して空を飛んでいなかったら、
後ろのおじいちゃんは、お亡くなりになっていただろう。
思い浮かべるその仮定の結末が、どうにも許せない。
場当たり的な義憤かもしれないけど、この暴走族たちに、制裁を……。
喰らわせてやらねばなるまい! 然るべき報いを────!
引き続き、スーパー念動力を振るって、暴走族たちを全員、
バイクから引き剥がし、地面に叩きつける。
そして、すべてのバイクを宙に高く浮かべて、ある一点で、まとめて激突させた。
響き渡る、金属の破砕音。
念入りに、二度と使用できないぐらいほどに、暴走族のバイクを、
グシャグシャのスクラップに変えたあと、車道に放り落とす。
それから、苦痛にうめきながら、地面でのたうつ暴走族のひとりを、
両手で引き起こした。
「ひっ……!?」
暴走族は、私の姿を見るや、怯えた声を発する。
うん、水をかぶって、長い髪を顔に垂らし、ホラー映画幽霊風にしてるからね。
いいリアクション、ありがと!
「GAAAAAAAAAA……ユルサナイ────オマエラ、
ノロイ、マルカジリ……」
ガラガラ声と意味不明の言葉を演出して、暴走族の目を覗きこんでみせる。
「ひょげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ────────────っっっっっ!!!」
暴走族は、恐怖のあまりか、そう叫んだあと、ガクッと気絶してしまった。
ってゆーか、その叫び声が頓狂で唐突すぎて、逆にこっちが
ビクッとなったのは秘密。
気絶してくれてよかった。
逆にビビる幽霊とか、カッコつかないもんね。
あたりを見回すが、そんな私のビクった様子を不審に思った連中は、
いなかったモヨウ。
地面に転がったまま、ガタガタと震えているか、こっちをかろうじて
見ているけど、恐怖で固まっているか。
なんにせよ、陰キャ女子の幽霊ドッキリ(〈邪神〉パワーは本物だけど)とは、
見抜いていないようだ。
ラッキーラッキー、助かっちゃった。
これで、こやつらの記憶に、
『海沿いを疾走ってたトキ、水着の女幽霊に呪怨られた件』を
刻みつけられたことだろう。
んフ、ちょっと、ご満悦。
さてさて、あとは、おじいちゃんの処遇だ。
私は振り返って、おじいちゃんを見る。
……うん? 外国の方かな?
上空で見た時の、後ろ姿ではわからなかったが、細身のその顔立ちと、
肌の色は、白人男性っぽかった。
目の色は青く、額から頭頂部はツルツルテン、残った白髪は
短く刈りこんでいる。
ヒゲは生やしておらず、清潔感があった。
着ている物は甚兵衛だから、日本国籍を取って、このへんに
住んでいるのかしらん?
頭の中でいろいろ推測しながら、ゆっくりと、おじいちゃんのほうに向かう私。
「……お嬢ちゃん、あんたァ、何もんだねぇ?」
おじいちゃんは、トコトコと近づいてきた私を見ても、
さして怖がった風もなく、そう言ってきた。
日本語、流暢じゃん。
やっぱり、日本在住の方らしい。
目の前で起こった、一連の出来事を目撃していても、全然、
驚いたり、恐れてもいない感じ。
見つけた時に思ったような、ご高齢者によくある、
病気的な理由からかもしれない。
「────私は、通りすがりの〈邪神〉だよ。ちょっと、本体に交信しようと
思ってたトコに、おじいちゃんを見つけたんだ」
まあ、おじいちゃんが病気であってもなくても、問題なかろう。
そう思った私は、フツーに答えてしまっていた。
あとから、おじいちゃんが、ご家族に今夜の出来事を話したとしても。
『おじいちゃん! とうとう脳が……! オウ、NO───!』って、
言われておしまいだろう。
「〈邪神〉………」
「うん。あ、おじいちゃん、おうち、どこ? 送ってくよ?」
それ以上は考えさせないよう、畳みかけるようにして、気軽にたずねていく。
「うち────は、ここからじゃ、ちょっと、遠いかもしれないねぇ………」
「ああ、うん、オッケー、大丈夫。じゃあ、ちょっと、おまわりさんの
いるトコに、行こっか」
まともな返答を期待していなかった私は、苦笑して、そううなずいてみせた。
私とおじいちゃんのまわりに、常人から見えなくなる不思議フィールドを
