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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第2章 繋がれた鎖、抜け出せない枷

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02.母と子



 サリィはフローラの呼びかける声で、足を止め、やっとこちらを向いてくれた。


 メルとルルが振り向いたサリーに向かって、空気も読まずに元気よく、ぶんぶんと手を振り声を上げる。


「サリィー、何してるんですかー。早くこっちにきて下さいよー」


「……年貢の納め時ってやつですねー。降参して向き合う方が話は早いですよー」


 その声が届いたのか、サリィはゆっくりと顔をうつむかせながら、こちらにやってくる。

 サリィはどうしてだが知らないけど、ルルとメルの言うことは悪ふざけでもない限り、よく聞くんだ。

 最初からメルたちが頼んでくれたら、話は早かったのになと思いながら、フローラと僕は、彼女が逃げ出さずにこちらに近づいて来たことに喜んだ。

 ここで逃げられてしまったら、もうどこで会うことができるかわからない。これでやっと、ちゃんと話ができる。



「……これで、サリィはいいとして。ローレン、遅い。()()()


 サリィへの発言の後に、メルがボソッとつぶやいた。


 ローレンさんがダッシュで、こちらに向かってくる。顔が焦ってる。


 メルの小さな一言でここまで素早く動けるって、どんな教育受けてきたんだ。上官の命令には逆らえない騎士の性って奴だろうか。


 ローレンさんがこちらにやってきた。メルはその手を引っ張ると、パンパンと服についていたのだろう埃を軽く払い落として、衣服を整え、自分の横で直立させる。


 ルル、メル、ローレンさんの順で僕たちの前に並んだ。……こうしてみると、なんか似てないか? え、気のせいかな。



「紹介しますねー。ローレン・コピリエ・ターシャリー。私の娘です。第三騎士団(女性騎士団)団長で、一応最年少騎士でもあります。フローラ様の「写し身」になる予定の子ですー」


 ローレンさんがメルに促されるままに、礼をする。

 右足を引き、左手を体に添え、腰をゆっくりと下げる。これは貴族の礼の取り方だ。流れるようなスムーズな動きに、体幹の良さが見受けられる。騎士職をしている人は礼からして、見栄えがよい。カッコいい。


 


「……………」


 それにしても、僕の聞き間違いだろうか。意味が分からない言葉が聞こえた気がしたんだけど。


「……誰が、誰の娘?」


「あら、聞いてませんでしたかー? あの子はメルの子ですよ」

 

「いや、娘がいるとは聞いてたけど。……ローレンさん、本当なんですか」


 僕が目線を合わせてそう聞くと、ローレンさんはゆっくりと顔をあげた。


「……そうです。当代の「写し身」――メル・コピリエ・ターシャリーは私の母になります。そして、ルル・コピリエ・ターシャリーは伯母になります。……ルーク様、殿下! ご迷惑をおかけすることも多かったと思われますが、母も伯母もそれがすべてではありませんので、ご容赦を!」


 ローレンさんはバッとその場で、深くお辞儀をした。丁寧ですごく深いお辞儀。


「いやいや、そんなに謝らないでください。僕も迷惑をかけてしまっているので」


 僕はその姿に一瞬キョトンとして、慌てて彼女を止める。ここまで謝らせてしまうなんて、ルルとメルは普段一体何をしていたっていうんだ。あちらでも暴走気味なところは多かったけど、そんなに酷いことをしていた覚えはないけど。

 

「そうですよ―。ローレンちゃんは謝らなくていいと思うんです―。私たちも大概ルークさんには迷惑かけられているので」


 横でルルが首を突っ込んできた。後ろで、メルも頷いている。迷惑をかけていることは否定しないけど、君たちに言われたくはない。


 何でこんなに良い子がメルから生まれたんだ。僕がそう思っていると、メルとルルの反応を見たローレンさんはより深くお辞儀をして、申し訳ございません。と何度も繰り返している。


「…………」


 あ、そういうことか。人の振り見て、我が振り直せ。反面教師ってやつか。

 だから、こんなに真面目な子になったんだ。


 横にいるフローラの顔を見ると、メル達の話を聞いて、可愛らしい顔をへ? という感じにしていた。フローラも知らなかったんだね。

 


「……おい、ルルメル。私の紹介もしていいか?」


 そこで、横から声をかけてきた人がいた。あの女性だ。いまだに僕をじっと見つめている。


「あれ、ルーファさんまだ自己紹介してなかったんですか。……あぁ、ルークさんが王城に来た時に、陛下から逃げ回ってから会う機会なかったんですね―。本当にずっと逃げてましたもんね―」


「……それは言わなくてもいいだろうが」


 ルーファ……? なんか聞いたことある。

 ホーリーくんもルーファの娘って、言ってたような。あれ、ルーファの娘って、え。……て、ことは。


 僕はそろそろとルーファさんの顔を見た。目が合って、身体がはねる。


「ふん、気づいたか。そうだ、私がサリィの母だ。当代の「討ち手」であり、王城では主に警備の責任者を担っている。……姫様にはお初にお目にかかります。ご挨拶が遅れてしまいましたこと、まことに申し訳ございません」


 僕の横にいるフローラに丁重に挨拶して、フローラも軽い挨拶を返す。


 そのまま何故か、ルーファさんはフローラから距離を取り、僕をちょいちょいと手で呼んだ。……顔が険しい。何を言われるんだろう。


 僕がそちらに行くと、ルーファさんは僕の顔を下から覗き込んで、口を開いた。


「なあ、ルークさん。あんた、うちの娘を傷物にしてくれたらしいじゃないか。その責任を私としてはとってほしいと思っているんだが、どう思う?」


 ーーどんっ!


