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無関心な小説家の事件簿
俺はあの人を見て、異様な空気を感じ取った。いや、もしかしたら感じざるおえなかったのかもしれない。その男は目の前の光景になんの感情も抱いていないように感じた。
それは完全な「無」。俺のような普通の人は、いや少し普通じゃなくても大抵の人物は目の前の光景に対してなんかしらの感情は抱くはずだ。しかし、その男はずっと黙ったまま関心なんて持たずに、自分のことを噂している人の間を横切りその男は去っていった。
その、誰しもが何かしらの感情を抱くその光景とは殺人現場なのだ。そうとも関わらずその男は人が一人殺されているのにまるで、虫けら1匹が死んだ程度に横目で一瞬見ただけだった。
一般の人なら当然死体なんて見ることは出来ない。周りは野次馬だらけだがキープアウトが張ってあり入ることは出来なくなっている。
殺人現場に入れるその男は普通の人物では無いのだろうなと俺は悟った。
しかしその男は同業者の警察でも無ければ探偵でもなかった。
ただの小説家だったのだ。
そんな何事も関心も感心さえも持たない小説家の男と俺は今日初めて出会ったのだ。