兄として、妹に対して
3話目です。まだまだストックあります。
気合い入れて書きましたのでよろしくお願いします。
あの後痛みであまり眠れずに学校へ来た。朝起きると花と会ったが一切話すことなく先に学校に行ってしまった。花も俺と会いたくないと思い、電車を一本遅らせて学校に行った。
自分の席に座ると後ろから見慣れた茶髪がひょっこりと入ってきた。
「おはよ〜。今日はいつになくギリギリだったね。なんかあったの?」
「別に、ちょっと忙しかっただけだよ」
「あらそーなの、僕はてっきり何か面白いことでもあったのかと」
なんか隣でうるさいのは幼なじみの小日向鶫、ちなみに俺が花以外に話せる数少ない…………いや訂正しよう。唯一の女友達でもある。ちなみに男子含めても唯一の友達でも……ちょっと悲しくなるからやめようか、うん。俺は妹以外の女子、というか人とあまり話さないので貴重な存在と言えるだろう。
「随分眠そうだけど徹夜でもしたの?」
俺は返答に迷う。まあ確かにこいつは幼なじみなだけあって両親ともそれなりに面識がある。だからと言って全部馬鹿正直に話すのはどうなのだろうかと。
「ちょっと家の事で色々あって、あんま寝れなかったんだよ」
「あっそ、ひょっとして花ちゃんとなんかあったんじゃ」
「なんか言ったか?」
余計なことを言われる前に被せて言う。こいつは昔からやけに勘が鋭いので変な勘ぐりを入れさせないようにするのが1番だ。
「おー怖、ってか授業始まっちまう、じゃね〜」
「あ、逃げんな」
そして放課後、例に漏れず一人で通学路を歩いていると後ろから背中をドン!と叩かれた。
「いったいな、誰?」
キレ気味に振り返るとそこにはニコニコ笑って背中をベシベシ叩く鶫がいた。
「やあやあ、一緒に帰ろうぜ!」
「……お前部活はいいのか?」
確か鶫はバレー部で部長をやってたはずだと思い出す。こいつバリバリ陽キャなのになんでこっち来てんだよ。
「今日は顧問がしゅっちょー?とかでいないから休みなんだよね!というわけで一緒に帰ろう、千春」
「…………わかったよ、わかったけどさ、いい加減背中叩くのやめてくんない?」
「あ、悪い」
そう言うと背中を叩いていた手をサッと引いた。
「てか君こそ部活はいいの?最近全く行ってないみたいだけど」
「俺はいいんだよ、そもそも部活を成立させるために名前貸してるだけだし、元々ほとんど行ってないわけだしな」
ていうか来たいときだけ来ればいいという条件で名前貸してる訳だしな。
「そっか、そういえば今日暇?暇なら僕と遊ぼうぜ」
「普通にやだ、断る」
話の切り替えが唐突すぎるんだよ。
「なんでさ!?」
「1,今日は数学の宿題が出ている」
「う’’」
「2,わざわざ時間を削ってまでお前と遊ぶメリットがない」
「え!?」
「3,これが一番大切な理由なんだが、花と会える時間が短くなる」
「はあ!?」
「以上3つの理由から俺はお前と遊ばな..........」
「ちょっと待ったぁ!!まず1つめの宿題なんだけど、君昼休みに全部終わらせてたよね?」
「ちっ、見られてたか」
「それと2つめなんだけど、こんな超可愛いJKとデートだよ?それだけでスーパーメリットだと思うんだけど?」
「それ自分で言うか?」
「言うとも、実際可愛いんだし、てか君もそう思うだろ?」
そういうと彼女はグイっと顔をちかずけて「どうだ!」とか言ってくる。落ち着け俺、表情を変えたら敗けだ、平常心だ平常心。
「た、確かに客観的に見て可愛い方なんじゃないの?」
「だろ?じゃあなんで」
「んなもん花のが可愛いからに決まってるからだろバカか?」
「黙れシスコン」
「シスコンだと?俺はシスコンじゃねえ!純粋に花が可愛いと思ってるだけだ!」
「それを一般的にシスコンと言うんじゃないの?」
「全く違うね、そもそもシスコンってのは妹に対して強い愛着を持ってるやつのことなんだよ。俺は違う、俺は花が宇宙一可愛いと思ってて花が幸せになるために生きているだけだ!」
「ハイハイスゴイデスネー、じゃあ3つめなんだけど..........どこから突っ込んでいいかわかんないんだけど?」
「突っ込むところなんてないだろ」
