番外編、お歳はいくつ?
ーーフローラが王城に連れ去られて、4日目のこと。
フローラはその日、ホリー殿下から盛花国王族の内部について説明を受けていた。
♢
では、今日は王族の身辺について説明致しましょう。
ーー姉上、つまらなそうな顔なさらないでください。臣下のことを知るのも、上に立つものの大事な役目なのですよ。
そう前置きして、ホリー殿下は話し始めた。
「先ずは王族の側近、いえ護衛についてお話ししましょう。特に直系の女性王族には三人の護衛がいます。一つ目は「守り手」、二つ目は「討ち手」、三つ目は「写し身」です。それぞれに一族があります。守り手はトップシークレットなので、王しか知りません。「討ち手」は、アグレッソ・セカンダリーの家ですね。「写し身」はコピリエ・ターシャリー家」
彼は三つの家の紋章を指差して、説明していく。一つは盾、一つは剣、一つは光と影の2人の人間。
「「守り手」は影で王を守り、「討ち手」は側で王を害するものを排除し、「写し身」は王族そのものの身代わり、いわゆる影武者になります」
ホリー殿下はつまらなさそうな顔をしたまま、返事もないフローラに、少し顔を顰めて。
「ここで昨日の復習に入ろうかと思います。姉上はもちろん覚えてらっしゃるでしょうが、王族は人間ではありません。見た目も思考能力も全て、普通の人間以上を上回ります。特に容姿の「黄金」ーー「女神の福音」ーーは神の血を受け継ぐ証ですので、それがほぼ王族の特徴と言って良いです。神官など、見るものがみれば、その血について簡単に判別できてしまいます。さらに、女系王族に限っては成長も遅い」
そこでホリー王子は、フローラの方をチラッと見つめ言った。
「姉上が15歳のように……」
「15歳じゃない、信じられません」
フローラは即座に否定した。しかし、ホリー王子は無視する。
「そこで「写し身」の家だけは、王族の血を受け継ぎ、この地で育つことで王族と同じ性質をある程度得ています。そうすることで、影武者の役割を果たすのです。その「写し身」の家出身は……」
ホリー王子は顔を上げ、メルとルルの方を見た。
「では、そこにいるルルとメルの年齢を当ててみて下さい」
「……え? 二人の年齢ってどうして」
「彼らが「写し身」だからです。それぞれの名は、メル・コピリエ・ターシャリー、ルル・コピリエ・ターシャリー」
フローラは突然、ルルとメルの年齢を当てろというホリー殿下の無茶振りに狼狽えた。
何故なら長い間一緒にいるけれど、フローラはルルとメルの容姿は少しも変化していないと感じていたからだ。
いつもルルとメルが、クラシカルなメイド服を着て、キャップを被り黒縁の眼鏡をしている姿をフローラはずっと見てきた……。眼鏡に邪魔されて容姿を見る機会が少ないとはいえ、その姿は何年経っても変わらない。
ルークも一切見た目が変化していなかったのだから、そのようなものだと割り切っていたのだけれど、年齢……。年齢……とは。
そもそもフローラですら、年齢と見た目が合っていないのだ。
ーー年齢ってなんなの。
フローラは悩む。
そこでまたホリー殿下が口を開き、爆弾を投げ込んだ。
「悩まれているようですね。メルとルルは、姉上の乳母であったということも考慮して下さい」
新たに追加された「乳母」という言葉が、フローラをさらに混乱させた。
……「乳母」とは、母親の代わりに子供の育児を請け負ってくれる人ではなかった?
つまり、二人がずっとフローラを育ててきたといっても過言ではなくなる。そうであれば、フローラの15年という歳月の倍以上は必ずルル達は生きていることとなる。……30代以上?
