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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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10.ルーク鎖に繋がれる、聖国へ


 「ぐええ……」


 ガタン、ガタン、激しい揺れに襲われ、情けない声が口から出てくる。窓に近寄り、フードを目一杯深く被りながら外に顔を出す。

 なんでこんなことをしてるかって? ーー馬車の揺れに耐えられず、酔ってしまったのだ。


 ……そう、酔ってしまった。


 普段なら、全く気にならないはずの馬車の揺れ。例え馬車が上下逆さまに空中移動したって、いつもの僕なら気にならない。そもそも酔うという感覚に襲われたのは初めてである。酔うというのこんな感覚なのだなと、頭がグラングラン、脳が頭以外の違う場所にあるみたいな感じに狂わされながら、半分感心するように思った。


「……苦しい」

 

 僕がこんな目に合っているのは、マリー女王が僕につけた魔封じの首飾りのせいである。人間の力なんて僕に作用するはずないのに、彼ら盛花国王族にはそれが通用しないのか、僕の力の半分近くが封印されてしまった。

 おかげで体は弱体化し、フラフラとしている。日光と揺れの苦しみの二重苦がそれをさらに重症化させた。

 できることなら外したいが、聖国に向かうための絶対条件がこの封であった。


「早く着かないかな……」


 こんな情けない姿をフローラに晒す訳にもいかず、ここ4、5日は顔を合わせていない。

 もうしばらくすれば、聖国の首都に到着するとのことだったので、酔いを我慢して先を急いでもらう。



「ルーク!! 首都が見えたよ!!」


 意識が半分飛んでいたようで、一行の後部馬車にいるはずのフローラの声でやっと首都が目の前にあることに気付いた。


 聖国首都セイント。盛花国の元宗主国であり、世界の浄化を司る聖国教会の本部がある場所だ。そこの大聖堂で、フローラの洗礼式はそこで行われる。

 街を一眼するだけで、膨大な結界と防御陣が展開されているのが分かった。マリー女王が僕にこの首飾りを渡すわけだ。これをしていない僕がこんなところに入ったら、歩くだけで全てを壊していく。この首都で育ち、守られてきた人間が、結界を壊され襲撃を受けたらひとたまりもないだろう。人間は弱いから仕方ない。


 馬車が首都内に入ると、周囲に人々が沢山いた。パレードを歓迎するように旗を振り、花を散らす。

 僕は早々馬車を降り、目立たぬようにフローラの乗っている馬車の周囲を警護していたが、歓迎されている様子から、誰かがフローラを狙っていることはなさそうだった。少しだけ気を緩める。


 長旅で疲れているだろうフローラは、馬車の中から周りをキョロキョロして僕を探しているようだった。だけど、出来ることなら表に姿を出さないようにと言われていたので、姿を隠したままにする。


 大聖堂の敷地内に入ると、全員が馬車から降りるように案内された。馬車は違う場所に移動され、フローラは自らの足で大聖堂の中央を護衛たちを引き連れながら歩いていく。

 

 しばらくすると、緋色の衣と帽子を被った金髪の男が現れた。これが教会の代表だろう。いかにもな雰囲気で、こちらも後ろにたくさんの人間を従えている。 

 

「ようこそ、おいで下さいました。盛花国第一王女、フローラ様。教皇が多忙を極めておりまして、代理としてご挨拶に参りました。聖国教会、司祭枢機卿の位に着いております、ソライアと申します。洗礼の儀を迎えられますこと、まことにおめでとうございます。主の洗礼によって、寿ぎが得られますことを」


 そう言って祈りを捧げるように額の上に拳を当て、にこりと笑った顔がいかにも胡散臭かった。こちらをチラリと見てきた気がして、それも気に障った。ノアと同類の気配を感じる。関わり合わない方が良い手合いだけど、関わらざるを得ないのだろうと少し諦めながら思った。



 僕たちは聖国教会の本部にて、洗礼式が終わるまで過ごすこととなっている。

 フローラは洗礼式の準備のため、禊ぎを受ける場所に案内された。信徒となるためには魂を磨き、1週間は禊ぎを受ける必要があるらしいが、フローラの魂に穢れなんてあるわけないので、僕としては禊ぎ無しにさっさと終わらせて帰りたいところだった。しかし、国同士の事情でそれも無理だという。僕には全く分からないけど、色々事情があるらしい。


 僕は先に居室に案内された。フローラも心配だったが、男が禊ぎの間に入れるわけもなく、体調をフローラに逆に心配されてしまった。いざとなれば、首飾りなんて千切ればいいと安直に考えていた。


「こちらが居室になります」


 興味深そうに、こちらを見てくるモノクルをかけた青年。案内係として僕を、本堂に隣接した宿泊施設?に 連れてきた彼は、黒髪のおかっぱ頭で、かなり特徴的だった。はじめ、キョロキョロと僕の全身を回りながら見てきた時は、どこかの変態にそっくりだと思った。アイツみたいに命令しろと命じてきたりはしないだろうけど。


