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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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03.仲直り


「母様、今日のおやつは抜きです!」


 サリィの叫びが周囲に響いた時、ルーファさんの視線と注目が、完全にあっちに向いた。

 今まで見られなかった完全なる隙が、そこには存在していて。


 今だ! そう思った僕はルーファさんの腕をつかみ、軽く場外まで投げた。


 ルーファさんは受け身も取らずにゴロゴロと転がっていく。……なんで、受け身取らないんだ。しかし、体は無事そうだ。


 ……普通の試合なら、これで決着がついたはず。


 それにサリィが僕を助けてくれたってことは、僕たちに会う意思があるってことだ。つまり、これ以上争う理由はない。流れでなぜかルーファさんと闘うことにはなったけれど、目的はサリィに会って謝ることだったんだから。


 ルーファさんは僕が投げた場所からへなへなと、立ち上がり、僕と闘っていた時よりも必死にサリィのところへ。


 サリィはフローラ達から少し離れた場所で、ルーファさんを迎え撃とうとしている。


 これは試合終了ってことでいいのかな? 僕はそう解釈して、フローラたちの下へと向かった。

 戻って早々に、フローラに大丈夫だった? と心配されるが、今さっきのは僕が悪かったと思いながら、大丈夫だと返す。フローラの前で戦うのは、これからも避けた方がよさそうだなと思いながら。


 そして気になったので、サリィたちの様子を少し近づいてみる。フローラもいそいそとついてきた。やっぱり気になるよね。


 見てみるとルーファさんが、サリィを問い詰めているようだ。


「サリィ、おやつってもしかして、アレか。間食として、ミハエルが作ってくれるって言ってたやつか」


 ふふふふふふ、とサリィらしくない笑い声が聞こえた。

 まるでルルとメルみたいだ。サリィ、君だけはあんな感じになっちゃいけない。


「そうです。父様が私が帰ってきた記念に、特別に用意してくださると言っていたデザートです。

 母様の好きな、季節のフルーツのクレープ。この季節ですと、梨、林檎、イチジクあたりでしょうか。マルメロの実のジャムもあるでしょう。それに、野イチゴのパイ、カスタードクリームのパイ。エデンの花畑でとれた特別な、雫蜂蜜漬けのアーモンド。父様秘蔵の黄金林檎(ゴールデンアップル)のタルトもあります。ふふふふふ、きっとまだまだ、作ってくださりますね。しかし残念ですが、母様はありつけませんね……」


 続々と並べ立てられるスイーツの数々。聞いているだけで貴重なものだとわかる。サリィのお父さん何者なの。僕の中に疑問が増えていく。


 ルーファさんはというと、サリィの言葉に目の色を変えて、がっ、とサリィの両肩をつかむ。うーん、僕でもわかるくらい必死だなぁ。


「…………ミハエルが何か言ってたのか」


「この間の騒ぎを父様が聞きつけてまして。次何かあったら止められるように、母様にデザートを与えるかを決める権利をくれました。今日の試合で、私が自由に動ける時間と、父様が自由に動ける時間が変化してしまうので、今日の午後あたりに作ってもらおうかと思っていたのですが、母様は……」


 サリィは顔を動かし、闘技場に突き刺さっている武器の数々を眺めた。……何もなかったとは言えないよね。

 

「いや待て待て。私は悪くないだろう。純粋に試合を申し込んだ結果、受けてもらえただけじゃないか」


「……半分脅しだったじゃないですか。それに実力を図るためだけの試合を、純粋なものだとは言いません」


「お前もはじめ黙って聞いていただろうが」


「私が言っても、聞いたりしないじゃないですか!」


 ……うん、言い合いになっちゃったね。どうしようか、止められる気しない。

 どうすればいいのかとフローラと目線を合わせるけど、フローラも首を左右にフルフルと振った。


「サリィとルーファさん、けんかしてますねー」


 二人が口論をしているのを止められず、おとなしく聞いているなかで、横にルルとメルが現れた。彼女たちも気になったのだろう。

 僕たちと同じように聞き耳を立てて、懐かしの口論ですね―と昔を懐かしんで話す。僕はサリィがメルとルルに注意しているのは聞いたことがあっても、口論しているのを聞いたことはなかったので物珍しいと思っていたが、メルたちにはたいして珍しいことではなかったようだ。



「……あらら、おやつってミハエルさんのスイーツですかー。こちらにいらっしゃっていたんですね。ふふ、甘党のルーファさんにはこらえる一撃でしたね―」


 ルーファさんって甘党なんだ。そうは見えないんだけど。お肉とか好きそうじゃない?


