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003ぶくぶくぶく・・・

ネーベ大森林の巨大な滝『マッカルの脛』は幅6メートル、落差42メートルの直瀑である。

落ち口から滝壷まで一気に落下するその様はまさに圧巻の一言に尽きる。

王都から比較的に安全なルートが確立されているため観光スポットとして人気が高い。

なお、滝壺内部は急激な水流が渦を巻くような形に出来上がっており、一度滝壺に落ちれば二度と水面に上がってこれないと言われている。


「ぶくぶくぶく・・・たっは!!!」


滝壺から十分離れた水面から少女が顔を出した。長い金髪に人間から見たら長い耳の、ハーフエルフ少女クロクである。

エサを求めてパクパクと口を開ける鯉のように呼吸をし、酸素を貪る。


「ひぃ・・・死ぬかと思った・・・。」


そのまま近くの岩場まで泳ぎ着き、大きな岩の上に寝転んだ。

しばらく呼吸を整え、虚ろな瞳で星空を見る。

水から上がってしばらく経つのに、クロクの足元からバケツをぶちまけたような量の水が未だに流れ続けている。

いや、よく見ると靴底に黒い穴が開いていて、そこから水が出ているのだ。次第に水量は減っていき、最後には出切ったと言わんばかりに、ポタポタと水滴が垂れた。

そして残った黒い穴は捻じれるようにして消え去った。物理的に靴底に穴が開いていたわけではなかったのだ。


「・・・覚えててよかった、収納魔法。」


滝壺から生還できたのは、先生から教わった収納魔法のおかげだった。

クロクの収納魔法は自身の魔力量に応じて容量が変化するものだ。これからの成長で容量がさらに増える予定である。

滝壺に呑まれたクロクは渦の中できりもみ状態になり、呼吸もできず上も下も分からなかった。

自分の周りの水を手あたり次第に収納すると同時に、足元から水を取り出した。

そうすることによって、抜け出せないはずの渦の流れを一時的に緩和し、足元から吐き出す水流の力で滝壺部分から脱出することができたのだ。


「はあ、パンツまで濡れてしまっては今日はここで野宿ですね。」


十分に休んだクロクだったが、未だ濡れネズミ状態だった。

川辺から森の中へ移動すると手頃な大きさの木を探した。まずは寝床の確保、里では大樹の根元がクロクの居場所だった。落ち着ける場所をキープすると収納魔法からロープを取り出した。

不思議なもので、あれだけ川の水を取り込んだのにも関わらずロープはまったく濡れていなかった。

収納魔法の中の物同士は干渉し合わないらしい、とても便利だった。ちゃんと先生が仕組みを説明してくれていたがクロクは覚えていなかった。

ちなみに、収納魔法の中は時間経過もしないので食べ物を入れていても劣化して腐る心配もない。取り込んだ状態のままで保存されるので、水ひとつとっても激流を取り込んで取り出せば激流のまま出てくるし、桶の水を取り込んでも水圧を高めて射出するというようなことは出来ない。取り出す際の穴の大きさをある程度調節することはできるが、それも取り出す量の調節にしかならない。


そんなことをしているうちに、すぽーんと気持ちよく全裸になり、濡れた衣服を木と木の間に張ったロープに掛けクロクは就寝してしまう。


******


「イイイイイ、イデンっ。あの人落ちちゃったよ~!!」

「・・・・・・うん。」


まず助からないだろう。しばらく滝壺を見下ろしていた面々だったが少女が浮かんでくることはなかった。

いつまでも見ていても気持ちのいいもんじゃないと、ガシガシと頭を掻いたマルクは拠点に戻ることにした。


「お前ら行くぞ。予定変更だ。エルフの里の探索は一旦終了、朝になったら王都に戻って事故の報告だ。さっきの子は恐らく俺たちと同じ冒険者だろう。今回の依頼は複数のパーティーが受けてたからな。ったく。」


それに続き、全員が暗い気持ちで拠点へ戻った。

会話は少なく、見張り以外は早々に寝ることにした。


「・・・イデン起きてる?」

「・・・うん。」


それからどのくらい時間が経っただろうか。10分?それとも数時間?、コルティは寝付けないでいた。

森の中は暗く、風が吹けば木々が擦れ合い、ざわめくように森が泣いているようだった。

この探索の間に、そんなことにも慣れたはずだったが何故だかとても怖い気がしていた。


「皆起きてるのかな?」

「かもね。」


いつもなら剣士たちのけたたましいいびきが聞こえてくるはずだ、だから離れられるだけ離れて寝袋を敷いたのだから。


「ね、手握りながら寝ていい?」

「それ、寝づらいよね?いいけどさ。」


コルティが差し出した手をイデンが包むように握る。


「私さ、人が死んじゃうの初めて見た。」

「うん。」

「なんか怖くなっちゃった。」

「うん。」

「イデンは?」

「・・・僕も初めて見たよ。ちょっとお母さんに会いたくなったかもね。」

「だよね。」


二人はしばらく会話を続けた。他愛ないいつもの会話だったがそれがとても大事に思えて、コルティは話が途切れないように話題を出し続けた。

夜が深くなり、いつの間にか眠ってしまったコルティの寝袋の乱れを直すと、イデンも目を閉じた。

イデンはコルティを起こさないように、そっと重ねるように二人の手を合わせた。

手から伝わるコルティの温度に安心感を覚え、深く息を吐くとイデンの意識もまた眠りの中へ落ちていくのだった。











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