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第八話 恒例の好例な降霊事情

 何の変哲も無い「以下省略」




 今日は日曜日。

 自然、窓霊まどれいの獲物が家の前を通る頻度も下がり、テンションを下げた窓霊が朝寝坊するのも道理だろう。

 予め昨夜のうちに、おコトには伝えていたので、日曜日の朝を布団のなかで十二分に満喫出来た窓霊は、十一時という人によっては昼前と表現できる時間帯に目を覚ました。別に昨日が忙しかったわけでもなく、それどころか月~土までほとんど家でダラダラするだけの窓霊なのだが、それでも日曜日の朝寝坊によく分からない魅力を感じているようだった。

 ベッドの上でムクリと上半身を起こした窓霊は、時間を確認するために時計では無く、窓の外に視線を向ける。時間ではなく、太陽の動きでスケジュールを確認するのは、昔の人か引きこもりぐらいである。引きこもりなんだけど。

 視界の端に、立てポップが何故かこちらを向いて立っている事に気が付いたが、わりとどうでもいい事なのでさらっと無視して、ベッドから降りて階下へ向かう。

 そこで、窓霊は複数人の声を耳にする。誰かと誰かが会話をしている様だ。本来なら窓霊にとって、この家の事は隅々まで把握出来ている筈である。だが最近、おコトがお手伝いさんバリに身の回りの世話をしてくれているので、その辺の知覚能力への意識がおざなりになっていた。そうなってくると、もう本当にただの引きこもりなのだが、全国の窓霊の分身さんが覗いたり覗いたりしながら人間のあれやこれやを吸収してくれているので(二話参照)、不労所得がたっぷりの隠居老人みたいな身分になっていた。

 お化けには試験も学校も仕事も無いとは、本当に良く言ったものだ。勤勉で健康的な知人に「げっ」と言われないようにしたいものである。


「?」


 今日は窓から覗きこむ予定はないので、身だしなみに気を配る必要がない。洗面所へは向かわず、複数人の声がするリビングへ向かう。

 無造作にリビングへと通じるドアを開けると、そこでは三人の少女がリビングのソファに座り、テーブルに広げられたお茶やお菓子を楽しみながら、話に花を咲かせていた。

 知っている霊体が二人に、知らない人間・・が一人。


「人間がいるわね」


 無感動に言葉を放つ。

 いまさら人間の一人や二人や三人に驚く窓霊ではない。そもそも捕食の為に、この家に人間を招き入れることも普通にあるのだ。まあ、ただ、霊と人間が談笑しているというのは、なかなか珍しい光景ではあるが。


「あ、ご主人さん、おはようございます」


 窓霊の存在に気付いたおコトが、溢れんばかりの笑顔で振り向いた。

 巫女装束のおコト。昔々の火山活動の際に、人柱として山の神様に捧げられた健気な少女だ。その後、修行して山の土地神になる筈が、才能無しとの判定をくらって下界に放流され、縁があって窓霊の家に厄介になっている、ごく普通の巫女少女霊である。

 日夜、窓霊のお手伝いさんとして忙しい日々を送っている。愛想が良い為この家を訪れる悪霊達からの評判も悪くない。庭ではちょっと変わった植物を育てている。


「こんにちは、お姉ちゃん。お寝坊さんだね」


 そう言って、無邪気な笑顔を振りまいているのが、おかっぱ吊りスカートのトイレの花子さんだ。

 学校幽霊でもトップクラスの有名人である彼女は、子供たちと遊ぶことを存在理由としている為、外見年齢も精神年齢も幼いままだ。窓霊とは非常に仲が良く、学校から人気ひとけが無くなり、暇になったなあって時間位によく窓霊に電話を掛けてくる。

 学校の七不思議筆頭の彼女は、他の学校霊やむしろ学校以外の霊にも恐れられている。噂や知名度が能力に影響する性質の悪霊達にとって、花子さんの知名度は越えられない壁として君臨しているのだ。