「ミハエルさんってだれなの? メル」


 フローラが、さっきからサリィたちの話に出てきている、ミハエルさんのことをメルに聞いた。話を聞いている限りでは、たぶんサリィのお父さんだと思うけど。どんな人なんだろう。


「あー、ミハエルさんはサリィのお父さんで、さすらいの料理人ですよー。いつも放浪の旅に出ていて、めったに会えないんです。久しぶりにこちらにいらっしゃったのでしょう。……ルーファさんは極度の甘党で、ミハエルさんには全く頭が上がらなくて。それで攻められたら、ルーファさんは勝てませんねぇ」


 今日のおやつは抜きです、なんてルーファさんに取引するような真似、普段のサリィなら絶対に言いませんが。ルークさんが危なかったので、つい口に出してしまったんでしょうと続けて言った。


「……そうなのか」


 ……サリィ、ありがとう。あんなことした後でも、サリィは優しいや。


 僕がサリィの優しさに喜んでいる中で、ルルとメルは気にせずに話を続けている。


「しかし、残念ですね。ルークさんとルーファさんの試合……。こちらとしてはもっと見たかったんですが、今から盛り上がるといったところで、サリィが助け船を出してしまったので。ああいう場面でルークさんがどう動くか見たかったんですがー。……あー、ほんと見たかったです。ねー、ルル?」


「そうだねー、メル。……ルークさんって、争いごととかあまり関わり合いになろうとしませんし。貴重な機会だったんですけどねー。もっと見たかったですー」


 ぶすくれた顔で話す、ルルとメル。


 見たかったから、止めなかったのか。つくづく欲望に正直だと僕は呆れた。フローラも呆れた顔をしている。


「ま、これでサリィは逃げられなくなりましたね―。ルーファさんの当初の目的も達成したようですし、よいとしましょうか」


 ルルとメルはそう勝手に自己完結すると、動き出した。


 ちらりとサリィたち二人の様子を見て話が長くなりそうだと判断したのか、メルは周囲にいた人たちをパンパンと手でたたいて集める。ローレンさんがやはり、初めに動き出す。それに次いで、全ての人がメルの元に集合する。

 みんな、ルルとメルに従順に動いているようだ。ここにいる人たちは見習い騎士? 兵士? なのかな。


「私たちは戻りましょう。……今回の結論としては、ローレンもサリィにはまだまだ敵わないようでしたので、選出者はローレンということで」


 言葉もなく、顔を下げるローレンさん。選出者って、何かに選ばれたってことだろうけど、敵わなかった方が選ばれるってどういうことだ。

 周囲の人間たちはおおぉ、といった顔でローレンさんを見つめている。名誉なことなのか?