「先に盛花国からここに来たはずの、ルルとメルという使いはどこにいますか?」


「雪華の姫たちですか?」


 雪華の姫ーー? ルルとメルには全く似合わない単語が出てきた。


 僕が確認のためもう一度聞き返すと、ニヤリと笑って揶揄う視線をこちらに向けてくる。モノクルをくいっとあげた。


「雪華の姫というのはですね。彼女達が皇城にいた時のあだ名なんです。誰にも隙を見せず、周りの賛美の声を空気のように受け止める。彼女達の美しさに魅了され、告白したものはものの見事に相手にしてもらえませんでした。氷のように冷たく、絆されないので、最後についたあだ名が誰にも手折れない花、雪華です。社交界の花でした」


 ーー盛花国の()()()はどなたも美しくあられて、羨ましい限りです。


 ルルとメルは2人なのだから、複数単位で語られても良さそうなものだが、その話し方には含みが含まれていた。秘密裡にここまで僕を案内してくれたのだから、詳しい情報を知っていそうであるが、余計なことに首を突っ込んでとんでもないものを掘り当ててしまいそうで、これ以上聞くことも躊躇われた。僕はそもそも面倒なものは苦手なのである。


「……そう、ですか」


「雪華の姫たちはですね、こちらの都合で都市の外れの方に行かれてます。2、3日ほどで戻って来られる予定ではありますが、天候次第ですね」


 そうなるとその間、僕は完全に暇か。どうしようかなと思っているとその考えを読んだように、青年がお暇なら本堂内を見学されてもいいのではと提案してきた。


「見学?」


「私がご案内しますよ、敷地内は広いので暇つぶしとしては最適ですし。本日は本堂内からご案内しましょう」


 僕は見学なんてできるのかと言う意味で聞いたのだが、青年はそれを勘違いしたようで、自分が案内すると答えた。目立つ真似はするなと言われたが、少し見回るくらいは大丈夫だろうか。


「楽しくはないでしょうが。では少々、本堂内を廻るのに面白いお話をしましょうか」


 聖国はですね、盛花国より誕生が遅いのですよ。ま、それは母体が変わっただけで血統は同じなのですがね。

 現在の本堂はその旧時代、神聖ドゥトゥール国にかつて存在したものがそのまま使用されています。かつて彼の国は、神を怒らせ、その粛清を受けたと言われますが、本堂や聖碑などは傷一つ付くことなくそのままらしいですよ。


 青年は面白そうに語りながら、本堂内を案内してくれた。本堂内の増築された箇所を示したり、教会内の信じられないほど広い礼拝堂や、祭壇などを見せてくれたりした。本当にここまで見せて良いものなのだろうかと疑問に思いながら、僕が特に気になったのは。


「あの壁画は誰が書いたものなんですか」


 礼拝堂に向かう廊下のど真ん中に、堂々と描かれた女神が眷属たちと共に地に降り立つ姿。暗闇に包まれた地を神々が光と共に切り開き、人々がそれを崇める図だった。『創造神話』のはじめのはじめ。人と神の交わりが書かれたこの章は、誰もが知っているがゆえに多くの人に描かれており、この絵に挑戦することは自分の評価と面と向かって向き合うことになる。

 色を完全に支配したこの描き方、濃淡を意識して闇光を表現するそれに、僕は見覚えがあった。


「ほお、そちらに興味があられますか。お目が高いですね。かの『孤独な男』を描かれたライアン・ペルテスの作品ですよ。30代の頃に作成されたと聞いております」


 ーーライアン・ペルテス


 懐かしい名前だった。僕の師匠。『爺さん』だ。

 何にもなくて、感じたと思ったら消えて、ぐちゃぐちゃでどうでも良かった僕に絵を教えてくれた人。


『バカだなぁ、お前。俺より年上のくせになんにもわかっちゃいねぇ』


 僕をバカにして、僕を他の人と同じように扱って、僕の道を切り拓いてくれた人。あの時はあなたに感謝をするなんて、少しも思ってなかった。


 『創造神話』と言う題材に悩んでいた僕の前に、また彼が、彼の作品が現れた。

 僕はふふと笑った。首飾りのせいでへこんでた気分も楽になった気がする。


「彼の作品は他にもあるんですか?」


「ええ。当時の教皇は彼がお気に入りだったらしく。応接間や女神の間などに残っておりますよ。もし、詳しくお知りになりたいなら、博物館にでも行かれますか? この時間ですと、もう明日になりますが」


 気がつくともう日が暮れていた。フローラはもう禊ぎを終えているだろう。今日は一度帰って出直そうと思いながら、脳裏にその壁画を焼き付けて、僕は部屋へと戻った。

 

 何の目的もない暇な時間になるかなと思ったけど、全くそうではなかった。これからやることが多くなりそうだ。



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