第23話 皇女ライラの微笑
おまたせしております
「おのれおのれッ! 神をも恐れぬ野蛮人どもめ。いま正義の鉄槌を喰らわせてやる!」
白銀の鎧を煌めかせた大男が巨大な戦斧を振り回し、約一個小隊40人ほどの屈強そうな騎士たちを引き連れて五郎たちに向かって駆けてくる。
「一人一発で斃すとして、俺の拳銃で8人。カーチャの小銃で10人がいいところか……」
「天誅ぅうううううううッ!」
戦斧を振りかぶり、大男が絶叫する。
「てめえがなッ!」
虎人少女エカテリーナが応え、乾いた破裂音が三回辺りに鳴り響く。
思い金属同士が擦れぶつかり合う轟音とともに、大男が地面に倒れ伏した。
「「「「大尉殿ぉッ!」」」」「「「「隊長ぉッ!」」」」
装甲兵たちが狼狽え、大男に駆け寄る。
と、五郎たちと騎士たちの間に割り込むように、アメリカ製軍用4輪駆動車ハンビーが急停車した。
「ゴロさ、おまたせ!」
狼少年ラオールが、ハンビーの運転席から顔を出してライラ皇女たちを担いだ五郎らに呼びかける。
「グッドタイミングだラオール。ヒルダさんッ、皇女様たちを!」
「ハイッ! 了解でございます! 皇女様、あの、馬が引いていない車に乗りますよ」
「あ、あいわかった! 皆のもの、あの馬なし馬車に乗るのじゃ」
エカテリーナと五郎は左右の後部座席のドアを開き、皇女の部下たちを詰め込むように乗せてゆく。
「五郎さん後部席乗車完了ッ! 乗り忘れナシッ!」
「了ッ! 前席も搭乗完了ッ!」
皇女を膝に乗せ、ヒルダが乗り込み、最後に五郎が助手席に乗り込んで勢いよくドアを閉める。
「定員オーバーなので窮屈な思いをかけますが、お許しを」
「なに、危急じゃ、寧ろ礼をいう」
「ヨシッ! 全員搭乗完了ッ。ラオールッ!」
「あいよぉッ! みんな適当につがまってけろじゃ、わんつか揺れるすけなッ!」
アクセルペダルをベタ踏みしたラオールが叫ぶと同時に、アメリカ軍用高機動4輪駆動車のエンジンが唸りを立てる。
「うわぁ! なんだ鋼鉄の猛獣か!」「悪魔が顕現したのか!」「神よ!」
ロムルス教国の騎士たちが口々に怖れを叫ぶ。
「ははははは、ロムルスのバケツっこども、まなぐたま(目玉)ひらいで見でろじゃ! 我んどがいなぐなるのばなぁ!」
ドップラー効果が効いた狼少年の声が遠ざかってゆくのを、何が起こったのか理解できない教会騎士たちは無様に尻餅をついたまま見送るだけであった。
「ここまで来れば一安心デスネ」
ヒルダがホッと安堵のため息をつく。
南方辺境領都ラジェーヴォから馬で2日の場所(約120キロ)までノンストップで3時間走り通した一行はここでキャンプを張り、休息することにした。
「んだな、ロムルスの馬ッコだば、どったぬむぢゃさせでもいづぬづ(1日)かげでわんどがたった今きたどごまですか来れねすけな」
この世界の高速移動手段は、魔法による移動を除けば馬や馬車が一般的で、その移動距離は一日で約50キロから60キロである。
したがって、五郎たちは、約8倍近くの速度で移動したことになる。
「生きた心地がしなかったぞ、ハジメが娘よ」
皇女ライラが青ざめた顔でぼやく。
「だが……、改めて礼を言う。スーラが友ハジメの娘ブリュンヒルデよ我らを救ってくれてありがとう。心からの感謝を捧げる」
そう言って皇女ライラは頬を染めニッコリと微笑んだのだった。
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