「母様! 黙ってください!!」


 そこで、ゆっくりとこちらに向かってきていたはずのサリィが、ルーファさんの横に唐突に現れた。鬼気迫った顔で、身体を伸ばして母親の口を抑えようと。不意打ちを狙ったみたいだけど、成功しなかった。


「サリィ!」


 サリィは自分の母親が動くのをどうにか止めようとするが、ルーファさん? のほうが体格も背の高さも実力も上回っており、止められるどころか軽く動きを止められている。

 

「サリィ、あんたは黙った黙った。ここ半月もまともに向き合えていなかったお前が、私が殿下方に何をお話ししようと知らんことだろう。そもそもさっきまで、逃げようとしていたな? ここは私に任せておけ。万事解決してやる」


 ムームーと口を抑えられて。バンバンとルーファさんの腕をたたいている。大丈夫なのかな、顔が真っ赤になってるけど。


 気を取り直してとばかりに、ルーファさんが口を開く。腕の中ではサリィが悶えてる。

 

「……なあ、ルークさん。ここは責任を取るために……」


 奇妙な沈黙が続く。何でそんなに間を開けるんだ。


「…………」


 周りが静まりかえり、ジーッと僕らの様子をうかがっている。


()()と行こうじゃないか」


 ――決闘? 


「…………誰と」


「私とだ」


 周りのだれもが(メルとルルを除く)緊迫して話を聞いていたが、それを聞いた途端周りがホッとしたのが分かった。いや、ホッとするようなことなの、これ。


「はい、ルーファさんの悪い癖が出ました―。強者を見ると突っ込んでいきたくなるという、手に負えない思考」


「お前らだって騒動ごとがあったら、巻き込まれに行くじゃねーか! 自分の事棚に上げてんじゃねーよ」


「母上、おやめください!」


「ローレンちゃんは良い子ですね〜」


 ルルとメルがルーファさんたちと騒いでいる(ローレンさん大変そう)中で、フローラが近づいてきて、横からこそっと声をかけてきた。


「ルーク、大丈夫なの。決闘なんて。外、すごく晴れてるけど」


 フローラは雲一つない、快晴の空を指した。僕が太陽の光に弱いことを心から心配しての一言だ。


 これは決闘をしなきゃいけない流れなんだろうね。視線が僕に集まってきているし。しょうがない、どうしてこんなことになったのか、いまいち理解できてないけど。

 

「……晴れてるくらいがいいかな」




 結局僕は、なぜかサリィの母親であるルーファさんと決闘することになった。

 

 僕はルーファさんと交渉して、ルーファさんが耐えられないとわかったらすぐに降参すること、僕に彼女の攻撃が一発でも当たったら負けということにしてもらった。僕はもちろん、魔術も魔法も使わず、素手のままだ。

 また、彼女に対しては闘技場を壊さない程度で動いていい、とルルとメルが言っていた。たぶん、サリィと同じくパワー型の攻撃をする人なんじゃないか。


 ちなみにこの勝負で勝つことができたら、サリィと話す権利が与えられ、負けてしまったら当分の間はサリィとは当分会えなくなることになった。サリィはこの話を聞いていたけど、なにも言わなかったので、それでいいということなのだろう。


 僕はフローラに心配されながら、この勝負に勝つと約束して闘技場に入ってきた。


 サリィとローレンさんがなぜ戦っていたのかも気になるけど、サクッと終わらせてそれも一緒に話を聞こうと思っている。




「さて、伝説のお方。あんたの力見せていただきましょうか」



 ハルバード(鉾槍)、それも普通のものとは違って非常に長いそれを、肩に軽く乗せて、ルーファさんは現れた。

 長大なその武器はリーチが広く、先端部分が重いため、重心をコントロールすることが難しいものだが、彼女は自分の身体のごとくそれを使用するんだろうなと予測できた。なぜなら、その身体に武器が馴染んでいるから。


 僕はすーっと息を吸って、いつものように深くフードをかぶり、両手をだらんと下す。


「……いつでもいいよ。僕はここから動かないから、好きにどうぞ」


「……フードなんてかぶって、余裕があることで。……動かせて見せる!!」


 ――挨拶も何もなく、攻撃は始まった。


「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 本当にハルバードを持っているのか、わからないほどの素早い動きで、ルーファさんは僕の前に現れると、先制攻撃とばかりに振り上げ、僕のいる場所に振り下ろした。すごい雄たけびを上げて、周囲が震えるような、気迫。

