転1 〈邪神〉だけど、イキってみる。
投稿はじめです。よろしくお願いします~♪
────あっ、私、クトゥルフの転生体だったわ。
唐突に、そう思い出した。
クトゥルフ……その存在を知る地球上の人類からは、〈旧支配者〉
────〈邪神〉と呼ばれている存在だ。
私はその転生体───より正確には、その分霊の転生体。
……………………私の名前は、潮あゆら。
十六歳、バリバリのオタクで、身内以外にはコミュ障気味の、黒髪をボサっと
長めにのばした、陰キャ女子。
瑠々江学園の、高校二年生だ。
現在、暦は四月末、金曜日の放課後。
私がいるのは、学園校舎のはずれにある、女子トイレ。
クラスのカースト上位連中、五人の女子に囲まれ、トイレの壁際に
追い込まれている状況であった。
まあ、いじめである。
こうなった理由は、完全に、彼女らの難癖。
曰く、私が最近、クラスメイトであり、学園のマドンナ(死語)である、
苑草日明香さんの寵愛を受けて、調子に乗っているから、とのこと。
……いや、たまたま席が隣になってて、普通に話をしてるだけなんだが?
〈寵愛〉ってなんだよ。
それも、苑草さんが優しいから、話しかけてきてくれているだけであって、
調子に乗ってるなんてとんでもない。
そんな旨のことを、オドオドと、五人の中心人物らしき、
浜崎ナントカ(名前覚えてない)に説明したところ────。
「言い訳してんじゃないわよっ!」
と、思い切り殴られたのだった。
ビンタじゃなくて、グーで。
え、いきなりグーで殴る!? 普通!?
生まれてこのかた、殴り合いとかしたことない、草食系女子であった私は、
視界に星を見るほど、かつてない衝撃と激痛を覚えた。
で、そのショックで、自分が〈邪神〉クトゥルフの転生体であることを、
唐突に思い出したというわけである。
………雑な覚醒だなあー。
もうちょっと、こう、ドラマティックなエピソードで覚醒したかった。
「あ~あ、リエちゃん怒らせちゃった~」
「ヤバいよぉ~? リエちゃん、空手やってるから~」
浜崎リエ(本名判明)の取り巻きが、音頭を取るようにそう言いながら、
ニヤニヤと笑う。
うん、ヤバい。
なにがヤバい、って、私の体がヤバい。
空手をやっているというグーパンで殴られたのに、もう、顔から痛みが
引いていたのだ。
『今、何かしたか……?』とか、確認したい感じ。
〈邪神〉として覚醒したことで、なんか肉体のほうも、
超常的なものに変化したっぽい。
「黙ってないで、なんとか言」
パンッ!
浜崎リエが言い終わる前に、私はその鼻っ面へと、高速パンチを
お見舞いしていた。
───うん、やっぱりヤバい。
以前の私じゃ、こんな動き、絶対できないもの。
もちろん、物凄く手加減した、速さだけを重視したパンチだったよ?
力を入れて殴ったら、たぶん、このトイレが、スプラッター映画みたいな
ことになるだろうから。
私のワンパンで、浜崎リエは、軽く体を後ろにのけぞらせ、盛大に
鼻血を吹き出していた。
手を抜いた威力でも、パンチの衝撃が強すぎて、鼻の骨なんか、
余裕で砕いちゃったに違いない。
一瞬のうちに、気絶したであろう。
でもまあ、人の顔をグーパンしておいて、自分は無傷でいようなんて、
彼女も思っちゃいないだろうし?(まあ、思ってそうだけど)
むしろ、その程度で済むことを、感謝してほしいくらいだ。
浜崎リエの体が、グラリと後ろへ傾く。
「「「「え───」」」」
取り巻き連中がそのことを認識する前に、私は続けて高速パンチを放った。
狙ったのは、取り巻き三人のあご。
チッ、チッ、チッ!
