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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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番外編.空飛ぶへんたい


本編イメージ壊します。

あらかじめ言っておきます。ごめんなさい。


「あは。あはは」


 ルシファーは、上機嫌に聖国首都上空を飛んでいた。漆黒の翼を広げて、風に乗り旋回する。聖国内では転移が不可能のため、朝になる前に聖国内から出なくてはならないが、テンションが上がってどうも飛行が不安定である。


 腕の中には、眠る主人がいた。黒髪が顔にかかり、神の造形を隠している。ちなみにお姫様抱っこである。


 溢れるような神気に身震いがした。必死に我慢してきた甲斐があった〜。


「やはり主人は生に限りますね〜」


 触れてるだけでルシファーの魔力を増幅させている主人は、一歩間違えばひと大陸を壊してしまうような兵器だが、扱いさえ誤らなければ溢れる命の泉と変わる。その偉大さと言ったら、言葉に尽くせないほど。物事には良い面と悪い面があるのだ。

 彼ら(ディアボロス)が消えてしまった今、聖国は彼らに受けていた恩恵の大きさを知るだろう。あの大国の豊穣さを支えていたのは、彼らの力なのだから。


 ーー良い気味だ。一度無惨に滅んでしまえ。


 ルシファー自身が手を出さずとも、きっとそうなる。誰かが手を貸さぬ限りは。




『ルシファー、君見てるだろ。僕が命令する。絶対に人間に手を出すな』


 高速で飛びながら、不機嫌そうに言っていたルークの言葉を思い出す。久しぶりの命令ということもあり、それも今回は彼自身から命令してくれたので、ルシファーのテンションは跳ね上がった。声が震えそうになるのを無理やり抑えたくらいで、返事に時間がかかった。

 余談だが、ルシファーがルークを讃える言葉を使うのはわざとである。賛辞を聞くと、普段表情筋が使われない主人の顔が少しだが嫌そうに歪むのだ。それが嬉しくてついどこまでも賛辞が止まらなくなり、主人に嫌がられる。 


 ーーいや、揶揄うと可愛いんですよね。主人。


 ルシファーの整った顔が喜びにほてる。


 それにしても……どーしようかなぁ、どーしようかな。


 眠る主人を好きにしていいって!! ほんと、どうしましょう。


 まずは、離れている間に荒れてしまった髪質から何から整えて差し上げて〜。最高級の香油を聖国で仕入れたので、それを使いましょう。

 そもそも、この質素な外套はなに!!

 黒いだけで全く飾り気もない。ルシファーの美意識に反している。


 主人のためを思って、妄想だけで済まして来た私のコレクションが役に立つ日が来たと思うと泣けますね。

 毎日服を4着は着せ替えて差し上げよう。主人を放っておくと、何もかもテキトーにされるのでいけない。


 前髪も伸びて、だらしないです。髪自体はご自分で切られてるのか、ところどころ荒れてしまっている。私がお仕えしていた時は髪を長くされていても、私が綺麗に切り揃えていたのでこんなことはなかった。


 ルシファーは妄想に耽る。


 暗がりの森。赤い薔薇の咲いた庭を抜けると、そこには大きな屋敷がある。

 その屋敷の部屋は赤いカーペットが敷かれ、その中心には主人が眠る棺桶。

 その蓋を開けると、陶器の白い肌に長い睫毛を伏せる魅惑の美貌が見える。シャツはフリルをあしらい、胸元には黒いリボン、揃いの色のベスト。

 そのあまりの美しさに手を止めると、ふとその瞳が開き、紅玉が現れ、主人がスッと立ち上がる。

 ベルベットの黒い外套を纏い、その裾が翻り裏地の紅が見えたとき、誰もが主人の虜だ。


『わー、わー、わー』


 理想の主人であった。


 ーー腕が震えるぅ。是非とも叶えたい。


 まずは、主人の入られる棺桶を見繕ろわなければ。


 私の主人ですよ!! 誰よりも尊く素晴らしい方なのです。眠る主人を世界に自慢したい。


 ルシファーは、妄想にテンションが上がりすぎて頭がおかしくなっていた。ルークに会えるだけでテンションは鰻登りになり、花街の屋根で飛び跳ね、踊りまくっていたと言うのに自らの欲望を叶える機会が訪れたのだ。それは上がるだろう。


「星が落ち、天下は上空に、飛ぶ鳥は海に沈みますねぇ。


 磊々落々、高邁闊達、その上に容姿端麗の我が主人! 偉大な偉大な我が主人! 伝説の逆さの吸血鬼です! 私はそれに仕える敬虔な奴隷なのです!!


