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02

 後輩だろうが同級生だろうが先輩だろうが教師だろうが。相手のことなど一切考えず悪く言うやつがたくさんいる。怖いのは同性を責められること、それどころかより嬉々としてできることだった。

 ま、俺もうぜえだのうるせえだのむかつくだのと口にすることがあるから人のことは言えないが。

 やはりというか舘本は暗いだの挙動不審で怪しいだのと言われていた。

 あと見ていて分かったことだが、荷物持ちとかをさせられているらしい。


「なあ」

「は? あっ、隆生くん!」


 はぁ、なんで名前呼びなのか。


「えっとさ、舘本に荷物持ちさせてるけどなんでだ?」

「え、なんでってそりゃ、暇そうだからだよ。ほら、人間なにかしてれば気分も楽になるでしょ?」


 なにかしていれば他のことを気にせずに済むというのは分かるから否定するつもりはない。


「俺が代わりにやる」

「うそっ! え、ほんと!?」

「ああ。ただ、どうせやるなら全部自分がやりたいからさ、他の人間には任せないでくれ」

「やったっ、うんっ、分かったよ!」


 どうせ放課後は暇だからちょうど良かった。

 ――と、思っていたのは放課後を迎えるまでだったが。


「部活やってるなんて聞いてねえぞ……」


 これから毎日19時半まで待っていなければならないのか。

 ま、いいか、これから頑張ろうとしているやつを邪魔するやつは許せないからな。

 姉が帰ってくるのだって同じぐらい時間だから大した問題もないし。


「ごめんっ、待たせちゃってっ」

「大丈夫だ、ほら、荷物貸せよ」

「あ、こっちはいいよ……汗かいたシャツとか入ってるし」

「いいから貸せ、そういう約束だろ。俺は拘るタイプなんだ、だから他の人間には任せるなよ?」

「う、うん、じゃあ……お願い」


 つかこいつは誰だよ、まだ名前だって知らねえ。

 ああ、なんで舘本と仲良くするって考えたその翌週に知らねえやつと一緒にいるんだ。

 しかも平気で他人を利用しようとするやつだぞ、できることなら一緒にいたくねえがな。


「あー……名前、なんだっけ?」

「え、酷い! 樹里じゅりだよ、日高樹里!」


 ん? ああ、こいつ、やっかましい女子グループに所属しているやつか。

 上手く舘本と仲良くするように誘導――は、できなさそうだ。


「おい日高」

「へ、な、なに?」

「これから荷物ぐらいなら持ってやるから、下らねえことするなよ」


 いきなり名前で呼んでこないというだけでいいやつなんだ。

 その人間を怯えさせるようなことをするのは許せねえ。


「実は、さ、和心は友達だったんだよ」

「は? じゃあなんで?」

「……私が聞きたいよ、和心が急に冷たくなったんだ。だから……まああいうことして一緒にいようとしていたんだけど、敬語だし、声も小さいし、遠慮しているしでさ」


 ちなみに今日は1度も話せなかった。

 家ではあんな感じだったのに寧ろ避けられていたぐらいだと思う。


「パシリに使ったらそりゃそうなるだろ」

「私は和心と仲良くしたい!」


 俺も舘本と仲良くしたい。

 だから代わりにしようとしたわけだが、逆効果だったのかもしれない。

 それでもこれが知れただけ無駄ではないか、一緒にいれば協力できるわけだし。


「なるほど、それでひとりでやっていたのか」

「他の子はどうでもいいとか言うけどさ、私はやっぱり仲いいままでいたいもん」

「なら荷物持ちをさせるのはやめてやれ」


 理由が気になる。

 ただ、本人が答えてくれるとも思えない。

 

