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第19話 ラジェーヴォの中央広場で晒される魔族の少女たち

お待たせいたしました。

 五郎がお気に入りの城壁の美しさに匹敵するくらい、南方辺境伯領領都ラジェーヴォの街並みは美しかった。


 お揃いのオレンジ色の屋根瓦に白い壁の街並みは、元世界のアドリア海沿岸の街並みを彷彿とさせる美しさだった。


 が、同時に、下は街の門の警備に当たっている衛兵から上は街を治めている代官までの腐敗っぷりは元世界の発展途上国の役人の腐敗ぶりに勝るとも劣らず、平和で公務員の腐敗が殆どあり得ない日本人の五郎はラジェーヴォの公務員の腐敗っぷりにげんなりしていたのだった。


 住民以外が街に入る際の税金には、上番している衛兵への賄賂が公然と上乗せされて徴収されるし、無論、街を出るときにも衛兵に謝礼という名の賄賂を渡すのが当たり前になっている。


 これを拒否すれば、当然街には入れないし、入れないだけならまだしも、脱税の容疑をかけられ、衛兵の機嫌によっては、即逮捕の上裁判なしで犯罪奴隷に落とされることもある。


 末端がこうなのだから街を治めている代官の所業も推して知るべしだった。


 だから、このラジェーヴォの街では何をするにも役人への袖の下(賄賂)が不可欠という腐れっぷりで、その行政機構には賄賂をはじめとするあらゆる不正が公然と蔓延っているのであった。


 日頃から、こんな街の直営販売所なんてやめてしまえばいいのにと思っていた五郎だったが、そんなことは、自分の6倍もの時間を生きてきたヒルダならば、とっくに考えていることだろうし、あえて、やめていないのならば何か考えがあるのだろうと、そのような諫言は口の端にも登らせたことはなかった。


「はあ、だけど、こればっかりは我慢のしがいがないよなぁ……」


 こっそりと、小声でぼやく五郎。


「どうかされました? ゴローさん」


 耳聡く五郎のボヤキを聞き咎めたヒルダに、五郎は苦笑いを返すことしかできないのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ついに我らの聖戦はその目的を成し遂げたのだ!」


 キンキンとした男の甲高い大声が、五郎たちが通りかかった広場に響いた。


 その耳障りな声が語る言葉もまた五郎の不愉快指数を急激に上昇させていた。


「見よ! これこそが人間の敵だ! 悪魔なのだッ!」


 口角の泡を飛ばし喚く醜く肥え太った男は、豪奢な僧服で飾り立てた脂肪をブルブルと揺すりながら声を荒らげていたのだった。


「さあ、善男善女たちよ。我らが勝利を目の当たりにするがいい!」


 豪奢な僧服の肥えた男が指差す先にいたのは五郎たちがラジェーヴォ壁外で遭遇した牢馬車に詰め込まれていた魔族の少女たちだった。


「あの子達は……」


 少女たちの後ろには、痩せた男……司祭と名乗っていた……とバケツ兜の聖騎士たちが控え、時折少女たちを剣の鞘で小突いていた。


「くッ……」


 少女たちに誰一人として五体が満足に揃っているものはいなかった。


 誰もが手足が欠損していたり眼窩がただの穴だったりと言う有様で、真新しい傷口もたくさんつけられていた。。


 そして、その数多の傷口は膿み腐り、蛆虫が湧いて腐肉を啜っていた。


 さらに糞尿も垂れ流しで、五郎が城壁外で感じた異臭の元はそれなのだと知れたのだった。


 それは、あのバケツ兜たちが魔族の少女たちを責め苛んだ挙げ句のことであったことが容易に想像できた。


「……っそッ!」


 すなわちあの豪奢な僧服に身を包んだ豚鬼モドキたちが、異教徒異種族に対して行った蛮行の成れの果てであることが識れたのだった。


 五郎は指が真っ白になるほどに体の両脇で拳を堅く握りしめた。


 そしてその握りしめた拳から紅い雫がポタポタと流れ落ちるのにさほどの時間はかからなかった。


「ゴローさん、手を出しちゃダメですよ!」


 広場の中心で行われているロムルス教徒らの蛮行を、その丸眼鏡に映したヒルダが、五郎の捲り上げた袖を引っ張って小声で諫める。


「かわいそうですが、あの人たちは、戦に破れ捕虜となり、戦利奴隷となった人たちです。所有権は戦勝者であるロムルス教国にあるのです。南大陸の魔皇国の戦士たちみたいですが……。戦闘の際に傷を負ったかして捕まってしまったのでしょうね。かわいそうに。魔族の戦士たちはロムルスに生きて捕らえられることを是としませんが、運が悪かったんでしょうね……」


 ヒルダは虜囚の辱めを受け、傷ついた体を晒し者にされている魔族の少女たちへの同情を丸い眼鏡に映していたのだった。

 毎度ご愛読、誠にありがとうございます。


 少しでも面白いなぁと思っていただけたり、続きがきになるなぁと思っていただけましたら、是非下の星をチェックいだきますよう宜しくお願いいたします。

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