「あの、えっと、初めまして。お邪魔しています」


 オドオドと頭を下げたのが唯一の人間である、どこかの少女だ。


「人間ね。誰?」


 窓霊はおコトと花子に簡単に挨拶をした後、明らかに場違いな人間の女の子についての話題を出した。

 その人間の女の子は、見た目は十と少しを過ぎたあたり、背は平均よりやや低めだが、体つきは引き締まっており、運動が得意であろうことが窺える。

 さらには、この一から十まで心霊尽くしの窓霊宅にいて、恐怖することなく過ごしている事が、窓霊の興味をそそる。


「あの、初めまして。私は「瑠美子ちゃんだよ!!」……ハイ、瑠美子です」


 その瑠美子と名乗った少女は、緊張は見えるもののそれ以外は普通に特に問題はなく、その場に馴染んでいる。その緊張も、知らない人の家に居ればある意味当然のもので、霊体である周りの三人に対してでは無い。


「瑠美子ね。霊能者なのね、あなた」


 窓霊はおコトの隣へ座り、それと入れ替わる様におコトが席を立ち窓霊のお茶を用意する。第二話で、自分で客にお茶を出していた窓霊が懐かしい。あれが甲斐甲斐しい窓霊の最後だった。


「あ、いえ。霊能者っていうか、ただ人より霊感が強いだけみたいです」

「そう。花子の友達?」

「そうだよ!!」

「そう」


 それで会話は済んだとばかりに、今しがたおコトが淹れてきたばかりの紅茶を口にする。


「あの…」


 戸惑う瑠美子。

 窓霊からの自己紹介は無しだ。仕方がないので代わりにおコトが窓霊について説明する。

 しかし、窓霊は主人公としてあり得ないほどのリアクションの無さだが、其の実、おコトと花子という気の置けない友人しか居ないので、油断しきっているだけなのである。瑠美子はまだ子供なので、そもそも窓霊の警戒対象にはならない。

 紅茶を飲んで一息ついた窓霊は、リアクションの薄さを気にしたわけでもないだろうが、自ら話題を提供した。


「で、三人は何をしているの?」


 窓霊宅に集まっていること自体をスルーするのが、おコトや花子に対する信頼である。


「お姉ちゃんは、彫りもんGOって知ってる?」

「なにそのヤクザが絡んでそうな名前」

「ゲームだよ」

「嫌な名前のゲームね」

「あの、今流行ってるスマホのゲームなんです」


 おコトによるザクッとした説明があった。

 ゲーム世界に居る野生の彫り師を集めて戦わせる、子供に大人気のゲームのスマホ版との事だ。「彫り師も災難ね」とは窓霊の談。


「でね、そのゲームがやりたいなあって、みんなで話してたの」

「あ、でも、私はスマホを持っていないので」


 残念そうにおコトが付け加える。窓霊宅からほとんど出かけないし、交友関係も窓霊を通じた間柄しか居ないので、実際にスマホは必要が無かった。

 花子は今までも窓霊へ電話を掛けていたように、スマホを持っている。瑠美子も今時の小学生らしくスマホを持っていた。彼女の両親が、娘の通う学校での行方不明事件を受けて、GPS付きスマホを持たせたのがソレなのだが。


「ふむ。おコトちゃんもスマホを買う?」


 この場合は、当然窓霊がスマホを買い与えることになる。

 窓霊的には大した出費ではないのだが、高価かつ継続的に料金が発生する私物を買い与えられることに遠慮と抵抗があるおコトは、当然の様にその提案を断る。


「いえ、普段は必要ないですし。ゲームの為だけに頂くのは高価過ぎます」

「買うのは良いけど、確かにゲームだけはちょっとアレね」

「ふっふっふっふっふっ」


 そこでいきなり、花子が妙な笑い声を漏らす。とても外見年齢小学校低学年には見えない。


「何よ? 気持ち悪い笑い方して」

「そこで! これですよ! さあ、瑠美子ちゃん出して」

「え、あ、ハイ」


 我関せずと、一人お茶を楽しいんでいた瑠美子は、いきなり振られた話題に慌ててカップをテーブルに置き、傍に置いてあったバックに手を伸ばして、中から一枚の紙を取り出した。