「と、というかさ、隆生くんは和心のことが気になってるの?」

「いや、名字で呼んでくれる貴重な女子だからな、仲良くしたいんだ」

「名前で呼んじゃダメだったの!?」


 当たり前だろう、気軽に名前で呼べる方がおかしいのだ。

 相手が異性なら尚更だ、決して俺だけが変に拘っているというわけではないと思う。


「ま、待って、それじゃあ荷物持ちは……してくれなくなると?」

「部活終了後まで待つの面倒くさいんだよな、飯も作らなきゃいけないし」

「え、ひとり暮らしなの?」

「いや? 佳那恵と住んでる」


 ん? なんか変な顔で固まっている樹里が。


「保健室の佳那恵先生って隆生……あ――千代くんのお姉さんだったの!?」

「名字同じだろ、普通分かると思うが……」


 身長は確かに似ていないものの、優しいという点ではよく似ている。

 それ以外にも笑顔とか、少なくとも相手を怯えさせてしまうようなことはない。


「だって似てないもん! 佳那恵先生は明るいけど、千代くんは人を寄せ付けないオーラを漂わせているしさ! もったいないよ、せっかく格好いいのに」

「女子といるのがあんまり得意じゃないんだ、やつら振ったら掌返しをするからな」


 調子に乗っていると言われるのは勘弁してもらいたかった。

 おまけに非モテ(笑)の男子を巻き込んで悪く言ってくるから質が悪い。

 でも俺は全力で非モテになりたい、本当に理解してくれる人間と出会ったことがないから非モテかもしれないけれども。


「あ、千代くんの悪口を言っている子を見たことあるよ、にししっ」

「お前は舘本の側にいない方がいいな、そりゃ切られて当然だな」

「ちょ」


 こいつの言うことが本当なら唐突に切ったのは向こうだからな。

 

「ふっ、冗談だ」

「もう!」

「おい、お前苛めとかしてねえだろうな?」

「してないってっ、寧ろ和心があのグループの中心だったんだからっ」


 真面目タイプのあいつが所属するようなグループとは思えないが。

 つまりそれって馬鹿なこいつらに付き合いきれなくなっただけでは?

