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睦月雪の話

 5限の授業が始まると睦月雪むつき ゆきは窓辺の自分の席から雪が降りしきる空を眺めながら、日本史を教える小谷先生の話をぼんやりと聞いていた。

 今年初めて降った雪は例年よりも多く、帰りの電車が遅れるのではないかと考えた。

 そんな時、ふと手元のシャープペンシルが自分の意思とは関係なく白紙のノートの上を滑らかに走り出した。

 不可解な現象に、睦月雪はさも当然のような素振りで自分の手元で動き出すシャープペンシルに視線を送り続けた。

 やがて、握られていたシャープペンシルは息の根を立ったように弱々しく倒れるとそのままの勢いで教室の床へと落ちた。

 静寂の中で響いた音にクラス生徒の視線を集めてしまった睦月雪は少し顔をこわばらせながらも笑みを作り上げて地面に落ちたシャープペンシルを拾い上げると生徒たちは再び教壇に立つ小谷先生の方へと顔を向けた。

 「はぁ…」睦月雪は小さな溜息を吐き出しながら拾い上げたシャープペンシルを再び手に握りノートに書かれた文字を見つめる。

『上田俊 日暮駅 17:00』

およそ達筆とは言えないノートに書かれた三つの単語を見つめながら、頭の中でその単語が意味するものについて思考を巡らせた。


睦月雪の名は、文字通りとおり生まれた1月に雪が降っていたことから由来する。

 まさに生まれてから雪と一緒に運命づけられたような、彼女は子供の時からある症状に悩まされていた。

 その症状を簡単に言えば自分の意思とは関係なく動く何者かが睦月雪を通じてあらかじめ何が起こるのか大雑把だが知らせてくれる未来予知だ。

 しかし、症状は雪が降るときに限るものであった。

 最初の内は気づくのが遅かったがそれでも年を重ねていき雪が降るとこの不気味な現象が起きる事に因縁があることは自然の内に分かった。

 何か害があるわけではないが、自分の意思とは関係なく動く症状や一種の特殊能力とも言えるそれらの物事を睦月雪は良くは捉えていなかったのは言うまでもないだろう。

 誰かに言うことが憚られるこの現象を彼女は一人の内に押さえ込み、天気予報で雪の予報がなされる度にため息を吐き出した。


 そんな睦月雪は自身のノートに書かれた文字を見つめた。これまでの経験から書かれる言葉は名前 場所 時間が順に書かれる。

 まず初めの上田俊というのは睦月雪が3か月前まで付き合っていた人物の名前だった。別れた理由はありふれた痴情のもつれというやつだ。

 そういえば、今日は同級生である彼の姿を目にしていない。度々、彼はなんの前触れもなく学校を休むことがあったが。

 そして、二つ目の日暮し駅と言うのは睦月雪が通学で使っている自宅からの最寄り駅のことで三つ目の17:00というのはそのまま時間を示しているのだろう。

 それらの事柄を繋げてみてみると17:00に日暮し駅にて上田俊と何かしらの出来事があるのだろうと予測ができる。

 その考えに行き着いた睦月雪はノートに落としていた視線を上げて黒板の上に掛けられた時計を見つめる。

 17:00までは残り2時間半、次の6限の授業が終わってから駅までの所要時間を考えるとギリギリ間に合う頃合だ。

 睦月雪は心の中でそう呟くとノートに書かれた文字をプラスティック消しゴムで消した。

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