拳をかすめるように当てられた取り巻き三人は、全員、一瞬にして脳を
揺らされ、白目を剥いていた。
〈邪神〉覚醒した私には、痛みを感じさせるより速く人間を気絶させる、
という芸当も、朝飯前になったようである。
浜崎リエがトイレの床に崩れ落ちたあと、取り巻き三人も、ワンテンポ遅れて、
一斉にその場で倒れこんだ。
「あ、え、あ」
あえて残した取り巻きのひとりが、なにが起こったか理解できずに、
言葉にならない声をもらす。
私は、ハア、と、わざとらしく溜息をついて、そいつの胸ぐらを掴み、
グイッと引っ張った。
私が立っていた位置と、体を入れ替えるようにして、トイレの壁へと突き飛ばす。
「痛っ───!!!」
壁にぶつかったそいつは、顔を歪めて、短い叫び声を上げる。
……それを見て、なんかイラッときた。
「おまえ、私が殴られた時、ニヤニヤ笑ってたよね?
なに被害者みたいな声出してんの?」
気づいた時、私は、自分でもビックリするくらい、荒っぽくて理不尽な
言葉を、目の前の女にぶつけていた。
「ひ───ご、ごめんなさ……」
「ゴメンで済んだら、アベ●ジャーズはいらねェんだよっっっ!!!」
「ごっ、ごめ…っ、あ、あ、す、すいませんっっっ!!! 許してっっ、
許してぇぇっっっ!!!」
私の妙な一喝に、取り巻き女子はへたりこみ、頭をかばうように両手を掲げ、
泣きべそをかきはじめた。
ハア、と、また私は溜息をつく。
───立場が逆転したら、手の平クルーもいいところの、無様な謝りよう……。
時代劇のチンピラだって、もうちょっと根性見せるだろうに。
「……おまえ、名前、なんて言ったっけ? ごめんねえ? ホラ、私、
陰キャのボッチだからさ。陽キャの皆様の名前とか、いちいち覚えてないんだよね」
「のっ、野口ですっ……野口、祥子です……っ」
私の問いに、取り巻き女子、野口は、敬語で即答してきた。
別にフルネームはいらないんだよ!
またまたイラッとしてそう怒鳴りつけたくなったけど、話が進まないので、
我慢して会話を続ける。
「OK、野口ね。……呼び捨てでいいよね? っていうか、呼び捨てに
するけど。───野口さあ、おまえコレ、どう落とし前つけてくれんの?」
「え……お、落とし前って……」
ドゴッ!
あっ、いけない。
感情に任せてトイレの壁を蹴ったら、穴を開けちゃった。
「───あ、あ、あ……」
野口は、カタカタと体を震わせ出した。
「おまえ、日本語わからないの? 日本語がわからない国から来たの?」
「え、あ、え」
私の問いかけに、野口は、あわあわと唇を震わせるだけだった。
私はまた、むんずと野口の胸ぐらを掴み、引き摺り立たせて、壁に押しつける。
「“どう・落とし前・つけて・くれるん・ですか?”、そう聞いてるんだけど?」
私に睨みつけられ、野口は目を泳がせて、口をパクパクと動かした。
けれど、そこから、声は出てこない。
「ハア~ン?」
私はわざとらしく左耳に手を当て、聞こえませんアピールをしてみせる。
……自分でもどうかと思う、性格の悪いアクション。
だけど、相手は多人数で、たったひとりをいたぶることに荷担した女だ。
こんな人間に、情け容赦が必要であろうか? いや、必要ない。(反語)
「ど、どうすれば、許してくれますか……?」
「それ考えんのは、おまえだろうがっっっ!!!
質問に質問で返すなっっっ!!!」
「ひっ……ごめんなさいっ! ごめんなしゃいっっっ!!!
なんでもしましゅっっっ!!! にゃんでもしゅましゅからっっっ!!!