 その紙には、鳥居と「はい」「いいえ」、さらに五十音が書かれていた。あと隅っこに子猫の落書きもある。


「あら、可愛い子猫ね。あなたが書いたの?」

「いえ、傍で見ていた友人が描いたんです」

「そこじゃないよ!! 見て。この紙を! こっっっっっっくりさん!!!」

「はい、こっくりさんですよね。どうするんですか? これ」


 紙を手にソファーから立ち上がり、三人に見せ付けるように突き出す花子と、それを宥めるおコト。

 こっくりさんとは、低級霊を呼び出して質問すると色々答えてくれる、一種の降霊術である。呼び出し時や終了時に色々細かいルールがあり、それを破ると低級霊が逃げずにとり憑くという、非常に面倒くさい儀式である。一時期、学生の間で爆発的にはやり、映画などにもなったほどだ。読者の中にも経験者がいるのではないだろうか。


「で、低級霊なんて呼び出してどうするの? いじめるの?」


 冷ややかな視線を花子に向ける窓霊。

 霊の格的には、この場の三人はその辺の低級霊よりはるかに強い。


「違うよ! 彫りもんの代わりに、降霊術で霊を呼び出して戦わせるの!!」


 花子の言い分は、スマホを持っていないおコトでも公平に遊べるように、人間の間ではやっている降霊術をみんなで一つずつやって、呼び出された霊同士を戦わせてみようという事らしい。呼び出される低級霊にとっては、たまったものでは無い提案である。


「面白そうね」


 窓霊が嫌な笑顔で微笑み、


「かわいそうではありませんか?」


 おコトは低級霊に同情的で、


「え、私も呼び出すんですか!!?」


 人外たちが人外な遊びを提案して来て、帰りたくて仕方がない瑠美子が悲鳴を上げる。


「うん!!」


 そして、無邪気に邪気だらけの提案をする花子の笑顔によって、彫りもんGO(心霊現象バージョン)の大会開催が決定した。




「こっくりさん、こっくりさん。お越しくだ「いいから、とっとと来るの!」


 おコト、花子、瑠美子の三人で先ほど花子が取り出した紙に置いた、十円玉の上に指を置く。

 瑠美子が友人から聞いたこっくりさんの正しい呼び出し方法を実践しようとしたら、花子が十円玉を通して、その辺の低級霊を恫喝する。

 とりあえずこっくりさんをやってみようという、花子の提案を受けての呼び出しだったのだが、花子さんのとりあえずは瑠美子が思っている以上に適当だった。

 

「あの、花子さん。さすがに相手も怖がっちゃうよ」


 そんな瑠美子の提案は間に合うことなく、花子のお言葉に導かれたド低級霊により、光の速さで十円玉が紙の上を滑り、「ただいまとうちゃくいたしました。おまたせしてしまい、まことにもうしわけありません」と、土下座でもしてんのかって勢いで、文字の上をなぞるように動かした。

 霊感の強い瑠美子の経験では、こっくりさんを適当にやると、低級な動物霊などに取り憑かれて散々な目に合うのだが、この異常な心霊密度の部屋では、低級霊は文字通り低級のようだ。

 この低級霊、「はい」や「いいえ」などといった、事務的な返答をする気は無いらしく、せっかく降霊が出来たからと無茶振りを続ける花子の質問に、誠心誠意全身全霊で答え続けている。瑠美子の霊視では、低級霊の魂残量的なやつがすごい勢いですり減っているのだが、これは花子の圧迫面接みたいな質問方法のせいなのではないかと、助けを求めて一番優しそうなおコトに視線を向ける。なお、低級霊の返事が長文なせいで、十円玉に乗っけている指と腕が痛い。過剰な尊敬語や謙譲語みたいなのはやめてほしい。