展開し、宙に浮かび上がる。
おじいちゃんは、ソフトタッチ念動力で持ち上げ、運ぶことにした。
今の私のフィジカルなら、背中におぶることも、抱きあげることもできるけれど。
初お姫様だっことかするなら、相手はやっぱ、ヒメカにしたい、って思ったのだ。
運搬物扱いのようで、おじいちゃんには悪いけど、乙女心に免じて、
そこは許してもらいたい。
「おおー………」
自分の体が、見えない力で空中に浮かび上がっても、おじいちゃんは、
そんな声をもらしただけだった。
動揺した様子も、見られない。
────────このぶんなら、大丈夫かな。
騒がれたら面倒、とちょっと心配していたけれど(我ながら誘拐犯みたいな心配だ)、
おじいちゃんを念動力でぶら下げ、空中飛行を開始。
ただし、Uターンして、街のほう、最寄りの交番に向かって。
「はァ~、こりゃ~、いい眺めだねぇ~………」
おじいちゃんは、なんてことなく、空中飛行を楽しんでいるようだった。
「おじいちゃん、怖くない? 大丈夫?」
「平気、平気、平気のへいざよ~」
おじいちゃん、ノリノリまであるな。
気を良くした私は、ちょっとだけサービスして、高度を上げ、加速してみせた。
おお~……!、と、またおじいちゃんは感嘆したような声を出す。
さらに楽しんでもらえたようで、なによりだ。
しばらく、遊覧飛行じみた時間をおじいちゃんに提供したあと、
日本の美点のひとつ、交番を発見。
街側と、海&山側の境、やや寂れ気味の場所にある交番であった。
手早く、おじいちゃんを保護してもらうには、うってつけの地点に
ある交番と言える。
ゆっくりとその交番の手前まで降下し、おじいちゃんに、
別れを告げることにした。
「それじゃあね、おじいちゃん。もう、こんな夜遅くに、出歩いちゃダメだよ?」
言っても栓なきことかと思いつつ、おじいちゃんの、今後の安全を願いながら、
そう笑ってみせる。
「お嬢ちゃんみたいな、かわいい子こそ、夜遅くに外へ出ちゃいかんよぉ~。
危ないよぉ~」
「私は大丈夫だよ。めっちゃ強いからね」
「強いからって……だいたい、なにしに、どこへ行くんだね?」
おじいちゃんに問われて、ちょっと、私は言葉に詰まった。
どうせ理解できないだろうし、〈邪神〉本体と交信するため、と素直に
言っても構わないところではある。
では、その目的は?、というと、簡潔に述べてみるならば、こうだ。
「─────私の大好きな人たちのために、本体と話し合いをしに、
海へ行くんだ」
「……そうかぁ~………話し合うのは、良いことだね。がんばりなさいね。
上手くいくことを、祈っとるよ」
「ありがとう。おじいちゃんも、元気でね」
笑って手を振り、おじいちゃんを、交番の前に着地させる。
念動力で、交番入り口のドアを勢いよくスライドさせてから、私は叫んだ。
「おまわりさーんっっっ!!! 迷子でぇーすっっっ!!!」
交番の中から、仰天したような声がしたあと、ふたりの警察官が、
わたわたと飛び出てくる。
警察官ふたりは、戸惑いながらも、おじいちゃんを保護しつつ、
周囲を見回していた。
声の主を探しているのであろうが、残念! 私だよ! 見えないだろう!
空中でひとり、ニヤニヤと悦に入ってしまう私であった。
よし! 任務完了!
ちょいとトラブルだったけど、天下泰平、問題なし!
良いことしたあとは、気分がイイね。
私は上機嫌で、遅れを取り戻すため、空中をカッ飛ぶことにする。
途中、さっきの暴走族を見たけれど、まだ道路にすっ転がり続けているようだった。
ま、当然か。
明日の朝刊に載ったりするかな?
“現代の怪奇! スク水少女に襲われた暴走族!”みたいな。
私が犯人だなんてわかりっこないし、明日の朝が、楽しみで仕方がない。
もっとも、私が明日の朝を、無事に迎えられれば、の話だけれど。
そう考えると、おじいちゃんを暴走族から助けて、高揚した気分が、
途端にダウンする。
──────いいや、無事に帰るんだ、ヒメカのもとへ………………!
私は、ヒメカの笑顔を思い浮かべて、精神を奮い起こし、夜の空を、
加速して飛んだ─────────。
暴走族の運命やいかに・・・!?(どうでもいい)




