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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第1章 花の少女、フローラ

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番外編:とある夜の話。



 ある晩のこと。

 

 王城の一室で会議が行われていた。

 室内は暗く、しかし見える影から3人の人間がそこに居ることがわかる。


 その3人は光を放つ何かを注視している。


 3人の目線が集まっている場所を見ると、そこには男の映像が映っていた。


「よお? 生きてるな」 


 その男ーーノアは疲れたように、顎に手をつきながら話している。


 それに暗室の中の一人ーーマリー女王が答えた。


「……ノア。あなた、あの方を聖樹の元へわざと送ってきたでしょう。はじめ、何が入ってきたのかと思いましたわ。濃密な負の魔力が術場に巡って、一瞬頭が回りましたのよ」


 聖樹の間は今代の王が管理を務め、間接的にその感覚が共有されている。ゆえに異常を感じれば即座に自分に影響が出るのだから、予告してくれなければ困る。そのために心底驚かされた、と告げた。 


「……こっちこそ、驚いた。なんで何も知らせてねーんだよ。訳の分からないことほざいて、アイツ一空間壊したぞ」


 画面の中の背景、歪んで穴の空いたような場所を彼は指さした。

 空間の裂け目とでも呼べば良いのか、そこを見つめていると違和感を覚えるような代物だ。


「説明についてはそっちがするから、俺は案内役、仲介役に徹していたって話で通そうとしてただろ。俺はアイツが話しを聞きにきて、何故かキレたから上に出したってだけだ」


 

 それに返答しようとしていたマリー女王に、もう一つの影ーールルが手を挙げ、話す許可を得る。


「……陛下。彼はこのように話していますが、おかしな点が多すぎます。信用すべきではありません」


 画像中のノアは眉間に皺を寄せ、ルルの方を見た。

 ルルはそれを真っ直ぐに見返した。


「私たちがルークさんから聞いた話には、この人はわざと騒ぎを大きくしようとしていた意図が見られました。そもそも、王宮とフローラ殿下が敵対するなどということはあり得ません。この人がそれを一番知っているはずなのに、どうしてそう話したのか。つまり彼は不自然に会話で誘導し、ルークさんを混乱に陥れることで得られる何かがあった」


 そして彼がそう誘導したことで、王宮全体に大きな不利益を齎しました。陛下の力だけではなく、聖樹の力そのものも削ってしまった。


 私達はこの男をこれ以上、王宮の契約者として扱うべきではないと思います。王宮内に内通者や諜報員を入れている可能性を示唆する内容も、ルークさんの話から読み取れました。

 必要な情報は共有している筈だというのに。


 ルルは画面の中のノアを睨みつけ、この男の不可解さを女王に伝える。


「もし私達と繋がっていることを漏らさないためだったとしても、それはおかしい。不自然です。何故ならただ正直に自分は依頼を受けただけであると白状し、私達の正体を明かせばよかっただけなのですから」


 そして、ノア自身に問い詰めた。


「ノア、はっきり聞きます。貴方の目的は何なのですか」


「……ルル姉さん。それを詮索するのはいつも言ってるが、密約の禁忌事項に触れることだ。それに今回の騒動で分かったことも多かったはずだろう? それだけで良かったということにしないか?」


 困ったという顔で、話を有耶無耶にしようとするノア。


「……貴方のためにこれまでの計画の順序はほぼ崩れ、台無しになっています。その目的を知ることで、変わるものがあるのではないでしょうか」


「……それくらいで壊れるような計画をフローラは立てていない。それに俺の目的は、間接的にはお前達の目的にも繋がるものだ。だから、俺には介入する権限が与えられている」


「納得できません。私達の目的に繋がると言いながら、どうしてあのようなことをしたのですか。聖樹についても知られ、さらに一歩間違えば、ルークさんは城を落としていたでしょう。弊害を生むばかりです」


「……聖樹は知られても問題ない。でかい木だな、くらいにしか想ってねえ筈だ。城はフローラ姫が居たならそんなことはしないことは分かっていた。目的については、まあノーコメント」


 ーーダンッ!!