 おコトは瑠美子の視線に気づき、


「あの、花子さん。そろそろ一旦解放してあげませんと、戦わせる時に弱くなってしまいますよ」


 と、低級霊を圧迫面接から解放するよう誘導する。


「おっと、そういえば」


 言われて思い出した花子は、こっくりさんに取り憑いた霊をいたぶるのを止め、ついでに十円玉に指を置くのも止めて冷蔵庫にジュースを取りに行く。

 突然十円玉に置かれた指が減ってしまい、またこっくりさんのルール無視かと、瑠美子は釈然としない視線を、「大声出すと喉が渇くねー」とジュースを一気飲みしている花子へ向ける。

 視線に気付いた花子が、ニヘッと笑い軽く手を振ってくる。瑠美子も軽く手を振り返すが、こっくりさんにINしている低級霊の存在が気になってしまう。ルール破りは低級霊に取り憑かれてしまうのではないか、そんな心配をしてみるものの、花子が離れたはずみで自分もうっかり十円玉から手を放していた事に、瑠美子は気付く。

 これまでも、なんやかんやと霊障に見舞われてきた瑠美子は、青ざめた表情で十円玉とそれが置かれた紙に目を向ける。すると十円玉が誰も指を置いていないのに勝手に動き、「あんしんしてください。はなこさまのごゆうじんをのろったりしません」とササッと表現してくれる。

 安心する反面、幽霊にもヒエラルキーってあるのかなあと、小学生らしかぬことを考える。

 余談だが、瑠美子はこの後の人生でも変わらず霊障に遭い続ける。

 だが、落とした財布がポルターガイストで届けられたり、痴漢に襲われそうな時に、痴漢が突然嘔吐下痢を繰り返したり、トラックに轢かれそうになったときにトラックが見えない壁にぶつかったりと、ことごとく自分の益になる事が多くなる。これはこれで、友人たちに「三周ぐらい回って呪われてるんじゃ」と心配されることになる。

 今回のこっくりさん時に、瑠美子に幽霊業界のヒエラルキー上位との繋がりが明確に出来たことが原因だった。。

 さて、こっくりさんによる降霊が成功し、花子用の低級霊をゲットしたわけだが、次の低級霊ゲットの為の降霊術を行う必要がある。




「次は、ひとりかくれんぼで!」

「孤独なの?」


 花子の元気な声に対して、内容の寂しさに突っ込まずにはいられない窓霊。彼女はついこの間まで一人だったので、思うところもあるのかもしれない。

 花子がひとりかくれんぼのルールを説明することで、寂しい一人遊びとは違うと納得できたわけだが、割と準備とルールが面倒くさいのが、ひとりかくれんぼである。

 お風呂に人形を漬けて、水を口に含んで、塩を持ち歩いてとか準備に手間がかかり、暗くして、押し入れでじっとしていなければいけないとか面倒で、終了時にも人形をどうにかしたりとか、とても広い窓霊宅で出来る遊びではない。


「どうするんですか?」

「こうするわ」


 説明を受けたおコトの疑問に対して、窓霊は新規に地下室を作ることで解決する。

 地下には、ひとりかくれんぼに必要な最低限の物だけを再現し、あとは担当の誰かを送り込めば解決である。


「誰が行くんですか───私?」


 みんなの視線が自分に向いていることに気付く瑠美子。理由を尋ねると、この後予定している降霊術におコトが興味を持ったからだという。

 分かりやすい理由に納得した瑠美子は、なぜか付いてくるという花子と二人で地下へと赴き、面倒くさい準備を終えて、押し入れに二人で隠れる。これで後は幽霊が現れて自分たちを探すのを待つだけなのだが、こっくりさんの例から考えるに、ビビりすぎて低級霊は現れないのではと不安を覚える。

