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逆さの吸血鬼〜運命は巡り、彼は愛を知る〜  作者: Hours
第1章 花の少女、フローラ

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06.嘘つきの話を聞く。理性が飛ぶ。



 僕は椅子に深く座って、足を組んだ。


「まず、僕が知りたいのはサリィの正体と、何故直接僕に依頼しようとしなかったのか、その理由。あと、この間送ってきた召喚状について。どうせ、君のことだから調べてるはず」


 そうノアに聞くと、嫌々椅子に座ったノアは困ったような顔をして僕を見る。

 無駄に誤魔化しが多いと思ったら、本当に聞かれたくなかったみたいだな。


「……やっぱり突っ込んでくるか」


「聞かないわけないだろう。なんでそんなことしなきゃいけなかったのか、理由も聞かずに納得なんて出来ない」


「…………キレないでくれよ?」


 キレないでくれって、さっき煽るようなことしたの誰だよ。

 矛盾したことばっかり言う男だな。


「僕が怒るような内容なの?」


「取りようによってはな。憶測も入るが、調べた情報からまず間違いはないとは思うぜ」


 ノアはフーッと息を吐いて、神妙な顔をした。まず前置きからだなと彼は言った。


「盛花国が聖国の属国だったのは知ってるだろう? 大戦が聖国の内乱が起因して勃発したものであることも」


 僕はノアの声を聞きながら、当時を思い出す。

 

「うーん、まあ分かるけど。内乱ってどうして起こったんだったかな」


 そこら辺が公にされてなくて、混乱したんだよ。突然、内乱が起きて、周辺国巻き込んで戦争って……。


「それはだな……。まず12年前、聖国教会、エンデシーナ神教教皇が逝去し、それに乗じるように皇帝が倒れたことから始まる。そもそも次期教皇として選出される予定だった人間が二人いて。まあ、そこら辺は話が長くなるから省略するが……。そこに皇帝が倒れ、皇帝選まで絡んできて、聖国内が二つに分かれ、結果内乱が生じたというのが真相だ。」


「へぇ……。で、それがサリィの行動とどう関係するの?」


「盛花国は聖国の属国ではあったが、何というかそれはある程度形だけといったところもあってな。献上品を貢納する形で、宗主国、従属国を成立させていた。つまり、聖国に対して内部外から力を一番持つのは盛花国だったということだ。両派どちらにも与せず中立を保つ姿勢を見せていたから、二つの派閥から何らかの交渉が行われることは確実だった」


 属国として従属する形を見せながら実質は、その継承権にも関わるほどの権力を持っていたということかな。内部が二派に分かれた時点で、盛花国の後見は必至だから。


「そこで、盛花国の最悪の想定として王族が人質に取られることがあった。中でも一番危険性を孕んでいたのは、生まれて五年にも満たない第一王位継承権を持ったフローラ王女だった。あの時、正式に発表されていたマリー女王の子はフローラ様だけ。さらに、あの国は万世一系で女王が立つことが通例だ。

 つまり、フローラ様を奪われることで、盛花国が従わざるを得ない状況に追い込まれるんだ。

 マリー女王が親征し王宮内が手薄になった状態で、拐かされることを危惧した政府、王宮内府がフローラ様を避難させることにした。王宮内には聖国の手が回っている可能性があった。それ故に部外者の俺に依頼がきたということだろう。」


 ノアは僕をチラリと見て、目線を外した。何か、探ってる?


「つまり、この交渉を行ったのがサリィ嬢ちゃんというわけだ。アンタに知らせなかったのも、万が一の場合を考えてだな」


 サリィは王族を任せられるほどの人間だったってことか。侍女? だったのかな? 格調高くメイド服着てたし。


 僕はゆっくりと頭の中を整理していく。ノアの話が正しければ、大戦が全ての発端ということになるね。


「これでサリィ嬢ちゃんが依頼人としてやってきた理由は分かったか?」


「……まあ、納得いかないところもあるけど一応はね」


 サリィが何者かが知りたいところかな。今は聞かないけど。


「ここからが問題か。召喚状についてだな。……これが一番キレられそうで言えなかったんだが、渡した時にアンタにフローラ様を王宮に渡すように会話を誘導した。そもそも、実情を知ってたから気が引けはしたんだが」


「金に負けたんだろ?」

 

「……すまん」


 知ってる。

 そもそも金以外で君が僕を騙すことなんてありえないし。


「だから、特別奉仕でこれからの盛花国、王宮の動きに対して俺の予想を話してやる。諜報員雇ってるんだから情報料を取ってやりたいところなんだが」


「恩に着せないでくれる? どうせ、王宮から僕への依頼料ピンハネしてるでしょ」


「……バレたか」


 初めに貰った金額でも多いと思ったけど護衛金なら、ないも同じようなものだったからね。

 ……ノアはなんで、これで商売を成り立たせられるのか。もしかしてピンハネ、僕だけにしてる?

 

 ノアは、んんっ! と咳をすると、気を取り直したように話し始めた。


「……初めの計画というか打ち合わせでは、2年以内に大戦を終結させ、フローラ様ーーいや、フローラ姫を王宮に戻す予定だったんだが、盛花国内部が予想以上に荒らされて戻すことができなかった。独立も影響した」


 そこで一瞬黙り、ノアはその瞳で僕を射抜いた。


「ここで言っておきたいんだが、盛花国の王族、それも一部の女性王族は人間とは違う特徴を持つらしい。特に成長速度が遅いんだ。それ故に神と同一視され、その血筋は秘匿され祀られる。特殊な教育を受け、女王として治世を敷く。」


 人間と違う特徴? 成長速度が遅い? 

