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第20話 ここはどこの国のなんというところでしたかしら

お待たせいたしました

「さあ、さあ、善男善女たちよ、我が同胞よ、兄弟よこれなる聖石でこの悪鬼共を打つがよい! 打てば功徳を積んだことになると弊職が証書を出そう。聖石の数には限りがあるぞ、聖石ひとつ大銅貨一枚だ! たった大銅貨一枚で天国への階段が何段も少なくなるのだぞ! さあ、さあッ! この悪魔どもを打つが良い! コーノクーハ!」


 豪奢な僧服で包んだ脂肪を揺らしながら、甲高いこえでロムルス教の僧が喚く。司祭と名乗った痩せた男が傅いていることから、司教以上の高位聖職者であることは間違いない。


(コーノクーハってのは、アーメン的な慣用句的な何かなのか?)


 ふと思った五郎だったが、すぐに意識を魔族の少女たちに戻した。


「あの娘達を助けられませんか? 小さな女の子もいるじゃないですか!」


 五郎は目の前で繰り広げられている元世界の中世以前に行われていたような蛮行から、なんとか少女たちを救いたかった。


「無理ですよ五郎さん。彼女たちはおそらくは戦利奴隷なのです、彼女たちの所有権は戦勝国の幹部であろうあのオークモドキにあるはずです。ワタクシの父がよく言っていた人道? でしたっけ。それに悖る行為だとは思われますが、グリューブルム王国法的には違法ではないのです」


「奴隷の生殺与奪は所有者にあると?」


「はい、とても残念ですが……」


「そうなんですか……」


 ガックリと肩を落とす五郎。


「悪法なりとも法は法です。あのオークモドキは王国の法律的には彼女らを反逆奴隷として、代官に届け出ているはずですから、ワタクシたちには彼女たちを救出する法的根拠がありません。王国臣民たる我々は王国法の下にこの国で生きているわけですから、それを遵守しなければなりません。とても残念なことですが……。」


 と、いうブリュンヒルデの言葉がそれに追い打ちをかけたのだった。

 ちなみに、ヒルダというのはブリュンヒルデの愛称だ。


「ヒルダさぁ、いづの法律の話してらっきゃ!」

(ヒルダさん、いつの法律の話してるんだよ!)


「あんたそれでも王立大出だろ。しかも大学院とやらまでよお。なんか偉そうな称号持ってなかったっけ? そんなお方がよお、あたしでも知ってる常識ってーヤツも知らねーなんてなぁ! ホントに王立大出てんのかぁ?」


 五郎たちが振り返ると、そこには、しかめつらしい表情をした狼人少年ラウールと、買い食いの肉串を咥え、ニヨニヨとしたいやらしい笑みを浮かべた虎人娘エカテリーナが立っていたのだった。


「な、何を言っているんですか! ちゃんと出てますよ王立大! 家に帰ったら学位記見せますよ! 大学院だって農学博士論文は教授会全会一致で『優秀』をいただいてますからっ! ひゃっ…百年前ですけど……」


 ブリュンヒルデは百年前という部分にミュートをかけて自分の学歴を訝しむエカテリーナとラウールに反論する。


(百年……ああ、エルフだから成長がゆっくりだもんな。今人間で言う25歳位として百年前だと15歳位ってことなになるのか……15歳で大学院出てるって考えるとすごいな)


 以前ブリュンヒルデから聞いたエルフの年齢と人間の年齢の比較を思い出し、五郎はブリュンヒルデの年齢が約250歳であるということから、ブリュンヒルデが人間の年齢でいえば25歳くらいであると考えたのだった。


「ああ、んだれば、わがてなぐでもすがたねじゃ。せんるどれきんすじょうやぐっこがくたたいるぐ16かごくでむすばれだのどせんるどれっこくんすほうどずんけんほうっこがせいでされだのがやぐ250年前だすけな。はくすご論文にかがるくるだったんだばすらねのももっともだでば」

(ああ、だったら、知らなくても仕方ないね。戦利奴隷禁止条約が北大陸16カ国で結ばれたたのと戦利奴隷禁止法と人権法が制定されたのが約250年前だからね。博士論文にかかりきりだったんなら知らなかったのももっともだもんね)


「ヒルダは昔っから夢中になると自分の生命維持に関わってこなけりゃ世の中のことなんか見えなくなるからなぁ」


 虎人少女エカテリーナが腕を組んで相槌を打つ。


「え? と、いうことは……」


 ブリュンヒルデが昭和の役場職員のような眼鏡の奥の瞳を見開く。


「そゆごどだでば」

(そーゆーこと)


 狼人少年ラウールがしたり顔で頷く。


「ありゃ、ギルティだね。戦利奴隷禁止条約違反並びに人権法第4条奴隷における人権の法律第一条第一項違反…量刑は死刑もしくは終身強制労働刑だねぇ」


 虎人少女エカテリーナが腕を組んで呆れ顔で首を振る。


「ロムルスだば、せんるどれっこくんすじょうやぐば批准すてねすけな。すったらじょやぐっこ存在すてらごどもすらねのだべな」

(ロムルス教国は戦利奴隷禁止条約を批准してないからね。そんな条約が存在してるのさえ知らないんだろうね)


「ええ…と、エカテリーナさん、この地はどこの国のなんというところでしたかしら?」


 ブリュンヒルデがメガネを指先で上げながら普段使っているカーチャという愛称ではなく、エカテリーナという本名で虎人少女に呼びかけて尋ねたのだった。


毎度ご愛読誠にありがとうございます

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