第21話 五郎怒りの45
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「んぁ? グリューブルム王国南方辺境領の領都ラジェーヴォだったとおもうけど?」
腕を組んだエカテリーナが呆れたように答える。
「んだなす。こごの法律だばグリューブルム王国法がてぐようされねばどごのくぬのりょうちだってごどになるべ」
(だよねー、ここの法律はグリューブルム王国法が適用されなきゃどこの国の領地だってことになるよねー)
意地悪そうに口角を歪め狼人少年ラウールが溜息をついた。
「と、いうことは、ヒルダさん……いいんですね」
五郎の口の端が獰猛に吊り上がる。
「ええ、ゴローさんあの子たちを助けましょう! あの人でなしなロムルスのオークモドキの手から! 殺人行為のを未然に防ぐために、領主権限がある者の指示であれば裁判無しでの死刑が可能です。被害者の生命が脅かされているので緊急避難的に加害者の排除が許されます!」
「了ッ!」
言うが早いか、五郎はシャツを捲り上げズボンの内側に隠してい45口径自動拳銃コルトM1911A1を切り詰めたようなシルエットをした拳銃を引き抜く。
そして青く塗装された照星に、豚鬼のように醜く肥満した顔面を捉えたのだった。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
乾いた破裂音が広場に響き渡る。頭の後ろ半分から血と脳症を撒き散らしながら、ロムルス教国の高位神官が倒れてゆく。
その純白の僧服の胸は、勢いよく大きくなってゆく二つの赤黒いシミができていた。
ダダダッ! ダダダダダダダンッ! ズダダダダダダダダダダダダダぁン!
五郎がコルトコマンダーをロムルスの高位聖職者に向かって発砲したのと同時に、連続した射撃音が広場を揺るがした。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンカンコンッ!
金属に金属を打ちつけるような音が響く。
ガシャガシャと音を立ててバケツ兜の騎士たちが倒れてゆく。
「「「「きゃああああああああッ!」」」」
「「「「うわあああああああああああああッ!」」」」
「た、たすけてくれぇッ!」
「雷神様の怒りが降ってきたぁ!」
広場の群衆が、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
「ゴロさぁ、うづのだば、うづどへでがらうででゃ。みみこぉふさぐすけな」
(ゴローさん撃つんだったら撃つって言ってから撃ってよね。耳塞ぐからね)
「ゴローさん、こういうのってさぁ、いっぺんに片付けないと面倒になるって知らねーのかよ?」
銃口から白煙をくゆらせながらラウールとエカテリーナが小銃を構えたまま五郎を責める。
「す、すまない! 感情的になりすぎていた。以後気をつけるよ」
五郎は二人にペコペコと頭を下げ平謝りする。
そんな五郎を尻目に、ブリュンヒルデがかねてから五郎に貸与されていた小型のピストルを構え、絞首台へと足早に近づいていった。
「誰かある! 誰かある!」
(ん? 誰かあるって、身分の高い人が家来を呼びつけるときに使い言葉じゃなかったっけ)
五郎はなけなしの古典の知識でブリュンヒルデの言葉遣いに疑問符を浮かべる。
「応ッ! 我此処に在り! 我を呼ぶはいずれの姫か? 我は南大陸は魔族皇国スーラが第六皇女ライラなり」
絞首台で首に縄をかけられた少女たちの中で一番小柄な少女がブリュンヒルデの呼びかけに応えた。
「皇女殿下! ワタクシは魔皇国スーラの友ハジメが一子にしてヴァルトブリーゼ氏族の長ブリュンヒルデ・ミェリキ・ヴァルトブリーゼ也! 我が父とスーラの盟約に従い御身をお助けしたく推参仕った次第! 我が助を受けられたく乞い願う」
「ありがたき! なれど、我らすでに幾許も無く潰えよう! どうか我らの死に様、しかと見届けくださるよう伏して乞う」
と、異様な感覚に五郎は襲われる。鼻の奥がツンとして、今にも鼻血が吹き出しそうな頭がボーッとする感覚。
「いけません殿下!」
ブリュンヒルデの叫び声が五郎をハッとさせる。
(こ、これは……)
五郎は、嫌な予感を思いだした。
若い頃中東や南米の営業所でたまに感じた予感。
すなわち、死の予感。誰かの死が近くで起きる予感。
それの多くが、自爆する少年や少女、貧しい身なりの男女の姿だった。
「だ、だめだ! そんなことをしてはいけない!」
そう叫んだ五郎は、絞首台に向けて駆け出していたのだった。
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