「大有りだよ!!なんだよ「花と会える時間が短くなる」って!?」
「正当な理由だろ、いいか?この世の中になぁ、妹と一緒にいたくない兄なんか存在しないんだよ!!!」
「なんかすごい名言言ったみたいだけど実際ただのシスコン宣言だからね?」
「だからシスコンじゃねえって何回言えばわかるんだよ!」
「それはもう無理があると思うんだけど、まあいいや。とにかく遊ぼうぜ!」
そういうと鶫は俺の背中に飛び乗って来た。
「おいバカ!まじでやめろって!!」
「遊んでくれるって言うまでどきませーん」
「クッソ、てかこんなところ花にでも見られたらどうするつもり......なん......」
「え?急に静かになっちゃってどうし..........あ~~~~~あ」
振り返った先には複雑な表情をした花が立っていた。
「え、兄貴、彼女?」
「えっっと花?これはそういうんじゃなくて..........」
「ごめん、私先に帰るね」
「あ、ちょっと花!」
言い訳をする前に花は走って行ってしまった。
「ヤバイ、どうすりゃあ..........」
なんであそこまで逃げられたのかはわからない、けど「やらかした」ということはなんとなくとわかった。
「落ち着け千春、とりあえず君には超1級フラグ建築士の称号をプレゼントするとして」
「要らねえよそんなもん、元はと言えばお前のせいじゃねえか。んなことより俺はどうすれば..........」
「そんなん自分で考えろよ、馬鹿なんか?」
「うっせぇ!とりあえず追っかけるしかないか?」
「わかってんなら今すぐに行ってこいこのアホ!」
「アホは余計だ」
そう答えると鶫に背中を叩かれ、俺は家の方向へと走り出した。
その背中を見て鶫が少し笑い、呟いた。
「全く、あんな鈍感な兄を持つと苦労しますな、花ちゃんも」
その言葉は、風によってかき消された。
当然と言うか先に走っていった花に追い付くはずもなく、家の前についてしまった。
ガチャリとノブをつかむ、鍵は空いていた。家の鍵を持っているのは俺と花だけなので鍵が空いているということは花が家に帰ったことを意味していた。まあ帰ってない方が問題だが。
そのままドアを押して家に入ろうとした。だが動かない。物理的やつじゃない。なにかにとりつかれたかのように腕が動かなかった。
心の中で抗うも、一切動かない。というか千春自身もなぜ動かないのかわかっていた。
それは「恐怖」だ。「ここで行ってもさらに嫌われるだけかもしれない」「もう二度としゃべれないかもしれない」「花は1人になりたいのかもしれない」そんな思いが、焦りが、逃げが積み重なって足かせになり、手錠になり、重りになっているのだ。
(ただそれでも、行かなきゃならねえんだよ)
そう心の中で叫ぶと同時に思いっきりドアを開いた。
「花、いるか?」
そう聞いてみるが返事はない。先に帰っているはずなので部屋にこもっているのだろう。
俺は花の部屋の前まで行くとコンコンとノックをした。
「花いるか?いるなら出てきて欲しいんだが」
当然ながら返事はない、だがさっきからゴソゴソと物音がするのでおそらく無視してるだけだろう。軽く脅してみる。
「えっと、返事がないなら入っちゃうぞ、それが嫌なら出てこい」
しかし花は出てこない、それどころか返事すらない。マジで?
「花?いるのは分かってんだからな?俺本当に入っちゃうよ?いいのか?」
やはり返事がないので俺はゆっくりとドアを開ける。久々に入る花の部屋は少し変わっていたが、ベッドの横においてある猫のぬいぐるみ(昔誕生日プレゼントで買ったもの)を見つけて少しうれしかった。しかし物色するために入ったわけではないので無視。本題の花を探すとベットの上に花が丸まっていた。
「花何してんだよ、てか呼んでんだから返事くらいしてくれ」
「……兄貴こそ彼女ほっといていいの?」
やっと答えてくれたが顔は見せてくれない。だが話し続ける。
「だからあれはそんなんじゃねえよ人の話を最後まで聞けって……」
「じゃあなんなの、あんな仲良くて彼女じゃないなら何?」
何と言われるとなんだろう、腐れ縁?友人?やはり幼なじみでいいのか?
