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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第1章 花の少女、フローラ
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05.明かされ始める真相。




 考えてみれば簡単なことだ。


 僕がフローラについて情報を得ていたのは、ノアからだけ。


 そもそも他者との繋がりをできる限り切っている僕は、彼を通してでしか外界の情報を得ることはない。つまり彼が偽の情報を僕に与えれば、僕はそれを信じざるを得ないんだ。


 むかーしは個展開いたりしたこともあったし、今でも画商と繋がりは持ってるけど、大戦の影響もあってそういうのも今では減ってしまった。


 ノアならかなり長い付き合いだから、信用できると思ってたんだけど……。そうじゃなかった。


 あの紙の内容から察するに、僕は今までフローラの護衛の任を仰せつかっていたようだ。僕の知らないうちに。


「長期に渡る王位継承者の護衛」


 書類で見た通りならば関係性から言うと、依頼者がサリィで、王位継承者がフローラ。そして、僕がその護衛者ってところだろう。


 僕はフローラを拾ったあの時、危険物を運ぶ仕事をノアに紹介されて受けた。

 

 それがつまり、フローラの護衛に繋がったということになる。


 考えなければいけないのは、サリィがどうしてその依頼をしたのか。何故、直接依頼を僕にしなかったのか。フローラはサリィによって王宮から攫われたのかということ。


 特にサリィが王宮と繋がりを持っているのか。それとも個人でここに依頼したのかによって、これまでの行動の意味が全く変わってくる。


 あと、ルルとメルは結局何者なんだ。


 ……関係性がはっきりしない。ただでさえイライラしていると言うのに。


 ノアから引き出すしかない。あぁ、まどろっこしい!!




「……ねぇ、この地下都市ってどれだけ耐久性あるの?」


 僕は、怯えている女の子達二人に話しかけた。


 すると、一人は完全に腰を抜かしてしまい失神。

 受付嬢の方が足を震わせながらも、なんとか立っていると言う有様。


 僕は彼女が話せるように威圧を少し抑えた。

 

「は、はい!!……ええと」


 威圧が抑えられ、意識がはっきりしたようだが、いまいち状況が良く分かっていないといった顔をする彼女。

 まぁ、気を失わなかっただけ良いのかな?


「この空間が上も下もない亜空間だとしても、座標が設定されてる場所に影響は避けられないからどれだけ僕の力に耐えられるのかなって」


 そういうと、彼女は顔を真っ青にしてルーク卿の力に耐えられるわけがありませんと言った。そして、例を挙げた。


「……根天都市についてはわかりませんが、ここは巨大蛇が暴れまわっても、傷一つつかなかった覚えが」


 巨大な蛇?


「……バジリスク?」


「……そうです」


 顔を逸らしながら、受付嬢は言う。


 なんて危険なもの持ち込まれてるんだ。


 バジリスクは一匹出れば周囲に毒を撒き散らし、瞳を見つめてしまえば、人は瞬く間に石になってしまうという蛇の王。

 人間の被害で言えば、一晩で街が壊滅するレベルだ。吸血鬼よりよっぽどタチが悪い。よく生きてるね。


 でも、バジリスクが暴れて傷が付かないくらいか。


 両手をニギニギと動かす。まあ、せいぜい素の力で殴って、影響が出ないくらいかな。


 そんなことを考えながら、ふと我にかえる。


 ……なんだ、周りを気にしてられてる。以外とまだ理性残ってるみたい。イライラはしてるけど。


 ……多分、手を出しても手加減できる。



 そして、僕は横で黙っている男に顔を向けた。本題に入るためだ。


 ノアは「あーあ、バレた」なんて、さっきまで調子乗って発言してたけど、威圧を強めたら黙った。でも、様子を見るにあんまり反省はしてなさそう。

 種族が何かは知らない。でも、気配からかなり弱いことは知ってる。そこまで弱いくせになんで、ノアはそう強気でいられるんだろう。

 

「……で、ノア? 覚悟できてる?」


「…………? はぁ⁈」


 僕がジロっとノアを見つめ、予兆なしに握りしめた腕を振りかぶると、ノアはそれに気付き、ギリギリで避けた。

 僕が振りかぶった力は床にぶつかる。


 ドガアァァン!!!


