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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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08.お茶会


 僕にとって、衝撃の事実が発覚した数日後。


 僕らは王城庭園の一箇所、春の園でその茶会は開催されたお茶会に参加していた。春の園は王城内でも一番広大な敷地を持つ庭園であり、こういった行事において用いられることの多い場所だと言う。

 今回招待されたのは王族に身近な一族の代表者、権力者たちの令嬢や婦人たち。また区画が分かれて、男性向けのコーヒーハウスもあった。


 春の花々の中、着飾った女性たちが白を基調とした華奢なテーブルを囲んで珍しいお菓子やお茶を楽しんでいる。その中心にはフローラやマリー女王がいた。


 フローラは細かい刺繍の凝った、淡いミントグリーンと白のドレスを纏い、顔を隠すチュールのついたトーク帽を被っている。

 対するマリー女王は、襟ぐりの開いた薄桃色のドレスを着ていた。薄いレース生地を何層にも重ね、透けるようで透けない花のようなドレス。腰元にある布リボンが柔らかな印象を強めており、動きやすさにも気が使われていた。

 それぞれの髪色に合わせた服装にしたのだろう。フローラが緑、マリー女王が桃色の対になっている。


 フローラは最初落ち着かなさそうにしていたが、会が進むにつれ自然と体から力が抜け、楽しそうな表情へと変わっていった。近くにサリィがやってきたのが、その理由かもしれない。


「……楽しそうだね」

 

 僕と言えばこの会に呼ばれたはいいものの、あまりにも場違いな雰囲気なので、早々に後から集まる予定の空の園に行かせてもらい、珍しい蜂蜜やミルクを貰ってゆっくり飲みながら、その様子を上から見つめていた。

 空の園はちょうど春の園の上、フローラ達を見渡すことのできる位置にある。王族専用の庭園であり他者は侵入できず、時の螺旋(クラルス)も植えられているため、フローラ達を待つには最適な空間だった。

 ティーセットの準備は整えられていて、残るは主人を待つのみだ。


「ルークさん。何してるんですか?」

「ルル、メル」


 そこで、ルルとメルが現れた。

 ルルとメルはメイド服ではなく、シンプルなお茶会用のドレスに、黄金の髪を隠すキャップを纏っている。こういう茶会の場では落ち着きのある服装が好まれており、眼鏡をかけた二人に合う格好だった。


「下を見てるんだ」

「下? ……ああ。フローラ様を見てるんですね」

 

 心配なら行けばいいのに、と言いたげな二人。それは長年の付き合いで分かったけど、緊急事態が起きない限り、下に降りる気はなかった。……ああいった場は昔から向いていない。フローラに迷惑をかけてしまう可能性だってある。

 ただでさえ、人の多いところは得意ではないのに、社交辞令に、遠回しの皮肉。どうやっても僕では対処できない。どうしてもでなければ行けない場面では、代理人を立てて行かせていたくらいだ。


「ところで、メル達はどうしてここにいるのかな?」

「なぜって、基本的に私たちは表舞台には出ませんよー。写し身ですから、出ない方が自然なんですー。裏方役ですよー」

「私たちが出る時は完全に非常時ですからー」


 写し身という特殊な役割を持っている二人は、なるべく表に出ない方がいいということだろう。マリー女王の顔が流出してしまった今でも、それを守っているのがどうしてなのかはわからないが……。


「ふーん……。フローラの顔を隠してるのはどうして?」

「もちろん、顔を晒さないためですねー。幻惑の魔術もかけてありますー。これまでは表舞台はローレンが代わりに出ていたのですが、フローラ様には主要な人間の顔と位置関係を知っていただく必要がありまして、このような形になりましたー」

「だから、こんなに大きな会になったのか」

「そんな感じですねー」


 盛花国が、どれだけ王族の情報を締め切っているかがよく分かる。それほどまで秘めなければならないものだと言うことだ。彼らは。



 しばらくすると、フローラ達が春の園から離れてこちらに向かってきた。マリー女王、ルーファさん、それにサリィもフローラの御付きとして、背後に邪魔にならぬよう寄り添っている。

 しずしずと歩んでくる様子は、中身を知らなければ深窓の令嬢たちだ。本当のところは、一人は大戦に終止符を打ったとされる女王、歴戦の猛者、万能の侍女なのだけど。



「やっと、来れたわ。……ルーク様もお待たせしました」


 疲れを感じさせるような、マリー女王の声。顔も少し青白い。そういえば、彼女は身重なのだった。身体は大丈夫なのだろうか。


 するとその後から、ホーリーくん、ロベール王配がやってきた。ホーリーくんはいつも以上に端麗な様相で、黒地に金糸の細身の体にあった服装をしていた。僕と目があって、軽く会釈を返してくれた。