「まあ幼なじみだよ、つーかお前もあったことあんだろ鶫だよ鶫」
そう言うと花は少しポカンとしてから答える。
「鶫って鶫さんのこと?小日向鶫さん?」
「だからそうだって」
「じゃあ鶫さんと付き合ってんの?」
「なんでそうなるんだよ!あんなんただの幼なじみだ、恋愛感情なんてねーよ」
「けどさっきあんなにくっついてたし……」
「あれはあいつのスキンシップが異常なんだよ、昔っからそんなんなんだよあいつは」
特に俺には過剰と言えるくらいだ、だから陽キャなんだろうけど。
「てことは兄貴彼女はいない?」
「いないどころかいた事すらねーよ、年齢=だわ、舐めんなっつーの」
つーか俺には花がいるし、それ以上いらない。
「そっか………そりゃそうだよ、兄貴のことを好きになるやつなんてよっぽどの物好きだろうしね!いるわけないよ!」
「なんで楽しそうなんだよ、泣くぞ」
まあ元気が戻って良かったけどさ。
「まあいいや、じゃあこっちの質問にも答えてもらうぞ、何でさっき逃げたんだ?」
「…………へ?」
「いや別に逃げる必要あったかなと思って」
「それは……その……………だから」
「何?聞こえなかったんだけど、つーか顔見せろ顔、聞き取りずらいんだよ」
「うっさいバカ!近づくな!」
「酷い!ってか痛い!」
花は近づこうとする俺をペシペシ叩いてくる。
「ちょっと痛いからやめろ」
そう言いながら花の腕を掴むと顔が見えた。その顔は相変わらず可愛かったけど目の下が赤く腫れていた。
「おい、泣いてたのか?何で泣いてんだよ」
そう言いながら花に近づく、この際嫌われるとか関係ない、花が泣いてる方が重大だ。それが俺のせいならなおさらだ。
「なんでもないから!大丈夫、っってかほんとに近い!離れて!」
「じゃあなんで泣いてんだよ」
「ぅぅ……」
「言いたくないのか?」
そう尋ねると花は頷いた顔も少し赤くなってる。よっぽどの理由があるのだろう。それを無理に詮索するのも良くないと思い、離れる。
「なら無理に言わなくてもいいよ、近づいて悪かったな」
「え?」
「言いたくないことを無理に聞かねーよ、ほんとに大丈夫なんだよな、ならいいよ」
そう言って立ち上がる、本当はもっと居たかったがそんなことを言ってる場合じゃないことは流石に分かるのでゆっくりと歩き、ドアの前に行く。
ノブに手をかけるとほぼ同時に、花が小さな声で呟いた。
「その……ごめんね」
「何に謝ってんだよ、悪いことしてないやつが謝る必要ねーよ、」
答えながらノブから手を離し、花の方を向く。てか花に謝らせることなんてさせてたまるかよ、まあ実際させちまってんだが。
「けど実際兄貴に迷惑かけちゃったし」
「こんなの迷惑のうちに入らないから。そもそも花にかけられる迷惑なら大歓迎だぞ」
「……は?」
返答に少し間があった、恐らく混乱しているのだろう。ていうか同じこと言われたら俺もすると思う。
「……もしかして兄貴ってマゾなの?」
「ちがうわ!なんでそうなんだよ!」
「だって迷惑かけられたいって言うから……」
「いやあくまで花限定だからそういうんじゃなくて」
「むしろやばいよそれ!特殊すぎる!」
なんか変な方向に勘違いさせたかもしれん、訂正しておこう。
「じゃあ言い方を変えよう。俺を頼れ、花。兄としてできることはなんでもしてやるから、まあ言い難いこともあるだろうけど、兄妹なんだからさ」
そう聞くと花はなんて言ったらいいか分からないような表情でこっちを見ている。まあ嫌いな兄にそんなこと言われても…………いや嫌いと決まったわけじゃない、まだ可能性はあるはずだ。
「花はさ、俺の事嫌いなの?」
「……なんで」
「いやだって露骨に避けられてるし、もし嫌いだったらそんな奴に頼れなんて言われても迷惑かなと」
「別に……えっと………」
何やら歯切れが悪い、やはり面と向かっては言いずらいのだろうか。そう考えていると花が聞いてきた。