ゆ、ゆ゛る゛じでぇ……っっっ!!!」
野口は泣き喚いて、許しを請いはじめた。
「ん? なんでも? 今、『なんでも』って言った?」
聞き逃す手はないフレーズだったので、すかさずネットミーム調で
確認しちゃう私である。
「……え───ぁ、は、はい………」
言われた野口は、一瞬だけためらったみたいだけど、私に睨まれて、
コクコクとうなずいてきた。
「じゃあ、おまえ、残りの高校生活、ずっと私の下僕ね」
「え……っ」
「『え……っ』じゃねェ~よ」
私は壁に押しつけた野口をさらに引き上げ、足が床から浮くほど持ち上げた。
……うん、筋力もスゴいことになってるわ、私。
以前だったら片手で人ひとり持ち上げるとか、絶対無理。
全然重くない、ってゆーか、むしろあと四、五人でも持ち上げられそう。
『筋力上がると全能感を覚えるから、とにかく筋トレしろ!』、ってフレーズ、
ネットのどこかで見かけた気がするけど、なんか今、そんな感じ。
やっぱ力こそPOWERだわ、なんて思いつつ、野口を追い込むことにする。
「───おまえの家族に、おまえがやった、薄汚ねェ~いじめのこと、
バラしていいわけ? あっ、ひょっとして、これがいじめじゃないとか
思ってた? 多人数でひとりを追い込むぐらい、当然の権利だとか?
さっすが! 陽キャのリア充サマは、庶民とは感覚が違いますなあ~?」
「ち、違……」
「違わねェーだろうがっ!!! 私が無抵抗だったらっ!!!
おまえら私をどうするつもりだったんだっ!? あぁっ!?
言ってみろやゴラぁッ!!!」
「ぃひぇっ……! すいません! すいませんでしたっ……!
ゆ、ゆるして……っ! 許してくださいっ……!!!」
野口は泣きながら、聞いた言葉を繰り返すインコのように、
許しを請うばかりだった。
それがあまりにも紋切り型のように聞こえ、再び私を苛つかせる。
誠意がないよ、誠意が。
「だからさあ。私の下僕になれば、許してやる、って話をしてるんだけど?
どうすんの? YESかNOか、どっちかしかないんだけど?」
「───そ、それは……」
「ちなみに、拒否ったら、おまえの左肋骨を砕く」
「えっ!?」
「おまえの左肋骨を砕く」
大事なことなので、二回言いました。
キッパリと簡潔に言い切って、野口の目を、射抜くように睨みつける。
こっちが本気なのが伝わったのか、野口は体を震わせて、がっくりとうなだれた。
「わ、わかりました……。げ、下僕に、なります……」
「よっし。じゃあ」
私は、自分の携帯端末を取り出す。
野口を片手で持ち上げたまま、チョイチョイと操作を開始。
「まず、おまえの住所と電話番号、あと、家族構成を教えろ」
「え……な、なんで……」
「なんででもだよ。さっさと言えや」
低音ボイスでドスを効かせてみせると、野口はモゴモゴと応えだした。
それを聴いたあと、私はトイレの床にのびてる四人の顔を、
携帯端末で記録していく。
それから、野口に確認することにした。
「こいつらの名前と、個人情報も言え。マジでおまえらのこと興味なかったから、
全然知らないんだわ」
「……はい………」
ビクビクと、野口はうなずく。
ひととおり情報を記録し終えたあと、私はニッコリ笑って、言った。
「あ、そーだ。あらかじめ言っとくけど、今教えてもらった情報に嘘が
あった場合、その嘘の数だけ、おまえの手の指を折るから」
「え!?」
「なに驚いてんだよ。まさか、速攻で嘘ついたの? 下僕の分際で?
え? 正気なの?」
私に瞳を覗きこまれた野口は、ブルブルと震え出した。
「……ごっ、ごめんなさい───て、訂正! 訂正させてくださいっ、
家族の情報……っ」
野口が喋り終わるか終わらないかのところで、私は野口の体を壁に叩きつけた。
背中から肺へと、ダイレクトに衝撃が伝わったのだろう。
野口は一瞬呼吸が止まったのか、がはっ、と口を大きく開けて、悶絶した。
「───おまえさあ、下僕の意味、わかってる? 主人の命令に
逆らうとか、そんな下僕いねェだろ? なあ?」
「……も……申し訳ありませんでした……っ! に、に、二度と嘘つきませんから、
ど、どうか────」
「あー、わかった、わかった。次なんかあったら、容赦なく折るから。
そのつもりで物を言えや」
テンプレな野口の謝罪を雑にさえぎって、訂正情報を口にするよう、うながす。
野口が嘘情報かましてたのは、自分の家族構成と、その名前だった。
……お仲間の個人情報は嘘ついてないってのが、内心、地味に闇が深く思えて、
ちょっと引く。
我が身カワイしなんとやら、とは言っても、おトモダチじゃないの?
