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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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05.私の原動力(フローラ視点)


 ルークのところにいく前、私はホーリーくんから魔力の使い方について習っていた。


 ホーリーくんは今日もキラキラしく、王子様をしていた。濃紺の髪に朱色の瞳をした、まぶしい美形が銀の騎士服を纏っている。ホーリーくんって騎士でもあるの?


「姉上、こちらをどうぞ。宝珠です」


 そんな疑問でいっぱいの私に、ホーリーくんが白手袋をした手で、白い石のようなものを私に手渡した。


「宝珠? これ、オパール……」


 魔法の国で壊してしまっていたはずの、私のお守り。

 ルークに渡したままだったこれが、どうしてここに。


「これは魔法媒体です。これを通して、力をある方向に出力することができます。……使ったことがあるみたいですね。王族はこれを用いて力を制御します。母上は規格外のため、このような補助道具に頼ることはありませんが、魔力のコントロールがおぼつかないうちは、姉上もこれを使用しておいた方がよいでしょう」


 ――まずは魔力の放出から始めてみますか。


 ホーリーくんはサクッというと、いきなり私に魔力を放出してみてくださいと言う。


「えー」


 ……そういわれてもどうしたらいいのか、と悩んでいる私に続けてアドバイスをくれた。


「自分の発揮したい力を想像してください。例えば、この庭にある花を成長させたいとか、何でもいいです。自由に」


 よく分からないけど、なんとなくホーリーくんの言うとおりに、オパールに力を込めていく。徐々に光が灯ってくる。

 

 花を成長させる成長させる。……でもこんなこと考えてるだけで成長するのかな。


 ――ふと疑いを持ってしまったとき。


 手元から激しい光が灯った。目を焼くように庭中に光があふれる。

 こんな力を使ったことはない。こんな光が何かを生み出せるはずない。止めなきゃ。でも。


 ――力が制御できない。


 手が熱くなってきた、オパールがさらに激しく輝く。

 身体が動かない。どうして。


 それを見たホーリーくんは慌てたように駆け寄ってきた。いつも怒ったり、しかめっ面しているところは見たことあるけど、こんなに焦っているところは見たことがない。

 

「姉上! 手を止めてください!」


 ホーリー君が強制的に私の手元を抑えて、力を抑え込もうとする。

 彼の手から透明な樹の蔓のような光がグルグルと出てきて、私の手の中にある光を包み込んでいく。ホーリーくん魔法媒体使ってない、とかすかに思った。


 そして無理やり、オパールを取り上げられる。その石にはひびが入っていたように見えた。


「姉上、力を抜いてください。息を大きく吸って吐いて。身体を楽にして」


「スーハ―、スーハ―」


 何度も息を吸い込み、ついには咳き込んでしまう。

 ホーリーくんは私の手をつかんで、片手で呼気を整えるようにゆっくりと背中をなでてくれる。

 撫でられているうちに身体がどんどん楽になってきた。彼は癒しの力でも持っているのだろうか。



 私が落ち着いたのを確認して、ホーリーくんは今何を考えて魔力を解放しようとしたかを質問してきた。


「……何も。単にホーリーくんの言うとおりにお花を成長させようって思って」


「それではだめですね」


 私はホーリーくんが言ったのに、と文句を言いたくなったが我慢した。これでは駄々っ子と一緒だから。


 何かしたいこととかないですか? 強くなりたいとかでもいいです。単純な欲求と想像力が私たちの魔法には必要になるんです。とホーリーくんは説明する。


「この世界には、木、水、火、土、風、闇、光の属性があります。そして、私たちが持つ魔力はそのすべてに変換することができる根源的な力であることは、この間説明しましたよね。これは創世神の能力であるとも言われており、その血を受け継ぐ盛花国王族だけがこの力をもっています。……機密情報の一つですが。

 だから、私たちが能力を用いるときはイメージすることが重要になります。そうしないと暴走します」


 ホーリーくんに欲求と想像力が大事だと言われて、ルークがこの城にやってきたときのことを思い出す。あの時、私は力を使ったのだった。

 あの時は本当に無我夢中で、ここから逃げてただルークのもとに行きたいとだけ考えて動いていた。騒動に紛れて、お母さんとルルメルが向かった先なら大丈夫だろうと行動した。


