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第16話 城壁の中へ

お待たせいたしました。

こちらの更新を再開します。

なお、今回からタイトルを変更しました。

新タイトルは

『おっさんサバゲーマー異世界を征く』

といたしました。

今後とも宜しくご愛読くださいませ。

 悍ましくも懐かしい匂いが漂ってきた方角……風上へと五郎は頭を巡らせる。

 五郎の目に飛び込んできたのは、鉄の檻が載せられた四頭引きの大きな馬車だった。

 鉄の檻が載せられているだけあっていかにも頑丈そうな造りだ。

 その周りには護衛なのか、俗に言うバケツ兜を被り大きな十字が描かれた白銀の鎧に身を固めた完全武装の騎士が侍っていた。


「なッ……!」


 叫びそうになった五郎は自分の口を自分の手で塞いだ。

 その檻には就学年齢にも達していないような女児を含めた女性ばかり数十人が押し込められていたのだった。

 中にはひどい怪我をしていて傷口が膿、腐っているような者もいる。

 五郎の鼻がキャッチしたのはそこから漂う匂いだったのだろう。


(なんだあれは! あの子達は犯罪者なのか?)


「早く門を開かぬか! 身共は領主殿と懇意であるぞ!」

「今、そこもとの身元を確認に領主館に使いを走らせておるから、しばし待たれよ」

「なんだと! 身共に待てだとッ! 貴様名乗れ! 領主殿に苦情を申す!」


 その馬車の持ち主であろう立派な白のローブを纏った痩せた男が門番に喚いていた。

 その門は五郎たちが並んでいる正門とは作りが異なり、正門よりはいささか小さいが豪奢な門であった。


「いいから早く開門せよ」

「しかし、この門は貴族専用であるから……」


 そこの門番(正門の門番よりも明らかに装備がいい)と押し問答をしている立派な身なりの痩せた男がいた。


「それがどうした? 身共は司教である。俗世の爵位で言えば子爵に相当すると貴様の主人である領主殿から聞いたが?」 

「は、はいただいま! 開門いたしますッ! 開門ッ! かいもーんッ!」


 ついに、ローブの男は横車を押し通し、貴族専用門を開けさせた。


「あ、あの、こちらの牢馬車は……」


 すっかりとしょげかえった門番が、恐る恐ると白ローブに尋ねた。

 白ローブがフンと鼻を鳴らし答える。


「小奴らは身共らの聖騎士たちが戦にて得た奴隷である。逃亡を防ぐためこうして牢馬車にて運んでおるのだ。身共が本分を遂行するのに必要なモノなのだ。このことは領主殿にも前触れにて知らせている……」


 立派な身なりの痩せた男が顎をしゃくって指したのは、鉄の檻に押し込められていた女達だった。

 その誰もが覇気なく項垂れ、傷を負ったものは膿み腐るに任せ、いずれもが垢に塗れていた。


「あれは……ロムルス法皇国聖騎士と星十字教の司祭……そして檻に詰め込まれているのは魔族ですね」


 五郎の視線に気がついたヒルダが五郎の耳元で囁いた。


「魔族……ですか?」

「ええ、魔族です。……ああ、でも、悪魔の一族とかそういったことではなく、単に魔法を行使する能力が他種族よりも秀でているという意味合いでの魔族という呼称ですね」

「そうなんですか……」

「かわいそうですけど、如何ともし難いですね。あの司教の男が言ってることがホントなら、南方辺境伯様と懇意ってことですから……」

「辺境伯様とはずいぶん高位のお貴族様ですねぇ」

「ええ、私たち程度、鼻息で吹き飛ばされかねませんからねぇ、触らぬ何とかになんとかですよ」


 へえ、そんな慣用句まで浸透しているのか……と、五郎は日本文化のこの世界への侵食具合に驚く。


「ゴローさん、たしかに、あの檻に入れられていた子たちはかわいそうですけれど、手出し無用ですよ。辺境伯に睨まれたくはないですからね」

「い、いやだな、ヒルダさん、手出しも何も、俺にはなんの力もないですよ」

「いいえ、ゴローさん、チカラを持ってる人間に限って自分は無力だというんですよ。私はそういう人を何人も見てきましたから分かるんです。いいですかゴローさん手出し無用です」

「は、はい、分かりました。ヒルダさん」


 五郎はヒルダの迫力にコクコクと壊れた人形のようにひたすら頷くのだった。


「なぁに小難しい顔してんだぁ? 早く飯にしようぜぇ、エールとワインの樽はもう開けたからよう。あとはゴローさんの料理待ちなんだよう」


 虎獣人娘のエカテリーナが馬車の中を覗き込み、犬歯を剥いて笑う。


(犬歯というより、すでに牙だなアレは)


 と、思いながら五郎は料理をストレージから取り出すのだった。

 もっとも、五郎自身はすっかりと食欲を無くしていたが……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ようやくですね」

「ええ、全くようやくですねぇ」

「はあぁ。いんづもながら、こりぇはたまんねのす」

(はあぁ。いつもだけど、これはたまらないね)

「兎にも角にも、街の中に入っちまえばこっちのもんさ! とっとと用事済ませて自由行動自由行動ッ!」

「まったぐカーチャだば、もらったこんづけぇだばさげど博打さスッてまるつもりだべ。きぃつげろ」

(まったく、カーチャは、もらったお小遣いお酒と博打でスッちゃうつもりなんだろ。気をつけなきゃだよ)

「わーってるって!」

「ほんとうよ、カーチャ博打なんて胴元しか儲からないようになってるんだから」

「んーにゃ! 今日のあたいは一味違うんよ。こないだ農場に来た商人にいい賭場聞いたんだ!」

「ああッ、もうッ! その商人と賭場がグルだって考えないかなぁッ! って、もういないし」

「はぁ、カーチャも宿屋ばわがってらすけ、身ぐるみ剥がされだらけーってくるべ。まいどまいんどわがねなぁ」

(はぁ、カーチャも宿屋は知ってるから身ぐるみ剥がされたら帰ってくるって。まいどまいど懲りないよねえ)


 と、一行が門をくぐったのは既に日が傾き、夕暮れがヒタヒタと忍び寄ってきた頃合いだった。


「では、荷を降ろしたら、私たちも自由行動としましょう」

「あーッ! すまった! カーチャだばぬおろしサボりだじゃ」

(あーッ! しまった! カーチャったら荷降ろしサボったよ)

「仕方ありませんね、あの子には後できつい罰直を与えましょう」

「え? 罰直って……」


 思わず五郎は問い返す。罰直というのは旧軍の悪しき伝統の体罰のことである。


「ああ、ゴローさんは罰直ってご存知なんですね。でもご安心ください。殴る蹴るのような野蛮なことはいたしませんので。今回サボった分、余計に労働をさせるくらいですから」

「そ、そうなんですか。それなら……」

「はい、でも、懲りることを覚えさせるのが目的ですから、多少はキツイ思いをさせますけれどね。ウフフフフフ」


 そう言って嗤うヒルダの表情に戦慄する五郎だった。

 毎度ご愛読、誠にありがとうございます。

 少しでも面白いなぁと思っていただけたり、続きがきになるなぁと思っていただけましたら、是非下の星をチェックいだきますよう宜しくお願いいたします。

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