 いつだってやかましいし、すぐに切り替えのできないやつらだからな。


「まあいい、荷物持ちは約束通りしてやる」

「やった!」

「でも、舘本に余計なことすんなよ?」

「な、仲良くしようとすることは許可してよ」

「常識的な範囲でならな」


 舘本のことをよく知っているのなら好都合だ。

 どんなことが苦手なのかとかも知ることができる――が、聞くのは気持ち悪いか。

 俺は自分の力で舘本と仲良くしたいのだ、ま、いまのままだと全然思い描けないわけだが。


「和心ってさ、もったいないんだよね、敢えて目立たないようお洒落とかもしないからさ」

「それはお前らが文句言うからだろ? 変に洒落てるとかって絶対笑うだろうが」


 暗いから明るくなろうと努力したら文句を言われる、つまり詰みなのだ。

 どうすればいいのかは分かっている、他人の力を少し借りるしかない。

 例えば教室内で俺と樹里のふたりといてみたら少しは印象も変わるかもな。


「私は悪口なんて言わないよ」

「それならこれからも継続してやれ」

「うん、だって和心のこと大切に思ってるから」


 教室内が怖いなら保健室を利用するのもいいか。

 もちろん病人がいる時なんかは遠慮するが、姉がいるのは心強いだろうし。

 それをするには保健室を利用している時に急襲するか、避けられないようにするかの2択。

 いやでもそうだよな、俺はあの時のことを謝ってないし避けられた当然だ。

 こんなことなら謝っておけば良かった、なにやってるんだ俺は。


「あ、ここだよ」

「そうか、それじゃあな」


 今後のためになると分かっていても無駄なことをしていた気分になってくる。


「待ってっ、はい!」

「っと、菓子か」

「あげるっ、お礼だよ! それじゃあねっ、気をつけて!」


 なんでこれこんな温いんだよ……。

 でもまあ、これでとりあえず平和な時間が過ごせるというわけで。

 俺は姉を利用するしかないな、姉も結果的に舘本と仲良くできるから悪いことばかりでもない。


「ただいま」

「遅いよっ」

「悪い、いまから作るわ」


 結果を言えばそんなことをする必要もなく、姉が作ってくれていた晩飯を食べたのだった。




「あの時は悪かった」


 教室だと悪いだろうから廊下で謝った。

 ここならあまり目立たない、なにより謝罪から入れば嫌がられない。


「鼻、大丈夫か?」

「…………」


 舘本は俯いたまま、ここで焦るのは駄目だな。


「佳那恵……先生に会ってきたらどうだ?」

「……ぃいです、教室に戻りたいので」


 ぐは……無理だ、これは怯えているとかそういうレベルではない。


「ダメだったの?」

「あぁ……俺じゃ無理だ」

「私も無理だった、返事さえしてくれなかったよ」


 結局姉のところにも来ていないと言うし、一体なにを抱えているんだろうか。

 元同じグループの日高が話しかけても無視、それで俺らは馬鹿みたいに廊下で凹んでいる。

 

「樹里、いい加減諦めたら?」

「そういうわけにはいかないよ……和心と仲良くしたいもん」


 こいつもグループの内のひとりだ。

 1番ドライな考えをできるやつだと観察してみた結果分かった。

 去る者追わずを平気で実行できる女子。

 

「でも向こうはそう思っていないようだけど? そもそも仲良くする意思があるなら抜けようとしないよねって話だし」

「そうだけどさぁ……」

「ま、樹里の勝手だからいいけどね、……後から後悔しないようにしなよ」


 いっそのこと嫌いだとか来るなとか言ってくれた方がマシだ。

 俯いて黙られることの方が堪えるから。


「ちょっと佳那恵のところに行ってくる」

「うん、分かった」


 問題は頑張るとか言っておきながらなにもしていないことだった。

 いつものように読書をするか、突っ伏すか、下を向いて時間をつぶすかの毎日。

 本人がそれを望むのならできる限り邪魔したくはない。

 けれど、こうなったら俺は無理でも日高が仲良くできるようになってくれればと考えていた。


「佳那恵先生、え……」


 いいと言っていたはずの舘本がいて固まる羽目に。

 なにも悪いことをしていないのに保健室から飛び出したぐらいだ。


「なにかあったの?」

「いや、調子は至って健康だから大丈夫だ、教室に戻るわ」


 しかも姉に抱きしめられて嬉しそうな顔をしていた。

 なんだよ素直じゃねえな、ま、あいつが楽しそうならいいと片付けて教室へ。


「日高、お前頑張れよな、部活もあいつのことも」

「……できるかな?」

「大丈夫だ、協力してやるからさ」

「うん、千代くんがそう言ってくれるなら」


 ……俺は俺でしなければならないことがある。

 憂鬱だが仕方がない、放課後まで複雑な気持ちで過ごすことになった。


「……千代くんのことが好きなの」


 名前で呼ばなかったことは評価したいが、名前も、なにが好みかも分からない異性に告白されて喜ぶような人間はいない。


「悪い、受け入れられない」

「……そうだよね、聞いてくれてありがとう」


 俺はあと何人振ればいいんだろうな。

 流石に歳を重ねていけば頻度だって少なくなるよな? なんならゼロにだってなるかもしれないよな?


「モテモテですなあ」

「やめろ、こんなところでなにしてんだ」

「お花さんにお水をあげてきたの!」


 日高に足りないのはこの笑顔だ。

 どうしたって相手の顔を伺うような種類のものになるから警戒されると。

 