 そうだ。私の動力源はいつだってルーク。だから、何の目的もなく使い方を探っても意味がない。……ルークはどこにいるんだろう。


 私はすくっと立ち上がり、ルークを探しに行くことにした。


「ホーリーくん、ちょっと私ルーク探してくるねー」


「は、姉上⁉ 探してくるって、どこに行かれるんですか。いま、魔力を使われたばかりなのに」

 

 追ってこようとするホーリーくんに、大事なことだから~と手を振って、王城庭園に向かった。




 ルークの居場所は昔から不思議とわかる。ここにきてから感覚がより鋭敏になった気もするけど。


 王城庭園の一つにルークはいるだろうとあたりをつけて、空中庭園を渡っていく。


 石造りの階段が空へとつながっているみたいに見えた。螺旋状に連なる世界はまるで現実じゃないみたいで。


 見とれながら上っていくうちに、慣れない革靴のせいで少し足を痛めたけれど、まあ気にしない。いつも着せられていたドレスに比べれば、この格好は信じられないくらい動きやすいから。


 下を覗き込みながら歩いていくと、東屋のような建物がきらりと光った。


 なんとなくここかな? と思ったので近づいてみて、思った以上にその建物が大きかったことに驚いた。それに、その建物は、石や木で作られているわけじゃなくて、植物のようだった。


 透明な蔓バラで出来ているのかな? 触ってみると、ちゃんと感触がした。透けてるから突き抜けるのかなって思ったけど、そういうわけでもなかったみたい。

 でも、すごい綺麗で幻想的な花だった。名前は何なんだろう。



 その中にゆっくり入っていくと、画材がバラバラに散らばっている。それを目線で追っていくと、


 やっぱり、ここにルークがいた。

 彼は絵を描いている途中で力尽きたのか、地面に寝ころんでいた。


 ボーっと空を眺めているルークは、珍しくも外套をかぶっておらず、黒ずくめの恰好は変わっていないけど、いつも以上に、不思議なくらいきれいだった。光を浴びているからだろうか。


 白くなってしまっていた髪は黒く染めてある。染粉の色だから少し不自然かなって思ったけど、白より黒髪の方がルークには似合っていた。すべらかな髪がとても羨ましい。

 長い睫毛、陶器のような肌、薄い唇はともすれば女性のように見えて。

 少しの狂いもない造作に、昔、神様が作ったお人形みたいだって思ったことを思い出す。


 静かにゆっくりと近寄って、ルークの顔を覗き込んだ。


 無表情――良くない表情だった。


「……ルーク、何してるの?」


 ルークがくいっと私を見た。目が合う。その瞬間、私の中の時が止まった。


 赤い赤い瞳が血みたいで、でも信じられないくらいきれい。どんな宝石をかき集めたって、この瞳にはかなわないんだろうって思った。つい手を伸ばして、その眼に触れてみたくなる。


 でも。ルークは私がいることに気づくと、まるで寝転がっていたことが嘘のようにゆっくりと起き上がって、何かを拾い絵を描く作業に戻った。……この人間らしい行動がルークらしさなんだけど、少しガクッとするの。それでごまかしたつもりなのかな。


「絵を描いてるんだ」


 …………。


「それはわかるけど、どうして転がってたの」


 ルークは顔をそらして、よくここにいることが分かったねといったけど、ごまかされてあげない。

 あんな顔をしているときは良くないことを考えているときが多いから。


 ルークはしょうがないというように息を吐いて、指をクルクル回しながら話を始める。


「えっとね、マリー女王から宮廷画家としての初仕事に、『創造神話』の依頼をもらったんだけど。それも壁画。フレスコ画は専門じゃないし、神話だろう。どう作ろうか迷っててね」


 壁画はこれまでに描いたところを見たことがないから、困るのはわかるけど……。


 ――神話?