 床は衝撃をまともに受け、ヒビが入ったかと思うと、ポッカリと亜空間に穴が空いた。ちょっと力加減間違えたかな。

 

 ノアはその様子を見て、額から冷や汗を垂らし、降参するように手を挙げて僕に言う。


「いやいやいやいや、待て待て待て待て! 手出す前に聞くことあるだろうが! 何も聞かずにボコる気か? そもそもここにアンタ何しに来たんだよ」


 ジリジリと後ろに下がっていくノアをゆっくり追っていく。


「……メルとルルが、もっとちゃんと考えてみろっていうから。…それに、黄金(きん)


 ノアは自分から用件を聞いてきたくせに、僕がそういうと頭をぐしゃぐしゃにして、呻きだす。


「あぁーー、アンタは主語も説明も一切省くのが好きだな。……つまりえーと、えーと、あの姉さん方がアンタに忠告して、考えてみた結果ここに来たと。黄金。黄金……は、「女神の福音」か」


「……「女神の福音」?」


 ……どこかで聞いたことのある言葉だ。

 

「いや、なんでもねえ。「黄金」とは、あの国の王族が持つ色のことを言ってるんだろう?」


 へっぴり腰で完全に壁に追い詰められたノアは、それでも自信ありげに答える。


 僕は、その返答に少し驚きを覚えた。


 黄金って聞いただけで分かるくらい有名なのか。僕なんて梯子酒してやっと、王城の関係者から話を聞けたのに。


「……そうだけど。で? その書類について教えてくれる?」


 僕が彼の手にある書類を指さすと、ノアは堪らなさそうに舌打ちした。わざとらしく言う。


「ちっ。何かあった時のためにわざと取っておいた写しが、こんな形でバレるなんてよ」


 コイツ、本当に僕舐めてるよね。ここまで追い詰められてるのにどうしてこんな態度取れるんだ。


 僕は拳を見せて、ノアに詰め寄る。


「……ノア?」


「はいはい、「逆さの吸血鬼」様には逆らいませんよ。この書類について、でいいんですね」


 ノアは手に持った紙をペラペラと揺らす。


 僕の昔の渾名を引っ張り出してきて余計なことを言うくらいなら、早く話せばいい。


 そしてグダグダと沢山文句を言いながら、ノアは話し始めた。


 ーーまず11年前、エンドマーク斡旋所に極秘の依頼が来た。


 その内容は書類に書いてあった通り「長期に渡る王位継承者の護衛」。それもその護衛者にそれを知らせずに、護衛をさせろとの話だった。


 ーー最初は断ろうと思ったんだが、金払いが異様に良くてなあ。つい受けちまったんだ。


 守銭奴らしき発言をして、ノアは続ける。


 依頼を受け、直接話をしに来たのがサリィだった。


 サリィはその依頼を急ぎ実行するように、ノアに詰め寄った。


 一国からの依頼であり、一度受けると言ったからには断ることもできず、ノアは条件を絞らせ、いくつかの候補を挙げた。


 そして、決まったのが僕だったという。


 その後計画通りにフローラを僕に預けることに成功し、サリィをそのシッターとして派遣して依頼は終了したと。


「なんで、僕を候補にあげたんだ」


「……吸血鬼の王が、隠居したジジイみたいに日がなボーッとして、動いたと思ったら簡単な仕事しかしようとしないからだ。俺の始祖への憧れはお前のせいでめちゃくちゃになった。だから、厄介な仕事に巻き込んでやろうと思ってよ」


「…………それは、ごめん」


 僕に吸血鬼への憧れを見出されても困るけど、それについては一応謝る。


 でも、絶対それだけではないはずだ。そんな単純な理由で依頼が成立するなんてありえない。


「それで、本当の理由は?」


 ニッコリ笑って僕が聞くと彼は葛藤するように、目を瞑り頭を抱える。


「あー、あー、言いたくねー。……分かった、分かったからその拳下げろ。……えーとなぁ、あの嬢ちゃんが、条件に挙げたのはまず第一に「強いこと」、次に「異国に多数の伝手を持つこと」、最後に…………「優しいこと」だった。まぁ、他にも条件を馬鹿みたいに出されたがな」


 そう言うとノアは顔を隠し、大きく息を吐いた。


「強いだけのやつならいっぱい居る。伝手を持つやつも多い。でも、赤子を拾い上げて育てるなんて馬鹿はアンタくらいだと思ったんだよ。……あんまり物も深く考えないしな」


 褒められたのかな? でも、侮辱されたような気もする。

 「優しい」ってノアに認められたことはいいはずなんだけど、素直じゃないんだか馬鹿とか深く考えないとか、失礼千万だ。


「……君のおかげでフローラに会えたことだけは評価してあげてもいい。でも、僕を利用したことは許さない。フローラをそれで僕は傷つけてしまった」


「……悪かった」


 ノアが頭を下げて素直に謝ったので、少しは苛つきが減った。

 

 僕は威圧を完全に解き、周りにいた女の子達を解放した。

 


 それを見ているノアは一件落着みたいな顔してるけど。


 ……サリィが王宮と繋がっているってことは。


 僕は貴賓室の椅子に座り、ノアを反対側の椅子に誘導する。


「……ノア、まだ隠してることあるよね。吐いてよ」


 ノアは顔を上げ、悲しそうに顔を歪めると


「……無料(ただ)でか?」


と言った。


「……君いい加減死にたいの?」


 彼の強欲さは死ななきゃ治らないのかもしれない。


 




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