本当に友達?
まあいいや。
陽キャリア充様たちの人間関係なんぞ、どうだろうと知らんわ。
「別に、私はさ、苑草さんと仲良くどうこうとか、
全然考えてなかったわけよ。そこんとこ、わかるゥ?」
「……わ、わかりました。もう、そこは………」
「───でも、今日のおまえらのコレで、気が変わったわ。もう、ガンガン
苑草さんに話かけて、クラス一、いや、この学校一の
親友目指すから。文句ねェよな?」
「は、はい、ありません……っ」
「で、そうなると、おまえら、私に陰湿ないじめ仕掛けてくるだろ?」
断定して、もう一度野口の目を覗きこむ。
野口は、目を逸らした。
「し、しませんっ。しませんから……!」
「いーや、するだろ。私に聞こえるように、教室で嫌味を言うんだろ?
私の靴とか隠したうえに、捨てるんだろ? 教科書とか、破くんだろ?
机にマジックで、落書きとかもするんだろ?」
こいつらの性格から察して、過去にやってきたであろう所行を口にしてみる。
野口の目が、面白いように泳いだ。
───あー……コイツ絶対、私が今言ったようなこと、誰かにやってるわ。
「そ、そんなこと、しません……! 絶対に……!」
「多人数でひとりを囲むような人間の言葉なんぞ、信じられるかっつーんだよっ!
ボケがっ!」
吐き捨てるように私が言うと、野口はグウの音も出せずに、黙りこんだ。
「ってなワケで。苑草さんと仲良くなる過程で、もし、私が
なんか不利益をこうむることがあったら。その回数分、おまえの家族に、
不幸なことが起こると思うから」
私の言葉に、野口の顔が青ざめる。
「か、家族は関係ないじゃん……!
い、いえ、関係ないじゃないですか……!?」
「知らねェーよ。私がフツーに苑草さんと学校生活送れりゃー、
なんの問題もねェ話だろうが。違うか? ああン?」
「……っ、は、はい───違い、ません………」
私が睨みつけると、即座に野口は主張をひるがえした。
うっわ、雑魚~い……!
強い者に腰巾着して、他人にマウントとってきた人間なんだろうな─────。
もういいや、こんなの相手にすんの、時間の無駄だわ。
心底ウンザリしたので、いいかげん切り上げることにする。
「じゃ、そういうことで。────こいつらの後始末、ちゃんとやっとけや」
そう言い捨てて、最後にもう一度、野口を壁に強く押しつけてから、手を放した。
トイレの床にずり落ちる野口を尻目に、私はその場をクールに去ろうとする。
「あっ、あの……! み、みんなは、どうすれば……?」
私の背中に、野口がそう声を掛けてきた。
うん、またまたイラッときたね。
「私が知るかっ!!! おまえが始末つけろ、つったろぉがっっっ!!!」
「……っは、はい……っ!」
私の一喝に、野口はわけもわからずといった様子で、うなずいた。
今度こそ、私は女子トイレから、クールに去る。
────────────いや、クールを装って、その場から逃げるように
立ち去った、が正しい。
肉体は超常的に変化して、心臓の鼓動は平常そのもの。
ビビってるせいで、全身が震えるとかは、しなかった。
〈邪神〉覚醒したことも手伝って、テンションは一気にイケイケドンドン。
『パル●・フィクション』とか、『闇金ウシ●マくん』とかの映画で観た、
アウトロー・ムーヴをやっちゃったけれども。
私の根底が陰キャぼっちメンタルなのは、変わりないわけで。
途中で興奮が冷めた感じになったら、実際のところ今現在、内心、
バクバクもんになってるのですよ。
あー、でも気絶したあいつらを、あの女に丸投げしたけど、どうなるだろう。
後日、うちの家に、逆に慰謝料請求とかしに来たりしたら、
どうしよう─────。
などなど。
〈邪神〉クトゥルフの転生体なのに、いまいちイキりきることのできない、
小心者の私であった………。
おもしろい~♪と思ってくれると嬉しいですゎ……(^∀^)