「壁画はまだしも。神話だめなの? ルーク」


 ルークは困ったように笑って、私を見た。何を考えているんだろう。


「……よく分からないんだよ。神については描こうと思っても筆が進まなくてね」


 少しの沈黙の中、返された言葉がそれだったから、私はホーリーくんのことを例に出した。何か話してないと、落ち着かなかったから。


 ……ルークが教会について語ったことがないことに後から気づくけど、私は彼が吸血鬼だからなんだろうって思って、思考を止めてしまった。


 私はそのまま、地面に転がっている聖国教会の教典をちらりと見て、ルークを気にしながら神様について話す。


「……聖国教会は二神教で、全能神(創世神)とその妻である花の女神フィオーレを信仰していて。その下位に木、水、火、土、風の属性の神様がいる。神様って言っても、眷族神の扱いを受けて。教会でもいくつか教典があるけど、その中でも有名で解釈にあんまり違いがないのが『創造神話』」


 花の女神フィオーレについては私の名前の由来だと思っていたから、サリィにねだってよく話を聞かせてもらった。それに、この話の終わり方が全能神と花の女神の悲恋物語みたいで、少し悲しかったけど気に入っていたのだ。



 「……でも、あれってそんなに難しかったかな。子供の寝物語になるくらいシンプルでわかりやすい話だよね」


 そんなことを想いながら話していくと、ルークの目が少しずつ虚ろになっている。


 私がこの世界の全てのものは全能神が生み出したものだと結論付けると、ルークは完全に無表情になった。


 ――神様が嫌いなのかな。


 ルークがこれまで見たこともないくらい冷たい表情になっていて、私はルークが最近気にしていた話題に絡めて話をそらした。これなら、きっと反応してくれるはず!


「今度の()()()も、この創造神話の全能神と女神の逸話を起源にして儀式が生まれたって話だったよ。全能神が花の女神を生み出して、力を授けた時の。不完全たる女神の死を伸ばすために与えられた祝福」


 私が洗礼式の話題を出すと、急にルークの表情が変化した。顔を下に伏せて項垂れる。


 この世の悲しみを詰め込んだみたいな顔になっちゃった。こんな表情をさせたかったわけじゃないけど、無表情よりは全然いい。だって、あんな顔には二度とさせちゃダメだって本能的に感じたもの。


「……そんなに予定が早くなっちゃったのが、ショックだったの? あの時も訓練場壊しそうになってたね」


 洗礼式の時期が早まったっていう連絡は、あとからちゃんとお母さんがする予定だったらしいけど、準備もなく聞いてしまったものだから、ルークは訓練場の固い石の地面を割ってしまった。ヒビが入ってちょっと怒られてしまったの。


 ……でも、ルークは私の洗礼式がそこまで嫌なのかな。

 少し悲しくなった。


「だって、僕はついていけないだろう?」


 ――ついていけない? どこに? ……聖国に?


 ルークの一言に疑問が生じた。何か勘違いしてる?


「何言ってるの、ルーク。お母さん、ルークも聖国に行く予定にしてるよ」


 私がそういうと、ルークはびっくりした顔でこっちを見た。


「え、行っていいの?」


「フローラと少し離れただけで、あんな騒ぎを起こしてしまったのだから、ルークも一緒に連れていかせるって。強行突破されるよりはそちらの方がいいでしょうねって。……よかったね」


 ルークは途端にホッとしたみたいだったけど、そういえばお母さんこうも言ってたなぁ。


 「ルークの属性だと聖国内に影響を与える可能性が高いから、策を講じるとも言ってたよ。害のない対策の仕方を考えておくからって。ちゃんとそこは考慮しておきなさいねって」


 影響が何のことなのかわからないけど、それは今度お母さんの時間が空いた時にでも聞いてみようと思う。



「そういえば、フローラはどうしてここに来たのかな? 確か今はホーリーくんに能力の使い方を習う予定じゃなかった? だから、動きやすい服装にしてるんでしょ」


 そうだった。そういえば、私。

 ルークがいないと制御が効かないから、一緒に来てほしいってお願いしに来たんだった。


「……………」


 でも、それを面と向かっていうのは恥ずかしいと気づき(行動原理がルークだって話さなきゃいけなくなるから)、ルークから顔をそらして、理由をホーリーくんのせいにした。


「……ホーリーくんの教え方だと力の調節が効かないの。お母さんも忙しそうだし、ルークならいいかなって思って。ルーファさんもあとから来てくれる予定なんだけど」


 ……ごめんね、ホーリーくん。


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