 待つこと一七秒。押し入れの襖をノックされ、何事かと外を覗き込んだ瑠美子と花子だが、そこには土下座で二人を迎えた半透明の人型の低級霊の姿があった。脇には羊羹で有名なお店の紙袋が置いてあり、まさかの手土産持参である。

 ひとりかくれんぼとは、その名の通りかくれんぼである。準備を整えて隠れている本人を召喚された幽霊が探し出すか、あるいは本人が逃げ切るかというのがルールなのだが、まさかのノック土下座である。


「かくれんぼなんだけど」


 折角の遊びを邪魔される形になった花子の機嫌が悪くなる。

 そこはせめて、見つけたとでも言ってくれれば、花子もかくれんぼの体を成しているいるので納得出来たのであろうが。


「いえ、一度挨拶させて頂いて、それから改めて、鬼として探させて頂く所存でございます。」


 微妙に変な、だが恐怖かあるいは緊張で震える挨拶をかます低級霊。


「もういいよ。君の本番はこの後だから。行こ」


  花子はひとりかくれんぼをルールを無視して打ち切ると、今現れたばかりの低級霊を引き連れて上階へ戻る。その後を、少し事態に慣れ始めて花子の傍若無人ぶりにも動じなくなってきた瑠美子が続く。

 低級霊は、かくれんぼで呼ばれたはずなのに、この後って何だと疑問に思っていたが、訊けるわけもなく黙って後に続くだけであった。




「最後はスクエアなのだよ!」

「最後の幻想の十五番は面白いと思います」


 花子のよく分からない語尾付きの発言に、おコトがお約束のノリで返す。この話を執筆中はまだ体験版しか出ていないのだが、ホストだなんだと言われていた男四人も、割といい感じだったし、景色もそれなりに綺麗なので、発売が楽しみである。

 スクエアとはゲーム会社ではなく、真っ暗な四角形の部屋の四隅に四人が立って、壁伝いに歩いて次の人の肩を叩き、叩かれた人はまた壁伝いにと続いていく遊びである。

 四隅に四人だと、最後の一人が角を曲がらなければ次の人にタッチ出来ないのだが、これが違和感なく次の隅で次の人にタッチ出来てしまうと、いないはずの五人目が現れてるよすげーとなる訳である。その五人目は幽霊だとか言われており、降霊術の一種だとされる所以である。


「これ、よく意味が分からないんですよ」


 なんか納得いかないと言わんばかりの顔で、おコトが眉を寄せている。


「四隅に四人なら問題ないですよね?」


 両手の人差し指で、宙に何かを書いているおコトだが、おそらく頭の中でスクエアを実践していて、手の動きが想像を補佐しているのだろう。

 四人の現在地を把握出来ていないと、おコトみたに何がおかしいのか分からなくなる場合があるのだが、そんなおコトの様子を、二人の悪霊と女子小学生が、生温かな目線で見守る。


「で、お姉ちゃん。これ四人必要だからさ───」

「しずちゃんカモン」


 窓霊が庭に向かって呼びかけると、三本の根を足のように動かして、肉食植物のしずちゃんが室内に入ってくる。その際、手みたいな枝葉を器用に使い、タオルで根の裏を綺麗にふき取っていた。