 気迫勝負だったら僕は完全に負けてたと思いながら、振り上げられたハルバードの棒状の部分を軽く外側にいなして、どかす。

 その時、バチッと電気が走った気がした。もしかして、これ外側銀が塗られてる? ……完全に魔物向けの武器ってことか。ま、効かないけど。


「うーん、僕に面と向かって攻撃しても効かないからやめたほうがいいよ」


 彼女は僕の言葉を無視して、僕が動かしたはずの軌道を、力で無理やり修正して、また僕に向かって振る。

 僕はそれを体を傾けて避ける。ナイフが二、三度、つづけて投げられた。それも体を捻り避ける。


 ルーファさんはその間に一度僕から距離を取ったかと思うと、ブンブンとハルバードを振り回していた。


「へ?」


 ――うそでしょ。僕がそう思ったとき、彼女はハルバードを砲丸投げのように投げつけてきた。


 狙いが定まるわけないと思いながらも、その着地点は僕の方へと向かってきている。

 一方では、前方からルーファさんが両手剣を持って走ってきていた。これも長大で、かなりの力がなければ振り回せそうにないものだ。猪突猛進にもほどがあるだろ。

 

 この勢いだと、ハルバードとルーファさんが鉢合わせする!


「いやいやいやいや、危ない危ない」


 僕はルーファさんより一瞬早く、僕のところに落ちてきた回転するハルバードを軌道を読んで、無理やり蹴り上げた。それがルーファさんの両手剣とぶつかり合い、ガチイィーン!!! と音を立てた。それは彼女の顔すれすれで。


「…………っっ!」

 

 戦い方が乱暴すぎる。僕の場合だと力での勝負ができないからって、次々と攻撃を仕掛けてきても体力消費するだけでしょ。そう思って、ルーファさんの方を見ると、顔が笑って、目がギラギラ光ってた。


 ――ゾクッ


 正直に言って、負ける気はしない……。でも、この勝負に勝ったところで、また何かの理由をつけて戦いを申し込まれそうだなって思った。何、あの目。狂犬だ。


「まだ余力は有り余ってるっていうか、闘争心異常じゃない? 戦闘狂?」


 こちらが傷つけるつもりが毛頭ないのがわかってて、守りを気にせずに全力で向かってきてるんだな、と少し打ち合って分かった。


「どうしようかな……。このまま体力切れを狙ってもいいけど」


 僕が対策を迷っている中でも、ルーファさんは攻撃を仕掛けてくる。次々と武器を捨てては、僕に向かってきた。え、十字架? いや、僕には効かないって。……小型剣? 武器もちすぎじゃないかな。


 ……いや、僕にあった武器を探してるのかな。

 

 ちらりと周囲を見た。周囲は僕がいなした武器やルーファさんが突き刺したものが散らばっている。

 その瞬間にもまた、投げナイフが飛んできた。背後に彼女がいる。


「ちょっとヤバいかもね」


 どんどん攻め方が巧妙になってきてる。今、僕はフードをかぶっているから、視界がそこまで明快じゃない。死角を攻めて僕の居る場所にどんどん武器を刺して、僕の身動きできる場所を減らそうとしているんだ。


 重さ、速さ、硬さ、僕の動き、反射神経、隙、思考。今、ここで全部学習しようとしている。完全なる武闘派に見えて、ほんとは頭脳派なんじゃないか。


 僕は少しため息をつきたくなった。ここってやっぱり人外魔境ばっかり。


「よくないなぁ、これは。もう早めに終わらせたほうがいいかも」


「……ルーク、頑張ってー」


 僕がどう相手を攻めるかの判断に迷っていると、フローラや応援席? にいる人達の応援する声がした。

 僕が攻められていると思って、声をあげているんだろう。まあ今は、防戦一方だけれども。負けてるわけじゃないからね。


「ルーク!! ルーク!! 頑張って!」


 フローラがすごい声をあげている。こんな大声、今まで聞いたことないんだけど。


 ちょっと気になって、軽く休憩席の方に顔を向けると、フローラが僕に向けて頑張って応援していた。大声を出し過ぎて、ちょっと顔が赤くなってる。可愛いけど、頑張りすぎだよ。


 その横で、サリィが険しい表情をしてこちらを見ていた。……? 目を見開いた!


「何ぶつぶつ独り言、話してんだ。試合中だぞ!」


 しまった! 完全に意識があっちに向いていた。気配を誤魔化されて、迫っているのに気付かなかった。


 ルーファさんのダガーが横に迫っている。

 避けようとするけれど、そこにはこれまでにルーファさんが突き刺してきたソードがあって、完全にはよけきれない。それに避けると、ルーファさんも危ない。


 ぶつかる……! そう思ったとき、サリィが僕に向かって大きく声をあげた。


「母様の今日のおやつは抜きです!」




  

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