「は! 保健室に生徒がっ、行ってくるね!」


 どんな能力だよ。

 日高の部活が終わった後にそれを教えるとして、それまでどう時間をつぶすか。


「ぁの」

「ん? おぉ、どうした?」


 こういう時に限っていられないあいつはもったいないな。


「……午前中はすみませんでした」

「いや、謝ることじゃない、気にするなよ」


 どうする、ここでなにかを言ったらこんな機会はもう訪れないかもしれない。

 日高とだけは仲良くしてやってくれなんて言うのもなんだか偉そうだ。

 適当な場所に座って考えようとしたら彼女も少し距離を空けて座った。


「樹里ちゃん……と、友達になったんですか?」

「んー、友達とは言えないかもな」


 同じことを目指していた仲間というところだ。

 こちらはもう折れてしまったわけだが、ま、それは日高にも言わないつもりでいる。


「興味あるのか?」

「……優しく接してくれていたんです、樹里ちゃんは」


 他のグループメンバーと衝突したと思ったよりも簡単に説明してくれた。

 まず間違いなくあの女子だろう、だからって責められることではないが。

 みんな自分の居場所を守ろうとしているんだ、あの女子にとって舘本は気に入らなかったというだけ。


「謝らなければならなかったのに謝れませんでした……それどころか自分が被害者みたいにグループからも抜けてしまって……」

「それさ、日高に言ってやれよ。俺、あいつが部活終わるまで待つつもりだからさ」

「そう……ですね」


 俺も話し相手ができたことで暇しなかった。


「お待たせー……ぇえ?」

「今日のゲストだ、荷物貸せ、持つから」


 ふたりには会話に専念させる。

 こちらはストーカー判定されないような距離感で付いていくことに。


「……そうだったんだ、全然知らなかったな」

「言わなかったから……」

「まあ、そりゃ言いづらいよね」


 相談した相手が簡単にばらしてしまうということもある。

 酷え話だよな、こっちは信頼して話しているというのに。

 舘本はそれをできずに距離を取ることを選択したというわけだ。


「あのグループに無理して戻らなくていいからさ、また友達になってくれないかな?」

「……樹里ちゃんがいいなら」

「うんっ、ありがと! あ、それより汗臭くない? 今日もすごい汗かいたからさ」

「大丈夫だよ、樹里ちゃんは昔から汗っかきだったもんね」

「うぐっ……な、なんか恥ずかしいなあ……」


 元々あのグループにいたという情報だし、コミュ障というわけではないか。

 楽しそうだ、日高も同じだから目的はもう達成されたことになる。

 あとはまあ適当に荷物持ちを続けて、彼女がいるアピールのために利用させてもらおう。

 何度も告白されるのはごめんだ、日高も俺を利用しているんだからこれぐらいは別にいいはずだ。


「あ、もう着いちゃった……」

「……なら近くの公園で話す?」

「いいね! あ……でも、お腹減っちゃったかなあ」

「それなら後で連絡するよ、まだ残したままだから」

「そうだね! それじゃあまた明日っ」

「うん、ばいばい」


 荷物を渡して帰路に就く。

 駄目だな、舘本のやつを送っていかないと危ない。

 残るように言ったのは自分なんだからせめて今日だけはな。


「送る」

「ぇ、あ、大丈夫ですよ、家、そこですから」

「そうなのか、それじゃあな」

「はい、ありがとうございました」


 また遅いって怒られるんだろうなあ。

 途中で甘いものを買って家に帰った。


「遅い――」

「やる」


 姉が作る飯は自分が作るやつより美味しくていい。

 明るさとかも相まって、きっといい嫁になると思う。


「今日さ、日高と仲良さそうに話してたぞ」

「ふふ、お姉さんのおかげだね」

「それは違う、舘本が頑張っただけだろ」

「なんでっ、私が話を聞いてあげたんだから!」


 確かに癒やし効果があるか。

 あいつにとっていいことをしたので姉の頭を撫でておくことにした。

 こちらの手どころか腕ごと抱いて嫌なアピールを仕掛けてくる姉。


「それより隆生くんは告白されすぎだよ」

「俺だってされたくねえよ、断るのだって大変だし」

「じゃあ私が彼女のフリを、ぎゃびっ!?」

「そんなことしたらクビだ」


 生徒のためにならないからやめていただきたい。

 一応好かれているのならこのまま続けるべきだ。


「困っていたらサポートしてやってくれ、樹里の方もな」

「はーい、相談に乗るのは得意だからね!」


 俺は俺で日高とは別の告白されない対策を練っておこうと決めたのだった。

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