「あ、光が差さない真っ暗な四角形の部屋が要るのよね」


 そう言って、また地下室を新設する。今度は家具も何も無い、単純な四角形の部屋である。さっきのひとりかくれんぼ用地下室はすでに消している。


「お姉ちゃんに、四人目をお願いしたかったんだけど」

「歩き続けるとか、面倒くさいわね」


 寂しそうな花子の告白に、無碍もない窓霊。

 家から出られない霊の筈だが、最近では、家から出たくない霊なのではと周囲は疑い始めている。

 仕方が無いから、霊体二人、人間一人、植物一株でスクエアをする為に地下へ向かう。

 五人目を召喚するまでもなくカオスな顔ぶれだ。むしろ出てきた五人目が「えっ、ナニコレ!?」ってなること請け合いだ。

 というわけで、地下に降りてきた四人が隅にスタンバっている。一番目がしずちゃん、二番目が瑠美子で、三番目が花子、そして最後がおコトだ。つまり五人目が現れれば、おコトにタッチされて、謎の歩行植物にタッチするということになる。


「じゃあ、しずちゃん。始めていいよー」


 喋れないしずちゃんの代わりに花子がスタートの合図をする。

 部屋は真っ暗で進行方向も見えないなので、壁に手をおいて移動することになる。床や壁には何も置いていないから怪我の心配はない。

 ズルッズルッズルッズルッと、聞いたこともない足跡が部屋の中に響く。瑠美子にとって未知の音が背後から迫ってくるというのは、なかなかの恐怖だ。そしておそらく真後ろにしずちゃんが来たのだろう。かすかな緑と土の匂いをまとった物体が、そっと瑠美子の肩に葉を置く。葉だ。その感触は紛れも無く葉っぱだ。その時に「ひぃっ!」と瑠美子が声を出したのも仕方がないことだ。

 気を取り直して瑠美子が壁伝いに歩き、花子にタッチする。その後花子も順調におコトにタッチした。


「さあ、これでスクエアの変なところが何処か、ハッキリしますね」


 鼻息も聞こえてきそうなほど、声にも力みが感じられるおコトである。そもそもどこが変なのか、皆は分かっているのだが。

 暗闇の中からペタペタと草鞋の足音が聞こえてくる。普段は飛んでいるおコトだが、前の三人が歩いたのでそれに準じたようだ。


「あ、ほらー。ちゃんと次の角でタッチ出来ましたよー」


 おコトは無事に、五人目にタッチ出来た模様。どや顔が想像出来そうな声で、「変なところは無かったですね!」などとほざいているが、他の二人と一株はもう来たのかと、やけに早い五人目の登場に、ぞれぞれ思うところが有るらしい。

 そしてコツコツと響く誰の物でもない足音。さらに、


「うわあ、なんだこれ!? え? え? いや、ホントナニコレ?」


 一人目が待機している隅にたどり着いた五人目は、そこにいる謎植物をタッチし、想像していなかった感触に困惑してしまっている。無理も無い。暗闇で予備知識なして動く植物を触らされたら、誰だって混乱するだろう。

 そんな困惑の声をよそに、花子の合図で部屋に明かりが灯る。そして、困惑から驚愕の悲鳴を上げて、尻餅をついている半透明の男の姿があらわになる。


「えっ、ナニコレ!?」


 案の定、自らがタッチした物体の正体が掴めず、混乱している低級霊の姿がそこにあった。


「じゃ、無事に低級霊を召喚出来たし、上にもどろうか」


 状況と歩行植物の存在に混乱する低級霊の首根っこを掴んだ花子は、引きずりながら階段を上っていく。そしてその後に続く瑠美子、おコト、しずちゃん。


「で、低級霊が三体揃ったけど、ここからどうやってバトルするのよ?」

「ん? お姉ちゃんのがまだだよ?」


 召喚されたニ体と十円玉を眺めながらの窓霊の疑問に、花子は窓霊の参加を促すことで返す。


「私も?」

「うん、みんなで遊ぼうよ」

「そう、じゃあ───」


 窓霊がどこかに電話を掛けると、数秒後に玄関チャイムがなり、おコトが玄関へ向かう。


「誰か呼んだの?」

「ええ、降霊術とか面倒だし、電話で呼び出せばいいじゃない」

「今までの流れを全否定ですね」


 とにかく手間を惜しむ窓霊流儀に、悪霊業界新参の瑠美子が呆れかえる。

 玄関の方でおコトの「かわいー」などの歓声が上がり、何事かと瑠美子が視線を向けていると、手に可愛いお人形を持ったおコトがリビングに戻ってきた。

 金髪と碧い目、フリフリのドレスを纏った三十センチ程度の大きさの人形だ。フランス人形、ビスク・ドール、〇ーゼンメイデン等で適当に連想して頂きたい。そんな感じのお人形である。