「ちなみに兄貴は」
「え?」
「だから兄貴は私の事ど、どう思ってんの」
「可愛い妹、嫌いなんてもってのほか。」
即答する。てかそれ以外の選択肢があって溜まるか。
「だから可愛いは余計だってば!」
花は少し怒鳴りながら俺の肩を叩いてきた。
「前も言ったけども可愛いから、余計じゃない」
ちなみにお世辞や身内贔屓ではなく花は本当に可愛い。その辺のモデルの5億倍は可愛いしなんなら俺が見た人類で1番可愛い。いやシスコンじゃないから、純粋な評価だから。
「とにかく可愛いもんは可愛いんだからどうしようも無い、はい終わり!で?花はどうなんだよ」
話題を戻す、まあ無理に知りたい訳では無いが、聞くに越したことはない。俺は花の目をじっと見る。
「う……うるさい近い!バカ兄貴!」
「じゃあどうなんだよ」
そう聞くがもう答えはほぼ決まっている。ここまで聞いて言わないということは言いにくいこと、つまりはそういうことだろう。花は優しいから言葉を選んでいるが故の沈黙なのだろう。
まあわかりきってたことだし?むしろ確定して良かったくらいだし?別に悲しくなんかないし、ちょっと泣きそうなだけだし。
「わかった、押しかけて悪かったな、花」
そう言って俺は立ち上がる。立ち上がる時に花が何が言おうとしていたが、無理に言わせるのも悪いと思い、再びノブに手をかけた時、
「待って!」
後ろから声が聞こえた。振り向くと花が立ち上がって、そのまま俺の方へ歩こうとする。が、ずっと座って泣いていたからか、バランスを崩し転びそうになる。
「危ねぇ!」
言いながら花を支える。だが支えた体勢が悪く、そのまま抱き抱えた形になってしまう。
5秒ほど時が流れた。俺は慌てて花の背中から手を離し、1歩下がる。
「大丈夫か!怪我ないか?」
「………ダイジョブデス」
小声で聞き取りずらかったが大丈夫なようだ、ナイス俺の反射神経。だが問題は支えた体勢にある。
「えっっとその……スマン」
「こっちこそ転びそうになっちゃって、ごめん。それと……ありがと、支えてくれて」
「気にすんな、妹を守るのは兄としての宿命だからな」
「……そうなんだ、けど程々にしてね」
「わかってるよ、てかどうしたんだ?急に呼び止めたりなんかして」
「そっか、えっとね兄貴のことどう思ってるかなんだけど……」
「それなら無理して言わなくていいぞ、言いにくいこともあるだろうし」
ていうか聞いてしまったら立ち直れる気がしない。
「けど兄貴絶対勘違いしてるから」
「勘違い?」
「そう!まあすぐに答えられなかった私も悪かったけどさ、その〜〜兄としては、兄としてはそこまで嫌ってるわけじゃないから」
「・・・まじで?」
「そう、なんか勝手に解釈してたからさ、あくまで兄としてはだからね」
「いやそれでもめっちゃ嬉しいが、泣きそうなんだが」
「なんでそんな、ってほんとに涙目になってるし!」
仕方ないだろ、正直人生で一番うれしいかもしれねえ
「全く大袈裟な、ていうか今日のことで私に対する対応を変えたりしないでよね」
「わかってるよ」
そう、実際喜んだけどこれが本当なのかもわからない(疑いたくないけど)例えば俺を慰めるための優しい嘘かもしれない、仮に本当だとしても下手に絡んで評価を下げるなんてことになったら本末転倒だ。そもそも重要なのはそこじゃない、重要なのは花が俺のことを嫌いじゃないと言ってくれたことだ。録音機持ってくりゃ良かった。
「ほら終わり!さっさと部屋から出ていって!」
「そっかすまない、じゃあまた後でな」
そう言って今度そこ俺は花の部屋から出ていった。
そういえば久しぶりに花の部屋に入ったな、それにしても、
「めっちゃ良い匂いした……」
声に出てしまった自分が若干気持ち悪いと思いつつ、自分の部屋に戻った。
面白かったですか?
もしよければ評価、コメント等して下さると感謝のあまり喜びの舞を繰り出します(噓)