そう考えてフローラは堪らず、質問した。
「私の乳母だったの? ルルとメルは」
ホリー殿下はフローラにそう聞かれて顔をふいっと、確かめるようにルルとメルの方に向けた。
「ルル、メル、そうではなかったか?」
「「はーい、私達はフローラ様の乳母ですー」」
仲良く並んで立っているルルとメルが返事をした。とても楽しそうに、ニヤニヤしている。
これまで俯いてあまり話をしようとしていなかったフローラが、自分から質問したからだろう。
フローラはルルとメルが乳母なら、サリィは何の役職なのかと疑問に思い、続けて質問する。
「じゃあ、サリィは……」
「……そうですねー。サリィは侍女、まあ側近と言えば良いでしょうかー」
「……そうなんだ」
フローラはその答えを聞き、思考の波に飲まれた。
……サリィは侍女。貴人の身の回りを世話する人、ってことかな。うーん、サリィは何歳だろう。サリィも結構見た目は若い。けれど、ルルとメルよりは年上のはず。
フローラはサリィの年齢を30代前半か、半ばくらいだと考えて、そこを基準にどうにか計算しようとしている。
その横で、ホリー殿下はフローラの会話に出た初耳の名前をルルとメルに聞いていた。
「……サリィとは、姉上の「討ち手」か?」
「そうですよー。あれ、ホリー殿下はまだ会ったことなかったですかー? サリィ・アグレッソ・セカンダリーです。ルーファの娘の」
ホリー殿下は「ルーファの娘……」と呟き、額に手を当てる。
「……分かったぞ! 訓練所で兵士達の屍の山を作っているという、噂の」
「……屍の山? あぁ、訓練兵をしごいてるんですねー。サリィ、そんなことしてたんですか? フローラ様に嫌われたと思ってるストレスからですかねー」
「連日訓練所に現れては、未熟な兵士たちだけではなく、現役兵まで巻き込んで大乱闘を起こしているという話だ。それはもう危機迫った顔で、執務室に訴えにきた代表者がいる」
「……メル。サリィが訓練兵全部潰しちゃったら怖いから、今度手合わせに行こうか」
「……そうだね、ルル」
サリィの話題を賑わいながら話している3人を尻目に、フローラは深く考え込んでいた。
……信じたくはないけど、もし私が15歳だとして、ルルとメルがその時から育ててくれていたと推算してみよう。
すると、ルル達の年齢は、15+? = 現在の年齢になる。
そして、サリィの年齢を30代半ばだと考えて。
フローラが生まれて育児を始めた時が、成人年齢の16歳と仮定してみると。ううん、少しだけ付け足して18歳にしよう。
ーーつまり、33歳。
しかし、そこでフローラはその年齢を疑問に思う。どうしても、あの童顔の二人にそぐわない年齢だからだ。
……どうしよう、33歳には見えない。いや、王族の特徴が若く見えるっていうなら、33歳でも矛盾はないし。
悩み続けるフローラ。
♢
「姉上、しばらく経ちましたが、結論はつきましたか?」
サリィの話が落ち着いたのか、ホリー殿下がフローラに話し掛けた。
「うううん……、33歳くらい……」
フローラが悩みながらそう答えると、ホリー殿下は目を丸くする。まさに驚いたという表情だ。
「……どうされました、姉上。流石に若く言い過ぎではありませんか? メル達に遠慮などしなくて良いのですよ、彼女たちは全く気にしませんから」
「ホリー殿下酷いですー。私達の年齢を晒す上に、その言い様」
「最低ー」
ホリー王子は、2人の言葉を無視した。
そして、そのまま答えを告げる。
「ちなみに彼女達は現在、47歳です。母上は46歳です。そして予想できたとは思いますが、彼女達は母上の「写し身」でもあります」
フローラの頭の中は、一瞬真っ白になった。
……………? …………47? 空耳?
お母さんのことは一旦放っておいて、47歳って何?
「……え? もう一度教えてくれる?」
フローラがもう一度問うと、ルルとメルが自分から年齢を答えた。うふふふと笑いながら。
「47歳ですよー。娘もいますー」
「ちなみにサリィは27歳ですー」
連続の衝撃がフローラを襲う。
……やっぱり47歳⁈ それに娘ーー?
そしてサリィが27歳⁈ ルル達の20歳年下? 年上じゃなくてー⁈
それが一番、信じられない。というか信じたくない。
え? だって、ずっとサリィに注意されてたのに。サリィ頑張って、二人の暴走止めてたのに。
時々、一緒に暴走することもあったけど…でも。どうみても、サリィのほうが性格的に大人なのに。
ーーこの二人の方が年上⁈
フローラは混乱して、頭が整理できなくなった。メルとルルに事実だと念押しされても、理解が追いつかない。
「……………」
ホリー殿下は話を続ける。
「このように「写し身」は王族の特徴を持っております。ですが、ルル達は「写し身」の中でも特別変異体と言われていますので、当たらないことも仕方なく。……返事がない、屍のようだ」
「ホリー殿下ー、フローラ殿下で遊ぶのやめた方が良いですよー。嫌われますから」
「コミュニケーションというやつだから良いのだ」
王城での日々はこのように、フローラに衝撃を与えていた。
ちなみにルークは自分が不老不死なので、年齢の違いを気にしたことがなく反応がかなり薄いです。
フローラがホリー王子をホーリーくんと呼び出すのは、この後くらいから。簡単な説明を終え、やることがなくなってフローラの金魚の糞の如く側にいたら「今日から、ホーリーくんって呼びますね」と言われた。
(※書き忘れてました)後から本文中にも出すと思いますが、盛花国王族は身体的年齢はほぼ関係ないので、妊娠できる年齢は生きている限りとなります。人間とは別物です。その中でもマリー女王は高齢妊娠ですが、ありとあらゆる要因が重なったが上の妊娠となり、特例。王配のロベールはかなり年下設定。余裕があれば2人の話も書きます。