 メルがその発表をしている最中、ルルと言えば、空気も読まずに、口論を続けているサリィ母子を止めて、選出者がローレンさんになったことを話しに向かったようだ。


「……じゃあ、戻りましょうかー」


 ん? そのまま、兵士たちを連れてメルがここから出ていこうとする。言うだけ言って消えるってどういうこと。さっきから疑問しか出てきてないんだけども。


「ちょっと、メル! どういうことなのか全然理解できてないよ」


「…………メル?」


「……あとはサリィに聞くといいですよ。王女殿下も」


 まだまだ話に追いつけていない僕とフローラを残して、メルとルルはマイペースに出ていった。ローレンさんもまたぺこぺこしながら、ここから退出した。


 サリィ。私たちもミハエルさんのお茶会に招待してくださいねー、とサリィに言い残して。……ちゃっかりしすぎだよ。


 その声を聞いて、ルーファさんはガックリと首を落とし、サリィは口論をやめた。大衆の目前で言い合いをしてしまっていたことに気づいたらしい。

 僕と目が合って、顔に頬紅を塗ったように赤くなってしまう。フローラとも目が合っておどおどし始めた。

 いつもしっかりしていたサリィのあんな姿、見たことないと思って、少し可愛らしくも感じたが、すぐに気を取り直し謝りに向かった。



「私は今からミハエルに会ってくる。サリィ、やりたいことがあるならさっさとやっておけよ。時間は有限なんだからな」


 ルーファさんはそう言い残して、嵐のように去っていった。ミハエルというサリィのお父さんに謝りにでも行くのだろう。


「……………」


 その場に残されたのはサリィ、フローラ、僕の三人。面と向かって会うのは久しぶりだ。


「サリィ、本当にごめん」

「……サリィ、ごめんなさい」

「ルークさん、フローラ様。本当に申し訳ありませんでした」


 僕たちは同時に頭を下げた。


「え、どうしてサリィが謝るんだ。君は何も悪いことしてないだろう」


 サリィはこちらを見上げると、顔を少し逸らしていった。


「……これまで長い間騙してきたことを、何もしていないとは言いません。ルークさんが城に来られた時も判断能力が欠如していて、城内に余計な混乱を招きました。フローラ様にも臣下として、合わせる顔がなく。……私の不徳の致すところです。本当に申し訳ありませんでした」


 次代討ち手として、失格です。そう言って、サリィはそのまま沈黙した。


 サリィの悪い癖が出てる。責任感が強すぎて、全く他人に頼ろうとしないし、自分に赦しを与える余地なんて無いと思ってる。


 僕は俯く彼女の顔を上げさせて、気を軽くさせようと思い、話をする。


「……そう重く取らないで。あれは完全に僕の責任だ。サリィの方が悪影響を受けてしまっただろう。今、体調は大丈夫なの?」


「一切問題ありません。動いていない方が調子が悪いほどです」


 動いてないと落ち着かないのは、いつものサリィだね。

 立場は変わってしまっても僕のところにいたときと、寸分変わらない。でも、それが今回は悪影響だったんじゃないのかな。


 うーん、僕じゃ話がまとまらないなぁ……と軽くため息を吐き、僕は黙ったままのフローラに声をかけた。サリィにはやっぱり、フローラの言葉が一番効くはずだから。


「フローラ、君はサリィをどう思う? 思ったままでいいから、話して」


 フローラはこれまで黙っていることが多かった。


 多分、どう話せばサリィに責任を感じさせずに済むかって、フローラは考えていたんだろう。言葉には重みがあるから、簡単に口には出せないと思って。

 でも、サリィにはきっとフローラの素の言葉が一番響くと思うから、僕はそれを話してみればいいんだとフローラに伝えた。


 フローラは僕の目をチラッと見て、サリィの顔をじっと見つめた。……そうだ、ちゃんとフローラの気持ちを伝えればいいんだ。


「……えと、ね。サリィは何にも悪くないよ。悪いのは、お母さんたちだから。私たちをずっと避けてたのはちょっとだけ傷ついたけど、こうして会ってくれたからいいの。私も動揺してサリィに酷いこと言っちゃったから、ごめんなさい。仲直りしようよ」


 フローラはサリィの手を取り、ギュッと握手した。

 サリィは顔をまた俯かせた。目が潤んでる。


「フローラ様……」


「主君の言うことは絶対なんでしょ、サリィ。……なら、ね?」


「しかし、責任が」


「責任なんて取らなくていいの! ……あ、でも。……お茶会には招待してほしいかも」


 そうフローラが付け加えるように言うと、サリィは一瞬目を見張り、そしてにこやかに笑った。


「……はい。是非、ご招待させて下さい。このまま行きますと母様が父様を説得して、今日ではなく後日になると思いますので、日付が決まりましたらご連絡致します」


 フローラもそれを聞いて嬉しそうに笑って、サリィを抱きしめにいった。少し照れ臭そうなサリィの表情に、ああ良かったと思った。


 ーーよし、このまま一件落着かな。


 僕はそう思ったが、聞いておきたいことがあったのだった。ここに来て最初に、疑問に思ったことだ。

 

「ところでさ。どうして、サリィはローレンさんと闘っていたのかな」


 サリィは僕の疑問に少し黙り込み、サリィを抱きしめているフローラは顔を上げて、その表情を伺っている。


「……えっと、それは、ですね。身体が鈍っていたことと――――」


「え?」


 サリィから告げられたのは思っても見なかった一言だった。


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