「わ、可愛い人形ですね。どうしたんですか!?」


 女の子らしく瑠美子が人形に食い付く。


「メリーさんよ」

「スイカだね!」

「スイカ言うな! スカートずり降ろすぞ!」


 窓霊が簡単に人形を紹介する。電話をかけてから家を訪ねる、とても律儀な悪霊人形である。ちょっとしつこいぐらいの定時連絡が玉に瑕だが。

 相変わらず、スイカ呼ばわりされるとキレる。そういう反応を花子は面白がっていて、面白がられているのを分かっていても、スルー出来ないのがメリーだ。




 さっそく、メリーにも今回の集まりの趣旨が説明された。


「メリーさんをなんだと思ってるのよ!!」

「なに? スイカは低級霊ごときに負けちゃうの~?」

「低級霊なんてお呼びじゃないわ! 先にあんたを切り刻んでやる!」

「花子さんがスイカに負ける訳ないでしょー!」

「……ごときって」


 花子の分かりやすい挑発に飛び乗るメリーと、せっかく呼び出されたのにごとき呼ばわりでテンションダダ下がりの低級霊ズ。

 もうすでに低級霊を戦わせるのではなく、花子とメリーのバトルに発展しつつある。所詮は低級霊、存在感も必要性も低い等級でしかないのだ。

 しかし、後日彼らはこう語ったという。


「いや、実際にあの場で戦えって言われてもね? 俺らはゲームみたいに強さが数字で決められてるわけじゃないし。勝敗の要因が不透明なんですよね」

「そうそう。それに、花子さんとか超負けず嫌いじゃないすか。負けたら怒られそうだし、勝ちを譲っても手加減された勝利なんて嬉しくないとか言い出しそうで」

「この場合、トレーナーって言うの? 主の力関係にも配慮しつつ、誰もが納得出来る勝敗を求められてるようなもんでしょ? 呼ばれた時点で詰んでるじゃん(十円玉使用)」

「いやー、有耶無耶になって、本当に良かったよ」

「「「ねー!」」」


 その後、花子とメリーのバトルは、カード、テレビゲーム、クイズと色々続き、窓霊とおコトと瑠美子も加わって、幽霊版人生ゲ〇ムで死後の世界の世知辛さを体験したりした。 スタートが死亡と幽霊らしさが全面に出ているのに、結婚や就職、お金や挫折等、なぜかその辺はオリジナルを踏襲していた。

 気が付いたら低級霊三体はどっかいってた。さすがに放置し過ぎたことを悪いと思い、後日花子とおコトは手土産もって三体の低級霊に会いに行き、逆に恐縮されたりした。彼ら的にも都合がよかったとかなんとか。


 夕方には、その場は解散し、花子は瑠美子を送って行き、満足するまで遊んだメリーも帰って行った。

 その後、たまにはと言うことで、窓霊とおコトは二人でお風呂に入り、そのまま二階の窓霊の寝室で一緒にベッドに入った.


「へへー、一緒に寝るのは楽しいですね」

「……まあ、悪くは無いわね」

「今日はみんなて遊んで楽しかったですね」

「……まあ、悪くはないわね」

「そればっかりですね」

「……悪い?」

「へへへー、いいえ。全然大丈夫です。それじゃ、おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」


 そして電気を消して、聞こえるのは寝息のみになる。


 片付け忘れた立てポップだけが、二人を見つめていた。


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