「ふざけないでくれます?」


 ノアののらりくらりと話題をテキトーにかわそうとする態度に耐えきれず、席をダンっと叩き抗議の声をあげるメル。

 それは普段では見られないほど、怒りの表情が見えていた。

 


「……メル、やめなさい」


 そこでマリー女王から制止の声。

 はぁ、とため息を吐き、少し落ち着きなさいと命令した。

 顔を合わせるとこうなのだから、困る……。


「ノア、こちらにも不手際があったことは謝りますわ。伝えるだけならロベールにも出来ると思って、任せたのだけど。ロベールが感情を優先させてしまったの。こうなるなら初めから、ルルとメルに説明させておけば良かったわ」


「…………」


 沈黙で返事を返すノア。

 

「でもルル、メル。初め貴女達に任せなかった理由は分かっているわね? この頃の貴女達の独断専行は目に余るものがあったわ。……王宮の決定に逆らって、あの方をこちら側に引き込もうとしていたのでしょう」


「申し訳ありません、陛下。王宮の決定に逆らうことになっても、殿下と彼は離すべきではないと判断したもので」


 メルは沈黙したまま、何も話そうとしない。ルルは顔を俯けた。


「フローラ殿下が求めるものを、手の中にあるうちに与えておいてあげたいと願ってしまった私の罪です。いずれ泡沫のように消えてしまうものでも、そうすることで救われるものがあると信じたかったのかもしれません」


 そう独白するように話した。


「……いえ、いいわ。ルルの気持ちも分からないこともないから。それに、結果的には2人を離さないこと、それが正解だった。わたくしも少し油断していたの。あの方の均衡があんなに崩れていたなんて、思わなかった……。まだ、しばらくは持つと思っていたのに」


 女王の脳裏には、ルークの魔力均衡が頭をよぎっていた。

 魔力の器に底はなく、どれだけ覗いてもその深さを測りかねるほどの力。伝説に残る通り、あまりにもそれは圧倒的だった。

 それが陰と陽二つに分かれ、今ではほぼ闇側に傾いた内部。完全に闇に沈めば、彼の意識は均衡を取り戻すまで戻ってくることはない。

 

 マリー女王の話を聞き、残りの3人はそれぞれ反応を返した。


「チッ。やっぱり、そうかよ」


「ルークさんは……もう」


「……っ。あともって何年なのですか」


 マリー女王は頭の中を整理しつつ、簡潔に答えた。


「……視たところ、5年あるか分からないわ。あの方と会った時、はじめ魔力が周囲に篭っていたでしょう? あれは魔力を制御できていないから、起きたものだと思われるわ。そしてあの力、周囲の魔力を吸い取っていた。状態が進めば多分、瘴気に変わるでしょう。聖属性では浄化できない瘴気に。わたくしたちでしか、打ち消せない力。もしあの方が完全にその内部の均衡を崩し、自我を失ってしまえば、その身体の中に蓄積された全てが排出されてしまうはず」

 

 マリー女王は息を吸った。


「そうすれば、どうなるかはわかるわね。あの方の意識が残った状況で、ああも広大な王城の敷地を一瞬で飲み込んでしまったのだから、この国だけではなく世界に広がる……」


「……そのときは」


「世界の終わり、だ」



 マリー女王は、そこで机の上に置かれていた書類を微かな光で照らし、読む。


「初代様の計算では余裕を見て350年程は確実に保つとのことだったけれど。つまり、20年ほどは余裕があったのに。均衡がかなり崩れているということは何か食らっているわね、また」


 ノアが小さく呟いた。


「……北で何かあったか」

 

「北?」


「いや、何でもねぇよ」


 ノアの漏らした言葉に引っかかるものがありはしたものの、そのままマリー女王は話を続けていく。


「今回確認できて良かったのは、フローラがあの方の隣に戻った途端、均衡がある程度元に戻ったこと。つまり、フローラは隣にいるだけであの方の力を抑制し、意識を保たせることができる。だから、ルルとメルの判断は正しかった」