 フローラ王女の年齢は確か…公式では15歳。16歳だと思ってたけど。


「それなら、フローラは……15歳ってこと⁈」


 確か僕が盛花国に訪れた季節に生まれてたから、春が誕生日? 来年には成人じゃないか! 


「そこは置いとけ。注意すべきはその特殊さだ。彼らは自分達の血筋を何よりも優先させて生きることを教育される。彼の国はそれによって、300年以上続いている。聖国よりその年数は長い。しかし、フローラ姫はその教育を受けていないため、女王になる資格がないことになる」


「その教育を受けていないことがフローラに何か影響あるの? 女王になれなくても王族なんだ」


 ノアは一瞬沈黙し、僕の思考を誘導するかのように話を進めていく。

 

「……極秘の情報なんだが、マリー女王は今、女の子を身篭っている。あの国に一番重要なのは、女性王族だが。フローラ様の代わりが生まれればどうなるのか。彼ら独自の教育を行うことができずに、他文化に触れて育った王族は彼らにとって必要なのか。あの国は直系相続というわけでもなく、ただ一族を生かす能力だけを持つものを女王と仰ぐだけだからな」


 もしかしたら、フローラは王族達に望まれていないと言いたいんだろうか。代わりが生まれてしまったからって。


「…………それは予測でしかないじゃないか」


 指を動かして考えるノア。何を数えてるんだ?


「結局は迎えに来るのに11年の歳月がかかってる。俺はこのままフローラ姫はアンタの元で育てるのかと勘違いしてたほどだ。だが、手紙を送るように命令は来た」


 今じゃなければならない事情があったということだろう? ノアは話し続ける。


「メル、ルルの姉さん方がアンタに忠告したのが不思議だったんだ。あの人間達は無駄なことはしない」


 ノアの話が良くない方向に向かっていっているのが分かる。


 頭の中で上滑りしていく。


「そして、来年は聖国教会が本堂で12年ぶりに洗礼式を行う。教皇直々にという話だ。聖国は内乱を起こしたせいで、未だに勢力の地盤が弛んでる。そして、盛花国は聖国に同情的な行動を初めからしている。洗礼式は、そして両国の絆を明確に示す機会じゃないか? ……考えてみろ。英雄化しているマリー女王、或いはそれに次ぐ代表者が新たなる皇帝、教皇に対し真摯な姿勢と支援する様子を見せることができれば、それは聖国を狙う他の体制に抑止力になる」


 ノアは止まらずに話しを続ける。聖国と盛花国の絆がなんだっていうんだよ。


「……出来るなら言わずに済ませたかったんだが。…………つまり、フローラ姫は聖国に向かわせるために、呼び戻されたとも考えられる。洗礼式を受けられる人間はフローラ姫くらいだしな」


「………………は?」


 ーー意味がわからない。


「フローラを? なんて?」


 ーーあの可愛いフローラをどうするだって?


「フローラ姫は成人と共に入信し、使徒として国を代表して聖国に向かわれる可能性があるんだよ。だけどなぁ、あの国にはまだ残党が残ってる。俺はそれが危険なんじゃねーかなって思ってるよ」


 ーーフローラを一時は狙っていたかもしれない国に、フローラを向わせる?


 使徒? 人質も同じじゃないか。何のために、僕はフローラを家族の元に返したんだ。フローラを幸せにするために、僕は……。


「……まあ、予測の範囲の上、サリィ嬢ちゃん達が教育していたおかげである程度強くなってるって話だったから。……って、おい! 話聞いてるか?」


 頭が熱くなり過ぎて、ノアの声が遠くに聞こえる。


「……フローラはまだ幼くてか弱いんだ。僕が守らなきゃいけない」


 頭がガンガン痛くなってきた。このままじゃ、力の制御が利かなくなる……。


 手を握って感覚を集中させようとすると、


「 ま  た  ×  ×  ×  ?」


 ーー頭の中で、真っ白な人が微笑んだ。


 そして、これまで保ってきた理性の糸が完全にちぎれた。


 周囲が闇の魔力で満ちていく。


 ーー「反転」する。ポチャンッと、黒い雫が落ちる。


 増幅していく力に亜空間が耐えられず、泡のように膨らんでいく。


 横に歪んで破裂する……?


「おい! 意識あんのか? 起きろ! ……ヤベェ、マジで死ぬ」


 ノアが何か必死に話しているようだ。でも、僕には届かない。


「管理者権限発動! 異物を地上に排除!!」


 そして次の瞬間、僕の視界は真っ黒になった。



***


 ーー残された空間。そこはバラバラに崩れて壊れ果てていた。


「……あー、今回ばかりは本気で死ぬかと思った。アイツの沸点は、ホントフローラ姫のことばっかだな」


 ひしゃげた椅子や机を直していくノア。

 保存魔術が壊れてなくて良かったぜ、そう呟きながら、その上にグッタリと沈む。彼の額には汗が滲んでいた。


「一度軽くキレさせて、体力消費させようと思ったが予想以上に危険だ、アイツ。亜空間に穴が開くってどういうこった。空間は物理的なもんじゃねーんだぞ」


 軽く目を瞑り、手足をぐいーっと伸ばす。

 少し小刻みに揺れている身体。本能的な恐怖による震えが、今になってきたようだとノアは思う。……良く五体満足で生きていられた。


「あーー! フローラ姫が離れた状態で試しに確認しようと思ったが。まあ、予想以上に悪いな。……ほんとに、フローラはあんな男のどこが良かったっていうんだろうな。それとも、もう手遅れなのか? イグナシオ、なぁ俺たちの約束はどうなる」


 遠い約束を思い出し、ノアはそのまま沈黙した。





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