 ロベールさんはというと僕を見るなり、顔を顰めふいっと逆方向を向き、マリー女王の元へ。……嫌われてるなぁ。

 彼はこれまで僕を避け続けていて、今日まで顔を合わせることはなかった。

 フローラのお父さんなわけだから、なんとか仲良くなりたいと思ってはいるのだが、中々上手くはいかなそうだ。

 


 マリー女王を上座に、ロベールさん、フローラ、ホーリーくんと序列順に座っていく。次にメル、ルルが座り、サリィと僕は末席。

 それぞれの皆が席に着くと、それぞれの前に茶器が並べられ、菓子が配膳された。もちろん、僕は食べられないので省いてもらってる。


「皆様、本日はわたくし主催のお茶会に出席して頂きありがとうございます」


 サリィが静まり返った席で、周りを見渡し、茶会に参加してくれた礼を伸べた。 そして、これからが本番とティーテーブルの上を指す。


「こちらは本日特別に用意された、黄金林檎のパイです」


 サリィの合図に合わせて、皿に被されていた銀製のクローシュが取り外される。そこにはゴロゴロと大きな林檎の入ったパイがあった。食べやすいように切り分けられている。

 黄金林檎という名の通り、山吹色のそれは鮮やかなトロトロと甘い蜜をこぼし、外側のパイはこんがりきつね色に焼き上がっている。濃密な林檎の甘さに少しのスパイスの刺激的な香りがした。

 断面を見ても美しい仕上がりだった。視覚から刺激するスイーツというやつだろう。


 林檎って生で食べるものだと思ってたけど、加熱して食べることもあるんだ。


 ……林檎かぁ、林檎。

 林檎といえば、つい最近読んだ神話の中に林檎が出てくるやつがあったなぁ。


 ーーなり落ちる()()()()()。それを一つ食べれば、永遠の命を手に入れられる。誰もがそれを欲しがって、旅路に出るも見つからず、手にした先では門番に取り込まれる。

 

 古い神話の物語の一つ。「永遠の林檎」だっけ。大して有名じゃないけど、今僕は神話を漁っているので覚えていた。


 でも、黄金の林檎(ゴールデンアップル)


 その言葉が少し気になって、僕はそれを()()


 透かすように見える複雑な術式。代用時間の構築、生命機関への接続、吸収、適用。

 簡単に言うと、不老長寿の呪だ。かなり珍しい代物で僕もただでは作れない。

 ……? これは誰に食べさせるために持ってきたんだ。


 配膳されたアップルパイに使用されている林檎は同じ林檎に見えるが、全く違うものもある。

 本物が配られているのは、マリー女王、フローラ、メル、ルル、それにホーリーくんだった。


 アップルパイをまずはサリィが一口食べて、次にメル、ルルと順々に口に運んでいく。

 音を立てずにスッとナイフを入れ、こぼれやすいだろうパイをかけらも落とさずに、フォークで口に入れる様子は流石と言うほかなかった。


 皆、そのアップルパイを一口食べるとふっと息をついて、目を瞑り、そしてまた一口食べると目を瞑るのを繰り返す。


 同じ動作を何度か繰り返した後、メルが声を上げた。


「……ふぅ。やっぱり、このアップルパイ美味しいですねー」

「そうね。初めて食べた時はこれが本当に同じアップルパイかと思ったもの」


 ルルとメルとマリー女王が食べたことがあるのか。へぇ。


 僕は王族のお茶会ともなれば、不老長寿の林檎くらい食べるのだろうと大して気にしなかった。そもそも自分が不老不死なもので。毒が入っているわけでもないし。


「フフ。だろう? ミハエル、今回は本当にありがとう」

  

 そこで、いつも顔を顰めているルーファさんらしからぬ笑顔が溢れた。彼女が笑顔を向けている男性が、噂のミハエルさんなのだろう。


 いつのまにか静かに後ろで佇んでいた彼は、ゆっくり微笑み挨拶をした。


「お久しぶりでございます、陛下方。フローラ殿下にはしっかりとお目に掛かるのは初めてでございますね。本日の料理全般の監督を務めさせていただきました、ミハエルと申します」


 柔らかそうな雰囲気の男性だ。至って普通の茶髪茶眼、にこりと笑って見える細目、目尻の皺に、壮年の経験の深さを感じる。


 彼は一体何者なんだろう。能力的には達人という感じはしないけど……。微かな興味で、彼を視る。


 ーードリュアス(木の精霊)


 茶髪茶眼に二重になるように、エメラルドグリーンの髪と瞳が見えた

 なんで精霊がこんなところにいるんだ? それもドリュアスだなんて。




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