 そこでマリー女王は、ぎゅっと手を強く握った。


「そして、ノア・クレイブ。いえ、約束の伝言者とでも言いましょうか。今でもわたくしは貴方があの方の正体を黙って、あの方にフローラを預けたことは許していません。けれども、それも意味のあることだったのですね。誰よりも強い力を持つフローラでしか、あの方の侵蝕を止められなかった……から」


「……ふん」


 何も言わず、腕を組み顔を傾けるノア。その顔には、いつもの人の悪そうな表情が貼り付き、その奥にある心を映し出すことはない。


 マリー女王は彼とは30年ほどの付き合いになるが、本心が理解できたと思う瞬間はほとんどなかったことを思い出す。


 彼が饒舌になるのは初代達やあの方の話だけ。

 それ以外はまるで擬態のような悪い口調、ふざけた態度に誤魔化され、何が好きで何が嫌いなのか。何を求め、何を為すために、300年以上もの歳月を初代の契約に捧げたのかも見えない。


 彼は薄暗闇の地下で、その目的のためだけに生きて来たのだという。そして約束を果たすために、マリー女王達に接触してきた。

 彼の身体全体に刻み込まれた密約の印は、マリー女王の一族にのみ伝わるもの。はじめは信用していなかったが、あれを見た時から、彼がその目的だけのために生き抜いてきたのだと分かった。


 だから、マリー女王は彼に強く出ることができない。彼女達一族も大昔の約束に縛られてきたからだ。

 あの方であると知らせず、フローラをあの方ーールークに騙し討ちのように預けたとしても。そしてあの方に預けたがために、フローラが彼を予想以上に慕ってしまったとしても。

 

 彼の行うことには全て意味があるから。


 そのように思うマリー女王の横で、メルがノアに食ってかかっていた。


「私達はノアさんが嫌いですー。フローラ殿下とルークさんを会わせてしまった貴方が。時々、私達は貴方がフローラ殿下をルークさんに預けずにいた未来を想像してしまう。相対することなく、ただ……」


「……ただ、なんだ? アイツがただの化け物だと思ったまま、手を下したかったと言いたいのか。知ることさえなく、フローラの残した計画に従って、アイツを犠牲にしたかったと」


「……では、フローラ様はどうなるのですか。出会ってさえいなければ、こうなることはなかったのです。誰よりも大事に想っているルークさんを……っ」


「……それで、良いんだよ」


「「……何が!」」


 激昂したルルとメルが、画面上のノアに向かって恐ろしい形相を向ける。


 しかし、覗き込んだ先に見える彼の表情がまるで苦しんでいるように見え、彼女達は言葉を失った。

 



「……何を貴方はしたいんですか。それを教えてくれるだけでいいのに」


 ルルが必死に話しても。


「……………」


 ーーやはり、ノアは話さない。


「メル、ルル……。それ以上の詮索は完全に密約に触れるわ。それに彼の言う通り、私達の計画は順序は崩れてもその目的を達することはできる。あの方ーールーク様が宮廷画家になることを了承してくださったもの。この地に引き止めておくことで浄化作用がある程度は効くでしょう。フローラも戻ってきてくれたのだから、環境は整ったとも言えるわ」


「陛下……」


「それにこの子も生まれるから、時間を大事にすれば間に合うはず。あの方の力は予想以上に増幅していたけれど、どうにかなるはずよ」


 そう。不足の事態さえなければ間に合う筈なのだ。

 マリー女王は胡乱な状況に微かな不安を感じながら、そう言った。


「……あとは貴女達がいつものように、ルーク様の様子を見張っていれば」


「……そうですね」


「ノアはこちらに影響のあることは、ある程度教えて下さる? わたくし達もこれまで通り協力していきますから」


「……ああ」


 剣呑な雰囲気の中、彼らの会議は続く。





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