 ふふふははははははは!!!」


 上空を異様な笑い声をあげながら飛んでいると、それに気づいたのか魔物が大群で現れた。鳥のような、竜のような見た目で中々に強い魔物である。瘴気の影響で生まれたものだろう。

 身の程知らずにもルシファーに向かってくるとは、良い度胸である。


 普段であれば部下がいるので手を出す事もないが、興が乗っている。それにあの脆い人間の弔い代わりにもなると思った。


『闇の御使達よ、天地神明の慈悲をもたらしましょう。我が力で屠られること、名誉に思いなさい』


 ルシファーの領域に入った、彼以下の魔力しか持たないありとあらゆるものはその支配下に置かれる。聖国の領域からも抜け、彼の力に縛りはなかった。


『散り裂けなさい』


 魔物周囲の空間が歪み婉曲したかと思えば、一瞬の後激しい爆発が起こる。夜の闇に咲く花である。地上から見れば、白い花が咲いたようにも見えただろう。


 ーー誰に悲しまれるともしれないソライアよ、手向けにもって行きなさい。


 ルークの興味を惹いた人間。その点では認めてやろうと、ルシファーはくつくつとまた笑う。


 しかし、それにしても主人は昔とは違ってお優しくなった。近くに侍っていた部下でも名前を覚えられているものは少なかったのだ。ましてや通りがかりの人間が吸血鬼になり死んだからといって、興味を持つかと言えばその答えは否だ。それほどあの方の心に入り込むのは難しかった。

 あの少女姫のおかげだろうか。可愛らしく理知的であり、話の通じる相手だった。

 だが、主人が甘えすぎている点もあったなと思う。甘やかしたがる気持ちはわかるが、床にコロコロさせていてはいけない。覚えてはいけないことが癖付く。


 昔のルークは、それはそれはかっこよかったのだ。ルシファーは思い返す。


 玉座を玉座とも知らず、座り心地の良い椅子だねと言って座りうたた寝していた主人。

 主人が城の中を迷子になり(行方不明)、しばらく見つからないので、手狭な屋敷に引っ越したこと。

 いつのまにか雪の中に埋まって居場所を作り、人が踏んで落ちるまで気付かれないという偉業を成し、中には何故か猫型の魔物が集まっていた。

 


「……思い出す記憶が違いましたね」


 ルシファーは思い出した記憶を彼方に消し去った。


 片手で全てを薙ぎ払い、知性のない魔物たちに支配された北の地を解放した姿。

 深い知識を披露し、我が国の魔法研究に貢献してくださった姿。


『ルシファーは何がしたいのさ』


 肘を立てて顔を傾ける主人は、北の地で最後に会った時そう言った。

 私の答えはただ主人にお仕えしたいだけだったが、主人はそれを認めては下さらず、別れることになった。全く釣れなかった。


 その冷たいお姿もかっこよかった。ツンとしているのも良いのである。


 ーーまぁ、結局彼が彼であればいいのだが。



「主人、主人、主人。なるべくお早めにお目覚め下さいね」


 眠る彼を好きにできるというのはこの上ない幸せだが、それ以上にルシファーはのびのびと生きているルークが好きだった。きっと長く眠っていてはルークは後悔するはずだ。


 私の全てはあなたのために。


 身体の磨耗も回復させるよう、他属性の一族を集めよう。地脈もコントロールし、南の森の影響が及ばないようにして、彼がしばらく休めるようにして。


 これから各国も大きく動くだろうが、それがルークに影響を与えないようにある程度調整しなくては。


 早く帰って、トレデキムに準備を整えるよう命令しますか。


 北の屋敷に向かい、より速度を早めた。



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